在中国米国企業、米中関係に懸念残しつつも、投資意欲は改善

2024年3月6日

中国に所在する米国系企業などで構成する中国米国商会は2月1日、「中国ビジネス環境調査レポート2024年版」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。同レポートは2023年10月19日~11月10日に実施した会員企業向けアンケート調査の結果(回答企業343社)を取りまとめたものだ。

それによると、新型コロナウイルス感染症収束後の業績回復や中国市場の成長性、収益性を理由に、中国の事業環境の見通しを楽観視する在中国米国企業の割合が拡大した。米中関係や中国の法規制、コスト上昇などに対しては依然として懸念を抱いている一方、米国企業にとっての中国の重要性の高さが引き続き示された。

業績回復に伴い事業環境に対する楽観的な見通し拡大

2023年の業績について、「黒字」と答えた企業は前年から5ポイント上昇して49%となった。業種別では、消費者向け産業が前年から15ポイント上昇の51%で最も高かった。また、68%の企業が「2023年の中国での税引き前・利払い前利益(EBIT)が世界の平均水準よりも高い、もしくは同水準」と回答した。

「今後2年間の事業環境の見通し」については、「中国市場の成長性」「潜在的収益力」「経済回復」について、「楽観」もしくは「比較的楽観」とした企業はそれぞれ44%、40%、38%で、「悲観」もしくは「比較的悲観」よりも高かった。一方で、「規制環境」「コスト競争力・コスト水準」「米中関係」について、「楽観」もしくは「比較的楽観」とした企業はそれぞれ28%、24%、19%にとどまり、「悲観」もしくは「比較的悲観」はそれぞれ35%、35%、52%だった(図1参照)。

図1:今後2年間の事業環境の見通し
在中国米国企業の今後2年間における事業環境の見通しについて聞いたところ、次の結果となった。中国市場の成長については、2023年には、「楽観」と回答した企業が9%、「比較的楽観」と回答した企業が33%、「中立」と回答した企業が27%、「比較的悲観」と回答した企業が20%、「悲観」と回答した企業が11%。2024年には、「楽観」と回答した企業が12%、「比較的楽観」と回答した企業が32%、「中立」と回答した企業が29%、「比較的悲観」と回答した企業が21%、「悲観」と回答した企業が7%。競争圧力については、2023年には、「楽観」と回答した企業が5%、「比較的楽観」と回答した企業が17%、「中立」と回答した企業が44%、「比較的悲観」と回答した企業が26%、「悲観」と回答した企業が8%。2024年には、「楽観」と回答した企業が6%、「比較的楽観」と回答した企業が20%、「中立」と回答した企業が37%、「比較的悲観」と回答した企業が28%、「悲観」と回答した企業が9%。コスト競争力・コスト水準については、2023年には、「楽観」と回答した企業が4%、「比較的楽観」と回答した企業が14%、「中立」と回答した企業が41%、「比較的悲観」と回答した企業が32%、「悲観」と回答した企業が8%。2024年には、「楽観」と回答した企業が5%、「比較的楽観」と回答した企業が19%、「中立」と回答した企業が40%、「比較的悲観」と回答した企業が28%、「悲観」と回答した企業が7%潜在的収益力については、2023年には、「楽観」と回答した企業が7%、「比較的楽観」と回答した企業が26%、「中立」と回答した企業が37%、「比較的悲観」と回答した企業が22%、「悲観」と回答した企業が9%。2024年には、「楽観」と回答した企業が10%、「比較的楽観」と回答した企業が30%、「中立」と回答した企業が33%、「比較的悲観」と回答した企業が20%、「悲観」と回答した企業が6%。規制環境については、2023年には、「楽観」と回答した企業が3%、「比較的楽観」と回答した企業が16%、「中立」と回答した企業が36%、「比較的悲観」と回答した企業が28%、「悲観」と回答した企業が17%。2024年には、「楽観」と回答した企業が6%、「比較的楽観」と回答した企業が22%、「中立」と回答した企業が37%、「比較的悲観」と回答した企業が23%、「悲観」と回答した企業が12%。米中関係については、2023年には、「楽観」と回答した企業が1%、「比較的楽観」と回答した企業が7%、「中立」と回答した企業が20%、「比較的悲観」と回答した企業が37%、「悲観」と回答した企業が36%。2024年には、「楽観」と回答した企業が3%、「比較的楽観」と回答した企業が16%、「中立」と回答した企業が30%、「比較的悲観」と回答した企業が35%、「悲観」と回答した企業が17%。経済回復については、2023年には、「楽観」と回答した企業が5%、「比較的楽観」と回答した企業が28%、「中立」と回答した企業が29%、「比較的悲観」と回答した企業が25%、「悲観」と回答した企業が14%。2024年には、「楽観」と回答した企業が7%、「比較的楽観」と回答した企業が31%、「中立」と回答した企業が30%、「比較的悲観」と回答した企業が24%、「悲観」と回答した企業が9%。

