党派を超えた住民生活向上への取り組み
全米知事会夏会合(1)

2026年8月27日

全米知事会(National Governors Association、以下NGA)は、米国50州および5準州・自治領の知事で構成される超党派組織だ。毎年、冬と夏の2回、全国会合が開催され、州政府が直面する課題について知事同士が経験や政策を共有する場として機能している。2026年夏季会合は、7月30日~8月1日、オクラホマ州オクラホマシティで開催された。

米国では2026年11月の中間選挙を目前に控え、さらに2028年大統領選挙を見据えた政治的な動きが徐々に活発化している。こうした中で開催された今回の会合では、人工知能(AI)による雇用構造の変化、住宅価格や生活コストの高騰、許認可手続き、急増する電力需要など、有権者の関心が高い住民生活に直結する課題が幅広く議論された。

11月は39州・準州で州知事選挙を予定

各セッションでの議論では、とりわけ「アフォーダビリティ」(注1)、「経済的機会」「所得向上」「キャリア形成の機会」「人材育成・就業準備(Workforce Readiness)」といった言葉が繰り返し用いられ、住民生活の向上と将来への備えを重視する発言が目立った。

背景には、2026年11月3日に予定される州知事選挙の存在もある。2026年は39の州・準州で知事選が実施される大型選挙年であり、NGAによれば、対象となる現職知事のうち18人が再選を目指す一方、21人は任期制限または不出馬により退任する見込みだ(表参照)。今回のNGA夏季会合では、こうした選挙事情が各知事の立場や発言にも反映されていたとみられる。

まず、過去1年間NGA議長を務めたオクラホマ州のケビン・スティット知事(共和党:R)は、2026年に州知事任期の満了を迎え、州法上の任期制限により立候補できない。同知事は今回の夏季会合をもってNGA議長を退任し、後任としてメリーランド州のウェス・ムーア知事(民主党:D )へ議長職を引き継いだ。同様に、会合で存在感を示したコロラド州のジャレッド・ポリス知事(D)やカンザス州のローラ・ケリー知事(D)も州法上の任期制限により2026年の知事選には出馬できず、両州では既に後継者選びが本格化している。

一方で、主要セッションに登壇したノースカロライナ州のジョシュ・スタイン知事(D)、デラウェア州のマット・マイヤー知事(D)、ユタ州のスペンサー・コックス知事(R)は、2026年に知事選挙を控えていない州の現職知事だ。スタイン知事とマイヤー知事は2025年の就任直後であり、コックス知事も2024年に再選を果たしたばかりだ。このため、これらの知事は選挙対応よりも州政運営や政策実績の積み上げに重点を置く段階にある。

また、今回NGA新議長に就任したムーア知事は、2026年に改選を迎える現職知事でもある。全米の知事を代表するNGA議長への就任により、州政に加えて全国レベルで超党派の政策課題を発信する立場となった。

表:2026年州知事選挙における現職継続・交代見通し
区分 州名(共和党) 州名(民主党) 州名
(無所属他)
現職退任
(任期制限)
アラバマ、アラスカ、フロリダ、ジョージア、オハイオ、オクラホマ、サウスカロライナ、テネシー カリフォルニア、コロラド、カンザス、メーン、ミシガン、ニューメキシコ、グアム、米領バージン諸島 該当なし
現職退任
(立候補なし)
アイオワ、ワイオミング ミネソタ、ウィスコンシン 北マリアナ諸島
現職立候補 アーカンソー、アイダホ、ネブラスカ、ネバダ、ニューハンプシャー、サウスダコタ、テキサス、バーモント アリゾナ、コネチカット、ハワイ、イリノイ、メリーランド、マサチューセッツ、ニューヨーク、オレゴン、ペンシルベニア、ロードアイランド 該当なし
改選なし
(現職継続)
インディアナ、ルイジアナ、ミシシッピ、ミズーリ、モンタナ、ノースダコタ、ユタ、ウエストバージニア デラウェア、ケンタッキー、ニュージャージー、ノースカロライナ、バージニア、ワシントン プエルトリコ自治領

出所:NGA、「2026 GUBERNATORIAL ELECTIONS」(2026年8月5日時点閲覧情報)、州・準州発表、各種メディア報道などを基にジェトロ作成

