ドバイで日本式カフェのオープン相次ぐ
UAE人の若きオーナーに思いを聞く
2025年6月23日
アラブ首長国連邦(UAE)をはじめとする中東諸国では、伝統的なコーヒー文化が根付いている。カルダモンを入れたアラビックコーヒーは「もてなしの象徴」とされ、客人を迎える際に最初に提供することが現代でも習慣になっている。また、コーヒーをふるまい、談笑する空間の「マジリス」は、最も身近かつ重要な社交の場で、2015年にはユネスコの無形文化遺産にも登録されるなど、アラブ世界でコーヒーは人々の生活の中心にあると言っても過言ではない。「コーヒー」という言葉の語源も、アラビア語でコーヒーを意味する「カフワ」に由来するという説がある。
ドバイで日本式カフェのオープン相次ぐ
近年は伝統と革新の共存といったかたちで、ベドウィン(注1)のもてなし文化と、グローバルなカフェトレンドが融合した店舗が増えており、特に日本式カフェのオープンが相次いでいる。2013年に創業した「Yamanote Atelier」(ドバイ、アブダビ)を皮切りに、「Crane」(アブダビ)や「Third Wave Café」(ドバイ)などの日本式カフェが開業し、2024年以降その動きが一層加速した。日本人が運営・監修に携わる「SABAKU」(シャルジャ)や「KURASU」(ドバイ)、2025年にはエミラティ(UAE人)が経営する日本式カフェ「Kissaten Coffeehouse(以下、キッサテンコーヒーハウス)」や「Kumo」などがドバイで相次いでオープンした。2025年にアブダビでオープンしたチームラボのアートプロジェクトである「チームラボ・フェノメナ・アブダビ」にも「Anko」という日本式カフェを併設しており、かなり高い水準の日本式スイーツを提供している。
UAE人の若きカフェオーナーに開店の理由を聞く
2025年4月にオープンした「キッサテンコーヒーハウス」は、ドバイ国際空港から南に車で数分の距離のナッド・アル・ハマー地区にある。店舗はエミラティが多く住む閑静な住宅街近くで、ドバイの喫茶店としては珍しく店内は静かで落ち着いた空間だ。シンプルを基調とした内装に日本要素をミックスさせ、勉強や仕事にも集中できる環境を意識している。また、日本のアイスコーヒー文化を理解しており、オリジナルのコールドブリューコーヒー缶も夏に合わせて販売開始している。 オーナーのサレム氏に、オープンの理由や日本式カフェの何がエミラティを引きつけるのか、話を聞いた(2025年5月19日取材)。

- 質問:
- 自己紹介を。
- 答え:
- 私はドバイ出身の27歳のエミラティで、2020年から独学でバリスタの勉強を始めた。コーヒーと日本の両方が大好きで、それでキッサテンコーヒーハウスを始めることにした。
- 質問:
- なぜ日本が好きなのか。
- 答え:
- 子供の頃から日本が好きで、2018年ごろに日本を訪れる機会を得て以来、時間があれば日本を訪問するのが恒例になっている。エミラティはもてなしの心と寛大さを国民的気質として持ち合わせているが、日本人にもそれに似たものを感じたのと、互いを助け合う精神に強く感銘を受けた。
- 質問:
- なぜドバイで日本式カフェを始めようと思ったのか。
- 答え:
- キッサテンコーヒーハウスのアイデアは、2022年に日本を訪れた際に(東京都)世田谷区三宿のNOZYCOFFEEをはじめ、都内の個人経営のコーヒーロースターや小さなカフェに数多く通い詰めたときから始まった。バリスタが毎日同じ笑顔で迎えてくれ、同じクオリティーのエスプレッソを毎日いれてくれたとき、コーヒーがもっと好きになった。さらに、コーヒーの奥深さにも触れることができた。同時に、日本人は本当に自分の仕事が好きで誇りを持っており、客の喜ぶ顔を見るのが仕事のやりがいだと感じているのだなと実感したとき、カフェは単なる飲食の場所ではないと思い、ドバイでもそのような喫茶店を始めてみたいと思った。
- 質問:
- 店舗で使用している抹茶や、コーヒー器具、ガラス食器は日本製品だ。食材や器具を調達する際のこだわりについて教えてほしい。
- 答え:
- 私が日本に滞在していたときに見たものを再現できるように努力している。特に抹茶は日本産のセレモニアルグレード(注2)の最高級品にこだわっている。
-
1杯ずつ丁寧にコーヒーをいれる
(「キッサテンコーヒーハウス」公式
インスタグラムから)
茶筅(ちゃせん)で濃茶(こいちゃ)にしてから抹茶ラテを作る(「キッサテンコーヒーハウス」公式インスタグラムから) - 質問:
