成長を続ける自動車部品産業
2023年のメキシコ自動車産業(2)

2024年7月3日

メキシコの自動車部品生産額は、2022年、2023年と2年連続で過去最高額を記録し、2024年も継続した成長が見込まれている。電気自動車(EV)の生産台数も10万台を達成し、今後もさらなる伸びが予想される中、関連部品サプライヤーの集積も順調に進んでおり、現在EVを生産しているフォード、ゼネラルモーターズ(GM)、JAC以外の完成車メーカーによるEV生産開始の発表が待たれる状況だ。一方で、メキシコにとって切っても切れない関係の米国では、保護貿易政策や対中強硬姿勢が強まり、在メキシコ自動車部品サプライヤーにも少なからず影響を及ぼしている。2024年中にメキシコ・米国の両国でおこなわれる大統領選挙やその後の産業政策、外交政策にも注目が集まる。

自動車部品生産は2年連続で過去最高額を更新

メキシコ自動車部品工業会(INA)の発表によると、2023年のメキシコの自動車部品生産額は1,211億5,700万ドルで、2022年の1,039億7,900万ドルから16%の成長を見せた。2024年の推定値は1,256億8,700万ドルで、2023年からさらに3%の伸びを見込んでいる。製品分野別に見ると、生産額の大きい順に(1)電子部品、(2)トランスミッション・クラッチ関連部品、(3)座席・カーペット関連、(4)エンジン関連部品となった(注1)。

自動車部品産業はメキシコ国内の雇用創出にも大きく貢献しており、2023年の従事者数は88万3,000人となった。この数値も2022年の87万7,000人からさらなる伸びを見せ、過去最高である2018年の88万6,000人に迫る勢いだ(図1参照)。

図1:メキシコの自動車部品生産額、雇用の推移
自動車部品生産額は、2012年に775億6,400万ドル、2013年に819億1,300万ドル、2014年に867億9,100万ドル、2015年に878億6,100万ドル、2016年に896億700万ドル、2017年に909億7,800万ドル、2018年に933億7,000万ドル、2019年に944億2,900万ドルでここまでは緩やかな右肩上がり。2020年に777億4,900万ドルまで落ち込み、2021年に926億5,300万ドルまで回復、2022年に1,039億7,900万ドル、2023年に1,211億5,700万ドルと2年連続で過去最高額を更新。2024年の推定額はさらに伸びて1,256億8,700万ドル。自動車部品産業での雇用創出人数は、2012年に58万3,000人、2013年に63万7,000人、2014年に69万2,000人、2015年に73万7,000人、2016年に77万2,000人、2017年に83万5,000人、2018年に88万6,000人、2019年に86万7,000人、2020年に86万2,000人、2021年に83万6,000人、2022年は87万7,000人、2023年は88万3000人で過去最高を記録した。

注:2024年の数値は推定値。
出所:メキシコ自動車部品工業会(INA)のデータから作成

次に、メキシコ国内の地域別および州別の自動車部品生産額を見ていく。地域別の生産額は、大きい順に北部(523億200万ドル)、中央高原地帯(通称バヒオ、427億9,400万ドル)、中部(194億9,100万ドル)となった。この3地域に含まれる15州でメキシコ国内全体の自動車部品生産額の94.6%を占める。州別にみると、生産額は上から順に北部国境コアウィラ州(184億5,200万ドル)、中央高原地帯グアナファト州(159億1,800万ドル)、北東部ヌエボレオン州(148億ドル)、北部国境チワワ州(106億4,800万ドル)、中央高原地帯ケレタロ州(95億5,100万ドル)で、これら上位5州がメキシコ全体の生産額の5割強を占めている(表1参照)。

