インバウンド客のニーズを出発点に旅アトビジネスへ(日本・世界)

2026年2月18日

インバウンド客には、旅アト(帰国後)にも旅ナカ(訪日中)に体験した飲食などを再現したいというニーズがある。日本製品への旅アト消費も期待できるが、海外市場では十分な商品が販売されていない場合も多い。インバウンド客の旅ナカでの消費動向をデータや接触体験から精巧に把握し、輸出の確度を高めるマーケティング手法を考察する。

一人ひとりの外国人客に注目する重要性

日本政府観光局(JNTO)の2026年1月の発表によると、日本を訪問した外客数は2025年、推計で前年比15.8%増の4,268万3,600人だった。外国人客が日本を訪れる事象のことを、一般的に「インバウンド」と呼ぶことが多い。一方で、マーケティングの観点での「インバウンド」では、訪日中の外国人客の一人ひとりに注目する。彼らはリアルなB to Cの海外消費者であり、おのおのが違った意見や感想を持っている。そうした消費者個人が発するニーズを具に捉え(具体化)、そこから得られる情報を一般化(抽象化)することでマーケットインに近いインサイト(言外の示唆)を得られやすくなる。

マーケットインの考え方は2つに大別される。1つ目は、ある市場に既に存在しているニーズや課題を起点にして、それに合う製品やサービスを提供すること。2つ目は、ニーズや課題を出発点とすることは同じだが、エンドユーザー(最終消費者、ここでいうインバウンド客個人)の生活文脈や価値観、課題を深く理解し、それに応えるかたちで商品や売り方を設計することだ。その本質は、顕在化していない欲求や需要を感じ取る「洞察力」(インサイト・ドリブン)にある。特にインバウンド客との直接の接点が多いほど、商品開発・改善のための情報が得られる。つまり、旅マエ(訪日前)、旅ナカ(訪日中)、旅アト(帰国後)の3つのフェーズでインバウンド客とのタッチポイント(接触点)をどれだけ作り出せるかが、重要なポイントとなる。

インバウンドをニーズ調査のフロントラインとして活用する

インバウンド客との接点を通じて、国・地域ごとの嗜好(しこう)や購買行動、価格感度、購買障壁(例:送料、持ち帰り可否)などを把握し、そのリアルな声を基に、輸出商品開発や海外販売戦略を最適化することは、海外ビジネスの成功の第一歩だ。

筆者は2025年11月、メキシコ北部トレオン市出身で、ガストロノミー系インフルエンサーのオスカル・メサ氏が日本を訪問した際、仙台市でインタビューした。同氏は家族でメキシコから米国に移住し、現在は永住者カード(グリーンカード)を保有している在米ヒスパニック系メキシコ人だ。2026年1月29日現在、メサ氏のフォロワー数はYouTubeで1,000万人、Facebookで810万人、Instagramで268万人に上る。いわゆるメガインフルエンサーだ。得意とする分野はガストロノミーで、自身で食材を用いて調理して食する動画や、レストランなどを訪問して食事を楽しむ動画が多い。メサ氏から聴取した特徴的なコメントは次のとおり。

  • 普段から米国やメキシコでは、日本産和牛をディストリビューターから購入して調理したり、レストランを訪れて和牛料理を食したりする機会がある。しかし、霜降りが多いロイン部位の販売がほとんどだ。
  • 訪日中には食べることができる赤身部分(ロイン以外)を、帰国後に購入することは容易でない。米国市場でも、ロイン以外の部位の流通が進めば、訪日経験がある消費者は購入したいと感じるだろう。

赤身の和牛を楽しむヒスパニック系インフルエンサーの
オスカル・メサ氏とイサベル・ハーパー氏(ジェトロ撮影)

農林水産省によると、2023年時点で国産和牛の総生産量の5.0%が海外へ輸出された。総輸出量の53.2%はロインであるが、国内生産量に対する比率は14.8%と低い。米国や欧州ではステーキ肉向け需要が大きいため輸出はロインが中心で、米国向けの79%、欧州向けの84%が同部位だ(表1参照)。米国では一部のアジアスタイル焼き肉や火鍋などの料理で非ロインの需要もみられるが、日系・アジア系以外の飲食店や精肉専門店ではほとんど非ロインの取り扱いがないとされる。

表1:2023年の国産和牛の生産量および輸出量 (単位:トン、%)(ーは記載なし)

生産量
部位 生産量 総量比率
総量 169,000 100.0
階層レベル2の項目ロイン 25,000 14.8
階層レベル2の項目非ロイン 144,000 85.2
階層レベル3の項目かた・うで・もも 89,000 52.7
階層レベル3の項目ばら 51,000 30.2
階層レベル3の項目その他 3,000 1.8
輸出量
部位 輸出量 輸出割合 総量比率 備考
総量 8,421 5.0 100.0
階層レベル2の項目ロイン 4,480 17.9 53.2 米国向け輸出の79%、欧州向けの84%
階層レベル2の項目非ロイン 3,941 2.7 46.8
階層レベル3の項目かた・うで・もも 2,548 2.9 30.3
階層レベル3の項目ばら 1,211 2.4 14.4
階層レベル3の項目その他 182 6.1 2.2

