市場の特徴
インド二輪車市場の現状と今後の動向(前編)

2024年2月14日

インドでは、1年の中で祝祭期の商品販売が最も好調となる傾向がある。2023年の祝祭期だった10月、11月の二輪車販売台数は189万台(前年同月比20%増)、162万台(同31%増)を記録した。街中では、ガソリン二輪車に混じり、緑のナンバープレートを付けている二輪電気自動車(EV)も少しずつ見かけるようになってきた。

本稿では、現在のインド二輪車市場の情報・データを基に、その特徴や動向、消費者嗜好(しこう)などを分析・整理し、今後の方向性を考察する。前編では、インド二輪車市場の現状を整理し、どのような特徴があるのかについて触れる。

街中の様子から

インド人にとって二輪車は日常生活の足となっている重要な移動手段だ。朝夕の通勤時間帯や狭い路地では、あっという間に二輪車に囲まれてしまうことも多く、二輪車利用の多い東南アジアで見かける光景と同様である(写真1、2)。


写真1:朝の通勤風景(ジェトロ撮影)

写真2:道路を埋める二輪車の通勤者(ジェトロ撮影)

二輪車については、友人との乗り合いや家族が1台に乗って移動する姿も見られ、物資の輸送手段になっていることも多い(写真3、4)。従って、毎日故障なく確実に動いてくれることが最も重要で、インド市場では耐久信頼性が求められると考える。


写真3:乗り合いの様子(ジェトロ撮影)

写真4:物資の輸送手段として利用(ジェトロ撮影)

街中でも特に目を引くのが、独特の排気音と白煙を出して走行する2サイクルエンジン車や、大きな排気音を伴って走行するディーゼルエンジン車など、今から約40年前に販売された古い車両も現役で走行している姿だ。インド人には、気に入った二輪車を長く乗り続け、所有する喜びもあるようだ(写真5、6)。


写真5:現役の1980年代販売の車両(1)
(ジェトロ撮影)

写真6:現役の1980年代販売の車両(2)
(ジェトロ撮影)

二輪車の国内販売実績について

インドの国内二輪車の販売/輸出台数の推移を整理した(図1参照)。2018年度(2018年4月~2019年3月)の2,118万台販売をピークに、その後、新型コロナウイルス禍もあって低迷していたが、2022年度から回復基調になっていることが分かる。2022年度の国内販売実績は1,586万台、2023年度はパンデミック前の販売水準で推移し、4月~11月の8カ月実績で1,225万台の販売を記録。2023年度は1,800万台に回復することが見込まれている。人口約14億人と、2023年に中国を上回って世界最多になったと報じられるインドは、今後約30年間、人口ボーナスを享受できるといわれていることからも、若年層や中間所得層が増加し、購買意欲も向上するため、二輪市場がさらに成長することは間違いないだろう。

図1:年度別の二輪車の販売台数と輸出台数の推移
国内販売実績は2015年度から堅調に増加していたが、2018年度の約2100万台をピークに、新型コロナ禍もあり2021年度は1300万台まで減少している。その後、2022年度から回復傾向がみられている。輸出は2015年度以降、毎年度250万台前後であったが、コロナ禍で国内販売が伸び悩んだ2021年年度は440万台に増加している。2023年度は国内需要が回復し、輸出も増加する方向を示している。

出所:インド自動車工業会(SIAM)公表資料を基にジェトロ作成

さて、現在、インドで人気のあるモデルは何だろうか。モーターサイクルとスクーターの各月間販売台数上位モデルを表1、表2に整理した。いずれも125cc以下のガソリンモデルが多く、スクーターには二輪EVの3モデルがランクインしている。

表1:モーターサイクル販売台数上位(2023年10月)
メーカー モーターサイクルモデル エンジン排気量(cc) 台/月
Hero Splender 100 311,031
Honda Shine 125 163,587
Bajaj Pulsor 125 161,572
Hero HF Deluxe 100 117,719
Bajaj Platina 100、110 74,539
TVS Raider 125 47,483
Hero Passion 100、110 40,759

出所:各種報道などを基にジェトロ作成

表2:スクーター販売台数上位(2023年11月)
メーカー スクーターモデル エンジン排気量(cc) 台/月
Honda Activa 110、125 196,055
TVS Jupiter 110、125 72,859
Suzuki Access 125 52,512
TVS Ntorq 125 30,396
Ola S1 (EV) 29,808
Honda Dio 110、125 23,979
Hero Pleasure 110 22,752
TVS iQube (EV) 16,702
Hero Destini 125 12,756
Bajaj Chetak (EV) 8,472

出所:各種報道などを基にジェトロ作成

近年の大気汚染対策やカーボンニュートラル目標達成(2022年11月8日付ビジネス短信参照)のために、インド中央政府は二酸化炭素(CO2)ゼロエミッションのEVの拡大支援を進め、2030年の二輪車新車販売の8割をEVとすることを目指している。二輪EV販売台数は2022年から増加しているものの、2023年(暦年)実績は約63万台で、二輪車販売全体の約4%だ。現在はガソリンを燃料とする内燃機関二輪車がまだ主流だ。

