2024年の自動車産業は輸出が牽引するも、販売・生産は低迷(韓国)

2025年4月23日

韓国自動車モビリティー産業協会(KAMA)が発表した自動車産業統計によると、2024年の国内生産台数は、約413万台(前年比2.7%減)。2年連続で400万台を超えたものの、3年ぶりに減少した。

このうち輸出は約278万台で、微増にせよ伸びた(0.6%増)。一方、国内販売(輸入車を除く)は内需不振により低迷。約136万台(6.4%減)に終わった。

輸出が牽引するも、需要不振で生産・国内販売が減少

2024年の国内生産は、2023年に続き400万台を維持した。しかし、内需不振により前年を下回った(2.7%減)。韓国の産業通商資源部によると、国内生産車に占める輸出の構成比は、約67%だった。

輸出が自動車生産を牽引したとは言え、伸び悩んだ面もある。これは、世界的に(1)電気自動車(EV)需要が低迷したこと、(2)高金利が続いたこと、(3)中国など新興自動車メーカーとの競争が激化したこと、などが要因だ。

生産台数をメーカー別にみると、現代自動車(最大手)と起亜(現代自動車グループ傘下)が、ともに前年割れした(それぞれ、前年比4.6%減、3.6%減)。この2社は国内生産シェアが高いため(82.5%)、その生産減が全体に大きく響いた(表1参照)。

表1:メーカー別・部門別国内生産台数の推移 (単位:台、%)(△はマイナス値)

メーカー別
項目 2022年
台数
2023年
台数
2024年
台数 前年比
現代自動車 1,732,317 1,946,447 1,857,856 △ 4.6
起亜 1,472,963 1,606,253 1,548,219 △ 3.6
韓国GM 258,260 464,648 494,072 6.3
KGモビリティー 115,329 119,980 108,526 △ 9.5
ルノーコリア 168,478 97,756 111,577 14.1
その他 9,702 8,513 7,992 △ 6.1
合計 3,757,049 4,243,597 4,128,242 △ 2.7
部門別
項目 2022年
台数
2023年
台数
2024年
台数 前年比
乗用車 3,438,355 3,908,747 3,849,326 △ 1.5
トラック 235,030 237,660 177,736 △ 25.2
バス 66,886 80,009 83,851 4.8
特装車 16,778 17,181 17,329 0.9
合計 3,757,049 4,243,597 4,128,242 △ 2.7

出所:韓国自動車モビリティー産業協会(KAMA)

国内販売は、136万4,750台(前年比6.4%減)。1年でマイナスに転じたかたちだ(表2参照)。(1)韓国で金利が高止まりしていること(注1)、(2)家計負債の増加で消費マインドが低下していること、(3)国内でEVの火災事故が相次いで起きたことや、(4)EV購入補助金が縮小された(注2)こと、などが影響した。

メーカー別にみると、国内生産台数と同様、現代自動車と起亜はそれぞれ前年比7.4%減、4.2%減だった。ただし、現代自動車は2024年、売上高で過去最高を記録した。国内販売台数こそ減少したものの、SUVや高級モデルの販売増、北米市場での販売増などが業績を押し上げた(2025年2月5日付ビジネス短信参照)。

国内販売台数が前年比で増加したのは、ルノーコリアだけだった。これには、2024年9月に中型多目的スポーツ車(SUV)「グランコレオス」の販売を開始し、2万台以上売り上げたことが大きく貢献した。

なお、産業通商資源部によると2024年、モデル別販売台数は多い順に(1)「ソレント」(起亜)、(2)「カーニバル」(起亜)、(3)「サンタフェ」(現代自動車)の順だった、このすべてがSUVだ。上位10モデルでも、そのうち6つがSUVになっている。昨今のSUV人気がうかがえる。

表2:メーカー別・部門別国内販売台数の推移 (単位:台、%)(△はマイナス値)

メーカー別
項目 2022年
台数
2023年
台数
2024年
台数 前年比
現代自動車 688,743 762,073 705,319 △ 7.4
起亜 541,068 565,826 542,139 △ 4.2
KGモビリティー 68,666 63,345 47,046 △ 25.7
ルノーコリア 52,621 22,048 39,816 80.6
韓国GM 37,239 38,755 24,824 △ 35.9
その他 6,774 5,735 5,606 △ 2.2
合計 1,395,111 1,457,782 1,364,750 △ 6.4
部門別
項目 2022年
台数
2023年
台数
2024年
台数 前年比
乗用車 1,164,925 1,222,988 1,176,485 △ 3.8
トラック 171,446 165,405 121,451 △ 26.6
バス 40,513 48,601 51,007 5.0
特装車 18,227 20,788 15,807 △ 24.0
合計 1,395,111 1,457,782 1,364,750 △ 6.4

