研究拠点都市ネオシティー
注目の米フロリダ半導体産業(後編)

2024年4月12日

米国では2022年8月、「CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)」が成立し、同法に基づく資金援助が行われており、アリゾナ州でのインテルによる巨額の投資案件などが注目を集めている。一方で、半導体産業の雇用人数が全米5位のフロリダ州でも、新たな半導体エコシステムが形成されている。本稿では、フロリダ州の半導体エコシステムの現状を整理する。前編「注目の米フロリダ半導体産業(前編)概要と州政府や大学の取り組み」に続いて、後編は、州中央部で建設が進む、半導体製造の後工程領域に力点を置く研究拠点都市ネオシティーの概要を紹介する。

イノベーションの新しい震源地、ネオシティー

フロリダ州中央部オーランド市近郊に位置するオセオラ郡では、最先端技術とイノベーションの中心地として、研究拠点都市ネオシティーの整備が進められている(図1参照)。オセオラ郡の産業基盤は観光業で、ディズニーワールドなど州中央部の観光名所への「玄関口」としての役割を果たしている。一方で、2008年のリーマン・ショックの際に同郡経済が大きな打撃を受けたことをきっかけに、観光業に加えて、他産業の育成の必要性が意識され、2014年に約500エーカー(約2平方キロメートル)の研究拠点都市建設に向けた長期投資が決定された。

図1:ネオシティーの立地
フロリダ州中部オーランド市近郊に位置するオセオラ郡では、最先端技術とイノベーションの中心地として、研究拠点都市ネオシティーの整備が進められている。

出所:ネオシティーマスタープラン

その後、2017年に都市建設のマスタープランが発表され、同地に設立されたフロリダ先端製造研究センター(FAMRC)を発展させるかたちで、都市名をネオシティー、FAMRCをネオベーションセンターと名付け、都市整備が本格的に始まった。ネオシティーは、同郡が保有する482.5エーカーの敷地にスマートセンサー、フォトニクス(光工学)、光学などの分野で最先端の研究をサポートする研究施設や、雨水利用システムといった環境に配慮したインフラなどが整備される予定だ。オセオラ郡やフロリダ州のほか、同地域の企業などがこれまでに2億7,300万ドル以上(2022年時点)をネオシティー建設に投じ、州中央部の半導体産業のハブを生み出そうとしている。

ネオシティーはオーランド市や主要な大学のほか、空港などの交通機関へのアクセスに優れた位置に立地している。例えば、オーランド国際空港まで車で20分、オーランド市まで接続する鉄道の駅まで車で5分、フロリダ州中央部東海岸にあるケネディ宇宙センターやカナベラル港までは車で1時間の距離だ(図2参照)。

図2:ネオシティー周辺施設
ネオシティーはオーランド市や主要な大学のほか、空港などの交通機関へのアクセスに優れた位置に立地している。

出所:ネオシティーマスタープラン

2017年に発表されたマスタープランで、ネオシティーはイノベーションの震源地となることが想定されており、スマートセンターやフォトニクス、ソフトウエアアプリケーションやプロセス改善といった分野で、地域、州、国、世界に影響を与える研究と技術を組み合わせることで、質の高い雇用の創出を目指している。同プランでは、ネオシティーを形成する街区、区画、道路などを図解し、経済的なハブであると同時に、コミュニティー資源でもあるネオシティーのビジョンを具体的に示している。また、都市設計のデザインの原則として、5つの要素を挙げている(表1参照)。

表1:ネオシティー設計のデザインの原則
設計原則 概要
水資源の統合 地域の水資源システムの中で、持続可能な環境戦略を組み合わせる。
ゲートウエーと接続性 周辺地域との接続性を考慮する。
用途別マトリックス 水辺を見渡せるにぎわいのあるカフェスペースといった活気のある公共空間や、ハイテク研究施設といった安全性の高いプライベート空間など、用途別にエリアのマトリックスを作成する。
活動ノード 偶発的な相互作用を生じさせるため、オープンスペースなどの活動ノードに意識を向ける。
ブロックごとの密集度 適切な判断に基づいた密集度を促進するとともに、スプロール化(都市の無秩序な拡大)を防ぐ。

