2年連続プラス成長、建材や消費財分野で海外から投資(ウクライナ)

2025年5月30日

2024年は、ロシアによるウクライナへの全面侵攻開始から3年目に当たる。ウクライナ経済は、不透明な終戦への見通し、エネルギーや人材の不足やコスト上昇、高まるインフレなど、戦争の影響を受けやや減速しながらも、2年連続でプラス成長を記録した。今後10年間で5,240億ドルに上ると予測されている莫大な復興需要(2025年3月3日付ビジネス短信参照)と、欧州統合を見据えたウクライナ市場の可能性から、さまざまな分野でビジネスが動いている。本稿では、2024年におけるウクライナ経済、貿易、海外直接投資について分析する。

マクロ経済:やや減速しながらも、GDPがプラス成長

ウクライナの2024年の実質GDP成長率は前年比2.9%。プラス成長を維持したものの、前年の5.5%から2.6ポイント減と減速した。

需要項目別にみると、(1)家計最終消費支出(6.8%増)や、(2)総固定資本形成(3.5%増)などが下支えした(表1-1参照)。(1)は、賃金上昇に伴う個人消費の拡大を反映した結果だ。(2)では、民間企業の設備投資やインフラ再建、防衛産業の拡大などへの公共投資などが寄与した。

産業別には、金融・保険業が27.4%増加したほか、行政・強制社会保障(2.4%増)、製造業(6.0%増)、運輸・倉庫業(11.4%増)、教育(10.8%増)、情報通信業(8.3%増)、建設業(16.2%増)などが実質GDPの成長に寄与した。一方、酷暑や干ばつが農業に影響し、農林水産業は7.3%減、卸売り・小売り・車両修理業は4.1%減だった(表1-2参照)。

表1-1:ウクライナの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 △ 28.8 5.5 2.9 6.8 4.0 2.2 △ 0.1
階層レベル2の項目家計最終消費支出 △ 28.7 4.3 6.8 6.6 7.9 8.8 4.2
階層レベル2の項目政府最終消費支出 31.4 9.2 △ 4.5 7.3 △ 7.3 △ 11.2 △ 2.8
階層レベル2の項目総固定資本形成 △ 33.9 65.9 3.5 △ 1.9 △ 0.4 4.6 9.5
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 △ 42.0 △ 5.9 10.3 7.9 11.5 13.4 8.5
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 △ 17.4 8.9 7.7 △ 1.2 16.4 7.9 8.9

注:四半期の伸び率は前年同期比。
出所:ウクライナ国家統計局

表1-2:ウクライナのGDPの産業別構成比と成長率(2024年)(単位:%)(△はマイナス値、-は値なし)
産業 構成比 成長率
行政・強制社会保障 20.4 2.4
卸売り・小売り・車両修理業 11.8 △ 4.1
製造業 8.4 6.0
農林水産業 7.1 △ 7.3
不動産業 5.3 5.2
電気・ガス・熱供給業 4.7 △ 2.7
運輸・倉庫業 4.6 11.4
情報通信業 4.0 8.3
鉱業・採石業 4.0 3.6
教育 3.6 10.8
金融・保険業 3.0 27.4
保健・社会事業 2.7 4.3
専門・科学技術、業務支援サービス業 2.0 3.3
建設業 1.7 16.2
その他 16.6

注1:構成比は四捨五入のため、合計は100%にならない。
注2:産業別構成比は名目GDPに基づく。産業別成長率は実質GDPベース。
出所:ウクライナ国家統計局

貿易:3年ぶりに輸出増、貿易赤字は拡大

2024年の貿易は、輸出が前年比15.3%増の417億3,312万ドル。3年ぶりに前年比で増加した。輸入は11.3%増の707億5,122万ドル。貿易収支は大幅赤字(輸入超過290億1,810万ドル)だった。

