チュニジア経済の現状と今後
中東アフリカから見た世界情勢(2)

2024年4月10日

チュニジア第2部の経済編では、チュニスで2013年にシンクタンク「地中海開発イニシアティブ(Mediterranean Development Initiative:MDI)を設立し、代表を務めるガジ・ベンアハメド(Ghazi Ben Ahmed)博士に、チュニジアの経済状況と今後、さらには日本企業へのアドバイスについて話を聞いた(2024年2月15日、3月5日)。


ガジ・ベンアハメド博士(本人提供)
質問:
ベンアハメド博士の経歴と現在の活動は。
答え:
フランスのモンペリエ大学で経済博士号を取得し、その後、国連、欧州委員会などの国際機関で勤務した。2013年に入り、地中海を挟む南北の政治・経済的関係、特に北アフリカとEU諸国の関係を考察するシンクタンク「地中海開発イニシアティブ(MDI)」をチュニスで自ら設立し、代表を務めている。2022年夏からは、ブリュッセルを拠点に欧州でのネットワーク構築に努力している。
質問:
チュニジアの経済状況はデフォルトの危機が指摘されるなど、困難を極めているようだが、現状は。
答え:
革命後、経済の立て直しに成功せず、その上、2015年のチュニスでのテロ発生で主要産業である観光が大きな打撃を受けた。その後、コロナ禍とウクライナ戦争で現在の財政危機に至り、GDPの80%を超える債務、16.4%に上る失業率となっている。財政危機解決には、国際通貨基金(IMF)による19億ドルの融資と他の国際機関からの融資が必須だが、IMFの提案した基礎製品への補助金制度、国営企業の縮小などの改革を内政干渉であるとして、政府は融資契約の交渉を中断した。代わりに、中央銀行の独立性を制限し(注)、中銀や国内銀行からの借款で財政の穴埋めを行う政策を展開し、さらなるインフレの危険が高まっている。この借款は、公務員の給与と年金の支払い、国民保険の医療費返済、対外債務の返済に充てられており、経済復興に必須のインフラ設備やビジネス環境改善などへの投資には程遠い額にとどまっている。IMFなどから融資があれば、それが可能になる。経済界の浄化と称し、民間企業からの吸い上げも見られる。例を挙げると、アフリカに特化したプライベートエクイティファンド「アフリックインベスト(AfricInvest)」は4,500万ディナール(約21億円、1ディナ―ル=約47.50円)の追加納税を要求された。異議を申し立てるには納税額の10%を支払う義務がある上、裁判には2、3年を要する。企業家の告発も相次いでおり、ビジネス環境は悪化している。さらに、有能な人材の流出が大きな問題となっており、ビジネスパーソンはアラブ首長国連邦(UAE)へ、エンジニアはフランスやドイツに移住する例が多く見られる。
質問:
IMFとの融資に関する交渉の進捗は。
答え:
チュニジアのメディアでは交渉が進められているように報道されているが、実際には全く進んでいない。交渉再開は2025年に入ってからと見ている。
質問:
チュニジアは、最大の経済パートナーであるEUを中心にバランス重視の外交を展開してきたが、サイード大統領の就任以降、外交関係に変化は。
答え:
近隣のアラブ諸国との関係強化が見られる。特にアルジェリアとの経済・軍事協力の強化が顕著だ。その他、湾岸諸国、中国、ロシア、エジプトなどとも関係を深めている。財政状況の悪化で、融資をできるだけ広い範囲から集めているのが現状だ。EUからは2023年7月のEU-チュニジア合意(2023年7月20日付ビジネス短信参照)に基づき資金が提供されることになっていたが、2023年10月にはEUからの支払いを政府が拒否している(2023年10月12日付ビジネス短信参照)。しかし、2024年3月5日には合意に基づく1億5,000万ユーロ(1ユーロ=約160円、約240億円)の支払いを受け入れた。これは財政状況の悪化が深刻であることを明示している。
外交関係の変化は、政府の経済政策にも表れ、2022年11月に発行された輸入規制(2022年11月8日付ビジネス短信参照)の導入や外国企業に不透明な臨時課税を行うなど、保護主義的かつ一貫性のないものとなっている。
チュニジアにとって、EUとの関係強化は経済・社会的復興のための最重要課題であると考える。他の地域との経済関係の多様化より、まずはEU基準でモノづくりができるレベルに押し上げ、EU企業の受け入れ態勢を改善することが取るべき道であろう。
質問:
日本企業へのアドバイスは。
答え:
現在の政治状況を見ると、チュニジアへの投資を検討している日本企業は、少なくとも大統領選挙以降、つまり2024年末までは情勢を見極めることをアドバイスしたい。特に多額な設備投資を伴う製造業での投資に関しては、今後2年間は控えた方がいいと考える。
一方、この状況下でも、投資に値する分野はある。例えば、多額のインフラ投資を必要としない、IT関連の開発分野は有望だ。私自身、フィンランドとパートナーシップを組み、例えばゲーミングなどのハイテク分野で、チュニジアの若者に対して職業研修計画を立ち上げた。初期はチュニジア人の専門家による研修を行い、次いでフィンランド人によるフィンランド市場に適応した製品開発のための研修を行った。その結果、フィンランド人と同レベルの非常に満足のいく結果が得られ、同時にフィンランド側にとってはコストの削減につながった。日本企業もこのようなIT関連の開発分野での、研修や人材育成を含むチュニジア企業とのパートナーシップの構築を勧める。また、チュニジアのスタートアップとのタイアップは有望と考える。

注:
2024年2月6日に、国民代表議会は、チュニジア中央銀行による国家予算の直接融資を承認する文書を承認した。

中東アフリカから見た世界情勢

  1. マグレブ諸国とチュニジアの政治
  2. チュニジア経済の現状と今後
執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
渡辺レスパード智子(わたなべ・レスパード・ともこ)
ジェトロ・パリ事務所に2000年から勤務。アフリカデスク調査担当としてフランス及びフランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種調査・情報発信を行う。