新車・中古車登録台数は増加するも、生産台数減(ハンガリー)

2025年7月3日

ハンガリーの乗用車(新車)新規登録台数は2024年、前年比で12.9%増、なかでも、電気自動車(EV、注)は47.7%増と伸びた。中古乗用車の新規登録も5.0%増だった。

一方、国内に工場を擁する大手自動車メーカー3社を合計した生産台数は減少。前年比14.6%減だった。

新車登録台数が再び拡大、モデル別上位を日系が維持

データハウス(ハンガリーの民間調査会社)によると、2024年の乗用車新車登録台数は12万1,607台。前年の10万7,748台を12.9%上回った。ハンガリー自動車輸入業者協会(MGE)によると、2024年のハンガリー乗用車市場の拡大は、新車市場の回復を示す。サプライチェーンの改善と金利の低下による結果という。

乗用車の新車登録台数をメーカー・ブランド別にみると(表1参照)、ハンガリーに生産拠点を構えるスズキが2年ぶりに首位に返り咲いた(1万5,732台、前年比29.3%増)。2位は前年トップのトヨタ(1万4,622台、2.8%増)、3位はシュコダ(1万1,310台、3.6%増)だった。

表1:ハンガリーでの新車登録台数(メーカー・ブランド別、2024年)(単位:台数、%)(△はマイナス値)
順位 メーカー・ブランド 台数 シェア 前年比
1 スズキ 15,732 12.9 29.3
2 トヨタ 14,622 12.0 2.8
3 シュコダ 11,310 9.3 3.6
4 フォルクスワーゲン(VW) 8,580 7.1 △2.7
5 フォード 6,794 5.6 14.2
6 起亜 6,673 5.5 1.2
7 BMW 5,784 4.8 10.3
8 日産 5,705 4.7 126.4
9 メルセデス・ベンツ 5,207 4.3 12.6
10 現代 4,905 4.0 47.8
合計 (その他含む) 121,607 100.0 12.9

出所:データハウスの資料を基にジェトロ作成

新車登録台数をモデル別にみると、首位はスズキ「ビターラ」の6,883台。前年の3位から躍進した。2位は、前年首位だったスズキの「S-Cross」6,607台。3位はシュコダ「オクタビア」6,097台だった。

スズキ以外の日系メーカーでは、日産の「キャシュカイ」が3,423台で4位。トヨタの3モデルもトップ10入りした(「カローラ」が6位3,126台、「C-HR」8位2,388台、「ヤリス クロス」9位2,182台)。トップ10モデルのうち6つが日系で、その人気ぶりが分かる。

新車登録台数が2年連続で中古車登録台数を上回る

2024年の乗用車の中古車登録台数は11万956台。2023年の10万5,662台(2024年7月2日付地域・分析レポート参照)から5.0%増加した(図参照)。新車登録台数が前年に引き続き、中古車登録台数を上回った。このことについて、MGEは「ハンガリーでは車齢の高い自動車が多く、平均で16年近くに上る。そのことを考慮すると、特にポジティブな進展」と指摘した。

図 :乗用車登録台数の推移(新車、中古車)
新車は、2012年5万3,059台、2013年5万6,139台、2014年6万7,476台、2015年7万7,171台、2016年9万6,555台、2017年11万6,265台、2018年13万6,601台、2019年15万7,906台、2020年12万8,030台、2021年12万1,920台、2022年11万1,540台、2023年10万7,748台、2024年12万1,607台。中古車は2012年5万3,533台、2013年7万700台、2014年9万6,747台、2015年12万2,620台、2016年14万2,002台、2017年15万5,414台、2018年15万8,790台、2019年15万6,475台、2020年13万430台、2021年13万2,205台、2022年12万6,095台、2023年10万5,669台、2024年11万956台。

出所:データハウスの資料を基にジェトロ作成

中古乗用車の新規登録台数をメーカー・ブランド別にみると、2024年もフォルクスワーゲン(VW、1万3,782台、前年比0.6%増)が首位を堅持した(表2参照)。前年2位のフォード(9,769台、2.9%増)と3位オペル(9,627台、3.7%増)も、前年の順位を維持した。

