同人コミュニティーが支える中国「谷子経済」はホンモノか?
2026年4月20日
2025年11月下旬以降、中国では日本映画の公開や日本人アーティストの公演など、日本の文化やエンタメ分野の活動が、さまざまな理由により中止を余儀なくされる案件が多発している。一方で、中国において日本のコンテンツ(主にアニメやゲームのキャラクター)を扱ったグッズの販売は引き続き堅調だ。「グッズ」の発音を中国語にあてた「谷子」という言葉は2023年頃から使われるようになり、その盛り上がりから、勢いのある消費分野として「谷子経済」なる用語が流行語化した。中国の言語学雑誌『咬文嚼字』が毎年発表する「10大流行語」で「谷子」は2025年の流行語第6位となった。 中国の調査機関である華経産業研究院が2025年8月に公表した調査報告によれば、2024年の中国の谷子経済の市場規模は、前年の1,202億元から40%増の1,689億元へと急成長した。また、グッズ物販に加えて版権ビジネスやイベント、テーマパークなどを含む「二次元周辺産業」は、2024年には約6,000億元に達した。この規模は、中国で急拡大するコアAI産業の市場規模に匹敵する(注1)。
「谷子経済」の盛り上がりに寄与し、かつ現状においてもそれを支えているのは「同人」と呼ばれるコア・ファンコミュニティーである。日本では明治中期から主に文芸家の間で使われるようになった「同人」という言葉は、「同じ趣味・趣向を共有する仲間」という元来の意味から、現在では「コアなファンによる創作活動そのもの」までを指す。中国では、インターネットが急速に普及した2000年代後半頃から、日本で使われていた「同人」が同じ意味で用いられるようになった。「同人」たちによる日本IPを扱うマーケットなどのイベントは、2026年4月現在でも各地で頻繁に開催されている。
本稿では、中国で盛り上がる「谷子経済」と、それを支える「同人」について、現場の視点から紹介する。
正規店を中心としたグッズショップの出店ラッシュ
「谷子経済」の流行は、店舗の拡大に裏付けられる。2023年1月、上海市の南京路に位置する「上海百聯ZX創趣場」という商業施設がリニューアルオープンした。同施設ではリニューアルに際して、入居店舗の過半を占める40店舗以上をグッズショップにするという大胆な店舗の入れ替えを実施した。新たに入居したのは、BANDAI SPIRITSが運営する「TAMASHII NATIONS STORE SHANGHAI」や「THE GUNDAM BASE」、東映アニメーションらが運営する「ONE PIECE 麦わらストア」、アニメイトが運営する「アニメイト上海旗艦店」など、日本のIP事業者による直営店、正規店だ。
中国では以前から、大都市を中心に日本のキャラクターやアイドルのグッズなどを取り扱う店舗が集中して入居するショッピングモールが存在した。そこでは主に小規模事業者や個人が経営する小売店が、さまざまな販売ルートを通じて仕入れた商品を販売するというケースが主流であり、それ故に非正規品や模倣品が混在する可能性も高かった。上海南京路に集まる、おそらく中国で最もファッションに敏感な若者たちは、これまでまれであった日本IP事業者による「直営店・正規店」に食いついた。かつて雑居ビルの中で有象無象の商品群から購入品を物色していたファンたちは、非正規品を手にしてしまうリスクから解放された。この商業施設は瞬く間に人気を博して上海の有名スポットとなると同時に、日本のIP事業者による直営店は中国の他都市にも広がりつつある。
日本IP事業者の直営店のみならず、正規ライセンスを受けてグッズを製造・販売する中国系小売店ブランドも育ってきた。アニプレックスと提携する「Going」、メガハウス(注2)と提携する「三月兽 March Monster」、日本のIP事業者と幅広く提携し店舗拡大を進める「谷谷逛谷 GuGuGuGu」、さらに、中国発キャラクタービジネスで世界的ヒットを見せている「ポップマート(POP MART)」や、アイデア雑貨の中国発世界チェーン「名創優品 MINISO」なども、日本のIP事業者と提携して日本の著名キャラクターグッズを取り扱っている。
中国では大都市を中心に、消費低迷とリアル店舗離れにより大型ショッピングモールの多くが集客に苦戦しているが、グッズショップを多数入居させることで集客を確保し、て閉鎖を免れている商業施設も多い。中国の企業信用情報プラットフォーム「企査査」によれば、グッズ産業関連の企業登記数は2020年以降、爆発的に増加している(図参照)。この分野が成長分野としていかに注目されているかが分かる。
注:グッズ産業関連企業とは、アニメ派生商品、アニメ玩具、アニメ周辺用品、ゲーム周辺用品を指す。
出所:企査査
グッズ経済を支える同人コミュニティーの存在
「谷子経済」を底堅く支えているのが、同人の存在と、彼らが定期的に開催するファンイベントやマーケットイベントなどである。2006年には、上海市の復旦大学のマンガ愛好家が小規模なファンイベントを開催した。このイベントが中国における同人イベントの先駆けといわれ、後に中国最大級の同人マーケットイベント「COMICUP」(通称:CP)に発展する。2025年12月に浙江省杭州市で開催された「第32回COMICUP」は日本IPの出展なしという異例の開催となったが、出展数は7,000ブース、来場者数は2日間で約20万人と過去最大規模だった。
同人と呼ばれるコア・ファンのコミュニティーは、堅固な消費層であると同時に広告塔としての役割も果たす。例えば、日本のアニメやゲームを愛する同人は、情勢にかかわらず日本IPのグッズを購入し、日本IP関連イベントを実施・参加し、日本IPに関する情報を発信する。同人がイベント開催・参加やSNSでの発信などを通じて幅広く情報を拡散することで、ライト・ファン層が形成・維持され、それが谷子経済を支えるという構図になっている。
北京の繁華街での同人イベントの模様
北京市中心部の繁華街・王府井に位置する喜悦ショッピングセンターは、近年、多くのIPグッズショップが入居し、若者に人気のスポットになっている。このショッピングモールの地下広場では、定期的に同人によるマーケット、いわゆる「コミケ」が開かれている。ほぼ毎週このショッピングモールを訪れているという常連客は、会場の雰囲気について「ここは北京で一番大きな二次元の集まりだ。ここに来ると漫展(コミケ)に来たような感じで、雰囲気がとても濃い。家からも近いので、ほぼ毎週来ている」と語る。

