TICADで議論、日アフリカで「互いに与え合う時代」へ
日アフリカの若者が共創する新時代とは
2025年9月30日
日本政府が主導する国際会議「第9回アフリカ開発会議(TICAD9)」が2025年8月20~22日に横浜市で開催された。ジェトロは「TICAD Business Expo & Conference(TBEC)」を主催し、3日間で計68本のステージイベントが開催された(2025年8月27日付ビジネス短信参照)。会期初日には、「日・アフリカ新時代を切り拓く」をテーマに、3部構成のセッションが行われた。本稿で紹介する第2部のステージ「日アフリカ新時代の担い手」では、日アフリカの新時代を担っていくのはどのような人たちなのか、日アフリカはどのように共創できるのか、議論が行われた。
まず、パネルディスカッションの冒頭で、モデレーターの佐藤丈治ジェトロ・ナイロビ事務所長は、新時代の担い手について「それはつまり日アフリカの若年層、若者だ」とし、日アフリカ関係の停滞感と、アフリカの若者に対する期待について述べた。近年、ビジネスを通じたアフリカとの関係強化が重要視されてきた一方で、日本からアフリカへの投資は、他地域への投資と比較するとまだ低水準にとどまるのが実態だ。かつては、日本から遠く離れたアフリカの地でも日本製品の存在感は大きかったが、今やアフリカ市場にも中国や韓国製品が多く出回り、そのプレゼンスは日本製品を上回るほどだ。日本は、人口減少と高齢化に直面し、長く続く経済停滞は「失われた30年間」とも呼ばれる。対するアフリカは、人口増加が続くだけでなく、平均年齢19歳と、非常に若い大陸だ。TICADが初めて開催された1993年から両国の様子が大きく変わってきた中で、これからの日アフリカ関係を考えていくにあたり「若者」は重要なテーマだ。こうした背景を踏まえ、異なる分野やビジネスモデルで事業に取り組む登壇者らが、様々な切り口で「若者」について語った。登壇者は、表参照。
本社 所在国 |
企業名 | 概要 | 登壇者名 | 役職 |
---|---|---|---|---|
エジプト |
ダリラ (Daleela) ![]() |
中東・北アフリカ地域(MENA)で16万人以上のユーザーにサービスを提供する女性向けヘルスケアテックアプリ「Daleela」を運営。サービスのフォロワーは320万人を超える。 | ノア・モハメド・マフメド・イマム | 共同創業者兼社長 |
ケニア |
セミコンダクターテクノロジー (Semiconductor Technologies Ltd.:STL) ![]() |
ケニアでマイクロプロセッサー、メモリーチップ、センサー、光学部品など幅広い半導体やナノ加工製品を製造し、通信、自動車、航空宇宙、防衛などさまざまな業界にサービスを提供。 | アンソニー・ギシンジ | 創設者兼最高経営責任者 |
ナイジェリア |
クガリ・メディア7 (Kugali Media) ![]() |
英国やナイジェリアに拠点を構えるアニメーションスタジオ。2024年にウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ(以下、ディズニー)とともに、オリジナル長編アニメシリーズ「イワジュ」を発表した。 | トルワラキン・オロウォフォイェク | 共同創業者兼社長 |
日本 |
ソラテクノロジー (SORA Technology) ![]() |
愛知県に本社を置く日本のスタートアップ。ドローンとAI(人工知能)を中核とした、感染症対策や農業の生産性向上などのサービスを提供。 | マリー・エボア・アサンティワ | アフリカ事業統括 |
出所:ジェトロ作成
ダリラは、ターゲットを若い女性に据えて急成長しているヘルステック企業で、セミコンダクターテクノロジー(STL)は、大学との連携でアフリカの若者をトレーニングしながら半導体製造に取り組むアフリカ大陸初の半導体サプライヤーだ。クガリ・メディアは、アフリカの若者にも人気が高いアニメや漫画の製作を手掛けており、既にディズニーとの協業を果たし、アフリカのコンテンツ産業をリードしている。ソラテクノロジーは、日本のスタートアップだが、同社のアフリカ事業を統括するマリー・エボア・アサンティワ氏はガーナ出身で、日本の大学院で学んだ元留学生だ。
アフリカの若者が持つポテンシャルと抱える課題
アフリカの若者について、登壇者らは「デジタルやテックにたけており、新しいものにすぐに飛びつく」と述べた。一方で、アフリカの若者が知識や技術を得られる機会は限られているのも事実だ。ダリラのノア・モハメド・マフメド・イマム氏は、エジプトのデジタル技術はヘルスケアのニーズに追いついておらず、特に各世代用に設計されていない、と指摘した。エジプトの若い女性にとって、ヘルスケアに関する信頼できる情報へアクセスすることは容易ではないとし、都市部や農村部にかかわらず、若い女性が自分のいる場所からヘルスケアサービスにアクセスできるように、ダリラのサービスを始めた、と語った。ソラテクノロジーのアサンティワ氏は、アフリカの若者へ技術訓練やスキル開発を提供するために覚書(MoU)を締結したことを紹介し、SLTのアンソニー・ギシンジ氏は、大学の中に技術ハブを設置していることを紹介した。技術ハブを大学内に設置した理由について、ギシンジ氏は「実際に若者たちに機械や設備を触ってもらい、半導体製造が大変なものではないということを感じてほしかった」と述べた。STLは従業員のうち7割を女性が占めるのも特徴的で、ギシンジ氏はGDP成長だけではなく、実際に女性の社会参画を進めることも重要だ、とした。クガリ・メディアのトルワラキン・オロウォフォイェク氏は、自身について、ナイジェリア国内で教育を受け、インターネットを通じて絵の描き方や音楽の作り方、ウェブサイト構築のためのコーディングを学んだことを紹介した。こうした自身の経験を踏まえ、潜在的に才能を持つ人材は世界のどこにでも普遍的に存在する一方で、才能に目覚め、発揮する場へのアクセスは偏在している、と指摘した。こうしたギャップを埋める必要があるとしつつ、アフリカにいながらディズニーと協業した自身の例を引き合いに「海外の大学で技術やアートを学んでいたら、こうはならなかっただろう」と述べ、アフリカの若者がアフリカで才能を発揮する場が必要だとした。
