所作の美が中東フィットネス・医療に広がる(UAE)
SHOSABI、ドバイで実証された価値
2025年11月19日
日本のスタートアップSHOSABI(所作美)
が提唱する「優雅で効率的な動作」を通じた健康づくりの波が中東のアラブ首長国連邦(UAE)ドバイで確かな広がりを見せている。予防医療クリニックや高級スポーツジムに加え、新たなジムブランドでも導入が始まるなど、現地市場で着実に実績を積み上げている。日本発のテクノロジーがドバイの健康市場でどのように受け入れられているのか、現地取材から探る(取材日:2025年10月14日)。
科学が支える動作の美学
SHOSABIの創業者で最高経営責任者(CEO)の神山祥子氏のビジョンは、三菱ケミカルグループ在籍時代の研究に端を発する。「今日の動作が、未来の健康をどう形作るのか」という問いを起点に、東京大学との共同研究を通じて、若年期に形成される筋骨格パターンが長期の健康に決定的な影響を与えることを解明した。
最高技術責任者(CTO)の小林謙次郎氏が開発した技術は、10万分の1秒単位で骨格座標を捕捉する高度な動作解析が特徴だ。単なる計測を超え、パーソナルトレーナーのようなリアルタイムでの姿勢修正指導を可能にする。
神山氏は「われわれが提供するのはフィットネスツールではなく、身体への深い理解そのもの。人間の動作が持つ可能性を最大限に解き放つこと、それがSHOSABIの使命」と語る。

予防医療での活用進む
ドバイの先進的な予防医療クリニックのグルケア・ヘルス(GluCare.Health)
では、SHOSABIの技術が「未病」の段階での健康リスク評価ツールとして活用されている。
看護・患者体験部長を務めるキャロリン・パルスキー氏は「SHOSABIの定量化された動作分析は、従来の問診や血圧測定だけでは見逃されがちな身体の微妙な不均衡を可視化する。これにより、患者様一人一人に合わせた、より精密な予防プログラムの構築が可能になった」と説明する。 数値化された動作の質は、医療現場で「測定可能なバイオマーカー」としての価値を確立し始めている。
GluCare.Healthに導入されたSHOSABIの様子(ジェトロ撮影)
高級ジムでの成功事例
ドバイを代表する高級スポーツジムのウェルフィット(Wellfit)
では、SHOSABIの導入てサービス品質の向上を実現している。
ゼネラルマネジャーのオマル・ファイユミ氏は「SHOSABIは当ジムのサービスを根本から進化させた。3Dボディースキャナー『Styku』や、体組成分析『InBody』と並び、人工知能(AI)を駆使した最新技術として導入している」と語る。
同ジムでは、会員が「Wellstart」セッションでSHOSABIによる姿勢・動作スクリーニングを受け、そのデータを個人ファイルに統合する。ジムアドバイザーが詳細なレポートを参照し、日常のルーティンエクササイズに対して、データに基づいた正確なアドバイスを提供している。「現在、1つのジム当たり50人から100人の会員が定期的にSHOSABIを利用しており、利用者数は確実に増加し続けている」とファイユミ氏は手応えを語る。


現地パートナーの役割
SHOSABIのドバイ市場での浸透を支えるのが、地域を代表するフィットネス機器ディストリビューターのビーフィット(Befit)だ。
チャネルマネジャーのジナ・カーサイト氏は「中東市場は他の市場と同様に独特なため、SHOSABIのような全く新しいカテゴリーの製品には、市場教育とクライアント教育が不可欠だ」と現地市場の特性を説明する。
Befitは、ライフ・フィットネス(Life Fitness)やハンマー・ストレングス(Hammer Strength)といった世界トップブランドを扱い、ホスピタリティー、住宅、政府機関など、地域の多数のジムに機器を供給するネットワークを持つ。SHOSABIは、Wellfitへの導入を成功させたことで市場から高い信頼を得た。その実績を背景に、BefitがSHOSABIの正式な販売パートナーとなった。
インタビュー中にも、朗報が飛び込んできた。ジナ氏は「まさに5分前に、The Warehouse Gymから発注書を受領した。3つの異なるクラブにSHOSABIを導入する最初の一歩となる」と順調な進捗をみせた。The Warehouse GymはUAEに14店舗を展開する主要チェーンで、私募ファンドの投資を受けて今後4年間でさらに15店舗を展開する計画だ。

新たなウェルネスの形
予防医療クリニックや高級フィットネスジムへの展開、そして、地域に密着した強力なディストリビューターの存在。この成功モデルは、SHOSABIの技術が持つ本質的な価値と汎用(はんよう)性を強く物語っている。
神山氏は「動作は、私たちそのものを表している。SHOSABIは、一人一人が自身の身体的可能性を理解し、向上させるための道しるべであり続けたい。現地パートナーたちとの協業は、私たちの理念が文化や地域を超えて通用することを示す、何よりの証しだ」と締めくくった。
日本発のディープテックがドバイの熱気あふれる市場で実績を積み、ジェトロのサポートなども使いながら、世界へと羽ばたこうとしている(2024年12月10日付記事参照)。
- 執筆者紹介
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ジェトロイノベーション部スタートアップ課
加賀 悠介(かが ゆうすけ) - 英エコノミスト・グループでの勤務、フランスでの医療系スタートアップ勤務などを経験後、2022年、ジェトロ入構。イノベーション促進課を経て、2023年から現職。




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