近年、ポップマートが代表する、いわゆる「潮玩(トレンド系フィギュア)」が一般層にも広く認知されるようになり、「ラブブ」などのヒット商品が話題になることも増えている。こうした「潮玩」は、もともと大衆向けに商業化されたフィギュアであり、「同人」による二次元文化の文脈で語られるフィギュアとは位置付けがやや異なる。「同人」が扱う二次元系フィギュアは、比較的小さなファンコミュニティーの中でのみ流通しており、その背景には、マンガ・アニメ・小説・ゲームといった、いわゆる「ACG(Anime、Comic、Game)コンテンツ」が精神的なよりどころとして存在している。二次元フィギュアを手にする同人が求めているのは、「モノそのもの」よりも、キャラクターや物語、世界観、そしてそれらに対するファンの愛着や共感であろう。同人の世界は価値観を共有する場として機能し、一般化・大量流通とは異なる軸で谷子経済を支えており、それは状況にかかわらず変わることはない。
「日谷」と「国谷」
グッズショップの商品棚でも、同人マーケットイベントで並べられる作品群でも、圧倒的に存在感を示すのは「日谷」と呼ばれる日本のIPだ。「国谷」と呼ばれる中国系IPも徐々に増えているが、まだ少数であり、欧米系のIPに至ってはほとんど目にすることはない。
前述の北京の繁華街で毎週末同人イベントに参加している若者は、「『ハイキュー!!』などの日本IPが好きで、来るたびに新しいグッズが出ていないか探している」と話す。また別の来場者も、「『ダンジョン飯』のグッズをよくチェックしている。好きなIPの新作が出ていないかを期待して来ている」と語る。さらに、日本IPについて「日谷の公式グッズは全体的に見た目が良く、デザインの完成度が高いと感じる」との声も聞かれ、視覚的な魅力の高さが支持につながっている様子がうかがえる。筆者が会場で目視した範囲では、陳列されている商品のうち「日谷」の割合は約8割以上との印象であった。

中国IPグッズ、すなわち「国谷」も存在感を高めつつあることは事実だ。ポップマートが発売した「ラブブ」、ゲーム『黒神話・悟空』(2024年8月29日付ビジネス短信参照)、映画「哪吒(ナタ)」など、中国発IPにもヒット作品が生まれ始め、日谷の完成度への評価が高い一方で、国谷を選ぶ層も着実に増えている。同人マーケットの来場者からも「乙女向けグッズ(女性向けアニメ・マンガ作品の関連商品)を中心に国谷もどんどん見た目が良くなっている」「国谷の方が価格が手頃で入手しやすい」との声が聞かれ、価格面・入手しやすさなどでの国谷の支持が拡大しつつある様子がうかがえた。
しかし、「谷子経済」の根底に存在する同人文化を育んできたのは、間違いなく日本のコンテンツである。同人にとって、好きな日本のアニメやゲームは当たり前のように日本語音声で楽しみ、日本語のアニメソングを皆で歌う。中国における「二次元文化」は、「日本文化」と言い換えても過言ではない。
本稿で紹介したとおり、中国で流行する「谷子」はすなわち「日谷」であり、「二次元」はすなわち日本文化、と言うこともできる。中国は日本のIP事業者にとって大きな収益を生む市場であることに変わりはない。
2025年末以降、日本映画の上映や日本アニメの放映、日本人アーティストの公演などが事実上実施できない状況が続き、イベントでのグッズ販売やコスプレが禁止されるという残念な事態も起きている。
「日谷」、すなわち日本のIPを支える「同人」、すなわちコア・ファンによる活動が、状況の変化があっても継続されているのは事実である。現在の状況下においても、日本IPを主流としてきた谷子経済が好調を維持し、同人たちが引き続き「日谷推し」を続けることで、中国の若いファンたちの日本IPへの支持が維持・強化されることを期待したい。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・北京事務所 次長
森永 正裕(もりなが まさひろ) - 1998年、アジア経済研究所入所。ジェトロ・上海事務所、JOGMEC・北京事務所長(出向)、研究企画課長、ジェトロ・成都事務所長などを経て現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・北京事務所
馮 梓原(ひょう しげん) - 日本の大学を卒業し、2024年4月からジェトロ・北京事務所勤務。





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