注:輸入車は含まない。
出所:韓国自動車モビリティー産業協会(KAMA)

輸出台数は278万2,612台と、4年連続で増加。2015年(約297万台)以降で最も多かった(表3参照)。国内販売が低調な中、輸出がそれを補うかたちで自動車産業を下支えした。

現代自動車は、SUVやハイブリッド車(HEV)の北米や東欧への輸出が好調で、前年比1.9%増と伸びた。他方で、グループ傘下の起亜は、国内工場の工事による生産休止などが影響し、4.0%減となった。

地域別には、北米向け(従前から最大の輸出先)が増加(8.9%増)した。一方、他の地域は全て前年比減になった。北米では、(1)下半期に金利引き下げがあって消費マインドの回復したこと、(2)エコカーが市場拡大したこと、などによって、特に現代自動車と起亜が大きく台数を伸ばした。

2024年の輸出金額は、708億ドル。2年連続で700億ドルを超えた。2023年の709億ドルに次ぎ、史上2番目に多かった。産業通商資源部は、「世界的にEV成長率が鈍化しているにもかかわらず、HEVの高成長を追い風に、エコカー輸出が好調を維持した」と評した。

表3:メーカー別・地域別輸出の推移(単位:台、%)(△はマイナス値)

メーカー別
メーカー 2022年
台数
2023年
台数
2024年
台数 前年比
現代自動車 1,009,025 1,150,268 1,172,633 1.9
起亜 899,048 1,046,850 1,005,155 △ 4.0
韓国GM 227,637 430,881 473,165 9.8
ルノーコリア 117,020 82,228 67,123 △ 18.4
KGモビリティー 44,994 52,574 62,318 18.5
その他 2,609 3,470 2,218 △ 36.1
合計 2,300,333 2,766,271 2,782,612 0.6
部門別
地域 2022年
台数
2023年
台数
2024年
台数 前年比
北米 1,110,756 1,549,164 1,686,517 8.9
欧州 573,614 602,106 514,107 △ 14.6
中東 213,269 219,933 219,560 △ 0.2
大洋州 187,603 187,188 174,867 △ 6.6
中南米 129,062 124,080 122,292 △ 1.4
アジア 35,241 42,576 36,096 △ 15.2
アフリカ 50,788 41,224 29,173 △ 29.2
合計 2,300,333 2,766,271 2,782,612 0.6

出所:韓国自動車モビリティー産業協会(KAMA)

現代自動車、起亜とも拠点戦略の転換を模索

海外生産は、364万5,021台。前年比0.9%減だった(表4参照)。

メーカー別には、次の通り。

現代自動車

2024年は、216万7,963台だった(3.4%減)。特に中国の景気減退や韓国車の販売不振により、中国工場の生産が大きく減少(前年比31.0%減)したのが響いた。

現代自動車はかねて、中国市場で事業を縮小する動きをみせていた。例えば、2023年に重慶工場を売却していた。もっとも、2024年12月には、同社の中国法人に追加投資すると発表した。このように、世界的に通商環境の不確実性が増す中で、中国市場を改めて捉え直す動きもある。

米国では、2025年から2028年までの4年間にわたり、210億ドルを投じると発表している(2025年3月31日付ビジネス短信参照)。ジョージア州の「メタプラント・アメリカ(HMGMA)」の生産能力を年産30万台から50万台に拡大する。米国トランプ政権の関税政策に対応する動きとみられる。

インド市場では、マルチ・スズキに次ぐ第2位のシェアを堅持している。2024年10月には、現代自動車のインド法人が現地証券取引所に上場した。こうしたことから今後、インド拠点が戦略的な輸出ハブになり、生産台数増が予想される。なお、今回の上場による公募金額は、インド証券市場で史上最大規模の新規株式公開(IPO)になった(2024年10月30日付ビジネス短信参照)。

起亜

2024年の海外生産台数は、全体として微増だった(前年比2.9%増)。

中国では現代自動車と対照的に、前年比58.8%増と急増した。確かに、中国市場での販売は不振が続く。しかし、中国生産車を中東や南米など向けの輸出拠点に転換することで、台数を伸ばしている。

メキシコ工場は、米国向け輸出拠点としての意味合いが強い。その前提にあったのが、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)活用だ。もっとも、USMCAの規定は米国トランプ政権の関税政策によって覆りかねない。起亜のメキシコ工場も、中国工場同様に戦略転換を強いられる可能性があるだろう。