出所:ネオシティーマスタープランからジェトロ作成

同プランでは、2017年から50年間かけてネオシティー全体を建設する予定だ。2024年3月時点では、ネオベーションセンターや、ベルギーの半導体研究機関の米国法人imec USAフロリダなどが入居するオフィス棟のほか、ネオシティーアカデミーが既に立地している。ネオベーションセンターは、超純水製造装置や逆浸透膜水処理装置のほか、クラス(清浄度)1,000〔2万6,469平方フィート(約2,459平方メートル)〕と、クラス10,000〔9,000平方フィート(約836平方メートル)〕のクリーンルームを備えている製造研究施設だ。

ネオシティーアカデミーは、9~12年生までの生徒(高校1~3年生に相当)を対象とし、STEM(科学・技術・工学・数学)教育に力を入れている公立のマグネットスクール(注1)だ。オセオラ郡やセントラルフロリダ大学(UCF)などとのパートナーシップの下、オセオラ郡学区は1,700万ドル以上を投じて同アカデミーを2019年に建設した。同アカデミーはネオベーションセンターに隣接しており、同施設に入居しているimec USAフロリダやスカイウオーター・テクノロジーなどが同アカデミー生徒に対して、インターンシップの機会などを提供している。


ネオベーションセンター(ジェトロ撮影)

オフィス棟(ジェトロ撮影)

ネオシティーアカデミー(ジェトロ撮影)

幹線道路(ネオシティーウエー)と広大な敷地
(2024年3月28日時点、ジェトロ撮影)

ネオシティーの中核機関、BRIDG

ネオシティーのマスタープランで、中核的な役割を果たすとされる機関がBRIDGだ。BRIDGは、2014年にオセオラ郡とUCFが創設した先端製造と研究のための国際コンソーシアム (ICAMR)が2017年のネオシティー都市計画発表時に名称変更して誕生した。「イノベーション開発のギャップを埋める(Bridging the Innovation Development Gap)」が名前の由来となったBRIDGは、複数分野にまたがる技術と能力の間のギャップを埋め、テクノロジーの商業化の促進を目的とする非営利の官民パートナーシップだ。

BRIDGは、ヘテロジニアス・インテグレーション(注2)や先端パッケージングプロセス技術、デジタルツイン(注3)、インダストリー4.0のコンセプトを活用したセキュアな製造法の開発に重点を置き、ネオベーションセンター内にあるオープンアクセスの専門的な半導体製造施設を運営している。表2は米国内外の企業や団体とのパートナーシップや契約をまとめたものだ。

表2:BRIDGの米国内外の企業や団体とのパートナーシップや契約(-は値なし)
発表
年月
締結先 契約額 内容
2016年7月 imec
(ベルギー)
フォトニクスと高速エレクトロニクス集積回路(IC)設計に特化した新組織、imec USAフロリダを開設。
2017年1月 オーロラセミコンダクター
(米国)
オーロラセミコンダクターの4Dヘテロジニアス・システム・イン・パッケージ(4DHSiPTM)技術の開発と製造展開を支援するため、オセオラ郡を拠点とする官民パートナーシップで協力する意向書に署名。
2018年1月 シーメンス
(ドイツ)
シーメンスのPLM(製品ライフサイクル管理)ソフトウエアポートフォリオをBRIDGの研究開発活動に提供することで、半導体業界向けのデジタルツイン技術の開発を推進するパートナーシップを発表。ネオシティーにあるBRIDGのウエハー製造施設で、半導体製造のための初のデジタル・エンタープライズ・ソリューションの確立を目指す。
2019年7月 東京エレクトロン
(日本)
先端技術の商用化を加速するテクノロジーやアプリケーションの開発から市場投入までを協業によってより促進するため、装置やプロセス技術の開発でBRIDGと提携。
2019年10月 米国防総省 2,000万ドル
以上
国防総省の産業基盤分析・維持(IBAS)プログラムは、米国の防衛産業基盤の確保に役立つ次世代のマイクロエレクトロニック・チップを開発する新しいプロセスを構築するため、BRIDGと2,000万ドル以上の契約を締結。
2019年12月 SUSSマイクロテック
(ドイツ)
次世代ナノスケール技術を推進する製造プロセス技術、高度なシステムインテグレーション、200ミリメートルのマイクロエレクトロニクス製造に焦点を当てた協力合意を発表。
2020年5月 ラディアンス・テクノロジーズ
(米国)
2,800万ドル 先端半導体パッケージング技術の開発に関する契約を締結。
2021年1月 スカイウオーター・テクノロジー
(米国)
フロリダ州オセオラ郡およびBRIDGと官民パートナーシップを締結し、マイクロエレクトロニクスの先端パッケージング向け米国内開発・製造サービスへのアクセスを加速すると発表。また、子会社スカイウオーターフロリダを設立し、同社の最先端パッケージング技術サービスの基盤となる最先端の200ミリメートルの半導体製造施設やネオベーションセンターの運営を引き受ける。
2023年5月 韓国産業技術振興院(KIAT) 覚書を締結。KIATは米韓間の包括的な戦略的技術ベースの提携に向けた取り組みを支援する計画。また、韓国の半導体企業がネオシティーに進出するための門戸を開く。
2023年9月 プラグアンドプレイ
(米国)
2024年1月にネオシティーのイノベーションを促進するための半導体アクセラレタープログラムを立ち上げると発表。
2023年11月 米国防総省 1億2,000万ドル(上限)
(注)
米軍向け次世代マイクロチップ製造のため、5年契約を締結。初期資金として365万ドル、上限は1億2,000万ドルとなる。また、1億6,900万ドルのオプションもあり、総額2億8,900万ドルの契約となる可能性がある。