輸出を品目別にみると、最大品目は、「植物性製品」(構成比32.4%)だった。伸び率は前年比15.5%増で、輸出全体の伸びに最も貢献した。内訳をみると、「穀物」(22.6%)の13.4%増、「採油用の種子や果実」(8.1%)の20.4%増が同品目全体の伸びを牽引した。また、「鉱物性生産品」(8.2%)は、「鉱石、スラグ、灰」および灰」(7.0%)の57.3%増が牽引した結果、42.1%増と大きく伸びた(表2-1参照)。

輸入を品目別にみると、最大品目は「機械、設備、電気機器など」(構成比21.3%)で、33.6%増と好調だった。「電気機器」(11.9%)の前年比40.7%増、「原子炉・ボイラー・機械類」(9.4%)の25.5%増などが牽引した。そのほか、「車両、航空機、船舶および輸送機器関連品」(12.8%)も15.8%増と堅調に伸びた。内訳をみると、「ドローンを含む航空機」(2.1%)の88.7%増、「鉄道を除く陸上輸送機器」(10.7%)の8.4%増が寄与した。一方、「鉱物性燃料」(12.6%)は、前年比14.1%減と落ち込んだ(表2-2参照)。

表2-1:ウクライナの主要品目別輸出 (単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
植物性製品 11,716,694 13,527,638 32.4 15.5
階層レベル2の項目穀物 8,306,666 9,418,264 22.6 13.4
階層レベル2の項目採油用の種子や果実 2,819,494 3,393,754 8.1 20.4
動植物性油脂 5,649,064 5,756,426 13.8 1.9
卑金属およびその製品 3,916,298 4,456,347 10.7 13.8
階層レベル2の項目鉄鋼 2,647,708 3,096,343 7.4 16.9
階層レベル2の項目鉄鋼製品 880,817 947,216 2.3 7.5
調製食料品 3,271,695 3,755,723 9.0 14.8
階層レベル2の項目食品工業における残留物およびくず 1,397,472 1,481,089 3.5 6.0
鉱物性生産品 2,415,051 3,432,356 8.2 42.1
階層レベル2の項目鉱石、スラグ、灰 1,870,050 2,940,866 7.0 57.3
階層レベル2の項目鉱物性燃料など 392,254 201,480 0.5 △ 48.6
機械、設備、電気機器など 2,621,476 3,142,905 7.5 19.9
階層レベル2の項目電気機器 1,664,386 2,278,029 5.5 36.9
階層レベル2の項目原子炉・ボイラー・機械類 957,089 864,876 2.1 △ 9.6
動物および動物性生産品 1,363,233 1,643,521 3.9 20.6
階層レベル2の項目肉・肉製品 892,295 1,052,793 2.5 18.0
木材およびその製品 1,493,431 1,465,659 3.5 △ 1.9
合計(その他含む) 36,182,903 41,733,116 100.0 15.3

出所:ウクライナ国家統計局

表2-2:ウクライナの主要品目別輸入 (単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
機械、設備、電気機器など 11,258,352 15,037,055 21.3 33.6
階層レベル2の項目電気機器 5,957,947 8,384,090 11.9 40.7
階層レベル2の項目原子炉・ボイラー・機械類 5,300,404 6,652,965 9.4 25.5
鉱物性生産品 10,633,210 9,162,141 12.9 △ 13.8
階層レベル2の項目鉱物性燃料 10,363,353 8,898,246 12.6 △ 14.1
車両、航空機、船舶および輸送機器関連品 7,845,634 9,088,604 12.8 15.8
階層レベル2の項目鉄道を除く陸上輸送機器 6,972,590 7,560,274 10.7 8.4
階層レベル2の項目航空機 776,204 1,464,391 2.1 88.7
化学工業製品 7,437,583 8,065,086 11.4 8.4
階層レベル2の項目医薬品 2,141,813 2,432,694 3.4 13.6
階層レベル2の項目その他の化学工業製品 1,218,310 1,267,249 1.8 4.0
階層レベル2の項目肥料 1,231,194 1,181,167 1.7 △ 4.1
高分子材料、プラスチックおよびその製品 3,732,263 3,880,853 5.5 4.0
階層レベル2の項目プラスチックおよびその製品 2,798,205 2,865,927 4.1 2.4
卑金属およびその製品 3,362,537 3,873,905 5.5 15.2
階層レベル2の項目鉄鋼 1,308,665 1,487,043 2.1 13.6
階層レベル2の項目鉄鋼製品 904,687 1,038,444 1.5 14.8
調製食料品 3,252,373 3,657,677 5.2 12.5
合計(その他含む) 63,567,000 70,751,216 100.0 11.3