表1:メキシコの地域・州別の自動車部品生産額とその構成比(100万ドル)
地域・州名 生産額(2023年) 構成比(2023年) 構成比(2022年*)
北部 52,302 43.2% 49.0%
階層レベル2の項目コアウィラ州 18,452 15.2% 16.3%
階層レベル2の項目ヌエボレオン州 14,800 12.2% 11.6%
階層レベル2の項目チワワ州 10,648 8.8% 12.2%
階層レベル2の項目タマウリパス州 5,094 4.2% 6.0%
階層レベル2の項目ソノラ州 3,307 2.7% 2.9%
中央高原地帯(バヒオ) 42,794 35.3% 30.2%
階層レベル2の項目グアナファト州 15,918 13.1% 10.8%
階層レベル2の項目ケレタロ州 9,551 7.9% 6.9%
階層レベル2の項目サンルイスポトシ州 8,245 6.8% 5.7%
階層レベル2の項目アグアスカリエンテス州 5,350 4.4% 3.8%
階層レベル2の項目ハリスコ州 3,730 3.1% 3.0%
中部 19,491 16.1% 15.4%
階層レベル2の項目プエブラ州 8,046 6.6% 6.1%
階層レベル2の項目メキシコ州 7,821 6.5% 6.4%
階層レベル2の項目モレロス州 1,717 1.4% 1.4%
階層レベル2の項目トラスカラ州 993 0.8% 0.7%
階層レベル2の項目メキシコ市 913 0.8% 0.8%

注:2022年の構成比は1月から11月までの生産額を基に算出。
出所:メキシコ自動車部品工業会(INA)のデータから作成

先述の州別生産額の数値にはまだ反映されていないようだが、2023年はメキシコ北部での生産拠点の設立を発表した自動車部品メーカーが多かった。北東部ヌエボレオン州に組立工場を持つ韓国系自動車メーカーの起亜自動車(KIA)は、ペスケリア工場の拡張を発表した。同様に、建設に遅れが生じているものの、2023年最大級の投資発表となった米国系EVメーカーであるテスラのギガファクトリー建設に伴い、主に中国系の自動車部品メーカーが北部での生産拠点設立を進めている。これらの自動車生産拠点設置により、今後の地域別・州別生産額の構成比が変わってくることは十分に考えられるだろう。いずれにせよ、バヒオと北部がメキシコ自動車産業にとって重要な地域であることには変わりない。南東部でも工業団地の開発が進んでおり、企業誘致がなされているが、自動車産業のサプライチェーンが充実するには相当の時間を要するだろう。

米国、メキシコといった北米での自動車部品産業の動向について確認するべく、2023年の地域・分析レポート(2023年6月15日付地域・分析レポート参照)でも触れた、品質マネジメントシステムに関する国際規格であるIATF16949(注2)の取得状況についても再度触れておく。この規格の監督機関である国際自動車産業監督機関(IAOB)によると、2024年3月20日時点でのメキシコにおけるIATF取得拠点数は2,168拠点で、2023年の同時期よりも50拠点増加している。逆に米国における取得拠点数は3,663拠点で、こちらは2023年の同時期と比較して約70拠点の減少となった(図2参照)。世界的に取得拠点数が増加する中での米国の拠点数減少の背景には、在米の自動車部品メーカーが、高付加価値の生産ラインを米国に残しつつも、メキシコのような人件費が比較的安価な国・地域へその他の生産ラインを移管するといった動きもあると考えてよいだろう。

図2:地域別IATF16949取得拠点数
全世界のIATF16949の認証取得拠点数を主要地域別に分けて積み上げ横棒グラフで表し、2018年12月末の実績、2023年3月末の実績、2024年3月20日時点の実績を並べた図。メキシコを含む北米の拠点数は2018年末に6,010で、2023年3月末は6,295、2024年3月は6,264。中南米の拠点数は2018年末に1,413で、2023年3月末は1,411、2024年3月は1,437。欧州は2018年末に11,170で、2023年3月末は11,323、2024年3月は11,024。アジアの拠点数は2018年末に48,174で、2023年3月末は67,689、2024年3月には72,860と大幅に増加。中東は2018年末に1,552で、2023年3月末に1,994、2024年3月は2,091。アフリカは2018年末に494で、2023年3月末に602、2024年3月は610となった。 米国とメキシコにおけるIATF16949の認証取得拠点数を積み上げ横棒グラフで表し、2018年12月末、2023年3月末、2024年3月20日時点の実績を並べた図。2018年末の米国の拠点数は3,809、2023年3月末は3,730、2024年3月は3,663と次第に減少している。対してメキシコの2018年末の拠点数は1,736、2023年3月末は2,118、2024年3月は2,168と過去6年ほどで400拠点以上増加している。