表4:2大メーカーの海外生産台数の推移(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
メーカー・国名 2022年
台数
2023年
台数
2024年
台数 前年比
現代自動車 2,160,429 2,243,944 2,167,963 △ 3.4
階層レベル2の項目インド 706,000 765,000 767,000 0.3
階層レベル2の項目米国 332,900 369,000 361,632 △ 2.0
階層レベル2の項目チェコ 322,500 340,500 330,890 △ 2.8
階層レベル2の項目トルコ 208,100 242,100 245,000 1.2
階層レベル2の項目中国 256,563 242,869 167,509 △ 31.0
階層レベル2の項目ブラジル 209,045 204,300 209,538 2.6
階層レベル2の項目インドネシア 82,500 79,580 85,750 7.8
階層レベル2の項目シンガポール 595 644 8.2
階層レベル2の項目ロシア 42,821
起亜 1,414,367 1,435,762 1,477,058 2.9
階層レベル2の項目米国 340,000 358,000 354,100 △ 1.1
階層レベル2の項目スロバキア 311,000 350,224 351,270 0.3
階層レベル2の項目インド 342,597 319,878 268,096 △ 16.2
階層レベル2の項目メキシコ 265,000 256,000 262,782 2.6
階層レベル2の項目中国 155,770 151,660 240,810 58.8
合計 3,574,796 3,679,706 3,645,021 △ 0.9

出所:韓国自動車モビリティー産業協会(KAMA)

輸入車販売低調の中、日本ブランド車は好調を維持

韓国輸入自動車協会(KAIDA)によると、2024年の輸入車販売台数(同協会の会員企業の新規登録ベース)は、26万8,001台。前年比2.7%減だった(表5参照)。

地域・国別に販売台数とシェアをみると、欧州ブランドは19万6,219台・74.6%、米国ブランドが4万879台・15.5%、日本ブランドが2万6,190台・9.9%になった。

欧州ブランド車が人気なのは、従来同様の傾向だ。特に注目されるのが、米国ブランド車の販売台数が2万4,000台以上増えたことだ(2023年のおよそ2.5倍)。これは主に、テスラが会員企業になり調査の計上対象に加わった結果といえる。なお、テスラの販売台数はBMWとメルセデス・ベンツに次いで、3位だった。

また、2019年以降、毎年減少してきた日本ブランド車の販売台数は、2023年に増加に転じた。2024年も増加を続けた(前年比11.7%増)。ブランド別には、レクサス、トヨタ、ホンダが、いずれも前年を超える販売台数を記録した。

表5:輸入乗用車(メーカー・ブランド別)および輸入商用車販売台数 (単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
メーカー・ブランド
(輸入乗用車)
2022年
台数
2023年
台数
2024年
台数 前年比
BMW(ドイツ) 78,545 77,395 73,754 △ 4.7
メルセデス・ベンツ(ドイツ) 80,976 76,697 66,400 △ 13.4
テスラ(米国) 29,750
ボルボ(スウェーデン) 14,431 17,018 15,051 △ 11.6
レクサス(日本) 7,592 13,561 13,969 3.0
トヨタ(日本) 6,259 8,495 9,714 14.3
アウディ(ドイツ) 21,402 17,868 9,304 △ 47.9
ポルシェ(ドイツ) 8,963 11,355 8,284 △ 27.0
フォルクスワーゲン(ドイツ) 15,791 10,247 8,273 △ 19.3
MINI(英国) 11,213 9,535 7,648 △ 19.8
ランドローバー(英国) 3,113 5,019 4,437 △ 11.6
フォード(米国) 5,300 3,450 3,853 11.7
ジープ(米国) 7,166 4,512 2,628 △ 41.8
ホンダ(日本) 3,140 1,385 2,507 81.0
リンカーン(米国) 2,548 1,658 2,189 32.0
シボレー(米国) 9,004 5,589 1,461 △ 73.9
プジョー(フランス) 1,965 2,026 947 △ 53.3
ポールスター(スウェーデン) 2,794 1,654 800 △ 51.6
キャデラック(米国) 977 975 666 △ 31.7
ランボルギーニ(伊) 403 431 487 13.0
ベントレー(英国) 775 810 400 △ 50.6
GMC(米国) 437 332 △ 24.0
マセラティ(伊) 554 434 251 △ 42.2
ロールスロイス(英国) 234 276 183 △ 33.7
DS(フランス) 88 153
ジャガー(英国) 163 54
シトロエン(フランス) 39
クライスラー(米国)
日産(日本)
インフィニティ(日本)
輸入乗用車(小計) 283,435 271,034 263,288 △ 2.9
階層レベル2の項目うち欧州ブランド 241,449 230,972 196,219 △ 15.0
階層レベル2の項目うち米国ブランド 24,995 16,621 40,879 145.9
階層レベル2の項目うち日本ブランド 16,991 23,441 26,190 11.7
輸入商用車 5,371 4,504 4,713 4.6
輸入車(合計) 288,806 275,538 268,001 △ 2.7

