台湾の脱炭素に向けたロードマップを読み解く
2050年カーボンニュートラルに向け、具体的な方針を発表

2022年5月19日

台湾の国家発展委員会は3月30日、「2050年ネットゼロ排出ロードマップ」を発表した(2022年4月4日付ビジネス短信参照)。台湾当局は2021年4月、気候変動問題への危機感の高まりや、世界全体でカーボンニュートラルや炭素国境調整措置などの脱炭素に向けた動きが加速していることを踏まえ、台湾での2050年までのカーボンニュートラルの実現を表明していた。今回のロードマップは、その実現に向けた具体的な道筋および取り組み方針を明示したものだ。

取り組みの柱は「4大戦略」と「2大基礎」

「2050年ネットゼロ排出ロードマップ」(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(以下、ロードマップ)では、「4大戦略」と「2大基礎」を柱として、取り組みを推進する方針が示されている(参考1参照)。「4大戦略」とは、(1)エネルギー転換を通じた安全性の向上、(2)産業転換を通じた産業競争力の強化、(3)持続的な生活への転換、(4)社会の強靭(きょうじん)化、を指す。エネルギー転換を通じた安全性向上においては、エネルギーの輸入依存度を低下させ、国際エネルギー市場における価格変動などが台湾に与える影響を引き下げる。台湾はエネルギーの輸入依存度が高く、2021年の依存度は97.4%に達しているが、2050年には50%以下に引き下げるとしている。

「2大基礎」とは、(1)カーボンニュートラル実現に向けたベースとなる環境整備に向けた関連技術の研究開発や、(2)実現に向けた関連法制度の整備を指す。関連技術としては、持続可能なエネルギー、低炭素、循環、カーボンネガティブ、社会科学の5分野の発展を計画している。関連法制度の整備としては、現行の「温室効果ガス削減および管理法」を、2050年ネットゼロを盛り込んだ「気候変動対応法(気候変遷因応法)」に修正する[行政院ウェブサイト参照(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます]など、炭素排出削減に関する基本的な法制度の優先的見直しや、再生可能エネルギーとその管理、輸送および住宅などの関係法令の整備、ESG(環境・社会・ガバナンス)投融資を支援する「グリーン金融行動計画2.0」[行政院ウェブサイト参照(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます]を通じて産業構造の転換を促し、環境と持続可能な発展のバランスを取っていくことなどが含まれる。

また、「4大戦略」と「2大基礎」を補完する「12のキー戦略」を策定し、部局横断的にネットゼロ(カーボンニュートラル)に向けた取り組みを推進する(表参照)。

参考1:台湾の2050年ネットゼロ排出に向けた方針

台湾の2050年ネットゼロ排出転換

四大戦略(転換戦略)
エネルギー転換を通じた安全性の向上
産業転換を通じた産業競争力の強化
持続的な生活への転換
社会の強靭化
二大基礎(環境整備)
カーボンニュートラル実現に向けたベースとなる環境を整える関連技術の研究開発
カーボンニュートラル実現に向けた関連法制度の整備