- 看板メニューは何か。また、店が最も混む時間帯は。どんな客層が多いか。
- 答え:
- コーヒーと抹茶ラテだ。ホットでもアイスでも、クオリティーは常に完璧なものを提供していると自負している。ケーキやスイーツ、アボガドベーグルなどの朝食メニューも充実している。店が混む時間帯は午前9時から正午ごろと、午後5時から午後9時ごろだ。顧客は近隣に住むエミラティが多いと思うが、日本人や中国人、韓国人といったアジアの人々もよく来てくれる。

- 質問:
- 日本茶のメニューは。
- 答え:
- 抹茶ラテ(ホットとアイス)と煎茶、そして、オリジナルのブレンドで「うまいティー」を提供している。これは煎茶にハイビスカスと梅をブレンドしたものだ。ほのかに酸味を感じられる茶で甘いスイーツともよく合うため、甘いもの好きなエミラティには特に人気がある。
- 質問:
- 今後、日本の食材を使ったメニューを増やす予定はあるか。
- 答え:
- 抹茶ティラミスやマンゴー抹茶ラテなど、抹茶に関連したスイーツやドリンクを数多くテストしているところだ。
- 質問:
- エミラティは日本式カフェにどのようなイメージを持っているか。
- 答え:
- UAEの日本風カフェやレストランの特長は、日本を訪れた経験や日本文化への関心を背景に、人々が日本を愛する要素を再現している点にある。私が自分の店以外によく行く日本式のレストランは、ドバイにある「Wokyo」や「Daikan Ramen」といったラーメン店だ。これらの場所は、私が日本にいたころを思い出させ、特にラーメンを食べているときには、秋葉原のアニメショップや商店街を散策した感覚がよみがえる。
- 日本に行ったことのない人々にとっては、本物の日本の雰囲気を感じられる場所として、人気を集めているのではないかと思う。
実際に日本を体験するエミラティが増え、より本物志向へ変化
なぜここまで、UAEで日本式カフェのオープンが相次いでいるのか。その理由について考察する。海外のインフルエンサーが日本滞在中のカフェ体験を発信することで、注目を集めるようになったことも理由の1つと考えられるが、なにより、UAEに暮らす人々、特にエミラティが2022年11月以降、(日本への)ビザ免除となったことで、UAE政府から正式な統計は出ていないものの、多くのエミラティが日本を訪問したことにより、日本の食文化により深く関心を持つ層が増えたことが背景にあると予想される。
航空券ポータルサイトの「スカイスキャナー」は2024年、UAEに暮らす人を対象に、どの都市向けの航空券検索が増えたかを調査したレポートを発表した。それによると、大阪が1位、東京が3位と、日本の都市が上位にランクインしている。
順位 | 都市(国) | 検索数増加率 |
---|---|---|
1位 | 大阪(日本) | 305% |
2位 | アンタルヤ(トルコ) | 273% |
3位 | 東京(日本) | 250% |
4位 | ローマ(イタリア) | 154% |
5位 | ベルリン(ドイツ) | 96% |
6位 | アムステルダム(オランダ) | 62% |
7位 | ニューヨーク(米国) | 62% |
8位 | ロンドン(英国) | 52% |
9位 | アテネ(ギリシャ) | 47% |
10位 | パリ(フランス) | 32% |
出所:スカイスキャナー
実際にキッサテンコーヒーハウスを訪れると、日本のカフェの神髄を正確に理解していると感じられる。「一杯入魂」の丁寧なドリップ技術と品質重視の姿勢、もてなしの精神を端々から受け取ることができる。しかもそれは表面的なまねではなく、日本のカフェ文化の精神性を理解した上で、自分たちのエミラティの伝統と融合させた表現をしていると感じる。
現在、エミラティの日本へのビザなし滞在の期間は30日だが、2025年7月1日から90日間に延長されることになった(2025年6月5日付ビジネス短信参照)。これにより、さらに多くのエミラティが日本を訪問し、彼らがより深い「日本式〇〇」をUAEに導入する流れが加速することを期待する。
- 注1:
- ベドウィンは、砂漠の遊牧民。エミラティの主要ルーツと言われる。
- 注2:
- 茶道などの儀式で使用されることを想定した最高品質の抹茶のこと。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・ドバイ事務所
吉村 優美子(よしむら ゆみこ) - 貿易開発部、技術交流部、農林水産部等を経て、2021年7月から現職。