2023年台湾のEV販売台数は過去最高、ブランド参入企業も増加

2024年4月16日

業界団体の台湾区車両工業同業公会によると、2023年の台湾域内での自動車生産台数は前年比9.5%増の28万5,962台となり、このうち台湾域内で販売された台数(輸入車は含まず、輸出向けを含む)は7.6%増の24万3,036台となった。生産台数は2014年以降減少傾向にあり、2021年に7年ぶりに増加したが2022年は再び減少していた(図参照)。輸出台数は4万2,120台だった。

図:台湾の自動車生産・販売台数の推移
生産台数は、2008年182,974 台、2009年226,356 台、2010年303,456 台、2011年343,296 台、2012年339,038 台、2013年338,720 台、2014年379,223 台、2015年351,085 台、2016年309,531 台、2017年291,563 台、2018年253,241 台、2019年251,304 台、2020年245,615 台、2021年265,320 台、2022年261,263台、2023年285,962台。販売台数(台湾域内)は、2008年178,809 台、2009年229,450 台、2010年252,530 台、2011年285,790 台、2012年270,078 台、2013年258,753 台、2014年282,130 台、2015年262,593 台、2016年262,346 台、2017年255,770 台、2018年234,589 台、2019年219,075 台、2020年226,870 台、2021年234,780 台、2022年225,801台、2023年243,036台。輸出台数は2008年7,196 台、2009年9,655 台、2010年36,914 台、2011年54,785 台、2012年70,906 台、2013年82,427 台、2014年95,518 台、2015年83,307 台、2016年51,463 台、2017年39,519 台、2018年23,982 台、2019年32,482 台、2020年19,133 台、2021年30,014 台、2022年36,592台、2023年42,120台。生産台数伸び率(前年比)は、2008年△ 35.4%、2009年23.7%、2010年34.1%、2011年13.1%、2012年△ 1.2%、2013年△ 0.1%、2014年12.0%、2015年△ 7.4%、2016年△ 11.8%、2017年△ 5.8%、2018年△ 13.1%、2019年△ 0.8%、2020年△ 2.3%、2021年8.0%、2022年△1.5%、2023年9.5%。販売台数伸び率(台湾域内、前年比)は、2008年△ 35.3%、2009年28.3%、2010年10.1%、2011年13.2%、2012年△ 5.5%、2013年△ 4.2%、2014年9.0%、2015年△ 6.9%、2016年△ 0.1%、2017年△ 2.5%、2018年△ 8.3%、2019年△ 6.6%、2020年3.6%、2021年3.5%、2022年△3.8%、2023年7.6%。

注:販売台数は輸入車を含まず、輸出向けを含む。
出所:台湾区車輌工業同業公会

自動車生産台数、2023年は再び増加へ

メーカー別に2023年の生産台数をみると、シェア1位でトヨタ自動車や日野自動車のブランド車を製造する国瑞汽車(構成比:50.0%)は、前年比8.6%増の14万3,102台と3年連続で増加した。2位の三菱自動車工業などのブランド車を製造する中華汽車工業(17.1%)は、22.0%増の4万8,863台となり、前年のマイナス(8.7%減)からプラスに転じた。3位の台湾本田汽車(10.4%)も、11.2%増の2万9,773台で、2年連続で増加した。5位で韓国の現代ブランド車を製造する三陽工業(7.3%)は、59.4%増の2万1,010台と大幅に増加した。一方、4位の日産ブランド車などを製造する裕隆汽車製造(8.4%、注1)は4.3%減の2万3,885台、6位のフォードブランド車を製造する福特六和汽車(6.5%)は19.5%減の1万8,702台と、いずれも前年に引き続き減少した(表1参照)。