注:メキシコは「北米」に含まれる。
出所:国際自動車産業監督機関(IAOB)データから作成

輸出額も堅調な伸び、米国にとっての自動車部品供給国としての重要性強める

2023年の自動車部品の輸出額は1,055億6,100万ドルで、生産額と同様に過去最高額を記録した。国内の生産額に占める輸出額の割合は約87%で、2022年よりも1ポイントほど増加しており、着々と輸出比率を伸ばしている(図3参照)。

図3:メキシコの自動車部品生産内訳と輸出比率の推移
2012年は輸出向け520億5,900万ドル、国内向け255億500万ドル、輸出比率67.1%。2013年は輸出向け578億3,500万ドル、国内向け240億7,800万ドル、輸出比率70.6%。2014年は輸出向け646億2,600万ドル、国内向け221億6,500万ドル、輸出比率74.5%。2015年は輸出向け684億2,100万ドル、国内向け194億4,000万ドル、輸出比率77.9%。2016年は輸出向け708億2,200万ドル、国内向け187億8,500万ドル、輸出比率79.0%。2017年は輸出向け734億6,400万ドル、国内向け175億1,400万ドル、輸出比率80.7%。2018年は輸出向け793億1,000万ドル、国内向け140億6,000万ドル、輸出比率84.9%。2019年は輸出向け810億7,600万ドル、国内向け133億5,300万ドル、輸出比率85.9%。2020年は輸出向け648億1,400万ドル、国内向け129億3,500万ドル、輸出比率83.4%。2021年は輸出向け784億5,200万ドル、国内向け142億100万ドル、輸出比率84.7%。2022年は輸出向け892億2,400万ドル、国内向け147億5,500万ドル、輸出比率は85.8%。2023年は輸出向け1,055億6,100万ドル、国内向け155億9,600万ドル、輸出比率87.1%。2024年の推定額は輸出向け1,098億6,900万ドル、国内向け158億1,800万ドル、輸出比率87.4%。

注:2024年の数値は推定値。
出所:メキシコ自動車部品工業会(INA)のデータから作成

一方の輸入額も過去最高となり、682億3,600万ドルと2022年から80億ドル近く伸びている。メキシコでは貿易赤字が恒常化しているが、自動車部品分野に限れば、2023年はおよそ400億ドルの黒字となっており、同分野がメキシコの貿易収支を支える重要な役割を果たしていることがわかる。

自動車部品の輸出入の相手国別の統計は、ほぼ例年同様の構成比となった。輸出においてはブラジル向け、中国向けの構成比率が若干増加した。また輸入においては、中国からの輸入が前年より20億ドルほど増加し、それに伴って構成比率も上昇した(表2参照)。

表2:メキシコの自動車部品国別貿易額(100万ドル)

輸出
国名 2021年 2022年 2023年
金額 金額 金額 構成比 伸び率
米国 70,265 78,428 91,670 86.8% 16.9
カナダ 2,513 3,480 4,117 3.9% 18.3
ブラジル 1,178 1,338 1,900 1.8% 42.0
中国 943 1,071 1,478 1.4% 38.0
日本 707 892 1,077 1.0% 20.7
ドイツ 550 714 855 0.8% 19.7
その他 2,356 3,301 4,465 4.2% 35.3
合計 78,543 89,224 105,561 100.0% 18.3
輸入
国名 2021年 2022年 2023年
金額 金額 金額 構成比 伸び率
米国 28,171 33,000 36,309 53.2% 10.0
中国 7,486 7,893 9,894 14.5% 25.4
日本 3,476 3,764 4,251 6.2% 12.9
韓国 3,315 3,522 3,821 5.6% 8.5
ドイツ 2,674 3,036 3,685 5.4% 21.4
カナダ 2,032 2,186 2,470 3.6% 13.0
その他 6,310 7,316 7,806 11.4% 6.7
合計 53,474 60,717 68,236 100.0% 12.4

注:金額の単位は100万ドル。
出所:メキシコ自動車部品工業会(INA)のデータから作成

注目すべきは、メキシコが米国にとっての自動車部品供給国としての重要性を年々高めている点だ。INAが発表したデータによると、米国の自動車部品輸入相手国のうち、2023年はメキシコが全体の42.6%を占めた。その割合は年々拡大しており、2007年には30%に満たなかったものが、2013年には33.9%、2018年には38.2%、2022年には39.3%と推移し、2023年についに4割を超えたかたちだ。一方で、中国の占める割合は、2007年の10.3%から、2018年に12.6%まで上昇したが、2023年には7.7%まで低下している。