表2:メーカー・ブランド別の中古車登録台数(上位10メーカー・ブランド、2024年) (単位:台、%)(△はマイナス値)
順位 ブランド 台数 シェア 前年比
1 フォルクスワーゲン(VW) 13,782 12.4 0.6
2 フォード 9,769 8.8 2.9
3 オペル 9,627 8.7 3.7
4 アウディ 7,506 6.8 2.9
5 トヨタ 6,164 5.6 15.3
6 BMW 6,112 5.5 2.9
7 メルセデス・ベンツ 6,019 5.4 △4.9
8 現代 5,382 4.9 14.5
9 起亜 4,123 3.7 8.0
10 シュコダ 3,850 3.5 19.1
合計 (その他含む) 110,956 100.0 5.0

出所:データハウスの資料を基にジェトロ作成

EVの販売は政府の支援で好調を維持

欧州自動車工業会(ACEA)によると2024年、バッテリー式電気自動車(BEV)の乗用車新車登録台数は8,565台。前年比47.7%増だった。一方、プラグインハイブリッド車(PHEV)は5,695台、同2.8%増にとどまった(表3参照)。

MGEによると、BEVの突出した増加には、(1)企業がBEVを購入する上で、政府が講じた新規補助金(2024年1月16日付ビジネス短信参照)と、(2)企業が市場に投入したモデル数増が一役買っている。

またBEVは乗用車新車登録台数の7%を占めるに至ったことになる。この構成比についてMGEは、「欧州の中ではいまだに低い水準とは言え、中・東欧地域では平均的」と評価した。

またMGEは、2025年のBEV販売の伸びを「最低限(約5%増程度)」と見通した。もっとも、「さらに成長し続ける」とも評している。

表3:ハンガリーでのEVの新車登録台数の推移(2020~2024年) (単位:台、%)(△はマイナス値)
EVの種類 2020年 前年比 2021年 前年比 2022年 前年比 2023年 前年比 2024年 前年比
充電可能なEVの合計 6,042 105.6 8,548 41.5 9,585 12.1 11,341 18.3 14,260 25.7
階層レベル2の項目バッテリー式電気自動車(BEV) 3,046 66.2 4,312 41.6 4,709 9.2 5,799 23.1 8,565 47.7
階層レベル2の項目プラグインハイブリッド車(PHEV、注1) 2,996 170.9 4,236 41.4 4,876 15.1 5,542 13.7 5,695 2.8
ハイブリッド車(HEV、注2) 31,772 246.5 48,145 51.5 42,498 △ 11.7 45,022 5.9 56,034 24.5
EV合計 37,814 212.3 56,693 49.9 52,083 △ 8.1 56,363 8.2 70,294 24.7

注1:レンジエクステンダー自動車(EREV)を含む。EREVとは、エンジンを走行用ではなく発電用に搭載しているPHEV。走行には電気モーターを利用する。通常のPHEVより、航続距離が長くなる。
注2:マイルドハイブリッド車(MHEV)を含む。
出所:ACEAの資料を基にジェトロ作成

EVの新車登録台数をモデル別にみると、テスラの「モデルY」が首位、「モデル3」が2位。同社のモデルが最も人気を博したことがわかる(表4参照)。

また、BYDの4モデルがトップ10に入った。「ATTO 3」が569台で4位、「シール」355台6位、「ドルフィン」314台7位、「シールU」186台9位だった。なお同社は当地で、2023年10月からディーラーを設けている。

表4:モデル別EV新車登録台数(上位10モデル、2024年)(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 モデル 台数 前年比
1 テスラ・モデルY 1,163 38.6
2 テスラ・モデル3 808 113.2
3 ボルボ・EX30 673
4 BYD・ATTO 3 569
5 日産・リーフ 377 158.2
6 BYD・シール 355
7 BYD・ドルフィン 314
8 現代・コナ 292 172.9
9 BYD・シールU 186
10 BMW・ix3 177 △23.4