出所:食料・農業・農村政策審議会畜産部会(令和6年度第6回)配布資料からジェトロ作成

「旅ナカならでは」を旅ナカだけに留めることはもったいない

旅ナカで体験した食事を帰国後(旅アト)にも再現したいというニーズを、インバウンド客向けに広く調査することで、エビデンスベース(裏付けされたデータに基づき判断すること)の輸出につなげられる可能性がある。2025年の訪日外客数の上位5カ国・地域(韓国、中国、台湾、米国、香港)を対象に、観光庁の「2024年インバウンド消費動向調査」で旅ナカ消費動向を見ると、「訪日中に一番満足した飲食」では「肉料理」が5カ国・地域全てで1位だった(表2参照)。またその理由として、米国人インバウンド客の30.8%は「自国で味わうことができない」を選択している(表3参照)。

肉料理への満足度の高さと、訪日中の和牛へのタッチポイントの多さから、旅ナカで非ロインを食する米国人訪日客が一定数存在するため、旅アトでの非ロイン消費ニーズもあると推測できる。インバウンド客が年を追って増加する中、それぞれの旅ナカでの消費動向を深堀り調査することで、旅アトの需要を定量・定性の両面から予測し、販路開拓の確度を高めるマーケティングがより重要になるだろう。

表2:訪日中に一番満足した飲食(単一回答)

全世界
食事名など 割合
肉料理 32.3
ラーメン 18.9
すし 14.5
魚料理 10.2
その他日本料理 5.4
その他料理 5.1
そば・うどん 4.4
小麦粉料理 3.4
菓子類 2.2
その他食料品・飲料 1.4
1.0
外国の料理 0.6
果物 0.5
韓国
食事名など 割合
肉料理 34.6
すし 18.2
ラーメン 13.9
魚料理 8.8
そば・うどん 5.9
その他日本料理 5.4
その他料理 5.1
小麦粉料理 3.6
菓子類 1.9
1.2
その他食料品・飲料 0.8
外国の料理 0.4
果物 0.2
中国
食事名など 割合
肉料理 41.0
ラーメン 17.8
魚料理 13.6
すし 10.1
その他日本料理 4.5
その他料理 4.2
そば・うどん 2.5
小麦粉料理 2.0
菓子類 1.7
その他食料品・飲料 1.1
外国の料理 0.9
0.4
果物 0.2
台湾
食事名など 割合
肉料理 36.3
ラーメン 18.2
魚料理 13.8
すし 7.2
その他日本料理 6.1
その他料理 5.8
そば・うどん 3.9
菓子類 3.2
小麦粉料理 2.1
果物 1.3
その他食料品・飲料 1.2
0.5
外国の料理 0.4
米国
食事名など 割合
肉料理 23.4
ラーメン 21.6
すし 18.6
その他料理 7.7
その他日本料理 6.5
小麦粉料理 5.4
魚料理 5.0
そば・うどん 4.9
その他食料品・飲料 2.1
菓子類 2.0
1.4
外国の料理 1.1
果物 0.3
香港
食事名など 割合
肉料理 37.1
すし 16.1
魚料理 15.7
ラーメン 14.6
その他日本料理 4.6
そば・うどん 3.6
その他料理 3.1
菓子類 1.8
小麦粉料理 1.3
その他食料品・飲料 0.8
外国の料理 0.6
果物 0.4
0.4

出所:観光庁「2024年インバウンド消費動向調査」

表3:訪日中に一番満足した飲食の理由(複数回答)

全世界
理由 割合
美味しい 94.0
食材が新鮮 45.5
伝統的・日本独特 21.0
好きな料理・食品である 19.9
価格が手頃・自国より安い 19.3
韓国
理由 割合
美味しい 94.8
食材が新鮮 32.6
好きな料理・食品である 20.1
自国で味わうことができない 18.2
伝統的・日本独特 13.6
中国
理由 割合
美味しい 92.5
食材が新鮮 53.0
好きな料理・食品である 22.1
伝統的・日本独特 19.3
自国で味わうことができない 13.1
台湾
理由 割合
美味しい 92.4
食材が新鮮 47.4
好きな料理・食品である 21.6
伝統的・日本独特 15.9
価格が手頃・自国より安い 13.8
米国
理由 割合
美味しい 96.3
食材が新鮮 50.1
価格が手頃・自国より安い 38.4
伝統的・日本独特 34.0
自国で味わうことができない 30.8
香港
理由 割合
美味しい 91.4
食材が新鮮 55.6
価格が手頃・自国より安い 21.3
好きな料理・食品である 20.9
伝統的・日本独特 16.6

出所:観光庁「2024年インバウンド消費動向調査」

執筆者紹介
ジェトロデジタルマーケティング部ECビジネス課
志賀 大祐(しが だいすけ)
2011年、ジェトロ入構。展示事業部展示事業課、ジェトロ・メキシコ事務所海外実習、お客様サポート部貿易投資相談課、海外調査部米州課、ジェトロ・メキシコ事務所などを経て2024年10月から現職。