出所:ウクライナ国家統計局

輸出を国・地域別にみると、EUが全体の59.5%を占めた(前年比6.2%増)。EUへの主要な輸出品目は、「植物性製品」(構成比27.3%)、「動植物性油脂」(13.6%)、卑金属およびその製品(11.6%)、機械、設備、電気機器など(10.2%)が挙げられる。国単位では、ポーランドが最大の輸出相手国で、全体の11.3%を占めた(前年比1.0%減)。「鉄鋼」(構成比16.0%、前年比29.3%減)や「穀物」(0.4%、90.8%減)が大幅に減少した一方、「鉱石、スラグ、灰」(10.7%、41.5%増)や「電気機器」(8.1%、71.8%増)の増加により、全体ではほぼ横ばいになった。続くスペイン(6.9%)は、「穀物」(67.0%)の34.7%増、「動植物性の油脂」(21.3%)の2.4倍の伸びが牽引し、42.6%増となった。(表3-1参照)。

EU域外で最大の輸出先は中国だった(5.7%)。全世界では、国別に4位に当たる。前年比0.5%減。最大の輸出品目「鉱石、スラグ、灰」(構成比42.7%)が11.7倍と大幅に伸びた一方、「穀物」(31.9%)が33.7%減、「動植物性の油脂」(6.5%)が75.1%減と大幅に落ち込んだ。トルコ(5.3%)は、6.8%減。最大の輸出品目の「穀物」(33.8%)が25.0%増だった一方、「動植物性の油脂」(16.4%)の57.2%減、「採油用の種子や果実」(11.9%)の30.4%減などが大きく影響した。

輸入を国・地域別でみると、EUが全体の50.5%を占め、前年比9.9%増だった。EUからの主要な輸入品目には、「鉱物性生産品」(構成比17.4%)、「機械、設備、電気機器など」(15.2%)、「化学工業製品」(13.7%)、「車両、航空機、船舶および輸送機器関連品」(11.1%)などがある。EU域内で最大の輸入相手国はポーランド(全世界では2位)で、前年比6.2%増だった。最大品目の「鉱物性燃料」(20.6%)が7.1%増だったほか、「電気機器」(5.3%)が29.5%増、「航空機」(1.7%)2.7倍と好調だった(表3-2参照)。

全世界最大の輸入相手国は中国(構成比20.3%)で、前年比37.5%増だった。最大の輸入品目である「電気機器」(31.8%)は、58.6%増。そのほか、「原子炉・ボイラー・機械類」(14.1%)は28.5%増、「航空機」(8.3%)は3.4倍など、大多数の品目で輸入が増加した。

全世界で5位の米国は、21.3%増だった。最大の輸入品目である「鉄道を除く陸上輸送機器(トラクターや自動車など)」(31.4%)の20.8%増、「電気機器」(6.9%)の65.4%増、「鉱物性燃料」(16.4%)の17.9%増、「原子炉・ボイラー・機械類」(7.9%)の42.5%増などが寄与した。

表3-1:ウクライナの主要国・地域別輸出 (単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
EU 23,392,076 24,830,921 59.5 6.2
階層レベル2の項目ポーランド 4,755,386 4,708,911 11.3 △ 1.0
階層レベル2の項目スペイン 2,008,263 2,863,457 6.9 42.6
階層レベル2の項目ドイツ 2,019,672 2,840,752 6.8 40.7
階層レベル2の項目オランダ 1,490,860 1,990,368 4.8 33.5
階層レベル2の項目イタリア 1,536,893 1,935,654 4.6 25.9
階層レベル2の項目ルーマニア 3,764,884 1,762,025 4.2 △ 53.2
階層レベル2の項目ハンガリー 1,184,875 1,152,058 2.8 △ 2.8
中国 2,406,355 2,393,841 5.7 △ 0.5
トルコ 2,368,507 2,207,967 5.3 △ 6.8
エジプト 1,085,021 1,636,386 3.9 50.8
日本 35,050 37,882 0.1 8.1
合計 36,182,903 41,733,116 100.0 15.3