出所:中国米国商会「2024 China Business Climate Survey Report」

また、「2024年の中国事業の懸念事項」(5項目まで回答可)については、「米中関係の緊張の高まり」と回答した企業が61%と最も高く、2021年以降4年連続で最大の懸念事項として挙げられた。次に「法律と執行の不一致」(30%)、「人件費の上昇」(27%)、「データセキュリティーに関する懸念」(26%)、「中国企業との競争激化」(24%)が続き、上位5項目の懸念事項となった。「米中関係の緊張の高まり」「法律と執行の不一致」「人件費の上昇」の3項目は、「新型コロナウイルスの厳格な予防措置」を除くと、2020年以降一貫して懸念事項の上位3位を占めている。

投資意欲は新型コロナ禍をボトムに改善

「グローバルな投資計画における中国の重要性」については、「中国でのみビジネスを展開している」(今回選択肢として初設定)が12%、「最優先の投資先」が16%、「上位3位以内の投資先」が22%だった(図2参照)。これらの回答を合わせると50%で、中国への投資意欲が低下した2022年調査で「最優先の投資先」と「上位3位以内の投資先」とした回答の合計45%と比べ、5ポイント改善していると中国米国商会は総括した。

図2:グローバルな投資計画における中国の重要性
在中国米国企業のグローバルな投資計画での中国の重要性について聞いたところ、次の結果となった。2019年には、「最優先の投資先」と回答した企業が20%、「上位3位以内の投資先」と回答した企業が39%、「多くの投資先の1つ」と回答した企業が30%、「優先的な投資先対象でない」と回答した企業が11%2020年には、「最優先の投資先」と回答した企業が21%、「上位3位以内の投資先」と回答した企業が40%、「多くの投資先の1つ」と回答した企業が29%、「優先的な投資先対象でない」と回答した企業が10%2021年には、「最優先の投資先」と回答した企業が22%、「上位3位以内の投資先」と回答した企業が38%、「多くの投資先の1つ」と回答した企業が29%、「優先的な投資先対象でない」と回答した企業が11%2022年には、「最優先の投資先」と回答した企業が14%、「上位3位以内の投資先」と回答した企業が31%、「多くの投資先の1つ」と回答した企業が38%、「優先的な投資先対象でない」と回答した企業が17%2023年には、「中国でのみビジネスを展開」は2023年から新たに設置された選択肢である。「中国でのみビジネスを展開」と回答した企業が12%、「最優先の投資先」と回答した企業が16%、「上位3位以内の投資先」と回答した企業が22%、「多くの投資先の1つ」と回答した企業が33%、「優先的な投資先対象でない」と回答した企業が18%

注:「中国でのみビジネスを展開している」は2023年から選択肢として初設定。
出所:中国米国商会「2024 China Business Climate Survey Report」

「2024年の中国事業への投資拡大見通し」については、「拡大」とした企業が全体で約52%となり、前年比約7ポイント上昇した(図3参照)。業種別では、サービス業(約57%)、資源・工業産業(約56%)、消費者向け産業(約54%)で「拡大」が50%を上回り、技術・研究開発業が約38%だった。