出所:国家発展委員会「2050年ネットゼロ排出ロードマップ(台湾2050浄零排放路径及策総説明)」を基に作成

表:12のキー戦略の概要
No 項目 概要
1 風力発電、太陽光発電 風力発電と太陽光発電を再生可能エネルギー発展の主力に据える。2050年までの設備容量導入目標は、風力発電(洋上)が40~55GW、太陽光発電が40~80GW。
2 水素エネルギー 産業用ゼロカーボン製造工程や、輸送およびゼロカーボン燃料発電のなどの分野で利用する。輸入グリーン水素エネルギーの台湾域内での分配や貯蔵などのインフラおよび利用システムを構築。
3 将来的なエネルギー
(地熱発電・海洋発電・バイオマス発電)
再生可能エネルギーの選択肢を増やすため、地熱および海洋エネルギーを「将来的なエネルギー」とし、モデル検証やブロック開発、関連産業の発展を推進。バイオマス発電の使用を拡大。2050年までにこれらのエネルギーの設備容量を8~14GWにする。
4 送電・蓄電システム 分散型グリッド(電力網)の推進、グリッドの強度向上。電力網のデジタル化と運用の柔軟性向上を促進し、グリッドの適応力を向上させる。ICTやIoT技術を使用してシステムの統合を促進する。蓄電システムを拡大し、関連する重要技術を開発し、蓄電システムのビジネス化に向けたインセンティブを構築する。
5 省エネルギー エネルギー利用効率の向上と、高効率設備の普及加速。エネルギーの効率的利用技術を開発・発展させる。「将来的なエネルギー」も徐々に導入する。
6 二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS) CCUS活用により、産業およびエネルギー施設からの炭素排出を除去する。化学原料および建築材料としてのCCUS技術の開発を優先し、炭素循環バリューチェーンを確立する。地域の炭素貯蔵所として可能性のある場所を開発し、安全性検証計画を展開する。
7 輸送機器の電動化とゼロカーボン化 電気自動車の上流および下流関連産業を発展させ、技術の成熟度に応じてバイク、乗用車、バスの将来の市場シェア目標を設定する。蓄電、充電機器等のインフラの設置および技術の研究開発を調整して組み合わせる。
8 資源循環と廃棄ゼロ グリーンデザインとグリーン消費を促進する。上・中・下流産業を通じた資源循環チェーンを形成し、技術の研究開発と制度の革新によって資源循環効率を向上させる。製品の設計、資源再生、産業チェーン、技術革新の4方面において、廃棄ゼロ・持続的な資源循環を目指す。
9 自然の二酸化炭素吸収源 造林や関連する管理作業を通じて、大気中の二酸化炭素濃度を低下させる。カーボンネガティブな農法や生物の海洋生息地、動植物の保全技術を構築する。生物多様性の保護、土壌流失の防止、森林の保全、炭素吸収源エコシステムの保護を通じ、炭素吸収機能を強化する。
10 ネットゼロ排出のグリーンな生活 衣食住など各方面において、対話や教育などを通じ、行動の変化を促し、低炭素の生活様式を構築し、グリーン生活産業チェーンを創出する。
11 グリーン金融 金融業と産業の気候変動に対する強靭性を高め、完全かつ持続可能な金融エコシステムを構築する。上場企業に対する、温室効果ガス排出に関する調査および検証の実施や、情報公開強化を推進する。
12 公正な社会への転換 「誰も取り残さない」ことを目標に、ネットゼロ排出に向けた過程で、政策目標のバランス、社会的分配の公平性、利害関係の包括性の追求に努める。

出所:国家発展委員会「2050年ネットゼロ排出ロードマップ(台湾2050浄零排放路径及策総説明)」を基に作成

2030年を区切りとした2段階の計画でネットゼロ達成を目指す

台湾の二酸化炭素(CO2)の排出量(2019年)を産業別にみると、電力が1億3,900万トン、産業・建物・商業が合計8,660万トン、輸送が3,500万トン、非燃料の燃焼が2,640万トンとなっている(注1)。2050年までの二酸化炭素排出ネットゼロに向けては、2030年を区切りに2段階に分けた計画を進めていく方針だ。

まず、2030年までに排出量削減に向けた実現可能な施策に取り組む。特に、エネルギー転換を通じた、グリーンエネルギーの増加、風力発電および太陽光発電の優先的な促進、地熱や海洋発電関連技術の研究開発を展開する。また、天然ガスの使用増加を通じ石炭使用量を減少させる。

その後、2050年までに長期的なネットゼロ計画を展開する。エネルギーについては、再生可能エネルギーの導入最大化や二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)を通じた水素発電の導入により、ゼロカーボンの電力システムを構築する。また、各産業の電化を進めるほか、高効率な風力や太陽光など再生可能エネルギー技術、CCUS、水素発電の運用技術などに積極的な投資を行う。

エネルギー転換で2050年の再生可能エネルギーの発電割合を60~70%に

経済部能源局によれば、台湾の発電量に占める各電源の割合(2021年)は、火力が83.4%、原子力が9.6%、再生可能エネルギーが6.0%、水力が1.1%と、火力発電の割合が高い(図1参照)。ネットゼロ達成に向け、二酸化炭素の排出量がとりわけ多い電力分野において、総発電量に占める再生可能エネルギーの割合を2050年には60~70%に引き上げる計画だ。このための取り組みは、「4大戦略」の(1)エネルギー転換を通じた安全性向上、に位置付けられており、「3大戦略と9項目の施策」に細分化されている(参考2参照)。

図1:台湾の電源構成(2021年)
2021年の発電量は2,425億キロワット時。各電源の構成比率は火力83.4%、原子力9.6%、再生可能6.0%、水力1.1%。