注:前年比が空欄になっているモデルは、2024年にハンガリー市場に投入された。
出所:「ベゼシュ」ニュース(vezess.hu)の2025年1月3日付記事 「Kiderült, melyek voltak 2024 legnépszerűbb új villanyautói Magyarországon」を基にジェトロ作成

ホルバート・コンサルティングは最近、EV購入に関して調査を実施した。この調査によると、ハンガリーで新車購入を予定者の61%がBEVの購入を検討している。この割合はスイスやドイツ、オランダよりも高い。また、ハンガリー人は欧州の中で最も中国ブランドにオープンで、同調査対象者の69%が中国車(特にBYD)の購入を検討すると回答している(欧州の平均は50%)。

乗用車生産台数は前年比2桁減

自動車生産は依然としてハンガリー産業の重要な柱だ(輸送機器の生産額は製造業全体の約4分の1を占める)。しかし、2024年の乗用車生産台数は前年比で減少。欧州の自動車メーカーが直面している広範な課題〔需要の減少、人件費とエネルギーコストの高騰、サプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性など〕を反映している。

ACEAによると、2024年のハンガリーでの乗用車生産台数は43万5,541台。前年の50万8,734台を14.4%下回った。また、新型コロナ禍前の水準(2019年:52万4,348台)よりさらに減少したかたちだ。

当地乗用車メーカー3社の生産台数をみると、アウディが17万9,710台で前年に続き首位(前年比1.1%増)。メルセデス・ベンツが2位、マジャールスズキ3位と続く(それぞれ16.1%減、30.5%減)。3メーカーのうち、前年の生産台数を上回ったのはアウディだけだった(表5参照)。

表5:メーカー・ブランド・モデル別生産台数(2020~2024年)(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
車種・モデル 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 前年比
アウディ・ハンガリア  155,157 171,015 171,134 177,775 179,710 1.1
階層レベル2の項目Q3 94,659 102,833 98,665 94,283 99,288 5.3
階層レベル2の項目Q3 スポーツバック 47,232 59,693 64,343 73,806 63,759 △13.6
階層レベル2の項目TT クーペ 6,793 6,534 6,291 6,850 (生産なし)
階層レベル2の項目TT ロードスター 1,853 1,955 1,835 2,681 (生産なし)
階層レベル2の項目A3 カブリオレ 4,620 (生産なし) (生産なし) (生産なし) (生産なし)
階層レベル2の項目A3 リムジン (生産なし) (生産なし) (生産なし) (生産なし) (生産なし)
階層レベル2の項目クプラ・テラマー (生産なし) (生産なし) (生産なし) (生産なし) 16,663
メルセデス・ベンツ
(CLAクーペ、CLAシューティングブレーク、Aクラス、EQB、AMG )(注1)
160,000 138,000 152,000 174,000 146,000 △16.1
マジャールスズキ 112,475 107,974 129,022 160,338 111,492 △30.5
階層レベル2の項目S-Cross 33,120 32,713 47,873 73,046 47,530 △34.9
階層レベル2の項目ビターラ 79,355 75,261 81,149 87,292 63,962 △26.7
合計(注2) 427,632 416,989 452,156 512,113 437,202 △14.6

注1:メルセデス・ベンツの生産台数は概数。
注2:「合計」は各社発表の生産台数の合計であるため、ACEAの発表とは一致しない。これに伴い、前年比もACEA発表と一致しない。
出所:各社発表からジェトロ作成

生産拠点新設・拡張で、年間100万台超生産へ

徐々にEV生産への移行が進む中、EV分野への投資が継続。重要な生産拠点の1つになると予想される。

まず、ハンガリーに生産拠点を持つ主要メーカーについては、以下のとおりだ。

  • マジャールスズキ
    欧州市場向けには、2020年からハイブリッド車(HEV)だけを生産している。
    2024年には、ハンガリー北部のエステルゴム(Esztergom)工場における技術や設備の改良、自動化、脱炭素化などに焦点を当て、大規模に投資した。また、2024年2月からは、同工場敷地内で自社の太陽光発電所による電力生産を開始。持続可能な運営に向け、大きな一歩になった。