出所:ウクライナ国家統計局

表3-2:ウクライナの主要国・地域別輸入 (単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
EU 32,487,268 35,705,306 50.5 9.9
階層レベル2の項目ポーランド 6,577,759 6,988,059 9.9 6.2
階層レベル2の項目ドイツ 5,061,679 5,385,047 7.6 6.4
階層レベル2の項目イタリア 2,278,224 2,575,840 3.6 13.1
階層レベル2の項目チェコ 1,789,422 2,475,898 3.5 38.4
階層レベル2の項目ブルガリア 2,221,322 2,360,111 3.3 6.2
階層レベル2の項目ギリシャ 1,374,109 2,066,265 2.9 50.4
階層レベル2の項目スロバキア 1,676,886 2,001,053 2.8 19.3
中国 10,444,502 14,363,334 20.3 37.5
トルコ 4,723,378 4,240,784 6.0 △ 10.2
米国 2,862,842 3,471,586 4.9 21.3
日本 908,268 948,072 1.3 4.4
合計 63,567,000 70,751,216 100.0 11.3

出所:ウクライナ国家統計局

対日貿易:越冬支援やインフラに関連した輸出が増加

2024年の対日貿易は、輸出が前年比8.1%増で、3,788万2,402ドル(国別で65位)。輸入が4.4%増、9億4,807万2,487ドルだった(同18位)。輸出入ともに増加したかたちだ。

対日輸出を品目別にみると、最大の輸出品目である「アルミニウムおよびその製品」(構成比33.5%)が、前年比70.4%増。「乳・乳製品、卵、はちみつ」や、「野菜の調製品」も大幅に伸びた(表4-1参照)。

日本からの輸入では、最大の輸入品目である「鉄道を除く陸上輸送機器」(構成比58.3%)は、前年比9.6%減だった。もっとも、「原子炉・ボイラー・機械類」、や「鉄鋼製品(鉄道用のレールを含む)」は、大幅に増加した。この両方とも、越冬支援やインフラ再建に関連している(表4-2参照)。

表4-1:ウクライナの対日主要品目別輸出
輸出 (単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
アルミニウムおよびその製品 7,444 12,685 33.5 70.4
穀物 12,663 9,487 25.0 △ 25.1
乳・乳製品、卵、はちみつ 771 3,160 8.3 309.8
野菜の調製品 136 2,316 6.1 1,601.4
木材およびその製品 2,017 1,722 4.5 △ 14.6
無機化学品 2,401 1,365 3.6 △ 43.2
その他の化学製品 1,591 1,280 3.4 △ 19.5
動植物性の油脂 366 1,117 2.9 205.4
有機化学品 816 1,015 2.7 24.4
原子炉・ボイラー・機械類 270 602 1.6 122.4
衣類および衣類附属品 384 413 1.1 7.4
玩具 387 388 1.0 0.2
全体(その他含む) 35,050 37,882 100.0 8.1

出所:ウクライナ国家統計局

表4-2:ウクライナの対日主要品目別輸入
輸入 (単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
鉄道を除く陸上輸送機器 611,398 552,463 58.3 △ 9.6
原子炉・ボイラー・機械類 77,747 115,946 12.2 49.1
光学機器、映画用機器など 70,217 87,241 9.2 24.2
鉄鋼製品 2,861 43,136 4.5 1,407.6
電気機器 39,543 41,808 4.4 5.7
医療用品 22,060 19,174 2.0 △ 13.1
ゴムおよびその製品 18,578 13,327 1.4 △ 28.3
有機化学品 8,320 9,954 1.0 19.6
合成短繊維 9,042 8,548 0.9 △ 5.5
プラスチックおよびその製品 6,904 6,993 0.7 1.3
その他の化学製品 4,727 6,845 0.7 44.8
雑品 5,343 6,805 0.7 27.3
全体(その他含む) 908,268 948,072 100.0 4.4