米国の自動車部品輸入相手国の中でメキシコが占める割合は、ニアショアリングの動きが顕著になった2021~2022年より前から拡大傾向にあった。2010年代の欧米系や日系完成車メーカーのメキシコ進出に伴い、自動車部品サプライヤーのメキシコ進出が進んだこともその一因であると考えられよう。ここ数年間でメキシコがシェアを拡大した背景には、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の発効や、新型コロナ禍におけるサプライチェーンの混乱に起因するメキシコへの生産移管、米中貿易摩擦などがあることは間違いないだろう。

自動車部品分野はメキシコ全体の対内直接投資拡大に貢献

2023年の自動車部品分野は、メキシコの対内直接投資拡大にも重要な役割を果たした。メキシコ経済省の発表によると、メキシコ国内全体の2023年の対内直接投資額(フロー)は360億5,800万ドルで、記録が残る中で最高額となった。分野別に見ると、輸送機器分野(完成車・自動車部品製造を含む)、飲料・たばこ分野を含む製造業が約50%を占める。投資タイプ別に見ると、新規投資が48億1,700万ドル、追加投資が266億3,100万ドル、親子間勘定が46億1,000万ドルと、追加投資の伸びが成長を牽引した。

2022年はあまり振るわなかった自動車分野の対内直接投資だが、2023年は相次ぐ投資発表により大きく数字を伸ばし、71億5,900万ドルを記録した(図4参照)。うち、自動車部品は20億2,300万ドルを占め、州別で多額の投資を受け入れたのは(1)北部国境チワワ州(5億5,350万ドル)、(2)メキシコ市(3億830万ドル)、(3)北部コアウィラ州(2億7,150万ドル)の順であった。

図4:自動車分野における対メキシコ直接投資額(フロー)の推移
2010年の完成車製造分野の投資額は8億6,700万ドル、自動車部品製造分野の投資額は9億4,900万ドル。2011年は完成車分野が5億1,100万ドル、自動車部品分野が13億9,200万ドル。2012年から2015年までは大きな伸びがみられ、2012年は完成車分野が11億7,400万ドル、自動車部品分野が19億9,300万ドル。2013年は完成車分野が18億600万ドル、自動車部品分野が25億6,100万ドル。2014年は完成車分野が27億9,700万ドル、自動車部品分野が21億1,500万ドル。2015年は完成車分野が32億7,700万ドル、自動車部品分野が24億9,500万ドル。2016年は一旦、両分野において落ち込みがみられ、完成車分野が27億7,600万ドル、自動車部品分野が27億7,900万ドル。2017年には大きな回復を見せて過去最高となり、完成車分野が40億4,500万ドル、自動車部品分野が34億3,700万ドル。2018年は完成車分野が34億5,000万ドル、自動車部品分野が33億3,700万ドル。2019年は完成車分野が42億9,500万ドル、自動車部品分野が33億4,400万ドル。2020年は大幅に落ち込み、完成車分野が31億6,300万ドル、自動車部品分野が7億9,400万ドル。2021年は完成車分野が17億1,800万ドル、自動車部品分野が27億3,300万ドル。2022年は完成車分野が29億8,800万ドル、自動車部品分野が14億400万ドル。2023年は完成車分野が51億3,600万ドル、自動車部品分野が20億2,300万ドル。

注:2023年12月31日確認分。
出所:メキシコ経済省外資局のデータから作成

日系企業による自動車分野の投資は過去最高額を記録

次に、完成車・自動車部品を製造する日系企業のメキシコにおける対内直接投資の推移について振り返る。2023年は進出済み企業の追加投資を中心に、過去最高の対内直接投資額を記録した(図5参照)。

