事業入れ替えに積極的なSK、守り固めるLG
韓国企業の事業再編(2)

2025年8月27日

韓国の大企業の事業ポートフォリオ見直しの動きを3回に分けて紹介している。2回目は企業グループ2位のSKグループと、4位のLGグループについて紹介する(1回目の「M&Aで成長事業の取り込み狙うサムスン」ではサムスングループについて、3回目の「二次電池材料などに注力するロッテとポスコ」ではロッテグループとポスコグループについて紹介する)。

事業ポートフォリオ見直しに積極的に取り組むSKグループ

企業グループ2位のSKグループは繊維事業を源流とし、その後、石油化学や移動通信、半導体などに事業領域を拡大してきた。同グループは2024年から事業ポートフォリオ見直しを本格的に進めている。見直しの規模は上位企業グループの中でも特に大きい。半導体や二次電池をはじめとした主力事業が大規模投資を必要としている一方で、負債比率が高めなことや、グループ内の企業数が急増したことが事業ポートフォリオ見直しの理由だ。負債については、主力企業で大規模投資が行われた結果、グループの負債は5年前の2020年の92兆8,180億ウォン(約10兆2,100億円。1ウォン=約0.11円)から、2025年には166兆9,512億ウォンと、5年間で8割も増加した。さらに、近年の金利高も借り入れコスト増加につながっている。また、同グループは系列企業数が突出して多い(「M&Aで成長事業の取り込み狙うサムスン」の表1参照)。系列企業数をさかのぼると、2015年は82社、2020年は125社、2024年には219社となっており、特に2020年代に入ってから急増した。

このような中、SKグループが目指す方向性について、持ち株会社のSKがプレスリリース「SK株式会社、重複事業の見直し…『選択と集中』で競争力強化を加速」(2025年5月13日付)を発表している。そこでは、「当グループは2024年から、(1)人工知能(AI)と半導体を中心とした事業構造の最適化、(2)エネルギーソリューション分野の基盤強化を通じた質的成長、(3)成長事業間のシナジー効果の最大化など、未来の成長基盤強化を目標にリバランス戦略を一貫して推進している」と記載している。ここで「リバランス戦略」とは、グループ内で多くの事業を抱える中で、どの事業に集中投資し、どの事業から撤退すべきかなどを見極め、事業構造の最適化を図ることを意味する。「事業ポートフォリオの見直し」とも言い換えられる。

このプレスリリースに、その他の情報も加味すると、事業ポートフォリオ見直しの方向性は次のようにまとめられよう。

  • 複数のグループ企業で重複する事業を1社に統合する。
  • 以上により、グループ企業数を適正水準に減らす。
  • 各社が自立運営できる財務体質とし、グループ全体としても財務安定化を図る。

ところで、2024年のSKグループの収益性は良好だった。グループの当期純利益は18兆4,480億ウォン、売上高純利益率は9.0%だった(「M&Aで成長事業の取り込み狙うサムスン」の表1参照)。これは、SKハイニックスの好業績によるところが大きい。同社は生成AIに使われる広帯域幅メモリー(HBM)などの先端半導体事業が好調で、2024年にグループ全体を超える19兆7,969億ウォンの当期純利益を計上し、同グループの利益を支えた。ただし、同社が安定的に好業績を上げているかといえば、そうではない。半導体は市況の変化が大きく、業績も大幅に変動する。実際、前年の2023年に同社は9兆1,375億ウォンの当期純損失を計上した。その結果、同グループ全体の当期純利益は6,590億ウォンにとどまった。このように、半導体への過度な依存による脆弱(ぜいじゃく)性が垣間見られる。

さらに、コア事業の1つの二次電池事業の業績不振が続いているのも大きな課題だ。SKイノベーションの子会社で二次電池事業を行っているSKオンの営業損益は、後述するように、赤字が続いている。これは、SKオンが生産能力拡大を図る一方で、二次電池市場が期待ほど伸びていないことに起因する。そのため、SKグループとしては、二次電池事業をどのように支えていくのかが課題になっている。

二次電池事業への支援など進める一方、ノンコア(非中核)事業を売却

SKグループが現在進めている事業ポートフォリオの見直しは「二次電池支援」「AI分野への投資」「事業の統合」「ノンコア(非中核)事業の売却など」の4つの類型に分類できよう(表1参照)。