注:別途1億6,900万ドルのオプションあり。
出所:ネオシティーとBRIDGEの発表資料からジェトロ作成

2016年には、imec USAフロリダが設立され、研究開発デザインセンターをネオシティーに設置した。同センターはヘルスケア、航空宇宙、防衛、輸送といった米国が重要視する分野に焦点を当て、ベルギーのimec本社と米国の半導体、システム関連企業や大学、研究機関との連携を促進するとしている。2018年には、ドイツのシーメンスとの半導体業界向けデジタルツイン技術開発に関するパートナーシップを締結した。さらに、2019年には東京エレクトロンと、2021年には米国資本唯一のファウンドリーのスカイウオーター・テクノロジーともパートナーシップを締結している。なお、スカイウオーター・テクノロジーはネオベーションセンターの運営も行っている。

2023年には、韓国産業技術振興院(KIAT)と覚書を締結し、米韓間の包括的な戦略的技術ベースの提携に向けた取り組みを進めるほか、韓国の半導体関連企業が米国市場に進出するための資金をKIATが提供するとのことだ。同覚書締結式は韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の公式訪米中に行われ、米国のジーナ・レモンド商務長官や韓国の李昌洋(イ・チャンヤン)産業通商資源部長官(当時)らが出席した。BRIDGのジェームス・バンデビア会長は「半導体エコシステム拡大のために本格的な投資を行っているフロリダ州に、韓国企業が進出する機会が生まれたことは意義深いことだ」とプレスリリースで述べた。

ほかにも、米国発のアクセラレーター、プラグアンドプレイは2023年9月、オセオラ郡やBRIDGなどと協力し、ネオシティーのイノベーション促進に取り組むと発表した。2024年1月から、ネオシティーで半導体産業の企業やスタートアップを対象に、年間で最大2回のプログラムを実施する予定だ。このプログラムでは、ワークショップやメンターシップセッション、展示会出展、ビジネス開発、投資機会の提供など、包括的なリソースを提供する。プログラムの重点領域には、先端パッケージング、ディープテック、国家安全保障関連のイニシアチブなどが含まれる。2024年3月28日にはネオシティーで、プラグアンドプレイ・ネオシティーの開設イベントを開催し、同社のサイード・アミディ創業者兼最高経営責任者(CEO)やフロリダ州商務省のアレックス・ケリー長官が出席したほか、有識者によるパネルディスカッションや半導体関連スタートアップによるピッチなどが行われた(2024年4月4日付ビジネス短信参照)。

前編で言及したように、防衛産業はフロリダ州の半導体エコシステムを支える産業の1つだ。フロリダ州選出の連邦下院のダレン・ソト議員(民主党)と連邦上院のマルコ・ルビオ議員(共和党)の超党派の支援もあり、2019年、国防総省は産業基盤分析・維持(IBAS)プログラム(注4)で、米国の防衛産業基盤の確保に役立つ次世代のマイクロチップを開発する新しいプロセスを開発するため、BRIDGと2,000万ドル以上の契約を初めて締結した。