もっとも、今回の会合では、参加知事が党派的な主張を前面に押し出す場面は限定的であり、むしろ州における具体的な成果や実務的な課題解決を訴える発言が目立った。許認可手続きの迅速化、雇用、人材育成、AI活用などの主要テーマでは、共和党・民主党を問わず共通する課題認識が示されており、政党間の違いよりも州民向けサービスの向上や経済成長を重視する姿勢がうかがえた。

許認可制度改革へ、具体的施策を紹介

会議のキックオフにあたる7月31日の冒頭セッション、「Common Groundタウンホール」(超党派知事による公開討論会)では、まず共和党のスティット知事(オクラホマ州)と民主党のマイヤー知事(デラウェア州)が、「アメリカンドリームの再生」「エネルギー、許認可手続き」における課題と州の政策を議論した(注2)。議論の出発点となったのは、NBCニュースが2026年5~6月に実施した世論調査(注3)だ。調査では米国人の78%が「アメリカンドリームは以前より達成することが難しくなった」と回答しており(2016年調査時69%)、住宅取得、雇用、教育、エネルギー価格などへの不安が広がっていることが示された。

討論で特徴的だったのは、両知事が新たな給付制度や大規模な財政支出よりも、住宅、エネルギー、インフラ整備を阻害している行政上のボトルネックの解消を重視していた点だ。特に許認可制度改革は共通テーマとして取り上げられ、両知事とも、複雑で長期化した行政手続きが住宅供給やエネルギー関連投資を遅らせ、結果として住宅価格やエネルギーコストの上昇要因となっているとの認識を示した。

マイヤー知事は、デラウェア州において住宅開発案件に対するワンストップ型の行政支援体制を整備し、申請案件ごとに担当者を明確化することで手続きの迅速化を進めていると説明した(注4)。また、行政手続きに処理期限を設けることで、事業者の予見可能性を高める取り組みを紹介した。背景には、事業者にとって最大の負担は不許可そのものではなく、審査結果が長期間示されないことにあるとの問題意識がある。

スティット知事はオクラホマ州での許認可改革の取り組みとして、2024年6月に発出した知事令〔Executive Order 2024⁻13 PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(96.6KB)〕を紹介した。同知事令は、州政府が所管する許認可手続きについて処理期間の目標設定を求めるとともに、一定の条件下で期限超過時の申請手数料返還を可能とするものだ。討論の中で、スティット知事は、「州の許認可が定められた期限内に終わらなければ、申請料は無料になる」と説明した。スティット知事は、パイプラインなどの大型プロジェクトでは「許認可コストが建設費と同額になる場合もある」と批判し、許認可改革こそが住宅価格やエネルギーコストの抑制につながると主張した。

AIと雇用:労働移行をどう支えるか

今会合における最重要議題の1つがAIと雇用であった。AIの普及による経済・社会構造の変化を前提に、いかに雇用機会や所得向上の可能性を維持していくかに焦点が当てられた。AI普及がもたらす雇用への影響そのものよりも、「労働者の移行をどう支援するか」が主要な論点となった。

とりわけ象徴的だったのが、前商務長官ジーナ・レモンド氏らが設立した非営利組織「RAISE US外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の取り組みだ。RAISE USは、AIによる雇用構造の変化に対応するため、州政府や企業と連携しながら労働者の移行支援策の実証を進めている。

「AIと働き方の未来(AI and the Future of Work)」と題したパネルセッションにおいて、レモンド氏は、AIによって職を失った人が再就職する際の賃金低下を一定期間補塡(ほてん)する「賃金保険(Wage Insurance)」の導入を提案した。また、AIによる生産性向上の利益を企業だけが享受し、労働者が解雇されるだけでは社会的な反発を招きかねないとして、企業による再訓練や配置転換を促すインセンティブの必要性を強調した。具体的には、AI導入によって余剰となった人材を別職種へ再配置するための訓練プログラムや、その費用を支援する仕組みを州レベルで試行することを提案した。


「AIと働き方の未来」パネルセッション(7月31日)の様子(ジェトロ撮影)

さらに、同氏は失業保険制度についても見直しの必要性を指摘した。現在、多くの州では失業給付の受給中に起業すると給付が停止されるが、AIを活用した小規模ビジネスの創業などを後押しするため、失業給付を受けながら起業準備や事業立ち上げを行える制度の検討を求めた。これらの取り組みは、いずれも労働者の円滑な職業移行を支援することを目的としている。