表1:SKグループの事業ポートフォリオ見直し(2024年以降)(-は記載なし)
類型 企業名 時期 内容
二次電池事業支援 SKイノベーション 2024年11月 SK E&Sを合併。
SKオン 2024年11月 SKトレーディングインターナショナルを吸収合併。
SKオン 2025年2月 SKエンタームを吸収合併。
SKオン 2025年7月 SKエンムーブ(旧SKルブリカンツ)の吸収合併を決議。
AI分野への投資 SKハイニックス 2024年6月 2028年までに総額103兆ウォンを半導体事業に投資。うち、HBMなどAI関連分野に82兆ウォンを投資。
SKテレコム、SKブロードバンド 2024年6月 2028年までにAIデータセンター事業に3兆4,000億ウォンを投資。
SK C&C(現SK AX) 2025年6月 社名をSK C&CからSK AXに変更し、従来のITサービス中心の事業構造をAI中心の事業構造に転換。
SKグループ 2025年6月 アマゾンと共同で蔚山市に100メガワット(MW)級のAI用データセンターを建設。2029年に完工予定。
事業の統合 SKブロードバンド 2025年5月 SK C&C(現SK AX)の板橋データセンターを買収。
SKエコプラント 2025年5月 SKマテリアル傘下の半導体素材4社(SKトリケム、SKレゾナック、SKマテリアルズJNC、SKマテリアルズパフォーマンス)の子会社化を決定。
ノンコア(非中核)事業の売却など SKネットワークス 2024年8月 SKレンタカーの持ち分100%を売却。
SKインベストメント ビナⅡ(在ベトナムの投資会社) 2024年11月 保有していたマサングループの株式(発行株式8.72%)のうち5.05%を約2億ドルで売却。
SK 2025年3月 特殊ガス事業を行うSKスペシャルティの持ち分85%を売却。
SKエコプラント 半導体ウエハー事業を行うSKシルトロン、環境関連事業を行うリニュアスとリニューワンの売却を推進中。
SKエコプラント 洋上風力事業などを行うSKオーシャンプラントの売却を推進中。
SKジオセントリック 2025年3月 プラスチックリサイクル工場建設を無期延期。
SKグループ 2025年8月 SKインベストメント ビナⅡを通じ、ビングループの持ち分6.05%を全て売却。

出所:各社プレスリリース、各種韓国メディア記事などを基に作成

二次電池支援を巡っては、業績不振が続くSKオンの支援が課題だ。SKオンは会社設立以来、毎年赤字が続いており、財務の安全性を示す指標の流動比率・固定比率はいずれも悪化している(表2参照)。

そこで、SKグループとしては、経営が安定しているグループ傘下の他社と合併することによってSKオンの財務構造を改善し、コア事業の1つの二次電池事業でさらなる競争力強化を図っていく考えだ。例えば、2024年に合併したSKトレーディングインターナショナルは原油輸入や石油製品輸出を担っており、利益を安定的に計上してきた。SKエンターム、SKエンムーブの合併もほぼ同様の趣旨に基づくものだ。

表2:SKオンの主要財務指標(単位:10億ウォン、%)(△はマイナス値)
科目・比率 2021年 2022年 2023年 2024年
流動資産 4,020 8,871 9,377 12,141
固定資産 6,946 12,389 23,873 36,233
資産計 10,966 21,260 33,251 48,374
流動負債 2,743 9,851 13,026 15,789
固定負債 4,115 5,473 8,758 16,380
自己資本 4,108 5,936 11,467 16,204
資本計 10,966 21,260 33,251 48,374
売上高 1,064 7,618 12,897 14,035
営業利益(損失) △ 314 △ 1,073 △ 582 △ 1,087
流動比率 146.6 90.1 72.0 76.9
固定比率 169.1 208.7 208.2 223.6
売上高営業利益(損失)率 △ 29.5 △ 14.1 △ 4.5 △ 7.7

注1:2021年は10月1日~12月31日。その他は1月1日~12月31日。
注2:貸借対照表の勘定科目は各年12月31日。
注3:流動比率=流動資産/流動負債×100、固定比率=固定資産/自己資本×100。
出所:SKオン「事業報告書」(各年)を基に作成

