スポーツ市場に挑む日本企業
ドバイのスポーツ政策と商機(後編)

2026年8月17日

高温多湿な気候により屋外での運動が難しいアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイにおいて、政府主導で市民向けスポーツイベントやスポーツ政策が推進されている。後編となる本稿では、UAEのスポーツ振興や健康づくりの機運の高まりに着目し、実際にビジネスを展開している日本企業の取り組みを紹介する。

健康意識の向上とスポーツ人口増加に着目する日本企業

大塚製薬は、同社製品のポカリスエットの名を冠したマラソンイベント「ポカリスエットランドバイ」を2025年に開催した(2025年4月25日付ビジネス短信参照)。同社は、運動促進と運動時の水分・電解質補給の啓発を行っており、給水所ではポカリスエットを提供した。マラソンイベントには3,000人以上が参加し、ドバイ・スポーツ・カウンシル、ドバイ警察、ドバイ道路交通局(RTA)のほか、会場となったエキスポ・シティー・ドバイも参画した。ポカリスエットは1983年から中東湾岸諸国6カ国で販売されており、UAEでもスポーツ飲料として広く流通している。健康意識の高まりやスポーツ人口の増加を背景に、こうしたイベントを通じて新たな需要を取り込み、さらなる認知度向上につなげる効果が期待される。

日本のスタートアップもスポーツ・フィットネス分野で活躍している。SHOSABI(所作美)は、姿勢修正に関する独自の動作解析技術を使った製品・サービスを展開しており、予防医療クリニックや高級スポーツジムなどドバイの健康市場に参入している(2025年11月19日付地域・分析レポート参照)。同社サービスの活用事例としては、利用者がジムでSHOSABIによる姿勢・動作スクリーニングを受け、そのデータを基に作成された詳細なレポートをジムのトレーナーが参照しながら指導する仕組みがある。それにより、利用者の日常的なエクササイズに対し、データに基づく精度の高いアドバイスを提供できる。

スポーツサービス系スタートアップの活動は中東・北アフリカ(MENA)地域で活発化している。UAEの調査会社マグニット(MAGNiTT)によると、2025年には同地域のスポーツ・フィットネス分野へのベンチャー投資が大幅に増加した。同分野への投資額は3億900万ドルに達し、フィンテック(11億4,500万ドル)、Eコマース(5億4,900万ドル)に次いで、3番目に大きな投資分野となった。

アシックス、UAEのスポーツ振興に貢献


アシックスアラビア堀聖児社長
(アシックスアラビア提供)

アブダビマラソンのパートナーシップ署名式
(アシックスアラビア提供)

スポーツ用品メーカーのアシックスは、湾岸協力会議(GCC)諸国で35店舗以上の直営店を展開しており、そのうち12店舗をUAEで運営している。ジェトロは、ドバイにある同社の地域統括拠点であるアシックスアラビアの堀聖児社長に話を聞いた(取材日:2026年7月10日)。

同氏は、2025年の売り上げは前年を大きく上回り、数年前と比べても飛躍的な成長を遂げたと述べた。中でも、多くの観光客が訪れるドバイモール店は売り上げが非常に高く、圧倒的な集客力と営業力を示しているという。同社のビジネスは、ランニングビジネスが7割を占める。プレミアム戦略を打ち出し、高級モールを中心に、高価格帯のランニングシューズを展開し、とりわけ若年層に支持される製品の販売に注力している。また、同社のECサイトの売り上げも順調に推移しており、プレミアムロケーションとされる実店舗へのアクセスが難しい消費者に対する補完的な販売チャネルとして機能している。さらに、ランニングに加え、現時点ではまだ市場規模は小さいものの、テニス分野への参入も強化している。テニスアカデミーとの連携やテニスコートでのイベント開催なども視野に入れているという。

活況を呈している同社のビジネス。しかし、堀氏は目先の利益のみを追い求めているわけではない。同社の創業理念である「健全な身体に健全な精神があれかし」という考えのもと、同社が培ったスポーツ技術や知見を生かし、スポーツを通じて地域や社会に貢献することが何よりも大切だと考えている。既にコミュニティー単位の活動に関与し、草の根レベルでスポーツ振興を始めている。また、大きな大会では、直近では2026年にはアブダビマラソンのほか、ドバイマラソンやラスアルハイマ首長国のRAKマラソンなど、UAE国内の主要マラソン大会のスポンサー協賛も行っている。ランニングクラブやアスリートインフルエンサーなどとの連携を通じて、スポーツ人口の裾野を広げていこうとしている。

UAEでは政府主導の健康増進政策と国際スポーツイベントの誘致が同時に進んでおり、日本企業にとっては製品販売に加え、イベント運営やコミュニティー形成などを通じた市場参画の可能性が広がっている。

ドバイのスポーツ政策と商機

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執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
清水 美香(しみず みか)
2010年、ジェトロ入構。海外調査部中東アフリカ課、海外調査企画課、ジェトロ埼玉などを経て、2023年9月から現職。