出所:ウクライナ国家統計局

対内直接投資:個人消費品から建材まで、製造業投資が活発

ウクライナ国立銀行(NBU、中央銀行)によると、2024年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、33億2,890万ドルだった(前年比25.8%減)。

国・地域別でみると、EUからの直接投資は25億6,019万ドルとなり、全体の76.9%を占めた(前年比29.3%減)。

国単位でみると、次のとおり(表5参照)。

  • 首位はキプロス。10億3,442万ドルで、全体の31.1%を占めた(8.5%減)。続くオランダは、6億6,502万ドルだった(40.5%減少)。
  • 米国は9,324万ドルで、2021年以降の最低水準(74.1%減)。
  • 日本は12位に位置し、7,039万ドルだった(20.6%減)。
表5:ウクライナの国・地域別対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)(単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値、-は値なし)
国・地域名 2021年 2022年 2023年 2024年
金額 金額 金額 金額 構成比 伸び率
EU 5,443,910 △ 94,497 3,621,665 2,560,189 76.9 △ 29.3
階層レベル2の項目キプロス 1,674,371 △ 77,733 1,129,957 1,034,417 31.1 △ 8.5
階層レベル2の項目オランダ 1,435,192 △ 532,423 1,117,646 665,018 20.0 △ 40.5
階層レベル2の項目ポーランド 227,885 96,749 191,033 172,476 5.2 △ 9.7
階層レベル2の項目フランス 177,195 191,422 266,083 151,053 4.5 △ 43.2
階層レベル2の項目オーストリア 167,827 121,096 278,697 150,742 4.5 △ 45.9
階層レベル2の項目ルクセンブルク 321,062 262,377 284,468 89,370 2.7 △ 68.6
階層レベル2の項目スウェーデン 160,858 △ 43,650 26,450 80,321 2.4 203.7
階層レベル2の項目ドイツ 695,313 △ 284,002 △ 60,149 21,796 0.7
スイス 693,325 361,696 28,553 328,431 9.9 1,050.3
サウジアラビア 22,954 29,721 △ 4,671 171,139 5.1
米国 326,600 215,443 359,769 93,236 2.8 △ 74.1
UAE 14,366 5,494 45,466 77,580 2.3 70.6
日本 15,500 △ 55,705 88,708 70,395 2.1 △ 20.6
トルコ 109,732 △ 33,178 59,585 19,113 0.6 △ 67.9
英国 245,476 266,049 300,036 △ 99,704
合計(その他含む) 7,319,956 531,434 4,484,651 3,328,913 100.0 △ 25.8

出所:ウクライナ国立銀行

業種別にみると、製造業への対内直接投資額は7億6,702万ドルで、全体の23.0%を占めた。前年比23.2%増だった。

  • そのうち顕著に伸びたのは、「木材・木工品・紙製品・印刷物」だ(94.8%増)。
    例えば、オーストリアのクロノスパンは、2億ユーロを投じ、ウクライナ北西部のリウネ州に配向性ストランドボード(OSB)の生産ラインを設立した(2024年12月10日付ビジネス短信参照)。
  • 製造業投資の中で最大なのは「食品、飲料、たばこ」。直接投資額は3億8,774万ドルで、全体の中で11.6%を占めている。
    例えば、スイスのネスレは2024年、9億フリブニャ(約2,170万ドル、1フリブニャ=約41.5ドル)を投じ、ウクライナの3工場における、生産ラインの自動化やデジタル化、設備投資などを行った。また、2023年5月に建設開始を発表した、ウクライナ北西部にあるボリーニ州の新工場には、4,000万スイス・フラン(約4,760万ドル、1スイス・フラン=約1.19ドル)の投資を見込んでいる。同州のトルチン工場とあわせ、欧州における調理用製品の生産ハブになる予定だ。
    また、JTインターナショナル(Japan Tabacco International)は、Ploom Xアドバンスド(加熱式たばこ)の製造ライン拡張などに、2026年までに6,000万ドルを投資する計画だ。当地で加熱式たばこの売上高は、全世界で6位を誇る。そうした需要の高さを背景にした投資判断だ。(「ビジネス・ウクライナ」2025年1月11日)。
  • そのほか建材を製造する施設の建設も、発表が相次いだ(表6、表7参照)。

