欧州系大規模OEMが集積
米サウスカロライナ州自動車産業(1)
2025年8月21日
自動車関連の製造施設が多く立地する米国南東部地域。2025年2月にいすゞ自動車が新工場設立を発表したサウスカロライナ(SC)州には、ドイツなど外国資本の企業を中心に自動車産業が集積しており、優れた物流機能や強固なコミュニティがそれを支えている(2025年2月13日付ビジネス短信参照)。前編では、SC州における自動車産業の概要を整理する。
外国資本の企業の大規模施設を中心に集積
SC州では、1994年にBMWがドイツ国外初の組立工場を同州スパータンバーグに建設してから自動車産業の集積が始まり、メルセデス・ベンツやホンダといった完成車メーカー(OEM)の工場や関連企業が多く立地している。SC州には繊維産業が集積していたものの、1980年代以降は同産業が海外に移転するなどして雇用が減少していたところに、BMWの投資が発表されたことで自動車産業への転換が始まった(注)。
業種が小売りとサービスに分類されている企業を除くと、同州には、282社の自動車製造関連企業が立地しており、その53.5%が米国企業だ。外国資本の企業では、ドイツ企業が最も多く(48社)、日本(22社)、フランス(12社)と続く(図1参照)。BMWの組立工場が立地するスパータンバーグ郡や、トヨタ系のジェイテクトが立地するグリーンビルといった州北西部に165社(58.5%)が立地しているほか、チャールストン港がある州南東部のチャールストン郡にも21社(7.4%)が立地している。

注:業種が「小売り」と「サービス」に分類されている企業を除く。
出所:サウスカロライナ州商務省データを基にジェトロ作成
同州に立地する自動車製造関連企業の過半数が米国企業である一方、大規模な施設は、外国資本の企業によるものが占める割合が高い(図2参照)。サウスカロライナ州商務省による州内立地の自動車製造関連企業256社のデータによると、米国企業137社の76.6%が従業員数100人以下で、500人超は2.2%にとどまる。一方で、外国企業は119社立地しており、従業員数100人以下が45.4%で、従業員数500人超が22.7%を占めている。外国企業の大規模な施設が州内に立地し、米国企業を中心とする中小企業がそれら外国企業を支えている構図がみられる。
従業員数別企業数および割合(2024年)

注:業種が「小売り」と「サービス」に分類されている企業を除く。
出所:サウスカロライナ州商務省データを基にジェトロ作成
ドイツ系のOEMや1次サプライヤーが立地し、EV関連投資も
従業員数500人超の自動車製造関連企業は30社あり、米国企業はそのうちの3社のみだ。残り27社は外国資本の企業で、うちドイツ企業は10社と最も多い。BMW、メルセデス・ベンツといったOEMやロバート・ボッシュ、シェフラー、ZFといった1次サプライヤー(Tier1)を中心に、ドイツ企業がSC州の自動車産業を牽引している(表参照)。
企業名 | 国 | 業種 | 概要 |
---|---|---|---|
BMWマニュファクチャリング | ドイツ | 自動車製造 | 1994年生産開始。同社にとってドイツ国外初の生産拠点。800万平方フィート(約74万3,200平方メートル)のキャンパスで1万1,000人を雇用しており、これまで650万台以上を生産。2024年は約40万台を生産し、うち22万5,000台を米国外120カ国へ輸出。 |
メルセデス・ベンツグループ | ドイツ |
自動車製造 (バン) |
1999年に大型トラックの生産を開始。2006年からは米国で唯一のメルセデス・ベンツ・バンの生産拠点としてバンの生産を開始。2018年には5億ドル以上を投じて生産施設を拡張した。 |
ボルボ・カー・USA | スウェーデン(中国) | 自動車製造 | 2017年生産開始。米国における同社初の生産拠点。2024年には電気自動車(EV)モデルEX90の生産も開始。 |
ロバート・ボッシュ | ドイツ | 自動車部品製造 | 州内に3拠点が立地。そのうち、チャールストン工場は米国最大規模の工場で、燃料噴射装置とブレーキシステムを生産。 |
