物流や強固なコミュニティが強み
米サウスカロライナ州自動車産業(2)

2025年8月21日

サウスカロライナ州のビジネス環境は、全米のランキングで上位に挙がっており、同州のチャールストン港は、自動車部品の輸入額も全米上位となっている。後編では、物流を中心としたビジネス環境やAI(人工知能)活用の取り組みなどを解説する。

プロビジネスな環境と優れた物流

米国における企業の立地情報を提供する「エリア・ディベロップメント」誌による、2024年の全米州別ビジネス環境ランキング(総合)において、SC州は全米2位に選出された。同州は14項目のうち12項目でトップ10入りし、「州政府や地方自治体の対応」など4項目で1位を獲得している(注1)。さらに、2024年の労働組合組織率が2.8%と全米で3番目に低い水準となっている点も企業にとって魅力だ。

また、チャールストン港を中心に、優れた物流機能も自動車産業を支えている。チャールストン港は、2024年の自動車部品の港別輸入金額で全米4位だ(表1参照)。チャールストン港はドイツからの輸入金額が約56%を占めており、ドイツ企業の存在が大きい。

輸入金額1位のテキサス州ラレド港はメキシコ、2位のミシガン州デトロイト港はカナダ、3位のカリフォルニア州ロサンゼルス港は日本や中国などアジアからの輸入が多い。チャールストン港から160キロメートルほど南西の、サウスカロライナ州とジョージア州の州境に位置するジョージア州サバンナ港は、韓国や中国、日本からの輸入が多く、全米5位の輸入金額だ。

表1:2024年の自動車部品の港別輸入金額上位10港(単位:億ドル、%、カ国)(-は記載なし)
州名 港名 輸出金額 シェア 貿易相手国数 主な輸入先
(カッコ内は構成比)
テキサス ラレド 263.7 30.2 54 メキシコ(97.87)、韓国(0.69)、中国(0.43)
ミシガン デトロイト 90.2 10.3 57 カナダ(74.00)、ドイツ(8.92)、中国(7.35)
カリフォルニア ロサンゼルス 85.3 9.8 68 日本(37.92)、中国(27.31)、韓国(13.51)
サウスカロライナ チャールストン 44.9 5.1 85 ドイツ(55.84)、中国(12.11)、ポーランド(4.63)
ジョージア サバンナ 41.2 4.7 72 韓国(39.42)、中国(17.84)、日本(10.99)
ミシガン ポートヒューロン 39.3 4.5 55 カナダ(95.46)、中国(2.39)、メキシコ(0.33)
ニュージャージー ニューアーク 29.4 3.4 86 中国(17.90)、インド(16.72)、ドイツ(10.02)
テキサス イーズレータ 27.2 3.1 17 メキシコ(99.62)、カナダ(0.22)、中国(0.13)
バージニア ノーフォーク・ニューポートニューズ 22.3 2.6 73 インド(32.57)、ドイツ(9.52)、中国(8.46)
ワシントン タコマ 22.2 2.5 28 日本(61.67)、中国(13.97)、韓国(13.87)
全米 874.10

注:HSコード「8708 自動車用部品およびアクセサリー」の米国への輸入額を集計。
出所:商務省センサス局資料を基にジェトロ作成

2024年の完成車の港別輸出金額で、チャールストン港は全米3位だ(表2参照)。1位のブランズウィック港(ジョージア州)とチャールストン港は、世界各国への輸出に利用されている。

2位と4位のミシガン州デトロイト港、ポートヒューロン港はカナダ向け、5位のテキサス州ラレド港はメキシコ向けがほぼ全数を占めている。

全米1位のブランズウィック港は、チャールストン港から南西290キロメートルほどの距離に位置し、米国内でも最大規模のRORO船(自動車運搬船)ターミナルがある。SC州に立地するBMWは、同州で生産した完成車をチャールストン港やブランズウィック港などを使って、世界各地に輸出している。同社によると、2024年はスパータンバーグ工場で生産した約40万台の完成車のうち、その約56%にあたる、約22万5,000台を120カ国に輸出したという。

