二次電池材料などに注力するロッテとポスコ
韓国企業の事業再編(3)

2025年8月27日

韓国の大企業の事業ポートフォリオ見直しの動きを3回に分けて紹介している。3回目は企業グループ5位のロッテグループ、6位のポスコグループについて紹介する(1回目の「M&Aで成長事業の取り込み狙うサムスン」ではサムスングループについて、2回目の「事業入れ替えに積極的なSK、守り固めるLG」ではSKグループとLGグループについて紹介する)。

主力企業の財務構造改善を迫られるロッテグループ

企業グループ5位のロッテグループも、事業ポートフォリオの見直しを進めている。最近、同グループは、(1)財務構造の改善、(2)成長事業への投資の2点を目的に、事業ポートフォリオを見直している。それぞれ次のとおり。

(1)の「財務構造の改善」を巡っては、主力企業の業績低迷が影響している。同グループの主力事業は食品や流通、化学、ホテルなどだ。特に化学、流通事業の業績がさえない。ロッテケミカルは、世界市場の伸び悩みと中国企業の供給過剰の影響で採算性が悪化した。営業損益は、2022年は7,626億ウォン(約839億円、1ウォン=約0.11円)の赤字、2023年は3,477億ウォンの赤字、2024年は8,941億ウォンの赤字と、3年連続で営業損失を計上している。そのため、流動負債は2021年末の4兆5,791億ウォンから2024年末には8兆5,023億ウォンに大幅に増加した。流通も内需不振が響いた。ロッテショッピングは営業損益こそ黒字基調だが、当期純損益ベースでは2017年以降、2023年を除き、毎年赤字となっている。

グループの主力企業が業績不振に陥る中で、2024年末ごろにロッテグループの「流動性危機説」が一部でささやかれた。ここへきて、主力企業のノンコア事業や不採算事業、資産の売却を進めているところだ。2024年12月以降の事例は表1のとおり。

表1:ロッテグループの主な事業・資産売却(2024年12月~2025年7月)
企業名 年月 内容 売却額
ロッテケミカル 2025年2月 パキスタンの現地法人(高純度テレフタル酸生産・販売)の保有持ち分75.01%全量を、パキスタンの投資会社アジアパークインベストメントとアラブ首長国連邦(UAE)の石油流通会社モンタージュオイルDMCCのコンソーシアムに売却する契約を締結。 979億ウォン
2025年3月 インドネシア現地法人の持ち分49%のうち、25%に対して株価収益スワップ(PRS)契約を締結し、資金調達を行った。調達した資金は借入金償還を通じた財務構造改善に使用する計画。 6,500億ウォン
レゾナックの持ち分4.9%を売却。ノンコア資産を売却し、財務健全性の向上を図る戦略の一環。 2,750億ウォン
ロッテウェルフード 2025年2月 ロッテ製菓とロッテフードの統合により2022年に発足したロッテウェルフードは、重複事業の調整の結果、曾坪工場(忠清北道)の売却を決定。売却資金は、海外生産拠点拡張に使用する計画。
ホテルロッテ、釜山ロッテホテル 2024年12月 両社のロッテレンタル持ち分56.2%を香港系PEファンドのアフィニティー・エクイティー・ファンドに売却する契約を締結。 1兆5,729億ウォン
ロッテヘルスケア 2024年12月 株主総会を開き、同社の清算を決議。同社はロッテ持株が700億ウォンを出資して設立した企業だった。清算の理由について、同社では「個人向けデジタルヘルス事業は今後、成長を期待しにくいため」とした。
コリアセブン 2025年2月 現金自動預け払い機(ATM)事業を韓国電子金融に売却する契約を締結。コリアセブンはロッテ持株が92.33%を出資し、コンビニエンス事業などを展開している。ATM事業の売却で得た資金で財務構造改善を図る。 600億ウォン以上

注:「-」は不明を示す。
出所:韓国メディア報道などを基に作成

バイオ、二次電池材料に投資集中

(2)の「成長事業への投資」については、今後の成長事業としてバイオ、二次電池材料などを挙げ、積極的な投資を続けている。

バイオ分野では、バイオ医薬品のCDMO(医薬品開発製造受託)事業に注力している。2022年6月にロッテバイオロジクスを設立、2023年1月には早速、米国のブリストル・マイヤーズスクイブのバイオ医薬品生産工場(ニューヨーク州シラキュース)の買収手続きを完了し、その後、生産能力拡大を図っている。また、韓国国内では、2030年までに総額4兆6,000万ウォンを投じ、仁川市で3つの工場を建設する計画だ。同社ではこれら2拠点を軸に生産を拡大し、「2030年世界10大CDMO入り」を目指している。

二次電池材料では、2023年3月にロッテケミカルが銅箔(はく)メーカーのイルジンマテリアルズ(現・ロッテエナジーマテリアルズ)を2兆7,000億ウォンで買収した。その後、ロッテエナジーマテリアルズは2023年8月に5,600億ウォンを投資し、スペインでハイエンド銅箔工場を建設する計画を発表した。また、2024年8月にはマレーシアで25億リンギ(約875億円、1リンギ=約35円)を投じ、銅箔工場を拡張する計画を現地メディアが報じた。

