インドネシアに広がるインシュアテック
低い保険浸透率とDX
2026年2月24日
インドネシアでは国民医療保険制度(JKN)の普及が進む一方で、民間保険の加入率は依然として低く、市場は未成熟である。こうした中、QoalaやReyといったインシュアテック企業がDXを通じて課題解決を図っており、新たな成長機会が拡大している。本稿では、インシュアテックスタートアップの取り組みを通じて、インドネシア保険市場の現状と今後の可能性を探る。
低水準にとどまるインドネシアの保険料収入
インドネシアでは、国民医療保険制度(Jaminan Kesehatan Nasional; JKN)が2014年1月に開始され、国民皆保険の実現に向けて加入拡大が進められてきた。加入はインドネシア国民に加え、同国で6カ月以上就労する外国人にも義務付けられている。当初は2019年までに全国民をカバーすることを目標としていたが、現地紙「アンタラ」の報道によれば、2024年末時点の加入率は98%を超えたとされている。一方、インドネシア金融グループ(IFG)(注)の報告書「Progress 2025」によると、対GDP比の保険料収入はASEAN諸国やインド、中国などと比べて、低水準にとどまる。
出所:IFG PROGRESS Economic Bulletin – Issue 57 Assessment on Indonesia’s Life Insurance Industryを基にジェトロ作成
保険普及率は、国民がリスクにどの程度備えているかを示す指標の1つだ。また、インドネシアでは保険に対する認知度や理解が十分とはいえず、多くの人々には依然として身近な存在にはなっていない。しかし、この状況はインシュアテック(保険×技術)分野のスタートアップにとって、成長機会とも捉えられる。
低保険普及率を成長機会に、東南アジアで拡大するQoala
インドネシアの低い保険普及率に高い潜在性を見出し、チャンスと捉えている企業の1つが、2018年にインドネシアで設立されたQoalaだ。同社は、消費者向けに自動車保険、医療保険、生命保険、旅行保険など、さまざまな保険商品を比較・購入できるマーケットプレース型アプリを提供する。加えて、中小・零細事業者が保険商品を販売・管理するためのデジタルツールも展開している。さらに、旅行予約サイトやECサイトなどの外部プラットフォームに保険を組み込む「埋め込み型保険」も提供している。 同社は既にタイ、マレーシア、ベトナムにも事業を拡大しており、東南アジアにおける保険販売プロセスのデジタル化を推進するプレーヤーとして存在感を高めている。また、日系保険会社との提携や日系投資家から出資を受けるなど、日系企業との連携実績も多い。
同社のトミー・マーティン共同創業者兼副CEOは2025年10月31日、ジェトロのインタビューで、「インドネシアの人口は若年層が大部分を占めている。彼らはデジタル技術に精通している一方、保険に対する意識や関心はまだ低く、啓発していく余地がある。Qoala は日本を含むインドネシア内外の企業との戦略的パートナーシップをさらに拡大し、保険文化の醸成と国民からの信頼獲得を通じて、業界の革新を進めていきたい」と述べた。


医療保険の持続可能性向上へ、DXで業界課題に挑むRey
Qoalaが保険商品の販売プロセス刷新に重きを置くのに対し、医療保険を中心に、利用者の健康維持までを事業領域に含めるのが、2021年にインドネシアで設立されたReyだ。同社も同じく日系企業からの投資を受けている。
同社のエヴァン・タノトゴノ最高経営責任者(CEO)兼共同創業者(Co-Founder)は2025年10月24日、ジェトロのインタビューに対して、「医療費の高騰、医療提供体制の分断化、クレーム率の高止まりにより、保険会社の業務負担は高まっている。また、長く複雑な保険金支払いプロセスも、関係者を疲弊させている要因となっている」と指摘した。その上で、これらの問題を解決し、持続可能性を確保することが医療保険業界における本質的な課題だと説明した。
Reyは保険会社の課題に焦点を当てて設立されたインシュアテックスタートアップで、保険金支払い業務と医療サービスの連携強化に注力している。保険会社と連携し、加入者のケア対応から保険金請求プロセスに至るまで包括的に支援するサービスを展開しているほか、保険関連業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)も手がける。
診断記録や診療報酬関連文書などの多様な医療データを人口知能( AI) が読み取り、内容を解析することで、保険金請求の審査に必要な情報を自動的に抽出する。こうした取り組みにより、被保険者や医療機関との連携、支払い手続きなど一連の業務を1つのプラットフォームに統合し、シームレス化を図ることで、業務負荷の軽減と顧客体験の向上を目指している。エヴァン氏は、「Reyのプラットフォームは、保険者、被保険者、医療提供者など、保険に関わる全てのプレーヤーにメリットをもたらす」と強調した。



インドネシアでは、国民皆保険体制が整備され、国民の健康保障に関する制度的な枠組みは一定の進展を見せている。一方で、民間保険の普及率は依然として低く、保険文化の定着や金融リテラシーの向上には大きな余地がある。この「制度は整ったが市場は成熟していない」という構造が、インシュアテック企業にとって魅力的な成長機会となっている。
QoalaやReyに代表されるインシュアテックスタートアップは、販売プロセスの非効率性や医療・保険分野におけるデータ連携の不足など、既存の保険会社が抱える課題の解決に取り組んでいる。デジタル技術を活用して新たな顧客接点を創出し、保険の加入・利用に伴うハードルを下げることで、市場拡大を後押ししている。
こうした企業の多くは、日系企業との提携や出資を積極的に受け入れており、日本企業にとっても、インドネシアの巨大かつ未成熟な保険市場に参画できる機会となっている。 総じて、インドネシアの保険市場は、低い保険浸透率という課題を抱えつつも、その課題自体が革新的なサービスの登場を促す土壌となっている。インシュアテックは、同国における保険文化の醸成、業務効率の向上、医療提供体制との連携強化といった分野において、今後ますます重要性を増すことが予想される。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ジャカルタ事務所
平松 耕介(ひらまつ こうすけ) - 2020年、ジェトロ入構。2024年1月よりジェトロ・ジャカルタ事務所にてスタートアップ担当を務める。日系スタートアップのインドネシア進出支援、インドネシア企業の日本進出支援、双方のオープンイノベーション事例創出などに従事。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ジャカルタ事務所
キラナ・リンタン - 2024年よりジェトロ・ジャカルタ事務所にて勤務。






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