表2:2024年の自動車の港別輸出金額上位10港 (単位:億ドル、%、カ国)(-は記載なし)
州名 港名 輸出金額 シェア 貿易相手国数 主な輸入先
(カッコ内は構成比)
ジョージア ブランズウィック 104.7 17.3 71 中国(36.32)、ドイツ(31.53)、オーストラリア(5.73)
ミシガン デトロイト 91.1 15.1 3 カナダ(99.99)
サウスカロライナ チャールストン 78.9 13.1 96 ドイツ(48.86)、韓国(16.21)、ベルギー(13.04)
ミシガン ポートヒューロン 37.3 6.2 3 カナダ(99.99)
テキサス ラレド 28.7 4.7 4 メキシコ(99.99)
ジョージア サバンナ 23.1 3.8 132 アラブ首長国連邦(26.72)、ジョージア(10.65)、オマーン(6.66)
ニューヨーク バッファロー・ナイアガラ・フォールズ 20.7 3.4 12 カナダ(97.90)、スウェーデン(0.97)
テキサス フリーポート 20.2 3.3 46 アラブ首長国連邦(45.04)、サウジアラビア(27.18)、クウェート(9.15)
メリーランド ボルチモア 20.1 3.3 111 オーストラリア(12.45)、サウジアラビア(11.60)、アラブ首長国連邦(7.62)
フロリダ ジャクソンビル 20.0 3.3 77 アラブ首長国連邦(18.98)、サウジアラビア(17.03)、オーストラリア(12.98)
全米 604.5 100

注:HSコード「8703 自動車および乗客輸送用車両」の米国からの輸出額を集計。
出所:商務省センサス局資料を基にジェトロ作成

貨物容量の拡張

BMWのスパータンバーグ工場は、チャールストン港から340キロメートル余り内陸に立地しており、エンジンやトランスミッションなどの部品輸入などのために、グリア・インランドポート(IPG、注2)の鉄道輸送を活用している。IPGでは、ノーフォーク・サザン鉄道が夜間サービスを週6日間提供しており(注3)、スパータンバーグやグリーンビルといった州北西部の自動車産業を支えている。


グリア・インランドポート(ジェトロ撮影)

チャールストン港へ続くIPG内の鉄道(ジェトロ撮影)

さらに、SC州港湾局は2025年3月、合計5,500万ドルを投じたIPGの拡張を完了した。貨物容量を50%拡大するためのコンテナヤードの拡張や、より長い列車を迅速に処理するための9,000フィート(約2,740メートル)のレールの追加などが行われ、年間30万件の鉄道輸送に対応できるようになった。IPG開業当初はBMW関連の輸出入のみ取り扱っていたが、BMW関連貨物量が増加したことと他の企業からも利用希望があったことなどが拡張の背景にある。2025年7月時点で、IPGでは輸出入の合計で、1日当たり600~800コンテナを取り扱っており、BMW関連の貨物量はそのうち35~40%で、残りはミシュランなど他の企業の貨物とのことだ。

企業はIPGを利用することで、貨物をチャールストン港から鉄道で輸送できるほか、IPG自体を外国貿易地域(Foreign Trade Zones: FTZ)として登録できる点も大きな利点だ。FTZに指定されると、輸入品を無期限で保税保管でき、組み立てなどの加工を行うことができる。FTZ内で保管や加工をした輸入品は、米国内に出荷する時まで関税支払いを猶予できるほか、米国外へ出荷する場合は関税支払いが免除される。また、輸入した部品の関税率とFTZで製造した完成品の税率を比較し、低い方の関税を支払うことができるといった利点もある(注4)。

例えば、BMWはIPGを含む形で自社施設をFTZに登録し、IPGを活用して自動車部品を輸入、スパータンバーグ工場で完成車に組み立て、チャールストン港などから世界中に完成車を輸出している。なお、BMWは部品の輸出入でIPGを利用しており、完成車の輸出は自社工場の敷地に引き込んだ鉄道を活用している。


BMWスパータンバーグ工場(ジェトロ撮影)

BMWが完成車を港へ輸送するために利用する鉄道
(ジェトロ撮影)