表1:台湾のメーカー別自動車生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
メーカー名 2021年 2022年 2023年
生産台数 生産台数 生産台数 シェア 伸び率 寄与度
国瑞汽車 124,815 131,814 143,102 50.0 8.6 4.3
中華汽車工業 43,848 40,044 48,863 17.1 22.0 3.4
台湾本田汽車 25,350 26,778 29,773 10.4 11.2 1.1
裕隆汽車製造 30,460 24,962 23,885 8.4 △ 4.3 △ 0.4
三陽工業 12,072 13,181 21,010 7.3 59.4 3.0
福特六和汽車 27,417 23,246 18,702 6.5 △ 19.5 △ 1.7
台塑汽車 1,358 1,238 627 0.2 △ 49.4 △ 0.2
合計 265,320 261,263 285,962 100.0 9.5 9.5

出所:台湾区車輌工業同業公会資料を基に作成

メーカー別に2023年の台湾域内の販売台数をみると、シェア1位の国瑞汽車(前年比6.0%増)、2位の中華汽車工業(22.2%増)、3位の台湾本田汽車(10.6%増)、5位の三陽工業(54.8%増)がそれぞれ増加した。一方、4位の裕隆汽車製造(10.9%減)、6位の福特六和汽車(15.8%減)は前年に引き続き減少した(表2参照)。

表2:台湾のメーカー別自動車域内販売台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
メーカー名 2021年 2022年 2023年
販売台数 販売台数 販売台数 シェア 伸び率 寄与度
国瑞汽車 97,516 96,982 102,806 42.3 6.0 2.6
中華汽車工業 41,898 39,422 48,157 19.8 22.2 3.9
台湾本田汽車 25,274 26,748 29,571 12.2 10.6 1.3
裕隆汽車製造 30,079 25,805 22,982 9.5 △ 10.9 △ 1.3
三陽工業 11,921 13,115 20,297 8.4 54.8 3.2
福特六和汽車 26,652 22,444 18,906 7.8 △ 15.8 △ 1.6
台塑汽車 1,440 1,285 317 0.1 △ 75.3 △ 0.4
合計 234,780 225,801 243,036 100.0 7.6 7.6

出所:台湾区車輌工業同業公会資料を基に作成

生産能力の回復により輸入車のシェアは微増

自動車市場関連の業界サイト「U-CAR」が2024年1月2日に発表した「2023年12月台湾自動車市場販売報告(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、表2に含まれない2023年の輸入車の販売台数は前年比18.9%増の22万4,489台となった。台湾域内の新車販売台数全体に占める輸入車の割合は47.1%で、前年の44.0%からやや増加した(注2)。増加の背景として、新型コロナの収束に伴う生産能力回復により受注残の消化が積極的に進み、新車販売市場が活性化したことなどを挙げた。

ブランド別のシェアをみると、1位は2022年に引き続きトヨタ(構成比15.0%)で前年比5.8%増の3万3,724台、2位と3位の順位は前年から逆転し、2位がレクサス(13.4%)で55.6%増の3万65台、3位がメルセデス・ベンツ(10.9%)で4.5%増の2万4,439台となった。4位のBMW(7.9%)は6.0%増の1万7,725台で前年から順位は変わらなかったが、5位のフォルクスワーゲン(7.4%)は36.2%増の1万6,567台と前年より1つ順位を上げた。

2023年EV販売台数は2万台を突破

また、U-CARが2024年1月12日に発表した「2023年度台湾自動車市場販売報告:電気自動車トップ10(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、2023年に域内での電気自動車(EV)販売台数は前年比53.7%増の2万4,778台となり、初めて2万台の大台を突破した(注3)。EVブランドもますます増え、2021年(10社)、2022年(16社)、2023年(20社)と右肩上がりに増加している。域内で販売される域内生産車と輸入車に占めるEVの比率は前年の3.7%から5.2%に上昇した。ブランド別(上位10位)のEV販売台数をみると、1位は2022年に引き続きテスラ(構成比53.1%)だったが、シェアはテスラ以外のブランド参入が増えたことで前年(72.0%)に比べ低下した。2位はBMW(13.7%)、3位はメルセデスEQ(7.8%)、4位はボルボ(7.0%)、5位は起亜(Kia)(3.6%)だった。トヨタ(2.9%)は前年より2つ順位を上げて7位にランクインした一方で、2022年に10位だった日産はトップ10から外れ、中華汽車工業(CMC、1.0%)がランクインした。

