概要と州政府や大学の取り組み
注目の米フロリダ半導体産業(前編)

2024年4月10日

米国では2022年8月、「CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)」が成立し、同法に基づく資金援助が行われており、アリゾナ州でのインテルによる巨額の投資案件などが注目を集めている。一方で、半導体産業の雇用人数が全米5位のフロリダ州でも、新たな半導体エコシステム形成への動きがある。本稿では、フロリダ州における半導体エコシステムの現状と新たな動きを整理する。前編では、フロリダ州の半導体産業や州政府の支援、州内半導体関連の産学官連携を調整するフロリダ大学の取り組みについてまとめる。後編「注目の米フロリダ半導体産業(後編)研究拠点都市ネオシティー」は、州中央部で建設が進む研究拠点都市ネオシティーの概要を紹介する。

航空宇宙や防衛産業向けに州中央部に集積

フロリダ州の投資促進機関のセレクト・フロリダによると、同州には9つの主要産業があり、航空宇宙産業、ライフサイエンス産業に並び、半導体製造業も挙げられている。実際、2022年のフロリダ州の製造業の州内総生産(GDP)は715億ドル(全体の5%)で、製造業GDPに占める割合が10%を超える産業は、半導体製造が含まれる「コンピュータおよび電子機器」(11.8%)、航空宇宙や鉄道関連が含まれる「その他輸送機器」(11.9%)、食品およびたばこ製品(10.1%)、ライフサイエンス関連の「化学品」(16.0%)だ(表1参照)。フロリダ大学の教授で、フロリダ半導体研究所(FSI)の所長も務めるボルカー・ソージャー氏によると、フロリダ州の半導体産業は十分に確立されており、宇宙産業、防衛産業、通信システム産業で必要不可欠な半導体を提供しているとのことだ(フロリダ大学ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

表1:フロリダ州の産業別GDP(2022年)
項目 金額 割合 製造業内での割合
全体 14,391 100
農林水産業 77 0.5
鉱業、採石業、石油・ガス採掘業 14 0.1
電気・ガス・水道 261 1.8
建設業 775 5.4
製造業 715 5.0 100
階層レベル2の項目コンピュータおよび電子機器 84 0.6 11.8
階層レベル2の項目その他輸送機器 85 0.6 11.9
階層レベル2の項目食品およびたばこ製品 72 0.5 10.1
階層レベル2の項目化学品 114 0.8 16.0
階層レベル2の項目その他 360 2.5 50.3
卸売業 982 6.8
小売業 1,151 8.0
運輸・倉庫業 575 4.0
情報通信業 513 3.6
金融業 3,505 24.4
プロフェッショナルおよびビジネスサービス業 1,979 13.7
教育、医療、社会福祉 1,251 8.7
芸術、娯楽、レクリエーション、宿泊、飲食サービス 871 6.1
その他サービス業 361 2.5
政府部門 1,361 9.5

出所:米国商務省経済分析局資料からジェトロ作成

フロリダ州の半導体関連産業における2022年の雇用人数は1万7,744人で全米5位、事業所数は396カ所で全米3位だ(表2参照)。雇用人数上位の州は、半導体大手のインテルなど多くの半導体関連企業が立地するカリフォルニア州やオレゴン州、半導体大手のテキサス・インスツルメンツが本社を構えるテキサス州や台湾積体電路製造(TSMC)の進出で話題のアリゾナ州といった、半導体分野で最近よく名前が挙がる州だが、実はフロリダ州も半導体分野で多くの雇用を抱えている。ただし、テキサス州、オレゴン州、アリゾナ州では大型投資が相次いで発表されており、雇用人数が伸びているが(2019年比で3州平均11.3%増)、フロリダ州は横ばい(2019年比0.4%増)となっている。