出所:経済部能源局を基にジェトロ作成

参考2:エネルギー転換に関する3大戦略と9項目の施策

1.ゼロカーボンのエネルギーシステム創造
再生可能エネルギーの最大化
火力発電の脱炭素化
段階的な石炭の利用減少
ゼロカーボン燃料供給システムの構築
先進技術の適時の導入と、ゼロカーボンエネルギーの活用分野の拡大
2.エネルギーシステムの強靭性向上
再生可能エネルギー電力網インフラの優先的拡充
再生可能エネルギー貯蔵設備の拡大
3.グリーン成長の創始
グリーンエネルギー産業エコシステムの創造
脱石炭に向けた投資と国際協力の推進

出所:国家発展委員会「2050年ネットゼロ排出ロードマップ(台湾2050浄零排放路径及策総説明)」を基に作成

再生可能エネルギー比率引き上げのため、まず、2030年までに、技術が比較的成熟している太陽光および風力発電の導入を進める。導入量は、太陽光は2025年までに合計20GW(ギガワット)、2026~2030年は毎年2GWずつの導入が目標だ。洋上風力発電については、2025年までに5.6GWを導入し、2026~2030年は毎年1.5GWずつ導入する。2050年までの設備容量の目標値は、太陽光が40~80GW、洋上風力が40~55GWとなっている。

再生可能エネルギー以外の電源については、水素エネルギーが9~12%、火力発電については、炭素の回収・貯蔵・再利用(CCUS)技術とセットで行うとし、割合を20~27%とした。なお、電力不足への懸念について、行政院の龔明鑫政務委員は「ロードマップでは、2050年までの年間の電力需要の増加幅を年率1.5~2.5%と試算している。再生可能エネルギーの導入拡大や、将来より多くの人がグリーンエネルギーを購入可能になることを考慮すると、電力不足は生じない」と説明した。また、中小企業に対しては、当局が一定割合のグリーンエネルギーを確保、中小企業向けに提供するとともに、企業の脱炭素能力構築に向けた取り組みを支援するとした。

産業や輸送分野では電化を促進

非電力分野では、製造・輸送・建築・商業などにおける電化や脱炭素エネルギーおよび燃料の利用などを加速させることで、脱炭素化を目指す。

製造部門については、(1)製造工程の改善、(2)エネルギー転換、(3)循環経済、に関連する合計11の施策を実施する(参考3参照)。製造工程の改善では、旧式設備の更新加速化や省エネおよび省エネのデジタル化、水素関連技術開発、フッ素含有ガスの削減を進める。エネルギー転換では、短期的には天然ガスやバイオ燃料を利用しつつ、長期的には脱炭素エネルギーを100%利用することを目指す。企業に対しては、再生可能エネルギーの利用促進を促す国際イニシアチブ「RE100外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」への参加を推奨する(注2)。循環経済では、代替原料や再生原料、廃棄物から作る再生固形燃料(SRF)の利用や、CCUSの開発および利活用を行う。さらに、電子産業については、前述の施策に加え、製造工程の改善として、ISO50001(エネルギーマネジメントシステム)の導入やスマート化したエネルギーモニタリングシステムの構築を進める。また、循環経済に関しては、台湾域内でのカーボンネガティブ技術の開発参画を通じたカーボンクレジットの取得を追求する。

参考3:製造部門のネットゼロ転換戦略概要

1.製造工程の改善
旧式設備の更新を加速
省エネおよび省エネのデジタル化
水素関連技術の開発
フッ素含有ガスの削減および代替技術の開発
2.エネルギー転換
天然ガスの利用拡大(将来的には二酸化炭素回収・貯蔵を併用するとともに、カーボンニュートラル天然ガスを利用)
バイオマスエネルギーの利用拡大
企業にRE100目標(注)の実践を奨励
3.循環経済
セメント業、鉄鋼業、紡績業における代替原料・再生材料の利用拡大
セメント業における廃棄物代替燃料利用率および、製紙業における廃棄物由来の再生燃料の利用率の増加
循環産業園区および循環産業クラスターのエネルギーやリソースを統合
石油化学業における、二酸化炭素回収・利用(CCU)の導入と、回収した二酸化炭素を用いた合成化学品の研究開発

注:2050年までに事業を100%再生可能エネルギー電量で賄うことを目標とする取り組み。
出所:国家発展委員会「2050年ネットゼロ排出ロードマップ(台湾2050浄零排放路径及策総説明)」を基に作成

