新型コロナ防疫措置解除から1年、成長する広東省の消費市場(中国)

2024年3月26日

広東省は中国で最大の経済規模と人口規模を持つ省であり、消費規模も一貫して全国トップレベルである。新型コロナウイルス感染症の防疫措置政策の終了と住民の生活水準向上などに伴い、広東省の2023年の消費市場は成長した。本稿は2023年のデータに基づき、広東省の消費市場の最新動向を概観する。

消費規模が拡大、サービス消費が目立つ

国家統計局広東調査総隊の発表によると、2023年の広東省住民1人当たり可処分所得は4万9,327元(約103万5,867円、1元=約21円)で、名目成長率では前年比4.8%増、物価要因などを差し引いた実質成長率では前年比4.4%増となった。

また、2023年の広東省住民1人当たり住民消費支出(注1)は、前年比6.7%増の3万4,331元となった。同指標の成長率は、前述の可処分所得の名目成長率(前年比4.8%増)を1.9ポイント上回っており、消費の強さがうかがえる。消費支出類型別でみると、医療保健(前年比18.9%増)、交通通信(16.5%増)、教育・文化娯楽(10.7%増)が前年比2桁増加となった。そのほか、衣料品(9.5%増)、その他用品・サービス(9.2%増)、住居(5.3%増)、生活用品・サービス(3.5%増)、食品・たばこ・酒(1.0%増)など生活必需品に関わる支出は比較的小幅ながら、いずれも前年比で増加した。

財の消費とサービス消費で分けてみると、広東省住民1人当たりのサービス消費(注2)は、前年比10.6%増の1万6,964元となった。サービス消費の成長率は、住民消費支出全体の成長率(前年比6.7%増)より3.9ポイント高かった。また、住民消費支出全体に占めるサービス消費の割合は、49.4%に拡大し、前年より1.7ポイント増加した。サービス消費の成長要因として、国家統計局広東調査総隊は「スポーツ、演芸活動、観光などの文化・エンターテインメントの爆発的な人気が後押しした」と分析している。

旺盛な飲食業消費

昔から「食は広州にあり」と言われる広東省は、美食が多く集まる地域として知られている。2023年、広東省の社会消費品小売総額(注3)のうち、飲食業収入は5,763億4,400万元となり、全国の飲食業収入に占める広東省の割合は10.9%になった。伸び率も前年比26.5%増と、全国の伸び率(20.4%)より6.1ポイント大きい。新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年の広東省の飲食業収入(4,307億2,300万元)と比べても、33.8%増加した。

広東省飲食サービス協会の程鋼秘書長は、広東省の飲食業収入の増加要因は2つあるとした。1つ目は、2023年に広東省で20万社あまりの飲食企業が新規登録したことである。これにより、飲食業消費の良い土台が作られた。2つ目は、広東省の外食を好む消費習慣や、祝日の外食消費を挙げた。「これら2つの要因が広東省の飲食経済の成長を一定程度後押ししている」と分析している(「21世紀経済報道」2024年1月1日)。

エンターテインメント関連が人気、観光収入も増加

中国演出業協会の統計によると、2023年第3四半期までで、全国の営業型公演回数(ライブ、コンサート、劇団などの公演など。レストランやバーなどの娯楽施設での公演を含まない)は前年同期比3.8倍の34万2,400回になった。興行収入は前年同期比5.5倍の315億4,100万元になった(「人民網」2023年11月21日)。また、広州市政府の発表によると、2023年の広州市の大中型公演数は全国1位である。中国の企業データベース「企査査」の2024年1月8日時点の情報によると、エンターテインメント関連企業数(注4)も広州市が6万1,700社で全国最多であり、北京市(5万9,600社)と上海市(2万8,500社)が2位、3位で続いた。

広州市での活発な公演の開催は、各地方からの観光客の来訪につながり、観光分野の消費拡大にも貢献しているようだ。広東省政府工作報告によると、2023年に広東省を訪れた観光客数は延べ7億7,700万人で、観光収入は9,500億元を超え、いずれも全国1位であった。

スポーツ消費が拡大

ここ数年、国民の健康意識が高まり、スポーツ消費も拡大している。広東省体育局の情報によると、2023年の広東省のスポーツ産業の規模は前年比13%増の7,300億元になった。新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年(5,403億元)と比べ、35%増加した。