二輪メーカー別販売実績

国内販売台数をメーカー別に整理すると、日系メーカーを含む上位7社で全体の99%を占め、この7メーカーが主流であることが分かる(図2参照)。オートマ車(AT)のスクーターとマニュアル車(MT)のモーターサイクルの販売比率は各社で特徴がみられるが、スクーターが全体の約3割となっている。

図2:二輪メーカー別の国内販売台数(2023年4月~11月)
各社の販売台数は、二輪車をモーターサイクルとスクーターに区別し合算している。販売台数が一番多いのは、ヒーローで約370万台。続いて第二位にホンダの約310万台が続いている。メーカーによりモーターサイクルとスクーターの販売台数の比率に特徴があり、各社の販売方針が異なることを示している。販売台数が上位のヒーロー、ホンダ、TVS、バジャージ、スズキ、ローヤルエンフィールド、ヤマハの7社を合計すると全体販売台数の99%になり、この7社の販売がインド市場で主流である。

出所: SIAM公表資料を基にジェトロ作成

車両価格帯と設定モデルについて

では、インド市場ではどのようなモデルが現在販売されているのだろうか。販売台数上位7社に注目し、現在販売されている二輪車ショールーム価格と排気量の関係を整理した(図3参照)。

インドの二輪免許は、日本の原付免許(排気量50cc)、普通自動二輪(上限400cc)、大型自動二輪(不問)免許のようにエンジン排気量別に限定する免許ではないことから、免許上限排気量のモデルが多いという傾向はみられない。一般的に、排気量が大きくなるにつれて、堂々とした見た目や存在感があり、エンジン出力やトルクに余裕が出るので、加速感のほか、車重も増加するため安定感も向上、高付加価値商品として販売価格も上昇する傾向がある。

図3:販売上位7社のエンジン排気量とショールーム価格
サンプル数(N)は103で、モーターサイクルとスクーターの価格を表している。エンジン排気量が大きいほど、販売価格が高くなる傾向にある。販売価格が10万ルピー以下でエンジン排気量が125cc以下の領域【1】に設定されているモデルが多く、また150cc以上の排気量で、補助線上位にある価格設定の高い領域【2】に設定されているモデルも多い。中排気量の350cc前後の領域【3】は、15万ルピーから22万ルピーと価格幅が広いモデル数が設定されている。

注:1ルピー=約1.8円。
出所:各社公表資料を基にジェトロ作成

販売実積上位にランクしたモデル数を裏付けるように、エンジン排気量125cc以下、価格10万ルピー(約18万円、1ルピー約1.8円)以下の領域(矢印【1】)にモデル数が集中しており、激戦区であることが分かる。街中で見かける移動を主目的としたユーザーはこの領域の車両が中心で、それほど所得が高くない層にも手が届きやすい価格設定なのだろう。手軽に乗れるスクーターの設定も多く、女性ユーザーからの支持も得ているようだ。

補助線上位(矢印【2】)に位置するモデルの特徴は、「速く走る」ために高回転時のエンジン出力性能を高め、フルカウル(注1)や低扁平率で幅の広いタイヤを装着し、また、倒立フロントフォークサスペンションを採用するなど、レーサーレプリカモデルふうに付加価値を高めているモデルも多くみられる。「運動性能」と「格好いい外観」の両立を若者層にアピールしているスポーツモデルという位置付けだろう(写真7)。


写真7:155ccのスポーツモデル(ジェトロ撮影)

中排気量の350cc前後のクラス(矢印【3】)は、耐久性や低・中速域の走行性能を重視した単気筒ネイキッド・クラシックモデル(注2)に根強い人気があり、数社が競合モデルを上市している(写真 8、 9)。 街中では軽快な排気音とともに駆け抜けていく姿を見かけることも多い。メーカーによってはインド陸軍採用モデルもあり、壮年から中年層男性に支持者が多く、女性ユーザーはほとんど見かけない。価格を安く設定したモデルもあり、若年層の中排気量へのエントリーモデルとしても人気があるようだ。


写真8:350cc ネイキッド・クラシックモデル(1)(ジェトロ撮影)

写真9:350cc ネイキッド・クラシックモデル(2)(ジェトロ撮影)

このように、インド市場では、移動手段や物資の輸送手段に使われている低価格帯の小排気量モデルが多い一方で、付加価値のあるモデルや特徴ある中排気量モデルも存在している。後編では、新しく販売開始になったガソリンエンジン車や中央政府が支援を拡大している二輪EVの特徴などを踏まえ、今後のインド二輪車市場の方向性を探る。


注1:
空気抵抗を抑えるため、ヘッドライト回りを覆うパーツに加え、エンジン全体を覆う外装パーツを指す。
注2:
ネイキッド(裸)の名のとおり、カウルがなく、エンジンがむき出しになっており、主に1970~1980年代に製造されたスタイルの車両。

インド二輪車市場の現状と今後の動向

執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所 海外投資アドバイザー
淺羽 英樹(あさば ひでき)
大手自動車部品メーカーに34年間勤務。商品設計・評価、品質保証、マーケティング、代理店支援・販路拡大など、モノづくりからお客様対応までの全般業務を経験。サウジアラビア、ドイツ、タイ、ブラジルで、通算17年の勤務経験あり。2022年3月から現職。