非製造業では、次のとおり。

  • 「小売り・卸売り・車両修理業」が7億7,795万ドルで、全体の23.4%を占めた。もっとも、前年比では50.6%減と大幅に縮小した。
  • 小売り分野の投資例としては、リトアニアのコンサル・トレード・ハウスの案件がある。当地でNOVUSなどの小売りチェーンを展開する企業だ。「インターファクス・ウクライナ」によるオレクシー・パナセンコ事業担当副社長へのインタビュー記事(2024年12月19日)によると、同社は2023~2024年にかけて、13億6,000万フリブニャ(約3,280万ドル、1フリブニャ=約41.5ドル)を投資した。その目的は、(1)小売りネットワークや物流センターの拡大、(2)損傷した設備の修復、(3)施設のエネルギー効率の向上などという。
  • 「情報通信業」では、アゼルバイジャンのネクソルが、2024年に62億フリブニャ(約1億4,940万ドル)を投資。通信基地を設置・修復し、固定ブロードバンドとLTEのネットワークを開発するなどした。なお同社は2019年、ボーダフォン・ウクライナを統合した。

前述のとおり、ウクライナでは2024年、戦後復興にとどまらず、幅広い分野において投資が行われた。その分野は、インフラ再建から個人消費に及ぶ。ウクライナ政府はさらなる民間部門の投資を呼び込むため、国際パートナーと連携し、(1)工業団地の整備、(2)税制優遇やリスク保険の拡充、(3)大規模投資向けの包括的支援プログラムなど、投資誘致策の拡大に注力している。

表6:ウクライナの業種別対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)
対内直接投資(単位:1,000ドル、%) (△はマイナス値、-は値なし)
業種 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
農林水産業 130,629 △ 5,510
製造業 622,797 767,020 23.0 23.2
階層レベル2の項目食品、飲料、たばこ 538,941 387,738 11.6 △ 28.1
階層レベル2の項目ゴム・プラスチック・非金属鉱物製品 235,946 203,861 6.1 △ 13.6
階層レベル2の項目木材・木工品・紙製品・印刷物 94,934 184,952 5.6 94.8
階層レベル2の項目機械製造(特定の機械類や設備を除く) 127,781 125,924 3.8 △ 1.5
階層レベル2の項目医薬品 26,573 35,268 1.1 32.7
階層レベル2の項目化学品 △ 70,037 △ 176,451
小売り・卸売り・車両修理業 1,573,253 777,952 23.4 △ 50.6
金融・保険業 761,637 742,474 22.3 △ 2.5
不動産業 214,517 362,627 10.9 69.0
情報通信業 607,293 143,272 4.3 △ 76.4
運輸・保管業 213,732 118,302 3.6 △ 44.6
宿泊・飲食サービス業 50,792 100,327 3.0 97.5
電気・ガス等供給業 128,852 96,724 2.9 △ 24.9
管理・支援サービス業 △ 1,391 52,520 1.6
合計(その他含む) 4,484,651 3,328,913 100.0 △ 25.8