2022年の北京冬季オリンピック開催以降、ウインタースポーツへの注目が高まり、雪に触れる機会が相対的に少ない華南地域においても、室内スキー場が人気スポットとなっている。華南地域最大の室内スキー場「広州熱雪奇跡」の統計によると、2019年の開業以来、同施設への来客数は延べ300万人を突破した。同社の韋建羽マーケティングディレクターは同社の客層について、「広東省内から来る顧客が最も多く、6割近くを占めている。また、近隣都市や香港、マカオからも多くの顧客が訪れている」と述べた(「羊城晩報」2023年12月2日)。

2020年から広州熱雪奇跡でスキーのコーチを務める李群氏は、「中国東北地域の生徒たちはスキーを必須スキルとして捉えている一方、広州の生徒たちは、スキーを娯楽・レジャーとして捉えることが多い。顧客の年齢層も4、5歳の子供から若者、60歳以上の年配層までとなっており、東北地域よりも幅広い客層に受け入れられている」とコメントした(「21世紀経済報道」2023年12月1日)。

香港からの「北上」消費ブーム

2023年には、中国本土と香港の往来全面再開(2023年2月7日付ビジネス短信参照)や、香港居住者の自家用車が、香港・珠海・マカオ大橋(港珠澳大橋)を経由して香港と広東省間を移動できる「港車北上」スキーム(2023年5月12日付ビジネス短信参照)などの実施に伴い、香港と中国大陸の人的往来がより容易になった。香港特区政府入境事務処の統計データによると、2023年に中国大陸を訪れた香港居住者は延べ5,334万人になった(「中国新聞網」2024年2月17日)。香港の人口を750万3,100人(香港特別行政区政府統計処2024年2月20日発表の速報値、2023年末時点)として試算すると、1人当たり年間平均7回程度、中国大陸を訪れていることになる。

人的往来の規制緩和だけではなく、香港と中国大陸との物価地域差や為替の変動が、香港居住者の「北上」消費を促進しているようだ。中国人民銀行深セン市支店の情報によると、2023年に、香港居住者が深セン市内での支払いにおいてキャッシュレス決済を利用した回数は前年比3.2倍の3,552万5,000件、金額は前年比70.5%増の85億8,000万元となった(「証券時報」2024年1月19日)。また、2024年1月に深セン市にオープンした米国大手会員制スーパーマーケットのコストコを例に挙げると、コストコ深セン店の会員数は2024年1月12日の開業時で既に13万人に達し、うち約10%が香港居住者であった(2024年1月18日付ビジネス短信参照)。

香港特区観光発展局の程鼎一総幹事は、2023年に香港を訪れた旅客数実績の発表時に、「香港住民の北上消費は短期的傾向にとどまらない。香港の店舗経営者たちは、どのように市民と観光客を香港に滞在させ、消費してもらうかを考える必要がある」とコメントした(「財経」2024年1月13日)。

全体的に見ると、広東省の消費市場は、モノ消費からコト消費(趣味や体験を重視する消費)へと移行しつつあり、消費の多様化が進行している。こうした動きは新たなビジネスチャンスにもつながると考えられ、今後、広東省あるいは中国全体の経済成長にどのように影響していくのか、注目していきたい。


注1:
本稿では消費支出の指標として、「住民消費支出」を用いている。「住民消費支出」とは、住民個人と家庭が生活消費に使用した支出、および団体が個人消費に使用した支出を指す。また、住民消費支出には実物支出だけではなく、文化サービスや生活サービスの消費などのサービス支出を含む。
注2:
飲食サービス、衣類・履物加工サービス、住居サービス、家庭サービス、交通通信サービス、教育文化娯楽サービス、医療サービス、その他のサービスを含む。
注3:
企業が個人か社会グループに販売した非生産、非経営用の実物商品の金額、および飲食サービスの提供を通じて得た収入の金額を指す。
注4:
企業名・ブランド名を統計。事業内容に音楽イベント、コンサート、公演、演芸、舞台芸術、舞台経営などを含む企業。
執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
汪 涵芷(オウ カンシ)
2016年からジェトロ・広州事務所にて勤務。