ウクライナ西部の産業拠点、リビウの主要工業団地

2025年6月10日

ウクライナ西部の都市リビウは、ポーランド国境から約60キロに位置し、中・東欧のEU加盟国に近接する地理的優位性を有している。積極的なインフラ整備支援、工業団地の整備といった取り組みが加速し、ウクライナ西部地域の産業クラスター形成が期待されている。さらに、リビウはロシアとの激しい戦闘が行われる東部戦線から離れた比較的安全な地域とされており、企業や投資家にとってリスク分散の観点から、近年、産業投資の新たな拠点として注目を集める(図参照)。

図:リビウ周辺の幹線道路地図
リビウの場所と輸送インフラ。EUとのボーダーから60キロの地点にあり、国際輸送路の交差する場所に位置する。道路インフラが発展している。ウクライナで2番目に大きいリビウ国際空港がある。リビウのインフラプロジェクト。リビウの北部環状道路の建設。汎欧州運輸ネットワークの主要なハブとしての開発。ポーランドの国境から欧州規格ゲージの鉄道敷設計画(2025年)。EUコネクティング・ヨーロッパ・ファシリティのプログラムによる、EUとの国境インフラの近代化(2023年以降)。

提供:リビウ投資局

ロシアとの停戦が見通せない段階からウクライナで復興への取り組みが進む状況下で、西部に位置するリビウは、EU加盟国とウクライナをつなぐ「中継地」として戦略的な役割が見込まれ、その分野は建材や重機、物流、サービス産業など多岐にわたる。実際、当地にはドイツのレオーニ(LEONI)や、日本のフジクラなどが自動車部品製造を継続し、欧州の自動車メーカー(EU)向けに製品を供給している。

リビウ市政府は複数の工業団地を整備・拡張するなどし、国内外の企業誘致に積極的に取り組んでいる。今回、同市の投資誘致機関のリビウ投資局(Invest in Lviv外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によるアレンジにより、ジェトロが視察した市内の代表的な工業団地を3つ紹介する。

1. フォルマツィア・リビウ工業団地(Formatsia. Lviv)

総面積約30ヘクタール、総建設面積は約15万平方メートル(生産、倉庫、オフィス用スペース)を予定する。この工業団地は、リビウ市が主導し、リビウ投資局が監督、アルテッラ・グループ(Alterra Group)が建設や運営を担当する。工業団地全体では、3,600人の新規雇用を見込む。

第1期では5棟(総面積3万6,990平方メートル)の施設が完成し、大規模製造業者(最大2万平方メートル)から小規模企業(200平方メートル以上)まで入居可能な柔軟な区画設計が特徴。敷地内にはスーパーマーケット、レクリエーションエリア、ジム、医療センターなどを併設し、拡張計画が進行中。

入居企業例

  • USPパネル
    2025年1月、屋根・壁用サンドイッチパネルなどの建材を製造し、USPブランドで事業を展開するUSPパネルが最初の入居企業として認定された。2025年夏に生産開始予定。
  • ポジュマシナ(Pozhmashina)
    ウクライナ最大の消防機器製造業者で、消防・救助車両、農業機械、地雷除去機器を製造する。2025年1月31日に新工場建設契約を締結し、建設期間は2年間を想定する。投資額は1,500万ドル。敷地面積は1万3,000平方メートル。

造成工事が進むフォルマツィア・リビウ工業団地(ジェトロ撮影)

2. スパローパーク・リビウ工業団地(Sparrow Park Lviv)

総面積は約19ヘクタール。E40欧州幹線道路に近接し、ポーランド、ハンガリー、スロバキアへの交通アクセスが良好。リビウ国際空港まで約7キロに位置し、鉄道の支線接続の許可は取得済み。また、将来的な計画が予定される鉄道輸送ターミナル建設予定地に近接。工業団地内にガントリークレーンや倉庫を備えた4ヘクタールに及ぶ物流インフラ整備が計画されている。開発・運営はスパロー・キャピタルが担当する。

工業団地内には、約600人を収容可能で強固なシェルターを備え、万全の安全対策を誇る。既に第3フェーズまでの建設が完了し、全ての建屋にテナントが入居し、稼働している。現在は第4フェーズ(倉庫、事務・設備ビル、変電所)の立ち上げ準備が進む。


スパローパーク・リビウ工業団地(ジェトロ撮影)

スパローパーク・リビウ工業団地のシェルター(ジェトロ撮影)

3. M10リビウ工業団地(M10 Industrial Park)

リビウ市にあるM10幹線道路に沿って所在することが名称の由来。この工業団地は同市西部、ポーランドとの国境から60キロ、リビウ中心地から9キロの場所に位置する。総面積は23.5ヘクタール、14万平方メートルに及ぶ製造・倉庫施設用の敷地がある。工業団地全体では、約3,000人以上の新規雇用創出効果が見込まれている。

M10リビウ工業団地はドラゴンキャピタルが開発を主導し、欧州復興開発銀行(EBRD)が最大35%の出資を行う計画となっている。2023年9月、世界銀行グループの多国間投資保証機関(MIGA)が戦争や内乱のリスクに対し、最大10年間、910万ドルの保証を提供した。

第1フェーズとして、2024年5月7日に1万4,400平方メートルの倉庫がオープンした。ウクライナの小売業者オーロラ・マルチマーケット(Aurora Multimarket)が入居し、倉庫(配送・物流センター)として活用している。


M10リビウ工業団地(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・ワルシャワ事務所次長
余田 知弘(よでん ともひろ)
貿易開発部、海外調査部、大阪本部、ルーマニア・ブカレスト事務所、イスラエル・テルアビブ事務所等を経て、2024年9月より現職。ワルシャワを拠点に、ポーランド、ウクライナ、バルト三国を担当。