図5:自動車分野における日系企業の対メキシコ直接投資額(フロー)の推移
2010年の完成車製造分野の投資額は2億1,800万ドル、自動車部品製造分野の投資額は100万ドル。2011年は完成車分野が3億3,300万ドル、自動車部品分野が1億1,800万ドル。2012年は完成車分野が7億4,200万ドル、自動車部品分野が5億3,500万ドル。2013年は完成車分野がマイナス2億2,500万ドル、自動車部品分野が8億1,200万ドル。2014年は完成車分野が10億1,700万ドル、自動車部品分野が7億800万ドル。2015年は完成車分野が6億9,200万ドル、自動車部品分野が5億3,800万ドル。2016年は完成車分野が4億4,800万ドル、自動車部品分野が5億4,500万ドル。2017年は完成車分野が11億6,200万ドル、自動車部品分野が4億9,400万ドル。2018年は完成車分野が7億7,300万ドル、自動車部品分野が7億1,000万ドル。2019年は完成車分野が2億9,300万ドル、自動車部品分野が5億7,300万ドル。2020年は完成車分野が8億2,500万ドル、自動車部品分野は大幅に落ち込み、4,000万ドル。2021年は完成車分野が3億1,000万ドル、自動車部品分野が4億4,000万ドル。2022年は完成車分野が12億5,600万ドル、自動車部品分野が4億5,200万ドル。2023年は完成車分野が17億3,200万ドル、自動車部品分野が7億5,600万ドル。

注:2023年12月31日確認分。
出所:メキシコ経済省外資局のデータから作成

日系企業の主要な投資発表を振り返ると、2023年には(1)1月に住江織物が約30億円を投じて合成皮革製造ライン新設のための用地取得と新建屋の建設を発表、(2)3月に日鉄物産が電磁鋼板の精整・スリット加工を担う拠点となるコイルセンターを新設、(3)5月に三井ハイテックがモーターコアの製造と販売をおこなう子会社の設立を発表、(4)10月に住友電気工業が自動車向けのリチウムイオン電池用のタブリードなどの製造会社設立を発表、(5)11月に日本発条がモーターコアの生産設備増強に伴う新工場の設立を発表、(6)12月に豊田合成が自動車用外装部品の生産能力増強を発表、などの案件が挙げられる。また、2024年に入ってからは、3月に横浜ゴムが乗用車用タイヤの新工場建設を発表している。自動車分野以外にも、工作機械の販売・保守を担う会社やスマートファクトリー向けのソリューションを提供する会社をはじめ、物流やその関連サービスを提供する会社の新規進出や、追加拠点設立の発表も相次いだ。

プレスリリースが出されない案件も含め、ジェトロにも日々拡張投資や新規投資の相談が寄せられている。その内容は、拡張先・新規進出先のサイトセレクションにかかる相談や、メキシコ国内におけるサプライヤーの集積状況の調査、米国・メキシコ両国で行われる大統領選挙による影響、地域別の人材確保の難易度、州別・地域別の治安状況などさまざまだ。

EV関連部品メーカーの集積も進む

メキシコ自動車工業会(AMIA)によれば、メキシコ国内でのバッテリー式電気自動車(BEV)生産台数は順調に伸びており、2023年はついに10万台を超え、10万9,695台を記録した(注3)。最も生産台数が多かったのはフォードの「ムスタング・マッハE」の9万4,434台で、メキシコ国内のBEV生産の大部分を占めた。また、2023年10月からはGMの「ブレイザーEV」および「エキノックスEV」も生産が開始され、2023年の生産台数は「ブレイザーEV」が1万1,744台、「エキノックスEV」が347台となった。

メキシコ国内でのEV生産の伸びに伴い、EV関連部品メーカーも増加の一途をたどっている。業界メディア運営会社のコネクシオン・B2B(Conexión B2B)が発行する「エレクトロモビリティ・マッピング(2024年第1四半期)(スペイン語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」によると、メキシコ国内には既に191のEV関連部品サプライヤー(Tier1、Tier2)が存在するという。2023年第1四半期に発表された同レポートでは、サプライヤー数は83とされていたことから、1年で2倍以上に増えている。特に数が多いのは(1)バッテリー・ハーネス関連(67社)、(2)駆動系部品(32社)、(3)冷却・温度管理系統部品(25社)のサプライヤーだ。いずれもグアナファト州を中心とする中央高原地帯や、ヌエボレオン州を含む北部など、既存の自動車産業集積地に集中している。テスラのギガファクトリー新設発表に伴って、多くの中国系サプライヤーが進出していることに注目が集まっているが、主要な投資発表を見ると、欧州、米国、アジアといったあらゆる地域から関連サプライヤーが集まっていることがわかる(表3参照)。