U-CARは「2023年も電気自動車(EV)は力強い成長を遂げた。しかし、電気自動車の生産はまだ一部の車種に限られている。現在注目されている、台湾自動車大手の裕隆汽車傘下の納智捷汽車が展開する電気自動車「LUXGEN(ラクスジェン) n⁷」(注4)も多くの台数が正式に消費者に引き渡されておらず、電気自動車全体を牽引するにはまだ時間がかかるだろう」と分析している。

電気自動車業界で加速する協業・連携、他業種からの参入相次ぐ

電子機器受託生産(EMS)で世界最大手の台湾の鴻海科技集団(以下、鴻海)は2023年10月、台北市で「2023鴻海科技日(ホンハイ・テック・ディ23)」を開催。同イベント内で対談した鴻海の会長兼最高経営責任者(CEO)の劉揚偉氏と、米国半導体大手エヌビディアの創業者でCEOのジェンスン・ファン氏は、鴻海とエヌビディアとの協業を発表した(「鴻海科技集団 新聞中心」2023年10月18日)。エヌビディアのテクノロジーを統合し、製造と検査のワークフローのデジタル化、AI(人工知能) を搭載した電気自動車やロボティクスプラットフォームの開発、増加する言語ベースの生成 AI サービスなど、幅広いアプリケーションに対応する新たなデータセンターを開発するという(「NVIDIAプレスリリース」2023年10月17日)。

鴻海はまた、ドイツの自動車部品大手ZFフリードリヒスハーフェン(以下、ZF)との協業も進めている。鴻海とZFは2023年7月、自動車シャシーシステムの提携を発表し、ZFの子会社(ZF Chassis Modules)に対してそれぞれ50%の株式を取得した(「鴻海科技集団 新聞中心」2023年7月24日)。これを機に、高級自動車メーカーをはじめ自動車分野でのビジネスチャンス拡大を加速するとしている。

台湾液晶パネル大手の友達光電(AUO)は2023年10月、ドイツの車載空調制御機器メーカーのベーア・ヘラ・サーモコントロール(BHTC)の全株式を6億ユーロで取得すると発表した(「AUO 媒体中心」2023年10月2日)。BHTCは、完成車メーカーと直接取引を行うTier1メーカーだ。BHTCの買収により、車載電子分野での「Tier1」を目指すとみられる(「トレンドフォース」2023年10月3日)。

組み込みプロセッサのサプライヤーである、台湾の晶心科技(ANDES Technology)は2023年12月に入り、車載用RISC-V(注5)関連での提携を強化している。組み込みソフトウエア開発を手掛けるドイツのTASKINGおよびMachineWareと、車載半導体分野で提携すると発表した(「ANDES Technology 晶心新聞」2023年12月19日)。また、晶心科技は同月、車載用RISC-V向けソフトウエアの開発でドイツのソフトウエア開発会社ベクター・インフォマティック(以下、ベクター)との提携も発表している。ベクターの関係者は「今回の協力により、当社のMICROSAR製品(AUTOSARC lassic ECU用の組み込みソフトウエア)をRISC-Vをベースとしたプロセッサ上で実行し、自動車分野で発展できる、最先端で安全で効率的なシステムの構築を可能にする」と述べた(「ANDES Technology 晶心新聞」2023年12月28日)。

EV産業を1兆元産業へ、ネットゼロの動きも加速

台湾行政院の陳建仁院長は2023年12月4日、「電気自動車産業サミットフォーラム」に参加した。陳氏は「2023年のEV生産額は4,000億台湾元(約1兆8,800億円、1台湾元=約4.7元)を超えるとみられ、2025年には約6,000億台湾元まで成長する可能性がある」と述べたほか、「域内に、EVのグリーンで強靭(きょうじん)なサプライチェーンを構築し、EV産業を1兆台湾元産業にしていきたい」と強調した。