当地に生産拠点を置くドイツメーカーは、徐々にEVシフトを進めている。

  • アウディ・ハンガリア
    同社のジェール工場は、VWグループ最大の駆動装置・エンジン生産拠点に当たる(2022年4月1日付ビジネス短信参照)。
    2024年には158万991基の駆動装置・エンジンを生産。そのうち15万1,899基が電動車用駆動装置だった(前年の11万4,058基に比べ33.2%増)。
    完成車については、2024年の全生産台数17万9,710台のうち、電気自動車〔PHEVおよびマイルドハイブリッド(MHEV)モデルの「Q3」「Q3スポーツバック」〕が1万7,269台で全体の約9.6%を占めた。
    同社は2024年、3億4,000万ユーロを開発に投じた。新しい電動パワートレインや「Q3」新モデルの量産に向け準備するのが、主な狙いだ。
    また、オール・エレクトリック(完全電動式)・モデルを2029年に生産開始する予定になっている。
  • メルセデス・ベンツ
    同社の2024年の生産台数は14万6,000台。前年17万4,000台から16.1%減少した。その要因は、市場環境や競争など、外的な課題だけではない。新モデルの生産準備のために同社ケチケメート工場を大幅に改造したことも影響した。
    同工場は、同社にとって欧州で2番目に大きな生産拠点だ。現在進行中の拡張により、年間生産能力を40万台に倍増。2026年半ばに量産ラインを稼働する計画になっている。なお、ドイツの現地新聞「シュトゥットガルター・ツァイトゥング」紙は、「ドイツよりもコストが70%安価なハンガリーに生産の一部をシフトすると、同社幹部が言及した」と報じた。

このほか、今後当地での生産を予定する企業にも、動きがある。

  • BMW
    同社は、ハンガリー東部のデブレツェン市に新工場を建設中。
    当該工場では、2025年の秋から、完全電動式の新モデル(ノイエ・クラッセ)を生産する予定。年間15万台の完成車生産能力に加え、同敷地内にバッテリー組立ラインを併設する。
    また、次世代EV「ノイエ・クラッセX」のプロトタイプの生産を2024年11月に開始した。

言及したドイツメーカー3社は、eモビリティー戦略の重要な部分をハンガリーに置く。なお、同3社がそろって生産拠点を構えている国は、ドイツのほか、中国とハンガリーだけだ。

また、中国系メーカーについては、次のとおりだ。

  • 比亜迪(BYD)
    EV大手として知られる同社は2023年12月、ハンガリー南東部の都市セゲドにEV組立工場を建設すると発表した。そうした工場は、同社として欧州初になる(2024年1月4日付ビジネス短信参照)。
    生産開始は2025年末(早くて10月)の予定になっている。新工場で当初の年間生産能力は、15万台。のちに30万台まで引き上げる計画だ。
    さらに同社は2025年5月、首都ブダペストに欧州統括本部と研究開発拠点を設立する計画を発表した。そのため、約1,000億フォリント〔約420億円、1フォリント=約0.42円(6月16日ハンガリー国立銀行為替レート)〕を投じるという(2025年5月20日付ビジネス短信参照)。

ハンガリー政府の試算によると、これら自動車メーカーの投資により、同国の乗用車生産能力は近い将来、年間100万台を超える。


注:
本稿で、EVは(1)バッテリー式電気自動車(BEV)、(2)プラグインハイブリッド車(PHEV)、(3)ハイブリッド車(HEV)のいずれかを指す。
執筆者紹介
ジェトロ・ブダペスト事務所
バラジ・ラウラ
2000年よりジェトロ・ブダペスト事務所に勤務、ハンガリー国内の市場調査を担当。英語、数学の修士号のほか、日本語検定1級、経済貿易大学の学士を有する。