EU基金と民間投資により、着実に成長を続けるルーマニア・オラデア

2026年9月8日

ルーマニア北西部でハンガリーと国境を接するビホル県の県都オラデア市は、ハンガリーの首都ブダペストから車で約3時間の距離にあり、EU単一市場への良好なアクセスを背景に、同地域の重要な経済ハブとして発展してきた。近年はフィンランドの大手タイヤメーカー、ノキアンタイヤの誘致に成功するなど、外資の投資先としても注目されている。

ジェトロは6月4~5日、オラデア市および在ルーマニア日本大使館、在ルーマニア日本商工会(JCBA)との共催で、日本企業向けに同市を紹介するミッション派遣を実施し、在ルーマニア日系企業10社、12人が参加した。初日には、オラデア市長のフロリン・ビルタ氏、ビホル県議会議長のミルチャ・マラン氏、ビホル県知事のマルセル・ドラゴシュ氏をはじめとする自治体代表が、同県の投資環境や事業展開について説明した。2日目には、ノキアンタイヤや日系企業ニデック・オラデアなどへの訪問プログラムを実施した。

製造拠点からイノベーションハブへ発展

オラデア市は歴史的な建築物や温泉地・保養地を抱える地域として知られる一方、近年は地熱資源を活用した地熱暖房プラントの稼働開始など、グリーンエネルギー分野にも注力している。また、2023年には、EUおよびビホル県議会の共同出資により、ビホル科学技術パーク(Bihor Science and Technology Park)[(別称:オラデア・スチームパーク)(Oradea STEAM Park)]が完成した。同施設は、研究開発、技術移転、スタートアップ支援、科学技術人材の育成を進める拠点として機能しており、同県の新分野への展開を支える存在となっている。

6月4日、オラデア市長のビルタ氏は、同市の発展戦略について、EUの返還不要資金を活用した公共投資と民間投資の誘致を二本柱に据えていると説明した。前者については、医療、教育、公共交通、都市インフラ、レジャー空間の整備など、都市機能と生活環境の向上に資する事業を中心に欧州資金を活用しているとした。後者については、企業誘致を通じた産業基盤の強化と雇用創出を重視しており、過去15年にわたり民間投資の誘致で成果を上げたことを強調した。近年の代表例として、フィンランドのノキアンタイヤによるタイヤ工場の投資を挙げた。


講演をするフロリン・ビルタ市長(ジェトロ撮影)

また、オラデア市の資料によると、2008年から2025年にかけて、オラデア市の開発プロジェクトは243件(資金契約締結済み201件、評価中42件)に上り、総額は17億2,000万ユーロに達する。特に、ルーマニア北西地域では、欧州地域開発基金(ERDF)を主な財源とする「PR NV 2021-2027(ルーマニア北西地域開発プログラム)」(注1)が推進されており、オラデア市が所在するビホル県も同プログラムの支援を受けている県の1つとなっている。オラデアの事例は、EU資金を活用した都市開発と民間投資の誘致を並行して進めることで、企業立地環境の向上を図る取り組みとして注目される。

フィンランドからオラデアへ:ノキアンタイヤの事例

2022年のロシアによるウクライナ侵攻を受け、フィンランドの大手タイヤメーカー・ノキアンタイヤはロシアでの事業を停止し、当時サンクトペテルブルク近郊にあった工場を閉鎖した。これに伴い、欧州市場向けの新たな生産拠点の選定を進めた結果、2023年にルーマニアのオラデア市に約6億5,000万ユーロの投資を決定し、世界初の二酸化炭素排出ゼロのタイヤ工場を新設した。

現在、同社の生産拠点はフィンランド、米国、ルーマニアに展開されており、製品は世界47カ国に供給されている。オラデア工場では2025年に生産が開始され、主に中欧向けに年間約600万本の生産能力の実現を目指し、段階的に増産が進められている。

同社のルーマニア事業およびグローバル品質の最高責任者兼副社長であるテッポ・フオヴィラ氏は、40以上の候補地の中からオラデアを選定した理由として、もともと工業用地だった約50ヘクタールの土地を確保できた点に加え、周辺にグリーンエネルギーの供給源が存在することを挙げた。また、ドイツ、ハンガリー、ポーランドといった主要市場に近接していることから物流面でも優位性があり、原材料についてもクロアチアの港やルーマニアのコンスタンツァ港を経由した調達が可能だとしている。原材料を輸入しつつ、同拠点から中欧だけでなくイタリアやフランスなど欧州各国へ製品・サービスを展開している。また、ビホル県は自動車産業の集積地であり、業界経験を有する人材を確保できる点も評価したと述べた。

加えて、2025年にルーマニアがシェンゲン協定に完全加盟した(2024年12月13日付ビジネス短信参照)ことも、域内での移動や物流の円滑化という観点から大きなメリットとなっているとした。


ノキアンタイヤ、オラデア拠点(ジェトロ撮影)

オラデアの日系企業:ニデック・オラデアの事例

ニデック・オラデアは、2017年にニデックが米国エマソン・エレクトリック(Emerson Electric)のモーター・ドライブおよび発電機事業を買収したことを契機に設立された。エマソンが運営していたオラデア拠点がニデックグループの一員となった。ルーマニア北西部に位置する同拠点は、現在2万4,643平方メートルの敷地に約560人が勤務する欧州の重要拠点へと成長している。

拠点内にはコンバージョン、商業・産業向け事業(C&I)、ドライブを含む複数の製造事業部門があるほか、製品検証や試験を担うR&D機能、さらにニデックグループ全体を支援するシェアードサービス機能(注2)も備えており、製造から技術開発、管理・支援業務までを一貫して担う中核拠点として運営されている。

同社ゼネラルマネージャーのマリウス・マルク氏によれば、同拠点の事業規模は買収以降も着実に成長を続けているという。売上高は買収当時の2017年度の約760万ユーロから、2025年度には約6,480万ユーロへと拡大し、過去最高を更新した。この成長の背景として、製品の量産化に伴う製造事業の拡大に加え、グループ全体を支援するシェアードサービス機能の強化が寄与したと説明した。


ニデック・オラデア(ジェトロ撮影)

ビホル県およびオラデア市は、EU資金を活用した積極的なインフラ整備や都市開発を進めるとともに、EU単一市場への優れたアクセス環境を強みに民間投資の誘致を推進してきた。こうした公共投資と民間投資の相乗効果により、ノキアンタイヤやニデックをはじめとする外資系企業の進出を実現している。今後は製造業に加え、イノベーションハブを中心にITや人工知能(AI)など先端分野への展開も視野に入れており、同県・同市のさらなる発展が期待される。


注1:
ルーマニアと欧州委員会との間で締結された2021~2027年期の欧州基金に関するパートナーシップ協定に関連するプログラムの一つ。 本文に戻る
注2:
企業グループの効率化・コスト削減・品質向上を図るため、経理、調達、物流、IT、設計などの間接業務を集約した機能。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課
太田 響子(おおた きょうこ)
2023年、ジェトロ入構。デジタルマーケティング部、ジェトロ・ブカレスト事務所を経て、現職。