AI分野への投資については、SKグループのコア事業であるだけに、巨額の投資を計画している。「朝鮮日報」(2025年6月30日、電子版)は「SKグループは(中略)AIと半導体に集中的に投資をすることとした。AI産業が爆発的に成長すると予想されるため、この分野に集中するということだ。(中略)SKハイニックスはHBMなどAI関連事業分野に約80%(82兆ウォン)を投資する計画だ」と報じている。

事業の統合については、例えば、SKブロードバンドによるSK C&C(現 SK AX)の板橋データセンター(京畿道城南市)の買収が挙げられる。「韓国経済新聞」(2025年6月12日、電子版)は「京畿道城南市、京畿道高陽市などで8つのデータセンターを運営するSKブロードバンドにグループのデータセンター事業を統合する狙い」と報じている。

ノンコア事業の売却については、最近の事例として、持ち株会社SKによるSKスペシャルティ売却の事例が挙げられる。SKスペシャルティは半導体やディスプレイパネルの製造過程に使われる特殊ガスを製造・販売する会社で、財務内容は良好だ。SKは2025年3月にSKスペシャルティの株式85%をプライベート・エクイティー・ファンドのハンアンドカンパニーに2兆6,000億ウォンで売却した。これに関連して、「韓国経済新聞」(2025年6月12日、電子版)は「SKグループは、毎年1,000億ウォンを超える営業利益を計上していたSKスペシャルティなどを売却して、4兆4,459億ウォンの資金を確保した。(中略)SKシルトロン、リニュアス、リニューワンの売却が完了すれば、5兆ウォンの資金が確保できる。合わせて10兆ウォンに達する投資資金を確保できるわけだ」と報じている。さらに、SKグループは2025年に入り、ベトナム現地法人のSKインベストメントビナⅡが保有していたビングループの株式の売却を進めた(SKグループは、ベトナム・東南アジアでのビジネス強化のために、2019年5月にビングループの発行株式の6.1%を10億ドルで買収していた)。韓国メディアによると、2025年1月に株式1.33%を1,200億ウォンで売却し、残りの株式を8月までに1兆ウォン以上で売却したもようだ。ここで得た資金をコア事業の投資に振り向ける予定だ。

石油化学、ディスプレイ事業などで厳しい競争に直面するLGグループ

LGグループは韓国4位の企業グループで、電子(LG電子、LGディスプレイ、LGイノテックなど)、化学(LG化学、LGエナジーソリューション、LG生活健康など)、情報・サービス(LGユープラス、LG CNSなど)の3分野を中心に事業展開している。LGグループも特に2025年に入ってから、事業ポートフォリオ見直しを進めている。グループのトップに立つ具光謨(ク・グァンモ)LG会長(LGはグループ持ち株会社)は、2025年3月に開催されたグループ会社の社長が参加する会議で、「一部の事業は量的な成長と組織の生存にこだわり、競争力が下落し、期待していたポートフォリオの高度化に成功していない」「経営環境の変化が予想より速い半面、われわれの事業構造の変化は追い付いていない面がある」「全ての事業をうまく運営することはできない。そのために、さらなる選択と集中が必要だ」と強調した。

こうした背景には、世界の通商環境の変化と、グループの主力事業の事業環境悪化による危機感がある。通商環境の変化については、米国の関税政策や米中対立が挙げられる。事業環境悪化については、中国勢の増産などによる石油化学業界、ディスプレイ業界の供給過剰と、電気自動車(EV)市場の伸び悩みにより、LG化学、LGディスプレイ、LGエナジーソリューションなどの主力企業の業績が低調なことが挙げられる(表3参照)。そのため、2024年のグループの純損益は赤字になっている(「M&Aで成長事業の取り込み狙うサムスン」の表1参照)。ちなみに、石油化学業界を巡っては、LG化学のみならず、韓国の石油化学業界全体としても、収益性の回復が課題となっている。業界の状況について「イーデーリー」(2025年8月13日)は「LG化学のみならず、国内の石油化学業界全体が収益性の回復に必死だ。石油化学業界は中国発の供給過剰に中東の設備増設まで重なり、長期不況に陥った。かつて中国の需要拡大に合わせて工場を増やした国内企業は続々と設備稼働を中断したり、工場を閉鎖したりしている」と伝えている。

