HEVが3割超、免税措置廃止でBEV減速(スイス、リヒテンシュタイン)
2024年の自動車生産・販売動向
2025年6月9日
オートスイス(Auto-Schweiz/スイスの自動車産業団体)の発表(2025年1月4日、フランス語)によると、2024年のスイスとリヒテンシュタインの乗用車新規登録台数は、23万9,535台。前年比5.0%減になった。
特に下半期が伸び悩んだ。2024年の月別で最大だった12月も、前年同月比で5.9%下回った。こうしたことから、スイスの自動車市場全体の状況は大きく改善しなかったとしている。
新型コロナウイルス危機前は維持されていた約30万台以上の水準を、いまだに大きく下回っているかたちだ。
業界は、政策面での影響を指摘
オートスイスは、「景気減速に加えて、電動モビリティーの進展に関して、誤った政治的シグナルが新車需要に影響した」と指摘する。同会長のピーター・グリューネンフェルダー氏は、「スイス連邦参事会(内閣に相当)は2024年初めに電気自動車(EV)を対象にする4%の自動車税免税措置を廃止した。これが価格の上昇につながり、2024年のEVの市場シェアにも明確に反映している」と説明した。加えて、連邦議会が二酸化炭素(CO2)法で、自家用充電インフラの強化に反対票を投じたことや、公共エネルギー企業の電気料金が過剰なことも、電動モビリティーへの切り替えを容易でなくしているという。
不振ながらもVWが首位を維持、ボルボが躍進
2024年の乗用車新規登録台数をメーカー・ブランド別にみると、首位から5位までは引き続き、ドイツ系またはその傘下が名を連ねる。前年と同様に全体の44%を占めた(表1参照)。
3位までは前年に引き続き、フォルクスワーゲン(VW)、BMW、シュコダだった。ただし首位のVWは、前年比15.1%減と大きく後退。2位BMWとの差が縮まった。2023年に4位だったアウディは11.5%減と後退して5位に転落。代わって、メルセデス・ベンツが4位に浮上した。続いて日本勢トップのトヨタが、前年に続いて6位に入った。
さらに、セアト/クブラ、ボルボ、テスラ、現代が続く。中でもボルボが23.3%増と躍進。後述するEVの伸びが寄与した結果だ。
トヨタ以外の日本ブランドは、スズキが17位、マツダが18位、ホンダが21位、三菱自動車が24位、日産が26位、スバルが27位、レクサスが29位だった。
順位 | メーカー・ブランド | 台数 | シェア(%) | 前年比(%) |
---|---|---|---|---|
1 | フォルクスワーゲン | 24,072 | 10.0 | △ 15.1 |
2 | BMW | 21,809 | 9.1 | 2.4 |
3 | シュコダ | 21,117 | 8.8 | △ 0.2 |
4 | メルセデス・ベンツ | 20,353 | 8.5 | 1.9 |
5 | アウディ | 17,984 | 7.5 | △ 11.5 |
6 | トヨタ | 13,410 | 5.6 | 0.9 |
7 | セアト/クブラ | 9,763 | 4.1 | △ 18.4 |
8 | ボルボ | 9,653 | 4.0 | 23.3 |
9 | テスラ | 8,930 | 3.7 | 2.0 |
10 | 現代 | 8,859 | 3.7 | 4.8 |
11 | ルノー | 8,845 | 3.7 | 3.0 |
12 | ダチア | 7,826 | 3.3 | △ 1.7 |
13 | フォード | 7,308 | 3.1 | △ 27.1 |
14 | 起亜 | 6,674 | 2.8 | △ 2.7 |
15 | プジョー | 5,188 | 2.2 | △ 3.6 |
16 | ポルシェ | 5,042 | 2.1 | 10.5 |
17 | スズキ | 4,584 | 1.9 | 6.1 |
18 | マツダ | 4,164 | 1.7 | △ 7.3 |
19 | フィアット | 3,377 | 1.4 | △ 21.5 |
20 | オペル | 3,261 | 1.4 | △ 31.8 |
21 | ホンダ | 3,101 | 1.3 | 32.4 |
22 | ミニ | 3,073 | 1.3 | △ 21.0 |
23 | シトローエン | 2,604 | 1.1 | △ 10.9 |
24 | 三菱 | 2,536 | 1.1 | 16.8 |
25 | ランドローバー | 2,443 | 1.0 | 23.6 |
26 | 日産 | 2,288 | 1.0 | △ 23.7 |
27 | スバル | 1,697 | 0.7 | △ 8.2 |
28 | ジープ | 1,371 | 0.6 | △ 43.5 |
29 | レクサス | 993 | 0.4 | 16.0 |
30 | スマート | 887 | 0.4 | 7.4 |
31 | アルファロメロ | 859 | 0.4 | △ 42.2 |
32 | MG | 679 | 0.3 | — |
33 | ポールスター | 603 | 0.3 | △ 33.1 |
34 | KGMモビリティ/旧サンヨン | 477 | 0.2 | 54.4 |
35 | マセラティ | 417 | 0.2 | △ 21.5 |
36 | ジェネシス | 341 | 0.1 | △ 52.4 |
37 | ジャガー | 327 | 0.1 | △ 21.0 |
38 | DSオートモビルズ | 280 | 0.1 | △ 58.6 |