- STLについては、2023年10月16日付地域・分析レポート「アフリカで半導体のセンター・オブ・エクセレンス構築を目指す(ケニア)」を参照。
- クガリ・メディアについては、2025年7月29日付地域・分析レポート「世界に挑むアフリカ発アニメとアフリカの日本アニメ人気とは」を参照。

日アフリカのビジネスを加速させるには
アフリカ大陸では中国や欧州、中東企業などとの競争が激しくなりつつある中、日アフリカのビジネスを加速させるために、日系企業はどのような視点が必要なのだろうか。
まず、1点目のポイントは、若者をターゲットにビジネスを展開していくことだ。若い女性をターゲットとしているダリラはまさしくその1例だ。ヘルスケアは多くの人にとって関心が高い問題だが、その中でも正しい情報へのアクセスに対するニーズが高い、若い女性に注目し、「アラブの女性にとって安心して使用できるかどうか」に着目しビジネスを特化しているのが、ダリラのポイントだ。サービス名の「ダリラ」はアラビア語で「あなたの案内者」という意味だという。AI(人工知能)がユーザーのヘルスケアに関する質問に回答する際、現地の文化や言語に配慮するよう設計されており、世界中で利用されている汎用(はんよう)的なAIとはこの点で大きく異なる。アラブの女性に向けたモデルにしたことで、利用者にとって安心感がある、とイマム氏は述べた。日本企業の多くの製品は高品質だが価格も高く、購買力の低いアフリカの若者はビジネスのターゲットになりづらい。しかし、増加するアフリカの人口と、若年層が占める割合を考慮すると、アフリカ市場開拓のヒントは若者のニーズにあるかもしれない。
2点目は、日本が持つ強みを生かしたビジネスだ。例えば、漫画やアニメは日本が誇るコンテンツ産業の1つで、アフリカでもコスプレイベントやファンイベントなどが開催されている。クガリ・メディアのオロウォフォイェク氏は、ナイジェリアで人気のコンテンツについて、音楽の分野ではアフロビーツと呼ばれるナイジェリアの音楽が最も人気だとしつつ、漫画では日本が一番人気だろうと答えた。日本のアニメがナイジェリアで人気になってきたのは1980年代で、当時子供だった、現在50代の大人たちもアニメを見ている、とした。その人気の秘訣(ひけつ)について、「他の国では、収益性が高いかどうかや、政治的に正しい作品でなければならないなど、制約が多い。一方、日本はクリエイター自身が作りたいものを作っている。それが、他の国の作品では見られないような創造性やユニークさにつながり、消費者の心に訴えかけてくるのでは」と指摘した。一方で、ソラテクノロジーは日本の技術を武器にしている。アサンティワ氏は、自社の強みについて、(1)日本企業なので高品質のイメージを持ってもらいやすく、取引先や関係者からの信頼感や愛着を高めやすい、(2)マラリア対策にAIとドローンを活用するというだけで関心を持ってもらえる、(3)アフリカの問題をきちんと解決しようとしている、の3点を挙げた。中国や韓国製品の技術が向上し、品質で勝負してきた日本製品が苦戦を強いられる中、ただ技術を売りにするだけでなく、イノベーションや社会課題解決を組み合わせることで、新たな商機が見えてくる可能性がある。
- ソラテクノロジーについては、2025年6月4日付地域・分析レポート「SORA Technology、ドローンとAIで感染症対策や農業の生産性向上に貢献(アフリカ)」を参照。
与え・受け取る関係から、お互いが与え合う時代へ
これからの日アフリカ関係について、登壇者らは「一方が与え、片方が受け取る関係ではなく、お互いが与え合い、一緒に何かを作り上げるパートナーになることができるはずだ」と述べ、改めて日アフリカ間のビジネスを通じた関係強化の必要性を訴えた。
日本への期待について、ダリラのイマム氏は、既に日系企業との協業に向けて取り組みを始めていると紹介した。加えて、女性が実際に健康診断を受けられるよう、日系病院のサテライトクリニックなどで協力することもできると話した。クガリ・メディアのオロウォフォイェク氏は、日本のクリエイティブ産業との共創にぜひ取り組みたいとし、特にビデオゲームの製作に関心を示した。
SLTのギシンジ氏は、「日本企業は信頼できる」と述べた。クライアントやベンダーとの関係の中でデューデリジェンスを徹底したとしても、結局は信頼が大切であり、日本のパートナーは、合意した通りに物事を進めてくれる、と評価した。そのうえで、「自社のサプライチェーンに日本の技術を届けてほしい。トレーニングや教育を受けることができれば、ケニアの若者たちも成長する」と述べ、アフリカのイノベーターとぜひ手を組んで欲しい、と呼びかけた。最後に、ソラテクノロジーのアサンティワ氏は、日本が持っている製造基準や技術は、今のアフリカに欠けているもので、アフリカのポテンシャルある若者はチャンスを待っている、と述べた。「日本の若者はスキルや知識がある。相互に協力しインパクトを生み出せるはずで、それがまさに新時代だ」と力強く締めくくった。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課
坂根 咲花(さかね さきか) - 2024年、ジェトロ入構。中東アフリカ課で主にアフリカ関係の調査を担当。