表2:半導体関連産業の事業所数と雇用人数(2022年の雇用人数上位10州)(カ所、人、%)(△はマイナス値、-は値なし)
州名 2019年 2020年 2021年 2022年 2019年~2022年の雇用人数増加率
事業所数 雇用人数 事業所数 雇用人数 事業所数 雇用人数 事業所数 雇用人数
カリフォルニア 1,508 83,070 1,516 81,416 1,535 81,334 1,562 84,900 2.2
テキサス 430 41,133 469 41,566 487 42,256 538 45,660 11.0
オレゴン 150 30,425 149 30,285 153 30,533 173 33,840 11.2
アリゾナ 206 22,531 215 23,801 192 23,839 193 25,147 11.6
フロリダ 342 17,667 353 17,852 367 17,658 396 17,744 0.4
ニューヨーク 252 17,004 257 16,527 257 16,307 262 17,040 0.2
マサチューセッツ 212 14,513 208 13,813 208 14,129 212 14,550 0.3
ミシガン 143 10,433 149 9,814 171 10,296 199 10,772 3.2
イリノイ 331 11,227 330 10,381 339 10,274 354 10,463 △ 6.8
ミネソタ 144 9,545 142 9,215 134 8,938 145 9,354 △ 2.0
全米 5,879 373,781 5,989 366,639 6,124 367,174 6,521 385,329 3.1
上位10州の割合 63.2 68.9 63.2 69.5 62.8 69.6 61.9 69.9

注:北米産業分類システム(NAICS)の「3344 半導体およびその他電子部品製造」で集計。
出所:米国労働省労働統計局資料からジェトロ作成

図1は、2022年のフロリダ州の半導体関連産業における都市圏別の雇用人数を示している。最も雇用人数が多いのはデルトナ・デイトナビーチ・オーモンドビーチ都市圏で、全体の56%を占める。同都市圏はフロリダ州中央部の東海岸で、米国航空宇宙局(NASA)のケネディ宇宙センターが立地しており、ルネサスエレクトロニクスの宇宙産業向け耐放射線IC(集積回路)製品製造施設(注1)など半導体関連企業が立地している。また、9%のシェアを占めるオーランド都市圏は、デルトナ・デイトナビーチ・オーモンドビーチ都市圏に隣接している。そのほか、サウスフロリダ大学が立地する州中央部西海岸のタンパ都市圏では22%が、州最大の都市圏であるマイアミ都市圏では7%が雇用されている。

図1:フロリダ州の半導体関連産業における都市圏別の雇用人数割合(2022年)
フロリダ州内で最も雇用が集積しているのはデルトナ・デイトナビーチ・オーモンド都市圏で、全体の56%が同都市圏で雇用されている。次いで、タンパ都市圏が22%、オーランド都市圏が9%、マイアミ都市圏が7%、その他が6%となっている。

出所:米国労働省労働統計局資料からジェトロ作成

図2は、フロリダ州内の主な半導体関連企業の立地を示している。例えば、オーランド都市圏のマイクロスやタンパ都市圏のi3マイクロシステムズといった半導体製造の後工程のダイシングやパッケージングをサポートする企業が立地しているほか、同都市圏の研究拠点都市のネオシティーには、米国のファウンドリのスカイウォーター・テクノロジー(本社:ミネソタ州)やベルギーの半導体研究機関imecの米国法人も立地している。さらに、半導体製造装置の開発、製造、販売を行っているタンパ都市圏のプラズマ・サーモ(注2)など、半導体製造、パッケージング、品質保証に必要な技術や機器をサポートする中小企業も多数立地している。前出のソージャー氏によると、大規模なファウンドリこそ欠けているものの、フロリダ州は設計とパッケージングについては業界トップクラスで、州内に軍関係施設やNASAが立地していることから、特に国防総省の半導体技術をリードしているとのことだ(エポックタイムズ2023年10月10日)。

図2:フロリダ州内の主な半導体関連企業の立地
オーランド都市圏のマイクロスやタンパ都市圏のi3マイクロシステムズといった半導体製造の後工程のダイシングやパッケージングをサポートする企業が立地 しているほか、同都市圏の研究拠点都市のネオシティーには、米国のファウンドリのスカイウォーター・テクノロジーやベルギーの半導体研究機関imecの米国法人も立地している。 さらに、半導体製造装置の開発、製造、販売を行っているタンパ都市圏のプラズマ・サーモなど、半導体製造、パッケージング、品質保証に必要な技術や機器をサポートする中小企業も多数立地している。