シェフラーグループ | ドイツ | 自動車部品製造 | フォートミルに北米本社が立地。米国内8カ所の生産拠点のうち、4拠点が州内に立地。フォートミルではベアリングなどを生産。 |
ZFトランスミッションズ グレイコート |
ドイツ | 自動車部品製造 | 2012年生産開始。オートマチック・トランスミッションなどを製造。 |
フレイトリナー・カスタム・チャシス | ドイツ | 自動車部品製造 | 1995年設立。メルセデス・ベンツグループの企業で、ディーゼルのウォークインバン用シャーシなどを製造。 |
セージ・オートモーティブ・インテリア | 日本 | 自動車部品製造 | グリーンビルが本社の自動車内装材メーカー。2018年に旭化成が買収。 |
コンチネンタル・タイヤ・アメリカス | ドイツ | タイヤ製造 | フォートミルにタイヤ部門の北米本社が立地。サムター工場では、乗用車用および小型トラック用タイヤのプレミアムラインを、純正品および交換市場向けに生産。 |
ミシュラン・ノースアメリカ | フランス | タイヤ製造 | グリーンビルに北米本社が立地するほか、州内に15拠点が立地。 |
ブリヂストン・アメリカス・タイヤオペレーション | 日本 | タイヤ製造 | 2014年生産開始。オフロードタイヤを製造。 |
出所:サウスカロライナ州商務省、および各社ウェブサイトなどを基にジェトロ作成
電気自動車(EV)関連でも、同州に投資が集まっている。BMWは2022年、スパータンバーグの工場において、10億ドルを投じて新たにバッテリーEVを生産するほか、7億ドルを投じてスパータンバーグ近郊に高電圧バッテリー組立工場を建設すると発表しており、2030年までに同工場で少なくとも6車種のEVを生産する予定だ(2022年10月20日付ビジネス短信参照)。ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)傘下のスカウト・モーターズは同社初のEV製造工場を同州コロンビア近郊に20億ドルを投じて建設中で、2026年末までに生産が開始され、ピーク時の生産能力は年間20万台を予定している(2023年3月14日付ビジネス短信参照)。
また、政策とEV市場の不確実性が増したことを理由に建設が一時中断となっているものの、中国の再生可能エネルギー開発大手エンビジョングループ傘下のバッテリー企業AESC(本社:神奈川県座間市、旧エンビジョンAESC)は、総額31億2,000万ドルを投じて、バッテリー工場を同州フローレンス郡で建設中だ(2025年6月10日付ビジネス短信参照)。さらに、米国のレッドウッド・マテリアルズやプリンストンニューエナジー、サーバ・ソリューションズなどから、EV用バッテリーリサイクル関連の投資が発表されている(2024年6月26日付ビジネス短信参照)。
後編「米SC州自動車産業(2)物流や強固なコミュニティが強み」では、サウスカロライナ州の自動車産業を支える同州のビジネス環境を解説する。
- 注:
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リッチモンド連邦準備銀行のレポート
によると、BMWの同州への誘致は、当時のキャロル・キャンベル知事が同社にコールドコール(営業電話)をかけたことから始まった。同州がBMWに提供したインセンティブは、土地代やインフラ整備費用、労働力開発プログラムなど総額1億3,000万ドルを超えた。ドイツとの時差が少ないこと、サウスカロライナ・テクニカル・カレッジ・システムによる労働力開発プログラムが充実していたこと、チャールストン港などの効率的な物流網があったことなどが利点となった。労働組合組織率が低かった点も有利に働いたとされる。また、BMWは自社の従業員育成と業務プロセス構築を独自に行うことを望んでおり、自動車産業の経験がないサウスカロライナ州が魅力的だった。
米サウスカロライナ州自動車産業
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・アトランタ事務所
檀野 浩規(だんの こうき) - 2015年、ジェトロ入構。ジェトロ福岡、特許庁(出向)などを経て、2023年6月から現職。