表3:2023年に発表、または報道されたメキシコにおけるEV関連主要投資
発表月
または報道月
社名 国籍 生産部品・投資内容 投資先 出所
4月 Lear Corporation 米国 EV用ハーネス新工場 コアウィラ州 報道
5月 BorgWarner 米国 EV用バッテリー冷却プレート新規生産 コアウィラ州 公式ウェブサイト
5月 Valeo フランス EV用冷却システム新工場 メキシコ州 報道、メキシコ州知事Xアカウント
5月 Ningbo Xusheng Group 中国 EV用部品進出・新工場 コアウィラ州 報道
6月 Aptiv アイルランド EV用低電圧ハーネス新工場 ハリスコ州 公式ウェブサイト
7月 BorgWarner 米国 EVモーター用設備導入 サンルイスポトシ州 公式ウェブサイト
7月 Linamar カナダ EV用部品設備導入 ドゥランゴ州 報道
8月 De Luna Lithium Battery メキシコ リチウムイオン電池アッセンブリ新工場 メキシコ州 報道
9月 Endurance Motive スペイン リチウムイオン電池アッセンブリ新工場 プエブラ州 公式ウェブサイト
10月 Yura Corporation 韓国 EV用ハーネス新工場 ドゥランゴ州 報道
10月 SKF スウェーデン 深溝玉軸受新工場 ヌエボレオン州 公式ウェブサイト
10月 JL Mag 中国 EV用磁石新工場 ヌエボレオン州 報道、ヌエボレオン州知事Facebookアカウント
10月 住友電気工業 日本 リチウムイオン電池用タブリード製造会社 アグアスカリエンテス州 公式ウェブサイト
11月 日本発条 日本 モーターコア新工場 グアナファト州 公式ウェブサイト
11月 三井ハイテック 日本 モーターコア新工場 グアナファト州 公式ウェブサイト

出所:各社公式ウェブサイト、SNS、各種報道からジェトロ作成

メキシコへの生産移管の盛り上がりに影を落とす課題と今後

メキシコでの自動車部品生産に必要な材料、特に鉄鋼・アルミニウムはメキシコ国内での供給が限られており、関連製品も含め海外から輸入されることも多いが、昨今メキシコに輸入される鉄鋼と同製品に対する監視強化の動きが強まっている。メキシコ政府は2023年8月と2024年4月に、500品目以上の一般関税率を最大50%まで一時的に引き上げた(2023年8月18日付2024年4月25日付ビジネス短信参照)。最も対象品目が多かったのは鉄鋼(HS72類)と同製品(HS73類)のカテゴリーで、多くの品目の関税が25~35%に引き上げられている。在メキシコ日系自動車部品メーカーも他国の企業と同様、海外から部品・材料を輸入しており、本措置の影響を受けることになる。今回の引き上げは一般関税率が対象のため、日本メキシコ経済連携協定(日墨EPA)や、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)など、メキシコと締結している自由貿易協定(FTA)を活用できる輸入には影響が出ない。産業分野別生産促進プログラム(PROSEC、注4)や、レグラ・オクターバ(注5)を利用した優遇関税率も適用可能だ。一方で、FTA非締結国である中国や韓国、タイなどから該当製品を輸入している企業は、PROSEC税率の適用可否の確認やレグラ・オクターバの申請、あるいは調達先国変更の判断を迫られている。

さらに2024年4月には、鉄鋼や同製品の輸入に先立って経済省に行う輸入自動通知制度を変更し、2022年に一度撤廃した鉄鋼の溶解、鋳造を行った国に関する情報を含むミルシートや、品質証明書の提出を再度義務化した(2024年4月17日付ビジネス短信参照)。本制度変更に伴い、メキシコ経済省は制度について解説した公式ページを開設したが、制度変更に起因するものと思われる通関手続きの遅延や関連トラブルが多発しており、在メキシコ日系企業にも混乱が生じている。