出所:フロリダ半導体研究所(FSI)

州政府のインフラ整備・労働力開発支援

フロリダ州政府も、半導体関連産業振興のために助成金を交付している(表3参照)。ただし、フロリダ州の半導体分野での戦略は、巨額のインセンティブを背景にした企業誘致ではなく、経済活動を重視する環境をサポートし、主要な地元パートナーと戦略的な投資を行うことだ。例えば、後編で紹介するネオシティーのインフラ整備のため、2018年に580万ドル、2022年には600万ドルを州商務省の基金から交付したほか、2023年9月には、半導体分野における労働力開発イニシアチブを発表し、5,000万ドルの助成金を交付すると表明した。

2023年11月には、同イニシアチブに基づき、オセオラ郡やバレンシアカレッジなどに対し、州商務省基金から計2,800万ドルの助成金交付が発表された(2023年11月24日付ビジネス短信参照)。最大拠出先のオセオラ郡ネオシティーでは半導体の多目的ラボ施設を建設し、スタートアップや半導体製造企業にラボスペースを提供する予定だ。他にも、バレンシアカレッジで半導体関連の技術者育成プログラムを拡大するほか、サンタフェカレッジでは先端製造業を専門とするエンジニアリング技術の新しい準学士号課程を創設する予定だ。

さらに、2024年1月には、州教育省基金から28郡の各学区および8つのカレッジに3,500万ドルの助成金交付も発表された(2024年1月25日付ビジネス短信参照)。同基金の労働力開発資本化インセンティブ助成プログラムは、拠出先の学区およびカレッジに対し、特定の産業における中等教育課程の学生を対象としたキャリア・技術教育労働力開発プログラムにかかる費用の一部もしくは全額を助成するもの。同プログラムには計1億ドルが割り当てられており、そのうち半導体関連に3,500万ドルが割り当てられた。

表3:フロリダ州政府による半導体産業向け助成金

2018年
基金 交付先 助成額(ドル) 内容
フロリダ雇用成長助成基金 オセオラ郡 580万 ネオシティー内に全長2.1マイル(3,380メートル)の幹線道路ネオシティー・ウェイおよびゲートウェイの建設。
2022年
基金 交付先 助成額(ドル) 内容
フロリダ雇用成長助成基金 オセオラ郡 600万 ネオベイション・ウェイと呼ばれるネオシティの南側のゲートウェイ建設に用いられ、ゲートウェイのデザインや直線距離約3,160フィート(963メートル)の2車線道路を建設。
バレンシアカレッジ 370万 半導体製造にロボット技術を活用するため教育プログラムを開発。
2022年の合計 970万
2023年
基金 交付先 助成額(ドル) 内容
フロリダ雇用成長助成基金 オセオラ郡ネオシティ 1,750万 半導体の多目的ラボ施設を建設し、スタートアップや半導体製造企業にラボスペースを提供。
バレンシアカレッジ 417万 ロボット工学および半導体技術者プログラムを拡大。
サンタフェカレッジ 300万 先端製造業を専門とするエンジニアリング技術の新しい準学士号課程を創設。
レイク・テクニカル・カレッジ 186万500 半導体プログラムを拡張し、新しい高度製造プログラムを創設。
イースタン・フロリダ・ステート・カレッジ 155万 ロボット工学とシミュレーション技術を教育するための革新的技術教育センターを設立。
2023年の合計 2,808万500
2024年
基金 交付先 助成額(ドル) 内容
労働力開発資本化インセンティブ助成基金 28郡の各学区および8つのカレッジ 3,500万 中等教育課程の学生を対象としたキャリア・技術教育労働力開発プログラムにかかる費用の一部もしくは全額を助成。

2018年~2023年の合計:7,858万500ドル

出所:フロリダ州政府発表資料からジェトロ作成

フロリダ大学が産学官連携を調整

米国商務省のジーナ・レモンド長官は、CHIPSプラス法に関する長期的な展望として、今後10年で半導体産業の労働力が2倍になると述べており、労働力開発は喫緊の課題だ。フロリダ州でも、州政府の助成金などを活用し、コミュニティカレッジや大学で人材パイプラインの充実を図っている。ここでは、フロリダ州の半導体エコシステムで中心的な役割を果たしているフロリダ大学の取り組みを紹介する。