低収益事業・ノンコア資産の整理進めるポスコグループ

ポスコグループも最近、事業ポートフォリオの見直しを進めている。ポスコグループの主力事業は鉄鋼、二次電池材料、建設・インフラなどだ。このうち、鉄鋼は中国鉄鋼業界の供給過剰や米国の鉄鋼関税賦課、二次電池は世界の電気自動車(EV)市場の伸び鈍化といった厳しい環境に置かれている。また、建設も、地方を中心とした韓国内の住宅需要停滞や、低調な海外建設受注を背景に、業績は芳しくない。ちなみに、グループ持ち株会社のポスコホールディングスの業績について、2022年と2024年を比べると、売上高は2022年84兆7,502億ウォンから2024年72兆6,881億ウォンに14.2%減少し、営業利益は2022年4兆8,501億ウォンから2024年2兆1,766億ウォンに55.2%減少した。その結果、売上高営業利益率も2022年5.7%から2024年3.0%に低下した。

このような中、ポスコグループでは、低採算事業やノンコア事業の売却を進め、成長が見込まれる分野に投資する資金の捻出を図っている。経済誌「毎経エコノミー」(2278号、2024年10月2日~8日)は「ポスコグループは鉄鋼と二次電池材料事業以外の不必要な事業は整理するという立場だ。ポスコ関係者は『2026年までの構造改編を通じて、2兆6,000億ウォン程度の資金を確保し、成長のためのコア事業に再投資する計画』と明らかにした」と報じている。

事業売却について、ポスコグループは2024年、「低収益事業・ノンコア資産構造改編プロジェクト」として125件を選定し、これらの売却を進めている。韓国メディアによると、2025年1月以降、総合商社のポスコインターナショナルがベトナムの第2モンズオン石炭火力発電所の持ち分30%全量を売却、IT・エンジニアリング企業のポスコDXが電力需要管理事業を売却、鉄鋼メーカーのポスコが浦項市内の不動産の一部を売却と、矢継ぎ早に事業や資産を売却している。また、ポスコホールディングスは2025年2月、中国の中偉新材料(CNGR)との合弁で慶尚北道浦項市に設立したポスコCNGRニッケルソリューション(二次電池用ニッケル生産)を解散することを決定した。さらに、ポスコホールディングスは同年7月、赤字が続く中国生産拠点の張家港浦項不銹鋼(ステンレス鋼生産)を中国の青山集団に4,000億ウォン台で売却する契約を締結した。「ソウル経済新聞」(2025年8月12日、電子版)は「ポスコグループは2024年から事業再編を通じ、56件の低収益事業とノンコア資産を整理した。年内に40件強についてさらに進め、合計2兆ウォン規模の資金を確保する計画」と報じている。

米国の鉄鋼、二次電池分野で現代自動車グループと連携

一方、ポスコグループは鉄鋼分野、二次電池材料分野などで有望事業に投資を続けている。鉄鋼分野では、米国ルイジアナ州で現代自動車グループが建設を進める電炉製鉄所への出資(後掲の表2参照)、インド・オディシャ州での一貫製鉄所の建設(JSWグループとの合弁)といった大型プロジェクトを進めている。二次電池材料分野では、カナダ・ケベック州の正極材工場建設(GMとの合弁)、慶尚北道浦項市と全羅南道光陽市の正極材工場増強などを進めている。さらに川上工程の二次電池原料分野では、リチウムのサプライチェーン強靭(きょうじん)化や、チリやオーストラリアでの資源確保に注力している。

なお、競争力強化のための注目すべき動きとして、ポスコグループと現代自動車グループによる「鉄鋼および二次電池分野の相互協力のための業務協約書」の締結(2025年4月)が挙げられる(表2参照)。粗鋼生産量で韓国1位はポスコ、同2位は現代製鉄で、両社は競合関係にある。それにもかかわらず、トランプ米政権の関税政策への対応や、重要鉱物の安定供給確保の必要性の高まりといった国際情勢の変化が競合関係にあった両グループの連携を促すかたちとなった。

表2:「鉄鋼および二次電池分野の相互協力のための業務協約書」の概要

鉄鋼
項目 内容
概要 現代自動車グループが建設する米国ルイジアナ州の製鉄所にポスコグループが出資。
ポスコグループの狙い 米国とメキシコに円滑に素材を供給できる、柔軟な生産・販売体制を構築する。
現代自動車グループの狙い 主要完成車メーカーに高品質の自動車鋼板を安定的に供給する。
二次電池
項目 内容
概要 リチウムや負極材など、二次電池のコア素材の安定的なサプライチェーンを構築。
ポスコグループの狙い 世界3位の現代自動車グループと安定的な供給網を構築することで、二次電池素材企業としての地位を強化する。
現代自動車の狙い 海外でリチウム原料を確保し、グループ内で水酸化リチウムや正極材、負極材を生産しているポスコグループと提携することにより、二次電池素材を安定的な供給を受ける。

出所:ポスコホールディングス(2025年4月21日)、現代自動車グループ(2025年4月21日)を基に作成

執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
百本 和弘(もももと かずひろ)
ジェトロ・ソウル事務所次長、海外調査部主査などを経て、2023年3月末に定年退職、4月から非常勤嘱託員として、韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。