図3:2024年の中国事業への投資拡大見通し
在中国米国企業の2024年の中国事業への投資拡大見通しについて聞いたところ、次の結果となった。2023年には、「投資減少予定」と回答した企業が9%、「投資拡大計画なし」と回答した企業が46%、「1~10%拡大」と回答した企業が31%、「11~20%拡大」と回答した企業が9%、「21~25%拡大」と回答した企業が3%、「26~50%拡大」と回答した企業が1%、「50%超拡大」と回答した企業が1%。2024年には、「投資減少予定」と回答した企業が5%、「投資拡大計画なし」と回答した企業が43%、「1~10%拡大」と回答した企業が37%、「11~20%拡大」と回答した企業が9%、「21~25%拡大」と回答した企業が3%、「26~50%拡大」と回答した企業が2%、「50%超拡大」と回答した企業が1%未満。

出所:中国米国商会「2024 China Business Climate Survey Report」

投資拡大の理由を尋ねたところ、「中国市場への投資は戦略的優先事項」(36%)と「中国市場の急速な成長の見通し」(27%)が上位2項目となり、2022年の調査と同様の調査結果だった。しかし、拡大規模については「1~10%の拡大」が37%で、投資を拡大するとした回答の中で最も割合が大きく、11%以上拡大する企業の割合は約14%にとどまる。このように、大幅な投資規模拡大を予定する企業は前年比でも微増にとどまることから、投資意欲が増えたとはいえ、慎重な姿勢が続いていることがうかがえる。

一方、「投資を縮小する予定」と回答した企業は5%だった。その理由は「米中経済関係の不確実性」が27%と最も多く、続いて「中国における政策環境の不確実性への懸念」(17%)、「中国の経済成長鈍化の見通し」(12%)、「中国における市場参入または政策が外資系企業に不利」(9%)が挙げられた。

事業展開の方向性については、「生産もしくは調達を中国外へ移転する計画はない」との回答が77%、「生産もしくは調達の中国外への移転を検討しているが、まだ具体的な行動は取っていない」が12%、「生産もしくは調達の中国外への移転に向けたプロセスを開始済み」が11%だった(図4参照)。

図4:生産や調達を中国以外に移転を検討しているか、
あるいは開始しているか
在中国米国企業が生産や調達を中国以外の地域に移転することを検討しているかあるいは開始しているかについて聞いたところ、次の結果となった。2021年には、「移転の計画はない」と回答した企業が84%、「検討しているがまだ具体的な行動は取っていない」と回答した企業が7%、「移転に向けたプロセスを開始済み」と回答した企業が7%、「その他」と回答した企業が3%2022年には、「移転の計画はない」と回答した企業が74%、「検討しているがまだ具体的な行動は取っていない」と回答した企業が12%、「移転に向けたプロセスを開始済み」と回答した企業が12%、「その他」と回答した企業が2%。2023年には、「移転の計画はない」と回答した企業が77%、「検討しているがまだ具体的な行動は取っていない」と回答した企業が12%、「移転に向けたプロセスを開始済み」と回答した企業が11%、「その他」と回答した企業が0%。

出所:中国米国商会「2024 China Business Climate Survey Report」

移転を検討、もしくは既に移転した理由については、「地政学的緊張の高まり」が56%(前年比36ポイント上昇)、「リスク管理」が41%(同19ポイント下落)、「中国における政策環境の不確実性への懸念」が34%(同5ポイント上昇)、「米中貿易摩擦」が32%(同11ポイント下落)となった。

移転先では、「アジアの発展途上国」が41%(前年比12ポイント上昇)、「米国」が16%(同14ポイント下落)で、2022年調査で示された米国への回帰傾向と異なり、アジアが有力な選択肢となった。