さらに、2023年11月には、オセオラ郡が中心となり、初期資金365万ドル、5年間で最大1億2,000万ドルの契約を国防総省と締結した。同契約には、別途オプションが付いており、総額2億8,900万ドルの契約になる可能性があるという。国防長官室によると、同契約は安全性の高い異種先進パッケージ電子部品のためのエコシステムの米国内回帰の取り組みの一環という。オセオラ郡はBRIDG、スカイウオーター・テクノロジーと契約し、国防総省との契約を実施する。BRIDGはチップ設計とプロセス開発に、スカイウオーター・テクノロジーは高度パッケージングサービスの提供にそれぞれ取り組む予定だ。

同契約の具体的な実施内容として、スカイウオーター・テクノロジーは2024年1月、先進的な電子相互接続技術を提供するデカ・テクノロジーズ(本社:フロリダ州)とともに、政府機関や民間顧客向けに、ファンアウトウエハーパッケージング(FOWLP、注5)能力を拡大するための新たな取り組みを発表した(スカイウオーター・テクノロジーウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。オセオラ郡と同社は、安全性の高い2.5次元、3次元の先端システム統合・パッケージング(ASIP)ソリューションによる少量・多品種生産に対応する高度なパッケージング能力と生産能力の立ち上げを計画しており、同社はネオシティーの施設で200ミリメートルと300ミリメートルデバイス・ウエハー・フォーマットのFOWLP処理をサポートできる新しい装置を取得、設置、認定する予定だ。

連邦政府の助成金も獲得

ネオシティー建設はオセオラ郡やフロリダ州、地元企業などがシティー主導して取り組んできたが、近年では、2022年の「ビルド・バック・ベター・リージョナル・チャレンジ(BBBRC)」プログラムや、2024年の米国国立科学財団(NSF)の助成プログラムといった連邦政府の助成金にも採択されている(表3参照)。

表3:ネオシティーに対する助成金(-は値なし)
発表
年月
助成金交付元 助成額(ドル) 内容
2018年3月 フロリダ州 580万 ネオシティー内に全長2.1マイル(3,380メートル)の幹線道路ネオシティーウエーおよびゲートウエーを建設するための助成金を交付。
2022年1月 フロリダ州 600万 フロリダ州雇用成長助成基金はオセオラ郡に対し、ネオシティーの交通インフラを整備するための助成金交付を発表。
2022年9月 米国商務省 5,080万 「ビルド・バック・ベター・リージョナル・チャレンジ」に選出。ネオベーション・センターの機能の大幅アップグレードなどを目指す。
2023年11月 フロリダ州 1,750万 オセオラ郡はフロリダ州から1,750万ドルを獲得し、ネオシティー内の最先端多目的ラボを開発。
2024年1月 米国国立科学財団(NSF) 1,500万 NSF地域イノベーションエンジンプログラムでフロリダ中央部半導体イノベーションエンジンが選定。先端パッケージングなどに関する実用志向の基礎研究を実施予定。最初の2年間で最大1,500万ドルを交付し、10年で最大1億6,000万ドルを助成。
2018年~2024年1月までの合計 9,510万

注:フロリダ州からの助成金の詳細は前編表3を参照。
出所:ネオシティーとBRIDGEの発表資料などからジェトロ作成

BBBRCは米国商務省経済開発局(EDA)のプログラムで、新型コロナウイルスのパンデミックからの経済回復を促進し、米国の地域社会を再建することを目的としており、2022年9月に21案件を採択した〔EDAウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕。「広範な繁栄のためのフロリダ中部半導体クラスター構築」として、オセオラ郡ネオシティーもBBBRCに採択され、5,080万ドルが交付される。BBBRCの助成金を活用して、オセオラ郡、オーランド経済パートナーシップ(OEP)、BRIDG、UCF、半導体関連企業などが連携し、6つのプロジェクトを2027年9月30日までに完了する予定だ(表4参照)。