強固なコミュニティが魅力

良好なビジネス環境や優れた物流機能がSC州の自動車産業を支えているほか、強固な地元コミュニティも魅力の1つだ。SC自動車協議会(SCMA、注5)には、2025年6月時点で州内の自動車産業関連企業45社が参画しており、非加盟企業でも参加可能なイベントを含め、州内自動車産業内のネットワーキングの機会を提供している。

例えば、毎年開催されているSCオートモーティブサミットには、州内自動車産業関係者が多く出席するほか、州内に立地するOEM(完成車メーカー)やTier1(1次サプライヤー)企業とのマッチメイキングイベントも実施される。2025年2月のイベントには、420人以上が参加登録し、SC州政府からもヘンリー・マクマスター知事(共和党)、ハリー・ライトシー商務長官、ジャスティン・パウエル運輸長官の3人の要人が登壇した(2025年3月5日付ビジネス短信参照)。

マッチメイキングイベントへ参加するためには、製造施設がSC州内に立地している必要があるが、サミットへの参加やブース出展は州内に拠点のない企業でも可能だ。同州での拠点設立を検討している企業関係者にとって、同サミットは情報収集の良い機会となるだろう。


2025 SCオートモーティブサミット講演会場の様子
(ジェトロ撮影)

2025 SCオートモーティブサミット展示会場の様子
(ジェトロ撮影)

AI活用などを強化

ミシュラン、BMW、ティムケンなどの自動車関連企業とSC州政府の提携により2007年に設立されたクレムソン大学の国際自動車研究センター(CU-ICAR)や、自動車の試験・検証環境を提供する国際交通イノベーションセンター(ITIC)も、同州の自動車産業を支えている。

CU-ICARは、「教育」「研究」「経済開発」の3つをつなげる役割を担っており、州北西部のグリーンビルに立地している。人工知能(AI)を活用したパワートレイン制御や電動化パワートレインの設計といった高度な車両推進システム、先端製造・材料、コネクテッドおよび自動運転車両などを注力分野として、研究に取り組んでいる。また、250エーカー(約1平方キロメートル)のキャンパスでは、ジェイテクトを含め21社(2025年7月時点)がキャンパスパートナーとなっており、企業と連携してエンジニアの人材育成や共同研究に取り組んでいる。

ITICは、グリーンビルのSC・テクノジー&航空センター(SCTAC、注6)に本社を構える同州最大の自動車試験場だ。400エーカー(約1.6平方キロメートル)の敷地に、ADAS技術、車両動力学、車線変更、ステアリングなど多様なテストに対応可能な1マイル(約1.6キロメートル)の直線コース、道路上のバンプや溝などを再現した1,700フィート(約520メートル)の耐久性コース、1,000フィート(約305メートル)のアスファルトブレーキレーントラックなどを備えている。さらに、3マイル(約4.8キロメートル)のテスト用オーバルトラックも整備が進められている。

ドイツ系など自動車関連の新たな顧客とのビジネス拡大を目指す日本の自動車関連企業にとって、同州は有望な投資先の1つだ。


注1:
1位はジョージア州、3位はテネシー州(2024年9月18日付ビジネス短信参照)。
注2:
輸出入貨物の内陸輸送ルートに作られた輸送基地。
注3:
チャールストン港で午後1時までに預けた荷物は翌日の正午にIPGで受け取れるほか、IPGで午後3時までに預けた荷物は翌日の午後4時にチャールストン港で受け取れる。
注4:
ただし、大統領令14257号(2025年4月2日付)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにより、外国から輸入された部品は非特恵外国(Non-Privileged Foreign:NPF)ステータスを認められないため、FTZで製造した完成品の税率ではなく、個々の部品への税率が適用されることになる。
注5:
サウスカロライナ自動車協議会は、サウスカロライナ製造業者連合の中の協議会で、2025年6月時点で同製造者連合には200社以上の製造業者が加盟している。
注6:
航空や自動車といった先端製造業の関連企業が110社以上立地する国際ビジネスパーク。

米サウスカロライナ州自動車産業

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執筆者紹介
ジェトロ・アトランタ事務所
檀野 浩規(だんの こうき)
2015年、ジェトロ入構。ジェトロ福岡、特許庁(出向)などを経て、2023年6月から現職。