39 | アストン・マーチン | 200 | 0.1 | 32.5 |
40 | キャディラック | 139 | 0.1 | 71.6 |
合計(その他を含む) | 239,535 | 100.0 | △ 5.0 |
出所:オートスイス発表データを基にジェトロ作成
代替燃料車の市場シェアが61.6%に拡大、BEVは19.3%
車両カテゴリー別にみると、代替燃料車の新規登録台数が前年比1.8%増の14万7,478台に拡大。市場シェア61.6%と、初めて6割を超えた。なお代替燃料車とは、ガソリンやディーゼル以外の燃料で走行可能な車のこと。具体的には、ハイブリッド車(HEV、注1)、バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV、注2)、燃料電池車(FCEV)、圧縮天然ガス車(CNG)を含む。
内訳をみると、中でもHEVが前年比17.0%増。全カテゴリーで一番大きく伸び、8万台を超えた。シェアも33.6%まで拡大した。
他方、2023年に31.3%増と躍進したBEVは12.5%減の4万6,141台に後退した。シェアも2割を切った。BEVにPHEVの2万801台を加えた合計シェアは27.9%で、前年の3割超えから後退した(表2、図1参照)。
スイス連邦政府の「Eモビリティーロードマップ2025」では、2025年までにBEVとPHEVの合計シェアを50%まで引き上げる目標を設定していた。しかし、その目標達成は一層困難な状況となった。
カテゴリー | 台数 | シェア(%) | 前年比(%) |
---|---|---|---|
ガソリン車 | 69,527 | 29.0 | △ 17.1 |
ディーゼル車 | 22,530 | 9.4 | △ 4.1 |
代替燃料車 | 147,478 | 61.6 | 1.8 |
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80,513 | 33.6 | 17.0 |
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46,141 | 19.3 | △ 12.5 |
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20,801 | 8.7 | △ 10.4 |
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12 | 0.005 | △ 55.6 |
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4 | 0.002 | △ 89.7 |
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7 | 0.003 | 40.0 |
注:マイルドハイブリッド車を含む。
出所:オートスイス発表データを基にジェトロ作成

出所:オートスイス発表データを基にジェトロ作成
テスラ「モデルY」が車種別首位を維持
2024年の車種別乗用車新規登録台数の上位10車種をみると、首位は前年に引き続きテスラの「モデルY」(6,600台)だった。前年の6,173台からさらに6.9%増になった。
シュコダの「オクタビア」(5,405台)が第2位、VW「ティグアン」(4,725台)が前年の第5位から第3位へと浮上した。これに、メルセデス・ベンツ「GLC」クラス(4,353台)、BMW「X1」(4,264台)が続いた(表3参照)。
順位 | 車種 | 台数 |
---|---|---|
1 | テスラ 「モデルY」 | 6,600 |
2 | シュコダ 「オクタビア」 | 5,405 |
3 | VW 「ティグアン」 | 4,725 |
4 | メルセデス・ベンツ 「GLC」クラス | 4,353 |
5 | BMW 「X1」 | 4,264 |
6 | アウディ 「Q3」 | 3,899 |
7 | シュコダ 「カロック」 | 3,583 |
8 | シュコダ 「コディアック」 | 3,437 |
9 | トヨタ 「ヤリス」 | 3,436 |
10 | VW 「ゴルフ」 | 3,256 |
注:2025年1月2日時点データ。
出所:オートスイス発表データを基にジェトロ作成
BEVに限って上位10車種をみると、テスラの「モデルY」が引き続き首位。シュコダの「エンヤック」も第2位を維持したが、前年比37.8%減の3,201台と大きく後退した。第3位に浮上したボルボの「EX30」は、前年の4台から大きく躍進した。アウディの「Q4」、テスラの「モデル3」、VWの「ID.3」、現代の「アイオニック5」、BMWの「lx1」が続いた(表4参照)。
順位 | 車種 | 台数 |
---|---|---|
1 | テスラ 「モデルY」 | 6,547 |
2 | シュコダ 「エンヤック」 | 3,201 |
3 | ボルボ 「EX30」 | 3,003 |
4 | アウディ 「Q4」 | 2,688 |
5 | テスラ 「モデル3」 | 1,879 |
6 | VW 「ID.3」 | 1,785 |
7 | 現代 「アイオニック5」 | 1,695 |
8 | BMW 「Ix1」 | 1,348 |
9 | VW 「ID.4」 | 975 |
10 | メルセデス・ベンツ 「EQA」 | 964 |
注:2024年12月31日時点データ。