商業部門では、(1)設備またはオペレーションの改善、(2)低炭素エネルギーの利用、(3)低炭素型ビジネスモデルへの転換、(4)グリーン建築により、ネットゼロ排出を目指す。低炭素型ビジネスモデルへの転換は、スマート技術や設備を導入して、顧客の消費行動や電気の利用状況などを把握し、エネルギーの利用効率を高めることや、グリーン消費(注3)の推進などを含む。

建築部門では、2050年に新築建築物の100%、既存建築物の85%以上をネットゼロ建築に近づけることを目標とし、家電設備を含めたエネルギー効率の向上を図る。

輸送部門については、温室効果ガスの大部分が道路輸送によるものであることから、低炭素または炭素排出ゼロ車両の普及を推進する。具体的には、2030年に公共バスの全面電動化、2040年に新車販売に占める電気自動車と電気オートバイのシェアを100%にすることなどを掲げている。乗用車については、新車販売に占める電動自動車の割合を、2030年に30%、2035年に60%、2040年に100%にする計画だ(2022年5月2日付地域・分析レポート参照)。

また、非電力部門において、排出削減が困難な二酸化炭素2,250万トンについては森林などによる自然吸収で相殺する計画だ。山林や湿地の保護・育成を積極的に行い、炭素吸収源を拡大するという。

ロードマップ推進による経済効果に期待

台湾当局は、ロードマップの推進に向け、2022年から2030年までに9,000億台湾元(約3兆7,800億円、1台湾元=約4.2円)を投じる計画だ。予算項目は8つに大分され、その中でも、再生可能エネルギーおよび水素エネルギーの次世代技術開発に2,107億台湾元、スマートグリッドと蓄電システムの強化に2,078億台湾元と、それぞれ予算の5分の1超相当を充てる(図2参照)。

図2:2050年ネットゼロに向けた主要計画の予算
予算は合計約9,000億元(約3兆7,800億円、1台湾元=4.2円)。各予算項目の割合は、再生可能エネルギーおよび水素エネルギーが23.8%、電力網および蓄電が23.5%、輸送機器の電動化が19.0%、節電およびボイラーの新旧入れ替えが14.5%、森林による炭素吸収が9.6%、低炭素およびカーボンネガティブ技術が4.7%、資源循環が2.5%、ネットゼロ生活が2.4%。

出所:国家発展委員会「2050年ネットゼロ排出ロードマップ(台湾2050浄零排放路径及策総説明)」を基に作成

台湾当局は、これらの取り組みにより、(1)2030年までの4兆台湾元にのぼる民間投資の促進、(2)輸入エネルギーへの依存度の低下(2021年の97.4%から、2050年に50%以下に)、(3)2030年までの大気の汚染量を2019年比で30%減少、などが達成できるとしている。

なお、同ロードマップ発表以前から、企業も2050年のネットゼロ排出に向けて動き出していた。2021年9月には、台湾内の産業界・官公庁・学術分野の代表が集まり「台湾ネットゼロエミッション連盟(TANZE)(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」の発足を発表している。発足にあたり、頼清徳副総統は「台湾ネットゼロエミッションには、伝統的製造業や科学技術産業、金融業、サービス業から27の企業が参画している。参画企業は、売上高合計が2020年の台湾のGDPの4割超を占め、排出する温室効果ガスは台湾域内全体の2割近くを占める」と同連盟の影響力が大きいことに言及した。また、同ロードマップで加盟が推奨されているRE100についても、2018年のTCI大江生医を皮切りに、台湾積体電路製造(TSMC)、聯華電子(UMC)、ASUS、台湾大哥大など16の企業がすでに加盟している。今回のロードマップ発表により、産業ごとに目標や取り組むべき施策が示されたことから、台湾の脱炭素に向けた取り組みは、企業を巻き込み一層加速するだろう。


注1:
二酸化炭素に加えて、亜酸化窒素、メタンなども合わせた温室効果ガスの排出量は、2019年に2億8,706万二酸化炭素換算トン。
注2:
2050年までに事業を100%再生可能エネルギー電量で賄うことを目標とする取り組み。2022年4月19日時点で、360社以上の企業が参加をしている。
注3:
グリーン消費では、消費者の低炭素商品・サービス選択を促進することによって、結果として企業にもグリーン商品・サービスの提供を促すこととなる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
柏瀬 あすか(かしわせ あすか)
2018年4月、ジェトロ入構。海外調査部国際経済課、市場開拓・展示事業部海外市場開拓課を経て現職。