注:韓国輸入自動車協会(KAIDA)会員企業の新規登録ベース。
出所:韓国輸入自動車協会(KAIDA)

エコカーは、ハイブリッドだけが好調

KAMAによると、エコカーの国内販売台数は2024年、65万404台。前年比18.2%増だった(表6参照)。

この中でEVは、10.2%減と減少に転じた。EVの販売は2023年後半から勢いに陰りが見え始め、2024年は減少傾向が鮮明になった。その原因としては、(1)政府の購入補助金の上限額が引き下げられたことに加えて、(2)韓国内で高金利や物価上昇が続いていること、を挙げることができる。さらに、EVバッテリーを原因とする相次ぐ火災事故もEV購入の敬遠材料になっている。

EVに代わってエコカーの国内販売を牽引したのが、HEVだ。2024年は49万5,577台。前年比31.6%増と大幅に増加している。エコカーの国内販売全体に占める構成比は76.2%に及んだ。これほど販売台数が伸びた理由としては、(1)燃料費と車体価格を考えた場合、費用対効果が高いHEVを選択する消費者が増えたこと、(2)燃費効率が高いHEV車種を国内メーカーが相次いで投入し、需給ニーズが一致したこと、を挙げることができる。

なお、輸入エコカーの国内販売からは、HEV(前年比46.6%増)以上にEVの伸び(86.3%増)が高く見える。しかしこれは、先述のとおりテスラがKAIDA会員になり調査結果に反映するようになったことが大きい。テスラを除くと2万台を割り込むことになることからすると、EVを敬遠する傾向は輸入車でも同様だろう。

表6:エコカーの種類別国内販売(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)

国内販売台数
種類 2022年
台数
2023年
台数
2024年
台数 前年比
ハイブリッド車(HEV) 259,053 376,603 495,577 31.6
電気自動車(EV) 157,906 158,009 141,965 △ 10.2
プラグインハイブリッド車(PHEV) 13,114 10,796 9,174 △ 15.0
燃料電池自動車(FCEV) 10,336 4,631 3,688 △ 20.4
合計 440,409 550,039 650,404 18.2
うち輸入車販売台数
種類 2022年
台数
2023年
台数
2024年
台数 前年比
ハイブリッド車(HEV) 74,207 91,680 134,426 46.6
電気自動車(EV) 23,202 26,572 49,496 86.3
プラグインハイブリッド車(PHEV) 13,114 10,796 9,174 △ 15.0
合計 110,523 129,048 193,096 49.6

出所:韓国自動車モビリティー産業協会(KAMA)、韓国輸入自動車協会(KAIDA)

2024年のエコカーの輸出は、73万5,050台。前年比1.3%増になった(表7参照)。

内訳をみると、HEVが43万1,725台、37.9%増と大きく伸びた。エコカーの輸出先は、北米と欧州が大半(注3)。特に北米では、HEVとSUVの人気によりHEV輸出が増加し、全体を牽引した。

一方EVは25万5,105台、26.5%減。輸出でも、EVの減速感が鮮明になったかたちだ。中国を除く世界全地域で、需要が減少した。

特に欧州では、(1)車両価格の高止まりと(2) EV補助金の廃止などによって全般にEV販売が不振だった。韓国からのエコカー輸出も例外ではない。

北米でも、(1)インフレ削減法の税額控除を縮小したことや高金利が続いたことによって、EV需要が鈍化したこと、(2)現代自動車と起亜がEVの現地生産を拡大したこと、によって輸出が減少した。

表7:エコカーの種類別輸出 (単位:台、%)(△はマイナス値)
種類 2022年
台数
2023年
台数
2024年
台数 前年比
ハイブリッド車(HEV) 287,956 313,072 431,725 37.9
電気自動車(EV) 220,507 346,880 255,105 △ 26.5
プラグインハイブリッド車(PHEV) 46,173 65,043 48,118 △ 26.0
燃料電池自動車(FCEV) 398 296 102 △ 65.5
合計 555,034 725,291 735,050 1.3