出所:ウクライナ国立銀行

表7:ウクライナの主な対内直接投資案件(2024年)
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
日用
消費財
ユニリーバ 英国 2024年3月 2,000万ユーロ ユニリーバは、2023年に発表したパーソナルケア製品の新工場の建設について、キーウの南西に位置するビラ・ツェルクバ工業団地での建設を開始したことを発表した。新工場の建設敷地総面積は4.2ヘクタールで、年間5,000トン以上の生産能力を見込む。2024年末までに完成予定。
建材 アルセロール・ミッタル・コンストラクション ルクセンブルク 2024年4月 4,000万ユーロ キーウに持続可能な材料を使用した高度なプロファイルと断熱パネルを製造する最先端の生産施設を建設することを発表。投資金額は4,000万ユーロで、100人の雇用を創出する見込み。
タバコ フィリップ・モリス・インターナショナル 米国 2024年5月 約4,580万ドル 3,000万ドルを投じたリビウ州の新工場の開設を発表。生産能力は年間でタバコ100億本。複数の報道によれば、同社は2024年、販売店舗数の増加、サービスインフラの拡張、雇用の創出などに1,100万ドルを投資することを発表。2025年には、ニコチンパウチ「ジン」の販売のために2億フリブニャ(約480万ドル)を投資する予定。
タバコ JTインターナショナル(JTI) スイス 2024年7月 6,000万ドル 「ビジネス・ウクライナ」によるJTI ウクライナのスビトラーナ・シャラモクCEOへのインタビュー記事(2025年1月11日)によると、JTIは2026年までに加熱式タバコPloom X アドバンスドの生産ライン拡張などに6,000万ドルを投資予定。同社はこれまでウクライナに4億ドル以上の投資をしている。
建材 ペイッコ・グループ フィンランド 2024年8月 キーウ近郊のビラ・ツェルクバに2,400平方メートルのプレキャスト接合部やフロア・ジョイントなどの生産施設および倉庫を建設することを発表。同社は2023年、キーウに販売・エンジニアリング拠点を設立した。新たな生産拠点は、2025年の第1四半期に稼働開始予定。
建材 サンゴバン フランス 2024年11月 1,100万ユーロ 2023年に着工したイワノ・フランキウスク州の石膏混合物の生産工場開設を発表。生産能力は年間6万トン。50人の雇用を生み出し、年間6万トンの生産能力を予定する。
木材
パネル
クロノスパン オーストリア 2024年11月 2億ユーロ ウクライナ経済省の発表(11月29日)によると、木質パネルメーカーのクロノスパンは2億ユーロを投じ、ウクライナ西部のリウネ州に配向性ストランドボード(OSB)の生産ラインを立ち上げた。
小売 コンサル・トレード・ハウス リトアニア 13億6,000万フリブニャ 2023~2024年にかけて13億6,000万フリブニャ(約3,280万ドル)を投資し、NOVUSやMi Marketの店舗数や物流センターの拡大、損傷設備の修復、エネルギー効率化のための太陽光パネルやガスジェネレーターを含む設備投資などを実施。2024年末時点でキーウ及びその周辺に115の店舗を保有。
建材 クナウフ ドイツ 2025年1月 1億5,000万ユーロ ウクライナ西部のテルノーピリ州ボルシチウに2つ目となる工場建設の開始を発表。年間で3,000平方メートルの石膏ボード、32万トンの乾燥建材ミックスの生産能力を見込む。
食品 ネスレ スイス 2025年2月 9億フリブニャ+4,000万スイス・フラン 2024年、ウクライナの3つの工場における生産ラインの自動化・デジタル化、生産施設のインフラ整備などに9億フリブニャ(約2,170万ドル)以上を投資し、輸出量は76%増加したと発表。ウクライナ北西部のボリーニ州には4,000万スイス・フラン(約4,760万ドル)を投じて新工場を建設することが発表されている。
通信 ネクソル(ボーダフォン・ウクライナ) アゼルバイジャン 62億フリブニャ 2019年12月からボーダフォン・ウクライナはアゼルバイジャンのネクソルに統合された。2024年、同社はウクライナにおける通信基地の設置・修復、固定ブロードバンドネットワークの開発、LTEネットワーク開発などに62億フリブニャ(約1億5,000万ドル)を投資した。

出所: 各社発表および報道などから作成

執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課ロシアCIS班
柴田 紗英(しばた さえ)
2021年、ジェトロ入構。農林水産食品部、ジェトロ・ワルシャワ事務所を経て、2024年9月から現職。