備前発条に学ぶ、サステナビリティー経営がもたらす成長機会(日本)
2026年4月17日
備前発条(本社:岡山県岡山市)は、アームレスト、オットマン、ヘッドレストといった自動車のシート部品を中心に、設計・開発から検査までを一貫して手掛けている。約38億円の売り上げのうち約98%が自動車向け製品で、主要な最終顧客は日系大手自動車メーカーだ。国内2カ所(岡山県と福岡県)とタイに生産拠点を有している。
備前発条では、自発的にサステナビリティー経営に取り組み、新たなビジネスチャンスの創出や多様な人材の獲得・活躍といった点で具体的なプラスの効果を上げてきた。本レポートでは同社代表取締役社長の山根教代氏にインタビューした内容を基に、中堅・中小企業におけるサステナビリティーの実践可能性と、その効果について分析する(取材日:2026年1月19日)。

先進的な企業の事例を知り、脱炭素の取り組みを開始
備前発条がサステナビリティーに本格的に向き合う契機となったのは、米国のIT大手アップルの掲げる気候変動対策目標「Apple 2030
」を知ったことだった。「Apple 2030」は、2030年までにアップルが自社の事業活動だけでなく、製品の製造・輸送・使用・リサイクルに至るまでの全ライフサイクル(バリューチェーン全体)でカーボンニュートラルを達成するという長期目標だ。2020年7月に正式発表され、当時この内容を知った山根社長は、「非常に先進的な取り組みで、脱炭素化に舵(かじ)を切っていない企業は将来生き残れない」と直感的に危機感を覚えた。アップルの事例では、バリューチェーン全体での目標達成に向けて、アップルがサプライヤーに対しても再生可能エネルギーの利用など、脱炭素の取り組みを要求している。そこで、国内自動車産業でも同様の動きが加速する場合、「顧客から要請され始めてからでは遅い。十分に対応できない」と山根社長は感じたという。この問題意識を起点に、山根社長自ら持続可能な開発目標(SDGs)や脱炭素への理解を深め、2023年には社内横断のSDGsチームを立ち上げた。サステナビリティーの取り組みは、このSDGsチームのメンバーによるアイデアを中心に、実践している。
脱炭素の取り組みが新たなビジネスチャンスに
備前発条では、脱炭素化を「新たなコスト」ではなく、生産性向上や品質改善と結び付けた経営課題として位置付けている。同社では、従前から「10%生産性を上げることで、付加価値額を年間△%向上させる」といった生産性向上目標を立てていた。この目標管理にCO2排出量削減の指標を組み込み、付加価値額とCO2排出量を同時に「見える化」した。
脱炭素化と生産性向上に資する具体的な取り組みで、最終的に新たなビジネス機会につながった事例もみられる。部品製造に用いる既存の金型をベースに必要な加工や調整を加えることで、異なるメーカーの異なる製品を生産可能とする、金型転用の取り組みだ。従来、製品の大量生産を終えると金型は何年も使用せずに保管を続けたり、廃棄に回したりすることが多かった。品質管理や金型技術の流出防止といった観点から、自動車産業で金型の転用が「タブー」とされてきた事情もある。しかし、金型の転用が可能になれば、資源の有効活用や二酸化炭素(CO2)排出の削減につながる。近年、業界全体でサプライチェーンを含めたCO2削減が求められる中、顧客としても脱炭素への貢献を重視していることから、本取り組みについてもその意義が評価され、実現に至った。
この技術開発を契機として、備前発条はスポーツシート分野で国内トップブランドであるBRIDE(ブリッド)との新規取引を開始した。従来、備前発条の事業は自動車産業におけるTier1メーカーからの委託製造(BtoB)が主力だった。一方、ブリッドとは多機能チェアなど一般消費者向け製品の共同開発(BtoBtoC)にも取り組んでおり、社員にとってはこれまでにない新鮮な経験になっている。ブランド力の高いメーカーとともに、エンドユーザーを意識した製品開発に取り組むことで、「今までと違うものづくりができる」という実感が生まれ、社員の意欲向上や職場の雰囲気の活性化にもつながっているという。
環境配慮だけではないサステナビリティー
備前発条の目指すサステナビリティー経営は、環境分野に限らない。人材のダイバーシティーとあらゆる人材が働きやすい環境づくりも重点分野だ。同社では従業員の40%が女性、外国人材が25%、障がいを持つ人が6%と、多様な人材が活躍している。外国人材に関しては、ベトナム、インドネシア、中国、フィリピンの出身者を「技術・人文知識・国際業務」や技能実習の在留資格などで受け入れている。
備前発条では2023年、外国人材の増加に伴って言語の違いによるコミュニケーションの課題が顕在化したことを受け、人権方針を策定した。山根社長は「多様な人材を尊重しながら働く上での『羅針盤』が必要と感じた」という。同社の人権方針では「性別・国籍・年齢あらゆるカラフルな個性を尊重」することを基本方針の1つに定め、以下3点を重点項目に掲げている。
