州主導の政策運営と連邦政府の役割
全米知事会夏会合(2)
2026年8月27日
2026年の全米知事会(National Governors Association、NGA)夏会合では、住民の生活や雇用支援の在り方を巡る討議(連載1本目「党派を超えた住民生活向上への取り組み」参照)に加え、連邦制(Federalism)を巡る州政府と連邦政府の役割分担が幅広い政策議論における中心的なテーマとなった。会合を通じ、主要州知事は党派を超えて州政府の裁量拡大を訴えた。繰り返し強調されたのは、州政府こそが住民生活における課題解決の担い手であるという認識だ。一方、災害支援、社会基盤整備、人材育成などの分野では、連邦政府による財政支援や制度的後ろ盾が不可欠であるとの認識も共有され、「州が実行し、連邦政府が支える」という実務的な統治モデルをいかに実現するかについて活発な議論が交わされた。また、現場が抱えるさまざまな課題に対し、それぞれの州で新たな政策を先行的に試み、その成果を全米へ波及させていくことの意義も共有された。
インフラプロジェクトを巡る州主権の重要性を訴え
冒頭セッション(注1)では、オクラホマ州のケビン・スティット知事(共和党:R)が、「州の実情を最も理解しているのは州政府であり、ワシントンD.C.(連邦政府)の一律的な政策は地域の実態と必ずしも合致しない」との問題意識を強調した。
同セッションの中で、象徴的な事例として挙げられたのが、デラウェア州とメリーランド州が共同で推進してきた洋上風力発電「メリーランド・オフショアウィンド」プロジェクト(注2)だ。デラウェア州のマット・マイヤー知事(民主党:D)は、州間連携で進めてきたこの1.7ギガワット(GW)規模の洋上風力発電計画について、トランプ政権が事業認可の見直し・取り消しに動いていることに強い懸念を示した(注3)。マイヤー知事は、「プロジェクトは、2つの州が緊密に連携して進めてきたもの。この重要案件の認可取り消しは電力供給の安定化や電気料金に直接的な影響を及ぼす」と指摘した。州政府が長年かけて進めてきたプロジェクトが政権交代によって覆される事態に対して強い危機感をあらわにした。その上で、許認可制度の予見可能性を高めるとともに、「州が主体的に進めるエネルギー政策については州の判断をより尊重すべき」と訴えた。
これに対し、共和党のスティット知事も、政権交代を理由として大型エネルギー事業の許認可方針が変更されることに懸念を示した。また、同知事は、カナダのアルバータ州産原油をオクラホマ州カッシングへ輸送する計画だった「キーストーンXLパイプライン」を例に挙げ、同計画がオバマ政権下で停止された後、第1次トランプ政権で復活し、さらにバイデン前政権で再び中止された経緯を紹介した(注4)。その上で、再生可能エネルギーか化石燃料かを問わず、長期間を要する大型インフラ投資においては、一貫性のある許認可制度と政策の予見可能性が重要であり、政権交代のたびに事業環境が大きく変化することは、民間投資やエネルギー供給に悪影響を及ぼすとの認識を示した。
データセンター建設への規制導入、各州の実情を反映
州主導の考え方は、急増するデータセンター建設への対応にも表れている。生成人工知能(AI)の急速な普及に伴い、各州で大規模データセンターの誘致競争が進む一方、住民からは電力料金の上昇や水資源の消費に対する懸念も高まっている。こうした中、オハイオ州では5月、イリノイ州では7月、アリゾナ州でも7月に、新規データセンター案件に対する優遇税制などのインセンティブの適用を一定期間停止する措置が導入された(2026年7月2日付地域・分析レポート参照)。いずれも電力需給への影響や水資源の制約、財政負担の拡大などを背景に、従来の積極的な企業誘致政策を見直す動きと位置付けられている。
さらに、ニューヨーク州では7月、キャシー・ホークル知事(D)が大型データセンターに対する新規許認可を1年間停止する知事令を発令した。これはデータセンターの新規立地自体を一時的に抑制する措置であり、州レベルでは全米初の本格的な規制導入といえる(2026年7月17日付ビジネス短信参照)。続く8月には、テキサス州のグレッグ・アボット知事(R)も、データセンター案件の電力需要や水使用量、地域社会への影響などに関する包括的監査を指示した。監査完了まで新規案件の審査・系統接続手続きを進めない方針も示した(注5)。