資源・工業分野の企業はカーボンニュートラルにビジネスチャンス見いだす

「中国における主なビジネスチャンス」について、業種別(技術・研究開発業、消費者向け産業、資源・工業、サービス産業)に聞いた設問では、技術・研究開発業と消費者向け産業で「国内消費の成長または中間所得層の規模拡大と所得向上」がそれぞれ53%、55%で、最大のビジネスチャンスと認識している。他方、資源・工業では「中国のカーボンニュートラルを巡る政策および取り組み」が39%と、最も高い回答割合となった。資源・工業で「国内消費の成長または中間所得層の規模拡大と所得向上」は34%で2番目の回答割合となり、2022年調査から1位と2位の順位が入れ替わった。

大部分の企業が事業展開で米中関係重視、約3割が関係改善を予想

同レポートでは、ほぼ全ての企業(約99%)が「中国での事業展開で米中2国間関係は重要な要素」と回答している。内訳は「極めて重要」との回答が54%、「非常に重要」が28%、「重要」が17%だった。

「2024年の米中2国間関係の展望について」の設問では、「改善する」と回答した企業は30%と、前年から17ポイント上昇し、「現状維持」は46%で、5ポイント上昇した(図5参照)。前年調査で最大の割合だった「悪化する」は24%と、前年より22ポイント縮小した。なお、同アンケートは2023年11月に米中首脳会談を控えて両国関係改善の空気が醸成される中で実施されており、それがこの回答結果につながった可能性もあると、中国米国商会は分析している。

図5:2024年の米中2国間関係の展望について
在中国米国企業の2024年の米中二国間関係の展望について聞いたところ、次の結果となった。2021年には、「改善する」と回答した企業が45%、「現状維持」と回答した企業が36%、「悪化する」と回答した企業が19%。2022年には、「改善する」と回答した企業が27%、「現状維持」と回答した企業が49%、「悪化する」と回答した企業が24%。2023年には、「改善する」と回答した企業が13%、「現状維持」と回答した企業が41%、「悪化する」と回答した企業が46%。2024年には、「改善する」と回答した企業が30%、「現状維持」と回答した企業が46%、「悪化する」と回答した企業が24%。

出所:中国米国商会「2024 China Business Climate Survey Report」

在中国米国企業、市場開放と投資環境の改善に期待

「中国市場へのアクセスが拡大した場合、さらなる投資を行うか」という設問については、「投資を拡大する」との回答が52%だった。拡大するとした企業のうち、その投資規模について「15%超の追加投資を検討する」とした回答が50%だった。

「今後3年間の中国市場の開放に対する確信」について、「非常に確信できる」または「確信できる」との回答は前年と比べ9ポイント上昇の43%で、改善が見られた。「不確実」が39%、「確信できない」と「全く確信できない」は18%だった。

また、「中国の投資環境の質」について、「改善している」と回答した企業は28%(前年比7ポイント上昇)、「悪化している」は35%(同10ポイント下落)で、中国の投資環境に対する見解は改善傾向にあると言える。

中国政府、外資の投資誘致拡大へ、ビジネス環境改善に注力

外資系企業の懸念や要望に応え、中国政府は投資環境の改善に力を入れる姿勢を継続的に示している。国務院は外資系企業による対中投資拡大を促進するため、2023年8月13日に「外商投資環境のさらなる最適化と外商投資誘致の強化に関する意見」(国発[2023]11号)(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表し、外資誘致の質の向上、外資系企業への内国民待遇の保障、財政・税制支援の強化など6分野24項目に及ぶ施策を盛り込んだ(2023年8月15日付ビジネス短信参照)。商務部外国投資管理司の朱氷司長は同意見の施行から約半年後の2024年2月5日の国務院政策定例会見で、同意見の実施状況について「全体の6割以上の政策が実施済みもしくは積極的な進展があり、多数の外資系企業から良好な評価を得ている」と説明した(2024年2月9日付ビジネス短信参照)。

執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所 経済信息部 高級主管
趙 薇(ジャオ ウェイ)
2003年、ジェトロ入構。北京事務所建設産業部、進出企業支援センターを経て、2014年4月から現職。