出所:オートスイス発表データを基にジェトロ作成
CO2排出量規制の強化と米国の関税措置により、2025年は減速の兆し
オートスイスは2025年1月の時点でCO2法の2025年の適用内容が不明確で、第2四半期になって初めて1月から従うべきルールが示されるような、遡及適用の実施には断固として反対する姿勢を示していた。そうした状況の中、連邦参事会はCO2法に関する改正政令を2025年4月2日に施行し、1月1日にさかのぼって適用されることになった。乗用車などの国際調和排出ガス・燃費試験法(WLTP)に基づき、スイスで初めて登録される乗用車に対して、2021年以降、1キロ走行当たり平均118グラムに制限されていたCO2排出量を、2025年から93.6グラム、2030年からは49.5グラムに削減する改正を行った。また、1キロ走行当たりCO2排出量を186グラムに制限されていた新規登録の小型商用車については、2025年からは153.9グラム、2030年からは90.6グラムに削減されることになった。
オートスイスは2025年5月2日、同年1~4月の乗用車の新規登録台数を7万1,354台と発表した。前年同期は7万7,264台。そこから7.6%減少したことになる〔オートスイスウェブサイト参照(フランス語))〕。オートスイスはこの結果について、「自動車産業界に対する構造的な圧力が、依然として高い」と指摘している。具体的には、(1) CO2目標の厳格化、(2)経済状況の悪化、(3) EVの普及に向けた連邦政府の経済的インセンティブの欠如が購入者とディーラーの双方に大きな不確実性を生み出し続けているとした。
また、4月24日に発表した2025年1~3月の商用車の新規商用車の登録台数は8,813台、前年同期比で17.8%減だった〔オートスイスウェブサイト参照(フランス語)〕。オートスイスは、米国の関税措置に関する一連のニュースが企業に大きな不安を引き起こしており、企業はそのため、車両の更新など大規模な投資を延期していると説明した。このことが、全ての車種に影響を及ぼしており、特にキャンピングカーの新規登録台数は3分の1以上減少した。
EV充電ステーション数は1万5,819箇所まで増加
一方、BEVやPHEVの普及には欠かせない充電施設は、ある程度充実してきた。ここで、連邦エネルギー局のウェブサイトで、2025年4月時点までの推移を確認しておく。EV公共充電スポット数と同ステーション数は、それぞれ7,381カ所、1万6,123カ所まで増えた(図2参照)。
しかし、これでも十分とは言えない。スイス連邦政府の「Eモビリティーロードマップ2025」では、2025年までにEV公共充電ステーション数を2万カ所に拡充する目標を掲げていた。この1年間で2,779カ所増えたとはいえ、このペースでは2025年に2万カ所に達するのは難しい見通しだ。
この状況下、連邦政府は2024年9月3日、ロードマップを2030年まで延長する方針を発表。2026年からの「Eモビリティーロードマップ2030」の主要目標設定に向けて、準備と協議が進んでいる。新ロードマップでは、定量的な目標ではなく、テーマ領域3つ(車両、充電、電力供給)ごとに、具体的な課題の克服に重点を置く構えだ。
(2020年11月~2025年4月)

注:EV充電スポット(location)には、複数のEV充電ステーション(Charging stations)が含まれる。
出所:スイス連邦エネルギー局SEOE発表データを基にジェトロ作成
充電能力別に2025年4月時点でみると、21~42キロワット(kW)未満の急速充電が可能な充電器が2022年に入ってから大幅に増加し、全体の56.1%を占めた。そこに、10kW未満の普通充電器が14.4%で続くが、微増傾向から2024年10月に減少、その後横ばいから2025年4月に再び減少した。続く10~21kW未満が12.1%で、10kW未満と同様の傾向がみられる。42~100kWと100kW超の急速充電器は2024年10月以降に増加傾向が強まり、それぞれ9.0%、8.3%だった。
(2020年11月~2025年4月)

出所:スイス連邦エネルギー局SFOE発表データを基にジェトロ作成
充電方式では、タイプ2ソケットが6割近く
また、スイス連邦エネルギー局の2025年4月時点のデータで、充電方式の分布をみると、22kWまでの普通充電ができる欧州規格「タイプ2ソケット」のシェアが56.9%で、増加傾向にある。50kW以上の急速充電が可能な欧州規格「CCS(コンボ2)」のシェアが13.4%に増加。続く、「タイプ2ケーブル」のシェアが12.4%、「タイプ1ケーブル」が8.9%となり、いずれも減少傾向にある。このほか、日本発の規格「CHAdeMO」が4.1%、「テスラ」が2.2%、自宅コンセントが2.1%だった。

出所:スイス連邦エネルギー局SFOE発表データを基にジェトロ作成
- 注1:
- HEVは、外部電源から充電できない。統計には、マイルドハイブリッド車(MHEV)を含む。
- 注2:
- PHEVは外部電源からの充電が可能。統計にはレンジエクステンダー(REX)を含む。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ジュネーブ事務所長
田中 晋(たなか すすむ) - 1990年、ジェトロ入構。ジェトロ・パリ事務所、ジェトロ・ブリュッセル事務所次長、欧州課長、欧州ロシアCIS課長、調査部主任調査研究員などを経て現職。著書は「欧州経済の基礎知識」(編著)など。