LGグループの事業ポートフォリオ見直しは現在までのところ、企業買収といった「攻め」よりも、既存事業からの撤退といった「守り」の方に重きを置いている。2025年に入ってからの事例をみても、4月にLG電子がEV充填(じゅうてん)器事業からの撤退を決定した。同社は売上高1兆ウォン以上の達成を目標に、2022年に同事業に参入したが、その後、世界的なEV市場の伸び悩みや、トランプ米政権のEV充電インフラ支援の中断などを受けた決断だった。次いで、同じく4月に、LGエナジーソリューションはインドネシアでのEV向け二次電池材料生産計画からの撤退を発表した。これは、2020年にMOU(了解覚書)を締結して進めてきたもので、11兆ウォンを投資し、インドネシアでニッケル鉱山採掘、精錬所や前駆体工場の建設を行う計画だった。世界的なEV市場の伸び悩みや、材料価格などの事業環境の変化などを受けて中止した。さらに、6月にはLG化学が海水を産業用水に浄化するROメンブレン(逆浸透膜)フィルターを製造する「ウオーターソリューション部門」を1兆4,000億ウォンで韓国国内のプライベート・エクイティー・ファンドのグレンウッド・プライベートエクイティーに売却すると発表した。LG化学は同事業に2014年に参入していた。韓国メディアによると、世界市場でシェア2位にあったが、同社の財務構造強化の目的で、ノンコア事業の同事業を売却することとした。

表3:LG化学・LGディスプレイ・LGエナジーソリューションの業績

(単位:10億ウォン、%)(△はマイナス値)
LG化学 最大株主:LG(出資比率:34.04%)
売上高 営業利益 売上高営業利益率
2020年 30,077 1,798 6.0
2021年 42,599 5,026 11.8
2022年 51,865 2,996 5.8
2023年 55,250 2,529 4.6
2024年 48,916 917 1.9
LGディスプレイ 最大株主:LG電子(出資比率:36.72%)
売上高 営業利益 売上高営業利益率
2020年 24,230 △ 29 △ 0.1
2021年 29,878 2,231 7.5
2022年 26,152 △ 2,085 △ 8.0
2023年 21,331 △ 2,510 △ 11.8
2024年 26,615 △ 561 △ 2.1
LGエナジーソリューション 最大株主:LG化学(出資比率:81.84%)
売上高 営業利益 売上高営業利益率
2020年 1,461 △ 475 △ 32.5
2021年 17,852 768 4.3
2022年 25,597 1,214 4.7
2023年 33,745 2,163 6.4
2024年 25,620 575 2.2

注1:会計期間は各社とも1月1日~12月31日。ただし、2020年のLGエナジーソリューションは12月1日~12月31日。
注2:出資比率は2024年12月末現在。
出所:各社事業報告書・監査報告書

「ABC」分野で事業拡大

他方、投資の方に目を向けると、製造業でLGグループの主力事業は石油化学、二次電池、家電、ディスプレイなどだが、特に大規模投資をしてきたのが二次電池だ。例えば、北米ではLGエナジーソリューションが二次電池工場の新設を進めている。稼働中の工場は3カ所(単独出資1カ所、GMとの合弁2カ所)だが、これらに加え、現在、5カ所(単独出資2カ所、ステランティス・現代自動車グループ・ホンダとの合弁がそれぞれ1カ所)の工場を建設中で、拡大が見込まれる北米の車載用・ESS(電力貯蔵システム)用二次電池需要の取り込みを狙っている。

二次電池などの既存事業の強化とは別に、同グループが今後の成長事業として期待しているのが「ABC」分野だ。「ABC」は、AI(A)、バイオ(B)、クリーン技術(C)を意味する。AI分野で最近ニュースになったのが、LG CNSのインドネシア合弁会社によるジャカルタのデータセンター建設の受託(事業規模は約1,000億ウォン)だ。LGグループではLG電子の冷却技術、LGエナジーソリューションのソリューション技術などを含め、グループ全体で事業を進めていく方針だ。バイオについては、細胞治療薬などの開発に焦点を当てている。クリーン技術については、再生可能エネルギー、廃バッテリー再利用などに注力している。「ABC」分野重視の一例がグループ投資会社LGテクノロジーベンチャーズによる投資だ。韓国メディアによると、LGテクノロジーベンチャーズは1兆ウォン規模のファンドを運用しているが、そのうちの5割をABC分野に投資している。

執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
百本 和弘(もももと かずひろ)
ジェトロ・ソウル事務所次長、海外調査部主査などを経て、2023年3月末に定年退職、4月から非常勤嘱託員として、韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。