こうした動きの中、今回のNGA会合では、オクラホマ州のスティット知事が同州の対応を紹介した。具体的には、(1)データセンター向けの新規発電設備に係る費用を一般家庭の電気料金へ転嫁しない「レートペイヤー保護法」の制定、(2)地下水利用に際し、閉鎖循環型冷却システムなどの低消費型技術の活用を求める制度導入、(3)データセンター事業者が自前の発電設備を整備する「ビハインド・ザ・メーター(Behind the Meter)」の制度整備だ。大規模需要家が自ら電力を確保することで、送電網への負荷や一般利用者への影響を抑える狙いがある。同知事は、住民負担の抑制とデータセンター投資の受け入れを両立させる方針を強調した。一方、デラウェア州のマイヤー知事は、「住民の電気料金が1セントでも上がるような案件は望まない」「州の水資源を消費するだけの事業は受け入れない」と述べ、投資誘致よりも住民負担や地域環境への影響を重視する姿勢を示した。
今回の議論では、データセンターやエネルギー関連インフラの整備を巡り、州政府が地域の実情に応じて主体的にルールを設計すべきとの問題意識が示された。もっとも、スティット知事が投資促進と供給力拡大を重視したのに対し、マイヤー知事は住民負担や環境保全を優先するなど、その重点は州によって異なる。政策の焦点は、成長と地域負担のバランスをいかに取るかにあり、AI時代のインフラ整備においては、州政府が地域の実情に応じたルール設計や受益と負担の調整を担う主体として、一段と存在感を高めつつあることを示唆している。こうした州政府の裁量拡大は、米国で大型投資を検討する企業にとって、連邦政策だけでなく、進出先州の許認可制度や税制優遇、電力・水資源に関する規制動向の把握が一段と重要になっていることを意味する。特にデータセンターやエネルギー関連投資では、州ごとに投資誘致と住民負担抑制のバランスが異なるため、政策リスクに州間差が生じ得る。
災害対応は現場主導、州管理、連邦支援
災害対応を議題とするセッションにおいても、連邦政府と州政府の権限分担を巡る議論が展開された。背景には、連邦政府による災害関連補助金への条件付けを巡る州側の反発がある。実際に、7月にはノースカロライナ州を含む25州とワシントンD.C.が、国土安全保障省(DHS)および連邦緊急事態管理庁(FEMA)を相手取り訴訟(注6)を起こしている。州側は、連邦政府が災害対策・危機管理向け補助金の交付に際し、選挙制度や移民政策に関する要件を新たに課したことに対し、権限逸脱であると主張している。特に問題となったのは、一定のFEMA関連補助金の受給要件として、手書き投票用紙の導入促進や選挙後監査の実施、有権者名簿の照合などの選挙管理上の措置が求められたことだ。また、一部では移民執行機関への協力も条件化されたとされ、州側は、災害支援予算と選挙・移民政策を結び付けることは州の権限を侵害するものであるとして反発している。
この問題について、ノースカロライナ州のジョシュ・スタイン知事(D)は、「災害時には地方政府、州政府、連邦政府の全てが人命救助と復旧支援に集中すべきであり、支援を政策上の条件と結び付けるべきではない」と主張した。さらに、選挙管理は州に委ねられた権限であり、災害復旧とは無関係の要件を課すことは連邦制の原則に反すると指摘した。
一方、バーモント州のフィル・スコット知事(R)は、災害対応においては、法的論点よりも実務面を重視する姿勢を示した。同州は近年、大規模洪水への対応でFEMAの支援を受けた経験を有するが、初動対応は評価しつつも、その後の復旧段階では手続きが複雑で迅速性を欠く場面があったと指摘した。その上で、被害状況や住民ニーズを最も把握しているのは州政府であり、必要な資金を州に迅速に配分することで、より効果的な復旧が可能になるとの認識を示した。
もっとも、両知事は大規模災害への対応にはFEMAをはじめとする連邦政府の支援が不可欠であるとの立場を共有している。スタイン知事は、2024年9月の大型ハリケーンによりノースカロライナ州で約600億ドルの被害が発生した事例を挙げ、州単独では対応に限界があり、連邦政府による財政支援が不可欠であったと説明した。また同知事は、災害対応は「現場主導、州管理、連邦支援(Locally Driven, State Managed, Federally Supported)」であるべきだと述べている。すなわち、被災自治体が状況を把握し、州政府が復旧を統括し、連邦政府が資金や人的資源を提供するという役割分担だ。
同セッションの議論は、NGA夏会合全体を通じて共有された「州が実行し、連邦政府が支える」という考え方を反映するものだった。一方で、連邦政府が財政支援を通じて州の権限領域に踏み込むことに対しては、党派を超えて強い警戒感が示され、連邦制における州と連邦政府の権限分担の在り方があらためて論点となった。
新議長ウェス・ムーア知事、若者の社会奉仕促進を重点施策に