各州の具体的な取り組みのうち、メリーランド州では、「Service Year Option外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」というプログラムを創設し、高卒者や高卒認定資格(GED)取得者に対して有給の公共サービス活動への参加機会を提供している。ムーア知事は、同取り組みについて、「事実上の雇用保証と位置付けている。AIの普及によって若年層向けの初級職や就業機会が減少する可能性に備え、若者が最初の職務経験を積む機会を確保するものだ」と説明した。一方で同州は、AIを低所得世帯や子ども向け支援の拡充・効率化にも活用している。例えば、学校給食がない夏休み期間に子ども向け食料支援を実施する「Maryland SUN Bucks」プログラム(注5)では、関係機関間のデータ連携によって対象児童の多くを自動登録するとともに、AI対応チャットボットを導入し、問い合わせ対応や受給資格に関する情報提供を効率化している。ムーア知事は、「約75万人の子どもに対する支援でAIを活用している」と話した。

また、ユタ州では、「Pro-Human AI(人間中心のAI)」を掲げ、2026年7月には、AIを活用して州の課題解決を目指す研究・実証事業を支援する「AI Moonshot外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」プログラムを創設し、総額500万ドルの助成を打ち出した(注6)。同プログラムでは、医療やメンタルヘルス、資源管理などの分野を対象に、実社会での活用を見据えたAIプロジェクトを支援する。さらに、企業と行政が共同で新技術を試行する規制サンドボックスも運営しており、技術革新と利用者保護の両立を目指している。コックス知事は、同州の取り組みについて、「技術が人間のために機能する未来」を目指すものであり、「AI社会への移行は人々の機会を減らすのではなく増やすものでなければならない」と説明した。

セッションの討論の中で提案された具体的施策は、賃金保険、再配置支援、失業保険と起業支援の両立、若年層向けの雇用保証、行政サービスでのAI活用などであり、いずれもAI開発を止めることではなく、労働者が変化に適応できるよう支えることに重点が置かれた。AIを活用した新たな研究開発や産業機会の創出を後押しする取り組みも紹介された。今回のNGA会合での議論は、AI時代の雇用政策の焦点が、リスキリングだけでなく、労働者の円滑な移行を支援するとともに、新たな機会を創出するための制度設計へと広がりつつあることを示している。


注1:
住宅、エネルギー、医療、通信など、生活に不可欠なサービスについて、世帯所得の範囲内で無理なく支払える状態を指す概念のこと。 本文に戻る
注2:
同セッションでの議論の概要については、NGAウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで参照可能。 本文に戻る
注3:
実施時期は2026年5月29日~6月7日。対象者は全米の成人3,000人。 本文に戻る
注4:
具体的には、2025年1月の州知事令第4号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにより住宅開発案件向けの「ワンストップショップ」構築が指示されたほか、2026年2月の州知事令第18号外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、担当窓口の明確化、処理期限の設定、進捗管理の強化などを内容とする「Delaware Permitting Accelerator」が導入された。 本文に戻る
注5:
連邦政府のSummer Electronic Benefit Transfer(Summer EBT)制度に基づいて運営される制度。州教育省、州保健省、州福祉当局などが連携。2025年実績として約63万人の児童に対して夏季食料支援を実施したと報告されている。 本文に戻る
注6:
ユタ州の「Pro-Human AI」は、AIを人間主導(human-guided)かつ人間の能力向上(human-enhancing)のために活用することを基本理念とする州政府のAI政策。AIによる経済成長と住民保護の両立を目指している。 本文に戻る

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執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 次長
伊藤 博敏(いとう ひろとし)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ニューデリー事務所、ジェトロ・バンコク事務所、企画部海外地域戦略主幹・東南アジア、調査部国際経済課長などを経て現職。主な著書:『ジェトロ世界貿易投資報告』2021年版~2025年版(編著、ジェトロ)、『FTAの基礎と実践:賢く活用するための手引き』(編著、白水社)、『タイ・プラスワンの企業戦略』(共著、勁草書房)、『アジア主要国のビジネス環境比較』『アジア新興国のビジネス環境比較』(編著、ジェトロ)、『インドVS中国:二大新興国の実力比較』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド成長ビジネス地図』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド税務ガイド:間接税のすべてがわかる』(単著、ジェトロ)など。