表4:BBBRCで実施予定の6つのプロジェクト
No プロジェクト名 主導組織 概要
1 ネオベーションセンターの拡大 オセオラ郡 ネオベーションセンターの先端製造施設の改良およびリノベーションを行い、生産能力を拡大する。
2 先端パッケージング
プログラム
BRIDG マイクロエレクトロニクス先端パッケージング装置を導入する。
3 マイクロエレクトロニクスデザインおよび製造デジタルツイン セントラルフロリダ大学 モデリングとシミュレーションの装置を購入し、ネオベーションセンターとその半導体製造ラインにおいて、リアルタイムのデジタルツインを開発する。これにより、チップ集積で、リアルタイムのフィードバックを受けることができ、より効率的な半導体製造が可能となる。
4 労働力開発 オーランド経済パートナーシップ 技能ベースの労働力開発プラットフォームを拡大し、半導体産業で求められる特定の技能にあわせた教育と訓練を行うことで、人材パイプラインの強化を図る。
5 外部企業などへの橋渡し オーランド経済パートナーシップ 半導体クラスター参加者のニーズを満たすために、外部の企業や団体などとの連携を促進する。クラスター管理機構(CMO)を設立する。
6 連合のガバナンス オセオラ郡 BBBRCの連合メンバーやパートナーのための内部統治機構を確立し、6つのプロジェクトを管理・運営する。

注:申請時はネオベイジョンウエー道路建設を含む7プロジェクトを想定していたが、最終選考時に6プロジェクトに変更となった。
出所:BBBRCの申請資料からジェトロ作成

オセオラ郡が主導して、ネオベーションセンターの先端製造施設の改良とリノベーションを行う。また、BRIDGが主導してマイクロエレクトロニクス先端パッケージング装置を導入するほか、UCFが中心となって、モデリングとシミュレーションの装置を購入し、ネオベーションセンターとその半導体製造ラインで、リアルタイムのデジタルツイン開発を行い、生産性向上を目指すとのことだ。さらに、OEPが主導して労働力開発プラットフォームを拡大するほか、同半導体クラスター参加者と外部の企業や団体との連携を促進するクラスター管理機構も設立するという。

2024年1月には、NSFの最先端研究助成プログラム「NSF地域イノベーションエンジン(NSFエンジン)」に、BRIDGが主導するフロリダ中央部半導体イノベーションエンジンが選定された(2024年2月7日付ビジネス短信参照)。NSFエンジンプログラムは、CHIPSプラス法で認可されたプログラムで、主要な技術重点分野で学際的、共同的、実用志向、あるいは橋渡し的な研究や技術開発を推進することを目的としたもので、初年度は1,500万ドル、10年間で最大1億6,000万ドルが交付される。まずは、UCF、フロリダ大学、imec USAフロリダによる先端パッケージング、セキュリティー、極限環境での異種集積マイクロエレクトロニクスシステムに関する5つの実用志向の研究プロジェクトを支援する予定だ。

前述のように、フロリダ州の半導体エコシステムを基盤にしたオセオラ郡の産業政策から始まったネオシティー構想は、関連企業や大学などの連携により具体化され、オセオラ郡やフロリダ州政府の助成金だけでなく、連邦政府の助成金も獲得し、開発が加速している。NSFエンジン採択時にOEPのティム・ジュリアーニ代表兼最高経営責任者(CEO)が述べたように、オセオラ郡ネオシティーはかつての単なるアイデアから、重要な産業クラスターを支える経済エンジンへと変貌を遂げようとしている。

前編で紹介したフロリダ半導体ウイーク2024でimecのラジ・ジャミー業務部長が語ったように、CHIPSプラス法を契機に各地域の特徴を生かした半導体関連の技術拠点が米国各地で形成されつつある。半導体業界で注目が集まる後工程領域での研究開発に力点を置くネオシティーは今後、後工程領域の米国内の重要拠点となる可能性を秘めている。


注1:
人種の異なる生徒を相当数集めることができる特別なカリキュラムを提供する公立の小学校、中学校、高等学校、公立の初等教育センター、中等教育センター。
注2:
CPU、メモリー、センサーといった異種デバイスを一体化してパッケージングすること。
注3:
現実空間のヒト・モノ・コトのさまざまなデジタルコピーをサイバー空間上に表現する先進技術。
注4:
効果的かつ効率的に産業基盤の問題に対処できるようにすることを目的としたプログラム。
注5:
半導体チップとプリント配線基板の間をつなぐ再配線層をウエハープロセスで形成するパッケージの一形態。パッケージ面積が半導体チップ面積より大きく、チップの外側まで端子を広げることができる。

注目の米フロリダ半導体産業

  1. 概要と州政府や大学の取り組み
  2. 研究拠点都市ネオシティー
執筆者紹介
ジェトロ・アトランタ事務所
檀野 浩規(だんの こうき)
2015年、ジェトロ入構。ジェトロ福岡、特許庁(出向)などを経て、2023年6月から現職。