夏会合最終日の8月1日には、オクラホマ州のスティット知事からメリーランド州のウェス・ムーア知事(D)へNGA議長職が引き継がれた。ムーア新議長は就任に当たり、新たな重点施策として「Service United」を発表した(注7)。これは、若者を中心に地域社会での奉仕活動や公共サービスへの参加機会を拡大し、人材育成や労働力開発を進めるとともに、地域や世代、立場を超えたつながりの再構築を目指す取り組みだ。併せてNGAは、超党派の対話や政治的分断の緩和を支援する機関として「Center for Dignity in Politics」の設立を発表した(NGAウェブサイト参照
)。また、AIによる経済・雇用構造の変化や社会保障制度改革など中長期的な政策課題について州政府の知見を集約し、解決策を検討する「American Opportunityプロジェクト」の立ち上げも同時に発表した(NGAウェブサイト参照
)。これらの試みは、州政府を単なる政策実施主体ではなく、米国が直面する構造的課題の解決に向けた政策イノベーションを主導する主体として位置付けようとするNGAの問題意識を示すものといえる。
- 注1:
-
7月31日午前の「Common Groundタウンホール」(超党派知事による公開討論会)セッションでの討議。
- 注2:
-
US Windが推進する「メリーランド・オフショアウィンド」プロジェクト。メリーランド州沖の連邦海域に建設される大規模洋上風力発電事業であり、デラウェア州も送電インフラや電力供給面で関与している。2024年12月に米内務省(DOI)が建設・運営計画を承認。海洋エネルギー管理局の当該案件情報
を参照。 - 注3:
-
2025年9月、DOIおよび海洋エネルギー管理局(BOEM)は、2024年12月に承認した同プロジェクトの建設・運営計画(COP)の再評価を行うため、メリーランド州連邦地方裁判所に対し、承認の差し戻し(remand)または取り消し(vacatur)を求める申し立てを提出した(U.S. District Court for the District of Maryland, Case No. 1:24-cv-03111-SAG)。
- 注4:
-
カナダ・アルバータ州の原油を米国中西部・湾岸地域へ輸送するための原油パイプライン拡張計画。同計画は2015年にオバマ政権が否認(2015年11月、ホワイトハウス発表
)、その後2019年に第1次トランプ政権の下で承認(2019年3月、大統領許可
)、さらに2021年、バイデン政権が許可を取り消す(2021年1月、大統領令
)など、政権交代のたびに方針が大きく変化した。 - 注5:
-
8月3日、テキサス州知事室「Governor Abbott Directs Comprehensive Data Center Audit
」。 - 注6:
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7月23日、ロードアイランド連邦地方裁判所に提訴。7月23日付Reuters
およびAP News
などを参照。 - 注7:
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詳細については、NGA2026夏会合公式動画「Governor Wes Moore Launches Service United Campaign」で参照できる。
全米知事会夏会合
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・ニューヨーク事務所 次長
伊藤 博敏(いとう ひろとし) - 1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ニューデリー事務所、ジェトロ・バンコク事務所、企画部海外地域戦略主幹・東南アジア、調査部国際経済課長などを経て現職。主な著書:『ジェトロ世界貿易投資報告』2021年版~2025年版(編著、ジェトロ)、『FTAの基礎と実践:賢く活用するための手引き』(編著、白水社)、『タイ・プラスワンの企業戦略』(共著、勁草書房)、『アジア主要国のビジネス環境比較』『アジア新興国のビジネス環境比較』(編著、ジェトロ)、『インドVS中国:二大新興国の実力比較』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド成長ビジネス地図』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド税務ガイド:間接税のすべてがわかる』(単著、ジェトロ)など。





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