新分野進出など、フランス企業の最新動向
フランスの対アフリカ政策と企業動向(3)

2024年1月16日

第2部では、フランス系企業のアフリカ進出状況を紹介した。第3部ではアフリカにおけるフランス企業の最新動向について探る。

人材面でも注目される北アフリカ

自動車、航空宇宙、機械を中心に、フランス製造業によるモロッコやチュニジアなど北アフリカ地域での投資が進んでいる。西欧、東欧の投資コストが上昇する中、北アフリカが製造輸出拠点として、欧州のサプライチェーンに組み込まれている。加えて、2020年からのコロナ禍やウクライナ情勢などに伴うサプライチェーンの分断リスクを回避するため、顧客に近い場所での生産や、1つの国・地域の製造拠点への依存回避、地政学的リスクの小さい地域との取引などが求められている。その意味でも、フランス企業を含む欧州企業にとって、北アフリカ地域は引き続き有力な投資先候補となる。

また、最近は、地理的近接性やコスト面だけではなく、質の高い人材を求めて高等教育レベルの高い北アフリカに進出するケースも見られる。2021年にモロッコにサイバーセキュリティーの統括拠点を設けた防衛・電子機器大手のタレスや、2022年にエジプトに研究開発拠点を設置した半導体製造のSTマイクロエレクトロニクス、チュニジアにグループ最大の研究開発拠点を置く自動車用ソフトウェア開発のアクチアなどがその例だ。これまで少なかったIT、デジタルサービス、エンジニアリングなど、高付加価値分野の進出が増加傾向にある。

非フランス語圏への進出は買収もしくは出資が目立つ

第2部で見たように、南アフリカ共和国(南ア)とエジプトを除き、フランス語圏以外の市場でのフランス企業のプレゼンスは比較的低いが、近年は地場企業の買収や出資による非フランス語圏への進出が目立つ。例えば、建設材料大手のサンゴバン、種子大手のリマグラン、乳製品大手のダノンは、2010年代前半以降、これまでビジネス実績が乏しかった英語圏各国で、買収や出資を通じて製造拠点を確保している(表参照)。

表:フランス企業によるフランス語圏以外のアフリカ諸国への投資動向
社名 投資国 投資先概要 地場企業 出資率/買収
サンゴバン エジプト 建設材料 ドリミックス 買収 2023年
ケニア バサニ石 未公表 買収 2021年
モーリシャス 建設材料 エービーイー 買収 2021年
ダノン ガーナ アイスクリーム ファンミルク 買収 2019年
エジプト 乳製品 ハライエブ 買収 2016年
ケニア 乳製品 ブルークサイド 40% 2014年
リマグラン ガーナ シード・コ西・中央アフリカ 50% 2020年
ジンバブエ シード・コ 32% 2014年
南アフリカ リンク・シード 買収 2013年

出所:ジェトロ作成

製造のみならず、販売機能を強化するために地場企業に出資するケースもある。酒類メーカーのペルノ・リカールは2018年、自社製品の販売促進のため、アフリカの14カ国で事業を展開する「アフリカ版のアマゾン」とも称されるジュミアに出資した。

フランスの小売り大手のアフリカ進出

2010年代後半から、フランス系小売り大手企業による北アフリカおよび西アフリカへの展開が目立つ。スーパーマーケットチェーンのカルフールは、豊田通商傘下のCFAOとの協力の下、2010年代後半からコートジボワール、カメルーン、セネガルをはじめ、サブサハラアフリカ諸国への進出を加速した。上記3カ国におけるカルフールのハイパーマーケット、スーパーマーケットの店舗数は2022年の17店舗から2023年には29店舗となり、この1年で大きく拡大した。

同じくフランス食品流通グループのオーシャン・リテールは、2023年第4四半期中にアルジェリアの首都アルジェに売場面積5,000平方メートルのアルジェリア初の店舗をオープンする。将来的には、アルジェリア全土に店舗を展開する予定だ。同社は、2015年のセネガルへの出店を皮切りに、現在ではセネガル国内で37店舗を運営している。また、2022年6月からはコートジボワールに拠点を置き、同国国内で合計13店舗を有している(2023年5月17日付ビジネス短信参照)。アフリカでの売上高は、世界全体の売上高の0.7%にとどまるが、中間層の顧客をターゲットしているオーシャン・リテールは安定した経済成長と人口増加、中間層の急増を狙い、「21世紀最大のフロンティア」と呼ばれるアフリカの将来性を見込み積極的に出店している。