一連の動きの背景には、米国議会や米国政府の圧力もあるといわれている。特に鉄鋼に関しては韓国、ブラジル、ロシアなど第三国からメキシコを経由した迂回輸入を懸念した米国鉄鋼議員連盟からの要請により、米国政府からメキシコ政府に対し、早急な対策を講じることが求められていた。2023年8月の一般関税率の引き上げは、この申し入れに起因するものといわれている。2024年2月にメキシコ経済省と米国通商代表部(USTR)の間で行われた北米鉄鋼産業強化に向けた会合で、鉄鋼・アルミニウム製品の輸出入の監視強化と関税率変更について正式に合意がなされ(2024年3月4日付ビジネス短信参照)、未対応であった輸入自動通知制度については、4月に対策が講じられたかたちだ。

また、米国による保護貿易政策や米中貿易摩擦についても、注意深く観察しておく必要がある。米国の対メキシコ輸入品目のうち、鉄鋼・アルミニウム関連以外に、中国系メーカーの自動車のメキシコ経由での米国流入が懸念されている。中国の比亜迪(BYD)はメキシコに完成車組立工場の新設を予定していたが、各種報道によれば、米国からの圧力により、メキシコ政府は新工場を建設するBYDに対し付与する予定だったインセンティブを取りやめることにしたという。もっとも、連邦政府や管轄省庁に加え、BYD側もこの報道やメディアからのインタビューに対して公式なコメントを出しておらず、実際にインセンティブ付与が中止されるのか、あるいはそれが米国の影響を受けているのかは定かではない。一方で、かねてUSTRが主張する「USMCAは、中国やその他の国が関税を払わずに米国に輸出できる『バックドア』を用意するために締結されたものではない」という観点から、報道されたような事態が起こることは十分に予想できる。

バイデン政権は、2024年5月に一部製品に関する対中追加関税の引き上げ案を発表した。その中には、中国製EVに対し100%の関税をかけるという案も含まれており、そういった政策により、さらに中国系企業のメキシコへの生産移管が進むことが見込まれる。メキシコの対内直接投資の伸びや対米輸出額の伸びには好影響を与える可能性がある一方、米国のメキシコに対する監視の目が強くなる可能性は否定できない。2024年は米国での大統領選挙が控えているが、有力候補のバイデン氏、トランプ氏のいずれが当選しても、対中強硬姿勢などの方向性には大きな変化はなさそうだ。米国の保護貿易主義や米中貿易摩擦といった流れの中で、メキシコが今後どのように立ち回るのかが注目される。

メキシコには、米国への近接性という不変の事実や、50カ国以上とのFTAとそれを基に築いてきた良好な通商関係、再生可能エネルギー源の豊富さや、若くて豊富な労働人口といった、外国企業が投資判断をする上でプラスにはたらく点が数多く存在する。これらを最大限に活用するためのさまざまな取り組みや外交政策が、メキシコの次期政権には求められている。


注1:
INAが2023年3月に発行した資料では、2021年、2022年の製品分野別生産額は(1)電子部品、(2)エンジン関連部品、(3)トランスミッション・クラッチ関連部品となっていた。2024年3月の発表統計では、2022年、2023年ともに本文中の順位となっており、2023年の統計との相違がみられた。この相違についてINAに問い合わせたところ、統計の抽出方法に変更はないとのことであったため、本文中では2024年3月発表の数字を最新版データとして扱う。
注2:
品質マネジメントシステムに関する国際規格。ISO9001をベースに、自動車部品および自動車用材料メーカーに必要な要求事項が加えられている。
注3:
AMIAに加盟する完成車メーカーおよびメキシコ資本のジャイアント・モーターズが集計対象のため、本統計に比亜迪(BYD)やテスラの生産台数は含まれない。
注4:
メキシコ政府が国内生産を促進する24の業種で生産活動を行う企業が登録を行い、特定の部品・原材料、機械設備を優遇関税で輸入できるプログラム。
注5:
PROSECの優遇関税の対象になっていない品目について、国内生産がない、あるいは不十分などを理由に、PROSEC登録企業が経済省から特別輸入許可を個別に取得し、承認された数量枠内に限り、原則無関税で輸入を認める制度。

2023年のメキシコ自動車産業

  1. 新型コロナ禍前の水準まで回復
  2. 成長を続ける自動車部品産業
執筆者紹介
ジェトロ・メキシコ事務所
渡邊 千尋(わたなべ ちひろ)
2017年、ジェトロ入構。知的財産課、ジェトロ・マドリード事務所海外実務研修、ジェトロ茨城での勤務を経て、2022年9月から現職。