同州北部のゲインズビルに立地するフロリダ大学は2023年10月、同州での半導体関連の研究開発を後押しするとともに、同州の半導体分野の労働者育成を推進するため、大学内や州内半導体産業の調整拠点となるFSIを設立した(2023年10月18日付ビジネス短信参照)。FSIには、フロリダ大学工学部と教養科学部の60人以上の教員が参画するほか、州内の他大学の学術パートナーや民間企業も参画している。FSI所長のソージャー氏によると、FSIは、新材料、チップ設計、プロセス開発、ヘテロジニアス・インテグレーション(注3)、先端パッケージング、品質保証およびサイバーセキュリティーに関する研究開発、技術革新、教育のための強力な拠点となる。

例えば、FSIとフロリダ大学は、「CHIPS-21st外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」と名付けられた、半導体などに関する初めての包括的な教育訓練プログラムを提供している。FSIによると、同プログラムは全ての学習者にとって革新的で柔軟性のある学位の選択肢を提供しており、例えば、全てオンラインで受講できる一方で、実地研修や短期コースなどを選択することも可能だ。さらに、半導体やマイクロエレクトロニクスなどの分野では、より高度な教育オプションも提供している。

また、FSIは、フロリダ州内の半導体産業の調整役として、同州内の産学官を集めたイベントも開催している。2023年11月には、FSI設立後初めてのイベントとして、フロリダ州半導体イニシアチブ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを開催し、業界リーダーとのパネルディスカッションや、半導体分野における労働力ニーズを明確化し定義するためのワークショップが行われた。さらに、2024年2月には、フロリダ大学のマラコウスキーホール(注4)でフロリダ半導体ウイーク2024外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますがFSI主催で開催され、半導体大手のエヌビディアやインテル、シノプシスのほか、フロリダ大学やセントラルフロリダ大学、カリフォルニア大学デービス校、ベルギーの半導体研究機関imec、フロリダ州商務省など半導体産業に関連する産官学の関係者が集まり、最新技術の動向や労働力開発の取り組みなどを発表した(2024年2月15日付ビジネス短信参照)。


マラコウスキーホール(ジェトロ撮影)

なお、ロン・デサンティス州知事(共和党)は2024年1月、FSIに8,000万ドル以上を予算措置するよう、2024年州議会に提案している。FSI所長のソルジャー氏は「FSIは、フロリダ州の半導体製造エコシステムにおける技術力向上に向けた連携促進を図り、半導体産業の研究開発を先導する戦略的な計画を準備している」と述べた。

後編では、フロリダ州中部のオセオラ郡で建設が進められている研究拠点都市ネオシティーについて紹介する。


注1:
ルネサスエレクトロニクスは2017年、パワーマネジメントICと高精度アナログで業界をリードしていたインターシル・コーポレーション(本社:米国カリフォルニア州)を買収し、フロリダ州パームビーチに立地するインターシルの生産拠点の操業も継続している。
注2:
2021年に日本法人を設立。プラズマプロセス・機器に関して150を超える米国内外の特許を保有しており、半導体製造工程で使用されるプラズマエッチング、プラズマCVD(薄膜の形成)、プラズマダイシング装置の開発・製造・販売を行っている。
注3:
CPU(中央演算処理装置)、メモリー、センサーといった異種デバイスを一体化してパッケージングすること。
注4:
2023年11月にオープンしたデータサイエンスと情報技術のための施設で、FSIをはじめ、学際的な研究機関が本部を設置している。フロリダ大学の卒業生で、エヌビディアの共同創業者であるクリス・マラコウスキー氏が建物の名前の由来となっており、同氏は建物のデザインにも関わった。

注目の米フロリダ半導体産業

  1. 概要と州政府や大学の取り組み
  2. 研究拠点都市ネオシティー
執筆者紹介
ジェトロ・アトランタ事務所
檀野 浩規(だんの こうき)
2015年、ジェトロ入構。ジェトロ福岡、特許庁(出向)などを経て、2023年6月から現職。