出所:韓国自動車モビリティー産業協会(KAMA)

2025年は、米国の政策に大きな懸念

では、2025年についてはどうか。KAMAは2024年12月に発表した「2024年自動車産業評価および2025年の展望」の中で、国内販売、生産、輸出それぞれについて次のように見込んだ。

(1)
国内販売
(1)インフレ緩和や利下げ、(2) EVを代替するHEV販売の増加、(3) 2024年からの反動増などによって、小幅に回復。前年比1.3%の増加を見込む。
もっとも、EVの需要不振や家計負債の高止まり、不動産・株式など資産市場の不安定さ、景気減速など成長阻害要因が増し、2025年の増加幅は限定的。
(2)
生産
国内向け生産は前年を小幅に上回る見込み。海外向けは、世界需要が鈍化して輸出が減少し、前年比1.4%減。
ルノーコリアが新車(グランコレオス)の生産を加速し、 KGモビリティーが輸出を優先する戦略を打ち出す見込みがある。これらにより、当該2社の国内工場稼働率は高くなると予想。
これに対し、現代自動車と起亜は、米国のメタプラント工場稼働などの結果として、海外工場の生産比率が増えることを受け、輸出用の生産が減る可能性がある
(3)
輸出
新車販売や韓国・フィリピン自由貿易協定(FTA)の発効、HEV輸出増加などが、プラスの影響をもたらす。一方で、世界的に需要縮小傾向が続き、通商環境も悪化、海外生産の拡大なども重なり、前年比3.1%の減少を見込む。
米トランプ政権による保護貿易、ロシア・ウクライナ紛争や中東情勢など地政学的リスクの常態化など、通商環境の悪化材料がある。加えて、中国メーカーの海外進出や主要国のEV自国生産誘導政策による海外生産増加など、否定的な要因を想定できる

2025年の韓国自動車産業にとって、最も大きな懸念材料は、米国トランプ政権の政策だ。米国は韓国にとって輸出額全体で国別第2位、自動車の輸出額では首位だ。その米国が3月26日に、自動車と自動車部品に対して25%の追加関税の賦課を発表した(2025年3月27日付ビジネス短信参照)。韓国で生産し米国に輸出する自動車はもちろん、韓国自動車メーカーが米国内の工場で自動車を製造するため韓国から部品を輸入する場合にまで高関税が余儀なくされることになる。韓国メーカーは戦略転換せざるを得ず、生産・輸出ともに大きな影響を受けそうだ。韓国政府も自動車産業の競争力を確保するため、支援策を強化するのが急務だ。また、米国との通商交渉に全力を注がなければならなくなった。

国内に目を向けると、尹前大統領の非常戒厳令宣布に端を発した国政混乱が尾を引いている。次期大統領選挙(注4)まで不安定な状況が続く中で、消費マインドの回復にも期待が持てない。2025年上半期はこれらの影響により、自動車産業は苦戦を強いられることとなるだろう。既述したKAMAの見込みは、2024年12月時点のものだ。それ以降、韓国の自動車産業を取り巻く状況は悪化していることを踏まえると、一層悲観的な状況を想定せざるを得ない。

米国と同時に、中国の動きにも注視する必要がある。中国の大手EVメーカーのBYDは、2025年に韓国市場に乗用車を投入する予定だ。同社はこれまで、バスやフォークリフトなど商用車だけを供給してきた。しかし、BYDが低価格でEV乗用車を韓国市場に投入するとなると、これまで価格面でEV購入を避けていた消費者が動くかもしれない。

このように、2025年の韓国の自動車産業は、国内販売・生産・輸出すべてで見通しが立ちづらい。今後については、細かく状況を注視する必要がありそうだ。


注1:
韓国銀行は、基準金利を2024年10月まで3.50%を維持した。 もっともその後は、段階的に引き下げた。2025年2月時点では、2.75%まで下がっている(2025年2月27日付ビジネス短信参照)。
注2:
EV購入に伴う国費補助金の上限額は2024年、650万ウォンだった。前年に比べて30万ウォン減少した。
注3:
KAMAが2024年12月に発表した「2024年自動車産業評価および2025年の展望」によると2024年1~12月、エコカーの輸出地域の構成比は北米が55.2%、欧州32.2%だった。この2地域で、87.4%を占めることになる。
注4:
次期大統領選は、2025年6月3日までに実施する予定。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所
橋爪 直輝(はしづめ なおき)
2023年4月、経済産業省からジェトロ・ソウル事務所に出向。経済調査チーム所属。