台湾環境部は2024年1月24日、大気汚染防止の取り組みについて今後4年間(2024~2027年)で766億台湾元を投じることを明らかにした。空気汚染防止法案第1期(2020~2023年)に続き、第2期(2024~2027年)となる。第2期(注6)では、第1期(主に公営事業やボイラー、老朽車両などから排出される汚染物質に重点)とは異なり、「2050年ネットゼロ排出ロードマップ」(以下、ロードマップ、注7)に合わせ、大気汚染物質や炭素の排出量削減に加え、大気の質の改善を目指す。

また、台湾環境部は、予算のうち79億台湾元で、引き続き工場に対する汚染物質の排出管理基準の厳格化や車両から排出される汚染物質低減のほか、公共バスへのEV導入や充電設備の増設、公共バスの道路網の最適化により、EVフレンドリーな環境を創造する。台湾経済部は、EV物流車両や電動二輪車向けの充電設備の拡充などに約18億台湾元を投じるという。

2024年の自動車販売も引き続き拡大

台湾行政院主計総処は、2024年の実質GDP成長率を前年比3.43%と予測した(2024年3月6日付ビジネス短信参照)。内需については、所得増による可処分所得の増加が見込まれるうえ、株高や旺盛な旅行需要などが牽引すると予測。その一方で、民間投資については、デジタル化やネットゼロ対応のための研究開発や製造プロセス改善などを中心に民間企業の投資は行われるものの、大規模な投資には引き続き慎重になるとした。外需は、世界的に消費者製品の需要が徐々に回復していることに加え、AIや車載電子などの商機も引き続き拡大していることから、輸出の回復が続くと予測した。

台湾経済部が2024年2月29日に発表した1月の自動車・二輪車業の卸売・小売業営業額統計によると、卸売業は、ディーラーが春節前(注8)の販売を強化したことなどを受けて、前年同月比36.1%増の854億台湾元だった。小売業は、一部の輸入車の供給が増加したことに加え、春節前に購入需要増や販促拡大より単月で過去最高を記録し、36.5%増の764億台湾元となった。卸・小売業ともに2桁成長となった。2024年は経済成長率が前年より好転することが見込まれ、EV普及、足元の自動車関連卸・小売業の好調などのプラス要因により、自動車販売は引き続き拡大することが期待される。


注1:
生産台数には、日産との合弁の裕隆日産汽車なども含む。
注2:
U-CARが発表する台湾域内の新車販売台数(47万6,987台)に基づく割合。なお、U-CARが発表する「域内での輸入車販売台数(22万4,498台)」と、台湾区車両工業同業公会が発表する「域内で生産の自動車のうち、域内で販売された台数(24万3,036台)」を足し上げた合計(46万7,534台)は、前述のU-CAR発表の域内新車販売台数とは一致しない。
注3:
EVの販売台数には、エクステンデッド・レンジ電気自動車(EREV)は含まない。EREVは、航続距離を延ばすために小型の発電用エンジンを搭載したEVを指す。ハイブリッド車と異なり、EREVは電気が不足したときに限り、エンジンで発電を行う。
注4:
「LUXGEN n⁷」とは台湾自動車大手、裕隆汽車傘下の納智捷汽車が展開する「LUXGEN」ブランド初の電気自動車(EV)のこと。鴻海と裕隆集団のEV事業合弁会社でEV開発を手掛ける鴻華先進科技(フォックストロン)などが開発したEVプラットフォームをベースに設計した。
注5:
RISC-V(リスクファイブ)とは、オープンソースで提供されている、RISCプロセッサの命令セットアーキテクチャを指す。
注6:
2027年までに達成する目標として、「微小粒子状物質PM2.5の平均濃度(1立方メートル当たり)を13マイクログラム以下に引き下げる」「オゾン(O3)濃度警報で「赤色」となる日数を2019年比で8割減らす」などが掲げられた。
注7:
「2050年ネットゼロ排出ロードマップ」は、2022年3月に台湾の国家発展委員会が発表した政策(2022年4月4日付ビジネス短信2022年5月2日付2022年5月19日付2023年7月13日付地域・分析レポート参照)。
注8:
2024年の春節(旧正月)休みは2月8~14日、2023年は1月20~29日だった。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 アドバイザー
嶋 亜弥子(しま あやこ)
2017年4月より現職。