大手だけではなく、専門分野の小売企業も投資を加速している。スポーツ用品のデカトロンは、2007年にエジプトにアフリカ初の店舗を開き、現在は10カ国で合計52店舗を展開している。ホームセンターチェーンのルロワ・メルランも、2018年に南アに進出し、2021年には4店舗目を開店した。現在はコートジボワールとセネガルでの店舗設置に向け、両国で2019年から、ジュミアを通じたオンラインのテスト販売を実施している。

事業縮小、撤退の動きも

一方で、フランス系企業の一部にはアフリカでの事業縮小や撤退の動きも見られる。製造業で撤退が目立つのはアルジェリアで、自動車を対象とした輸入割当制度の導入など、ビジネス環境の悪化、販売低迷などを原因として、2010年代中にタイヤ大手のミシュラン、サンゴバンなどが同国での製造拠点を売却した。

アフリカ47カ国に展開する運輸最大手で、アフリカ42カ所の港湾でオペレーターなどの事業を行っていたボロレ・アフリカ・ロジスティクスは2022年12月、57億ユーロでスイス海運大手MSCグループに買収された(2022年12月23日付ビジネス短信参照)。世界大手との競争が激化する中、ボロレ・グループは、大規模投資を必要とする海運事業を売却し、今後はメディア事業、広告代理店事業に集中する。

金融部門では、コロナ禍以降、他国発の外資系銀行、地場銀行との激しい競争がフランス系銀行ネットワークの再編成をもたらした。ソシエテ・ジェネラル、BNPパリバ、BPCE、クレディ・アグリコルなどのフランス系銀行はセネガル、モーリタニア、ギニア、ガボンなど、アフリカ各地から撤退し、アルジェリア、コートジボワール、モロッコなど、利益が高い市場のみで支店を維持している。

新エネと都市開発分野で新たな動き

縮小や撤退の動きもある中で、ここまでに紹介した研究開発などの高付加価値拠点の設置や、M&Aを通じた英語圏市場への参入などに加え、「新エネルギー」や「持続可能な都市開発」など、新たな分野への進出の動きがある。

アフリカの人口増加により(2022年12月15日付地域・分析レポート参照)、大都市の肥大化による環境問題などが深刻化する中、フランス政府は同国開発庁(AFD)を通して、2019年からダカール(セネガル)、ワガドゥグ(ブルキナファソ)、アンタナナリボ(マダガスカル)など、アフリカの都市に特化した交通、ごみ処理、上水、下水処理、ガバナンスの強化プロジェクトを実施してきた。AFDはまた、2022年に持続可能な都市開発を目的とした8億2,700万ユーロの支援金を用意し、アフリカの都市に特化した技術協力プログラムを行っている。さらに、ケニア、ウガンダ、タンザニアなど英語圏のアフリカ諸国を対象に多くの再生可能エネルギー促進プログラムを積極的に支援している。

エネルギー分野では、EDF、HDF、テクニップ、トタルエナジーズ、エア・リキード、エンジなど、エネルギー、エンジニアリング大手主要企業がアフリカ各地でプロジェクトに参画し、フランスの水素技術・エンジニアリングを積極的に輸出しようとしている。例えば、独立系発電事業者HDFエナジーは2022年9月に、2024年までにナミビアでアフリカ初のグリーン水素による発電計画を開始すると発表した(2022年10月5日付ビジネス短信参照)。その後、2023年3月にジンバブエ、同年9月にケニアでそれぞれ初のグリーン水素発電プラントの建設に向けて合意書を締結し、開発調査を開始すると発表している。また、同年11月、地場企業との協力に基づき、モロッコで20億ドルの大規模なグリーン水素発電プロジェクト「ホワイト・デューンズ」を2025年に着工すると発表した。

執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ
ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。