- 国際社会・地域社会と調和した、かつ、公正な人事評価に基づく労働条件の確保
- ハラスメントとその他の非違行為への注意・指導の強化
- 差別の禁止
特筆すべきは、日本語のほか、外国人材の母国語であるベトナム語、インドネシア語、フィリピノ語、中国語にも翻訳し、ウェブサイトで公開している点だ。外国人材の理解を促進するための試みである。また、従業員全体への普及に向けては、年1回の年度方針発表会で社長から共有しているほか、社内掲示も行っている。
また、備前発条では人権方針に基づき、社内の人権マネジメント体制を構築している。(1)従業員からの相談、(2)社内の衛生管理者や当事者以外の従業員、社長などによる問題の是正、(3)産業医や社労士、弁護士などの外部専門家と連携し、負の影響を受けた従業員の救済、を一連のプロセスとして回していく体制を想定している。これは、企業が人権尊重に取り組む上での指針となる、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」などで示されている人権デューディリジェンスの考え方と合致する。山根社長は、(2)で対応する側の人材に対する教育を強化する必要があるとして、体制のさらなる改善に意気込みを示した。
サステナビリティー経営は企業のアピールポイント
前述の環境配慮や人権尊重の取り組みは、人材採用や定着にもつながっており、中小企業におけるサステナビリティー経営の好事例といえる。例えば、2025年に新卒で入社した社員は、大学で環境システムの勉強をしていたというバックグラウンドを持つ。備前発条のウェブサイトを見て同社の環境への取り組みに関心を持ったことから、合同企業説明会の際に同社のブースを訪れ、採用につながった。
また、多様な人材を尊重するという方針に基づき、外国人材のサポートは非常に手厚く行っている。例えば、同社の外国人材の大半を占める技能実習生については、入社してから数カ月間、サポートを担当する実習管理責任者が全員と「交換日記」を行っている。日記が技能実習生の業務や生活の困りごとを吸い上げる相談窓口の役割を果たしているほか、日本語を学ぶ機会にもなっている。こうした密なやり取りが功を奏し、技能実習生と実習管理責任者は強固な信頼関係を築けていると山根社長は評価する。最近では、在留期間を終えて母国に戻った後、「また戻ってきたい」という技能実習生が非常に増えているという。
山根社長は、サステナビリティーの取り組みが人材の獲得・定着にもたらす効果について、「若い世代でサステナビリティーに対する意識が高い層が増加している。特に新卒採用においては、間違いなく人材獲得につながっている」と語る。その上で、取り組むだけでなく、発信し続けることが非常に重要だとした。
取り組みを発信することは、外部からの評価にもつながる。例えば、SDGs達成につながる岡山県内の活動を表彰する「おかやまSDGsアワード2024」において、同社の金型転用とブリッドとの新規取引が「優良な取り組み」に選ばれた。中小企業庁の「中小企業白書・小規模企業白書」(2025年版)にも、脱炭素やSDGsに関する取り組み内容が取り上げられた。外部評価は、サステナビリティーの取り組みに対する社内の理解を得る上でも、非常に大きな効力を持つと山根社長は指摘する。
ピンチをチャンスに、小さな一歩から始めるサステナビリティー経営
備前発条の事例が示す最大の示唆は、サステナビリティーは必ずしも大規模な投資や事業変革を必要としないという点にある。既存の生産性改善や品質向上活動と統合し、小さな取り組みを積み重ねることで、環境・経済・人材の好循環を生み出すことができる。なお、同社は本稿で紹介した取り組み以外にも、従業員の働きやすさや脱炭素、地域社会への貢献などに資する多様な活動を行っている〔同社ウェブサイト(SDGsへの取り組み
)参照〕。
自動車産業全体でサステナビリティーの取り組みがさらに進展すると、現在は限定的な脱炭素や人権に関する顧客要請が、備前発条のようなTier2・Tier3メーカーに対しても本格化する可能性は高い。同社の取り組みは、こうした潮流変化の可能性を「ピンチ」ではなく「競争力強化の機会」と捉え、先行的に行動することの重要性を示している。同社の実践は、同規模の中堅・中小企業にとって、サステナビリティー経営への現実的な道筋を示すケーススタディーといえるだろう。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
宮島 菫(みやじま すみれ) - 2022年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2023年6月から現職。





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