バイブラント・グジャラート2024開催(インド)
半導体やグリーン分野に注目

2024年3月1日

インド西部、グジャラート(GJ)州で、「バイブラント・グジャラート・グローバル・サミット(VGGS)2024」が開催された。会期は、2024年1月10~12日の3日間。会場は、州都ガンディナガルのマハトマ・マンディール・コンベンション・センターだった。

VGGSは2003年、ナレンドラ・モディGJ州首相(当時、現・インド首相)の肝いりで始まった。以来、国内外から多数の投資を集めるインド最大級の投資誘致イベントになっている。従来は隔年で実施されていたものの、2019年開催以降は新型コロナウイルス感染拡大の影響により延期されていた。そうしたことから、今回は5年ぶり10回目の開催に当たる。

また、マハトマ・マンディールから約2キロメートル(km)離れたヘリパット展示会場では、国際見本市「バイブラント・グジャラート・グローバル・トレードショー(VGGTS)2024」を併催した。1月9~13日の5日間、敷地面積2万平方メートル(m2)を超える会場に、日本をはじめとしたパートナー国がパビリオンを設置。そのほか、「eモビリティー」「スマート・インフラ」など、国内外企業がテーマ別に展示した。

1月10日のVGGS開会式でモディ首相は、「VGGSは投資家だけでなく、若いクリエイターや消費者の願望をかなえるプラットフォーム」「今後数年でインドを世界第3位の経済大国にする」と、インドの成長と発展に向け決意を表明した。

GJ州政府の発表によると、今回のVGGSには、140カ国を超える国から約6万1,000人が参加した。また実績として、4万1,299件のプロジェクトに関する覚書が調印された。その中には、26兆3,300億ルピー(約47兆3,940億円、1ルピー=約1.8円)の投資提案が含まれているという(2024年1月18日付ビジネス短信参照)。

半導体の国内生産に向け、集積加速

マイクロン・テクノロジー(米国の半導体大手)は2023年6月、アーメダバード近郊のサナンド工業団地に工場を設置すると発表した。これが呼び水になり、インドで半導体製造に関連する産業集積が急速に進みつつある。例えば、以下のような例が見られる。

  • シムテック(韓国のプリント基板製造事業者)
    ジェフェリー・チェン最高経営責任者(CEO)は、VGGSでGJ州政府と覚書を締結。サナンド工業団地に半導体部品工場を建設すると発表した。同社は、過去10年以上にわたりマイクロンの主要なパートナーで、中国やマレーシアでもプロジェクトを進めている。
  • タタ・グループ
    VGGSで、ドレラ特別投資地域(SIR)に半導体工場を設立する計画を発表。同グループのナタラジャン・チャンドラセラカン会長は、「年内に交渉を終わらせ、建設を開始する予定」としている(2024年1月10日付「タイムズ・オブ・インディア」紙)。
  • フォックスコン(台湾のEMS世界最大手)
    VGGS後の1月17日、HCLグループ(インドのIT大手)と半導体組み立てやテストの分野で提携すると発表した。 フォックスコンは、ベダンタ・グループとの合弁を通じて、ドレラ特別投資地域(SIR)にインド初となる半導体・ディスプレー製造、半導体組み立て・検査などの工場を設置する計画だった。しかし2023年7月、この合弁を解消。その後、同12月に再度インドでの半導体工場の建設を申請したと報じられていた。ただし、新たなパートナーは、これまで明らかになっていなかった。

インド電子・情報技術省(MeITY)は2021年12月、「セミコン・インディア・プログラム」を立ち上げた。半導体・ディスプレー製造を振興するため、7,600億ルピー規模の予算を投入。その各スキームを通じて、インド国内での半導体製造エコシステムの構築を目指してきた。また2023年6月1日からは、「修正インド半導体プログラム」に基づき、新規案件を募集している(2023年6月5日付ビジネス短信参照)。こうした政策に基づき、インド政府が強力に推し進めてきた半導体の国内生産に向け、投資誘致が実を結び始めている。

スズキが新工場設立を発表、グリーン投資も進む

日本のスズキも、GJ州にインド国内で5カ所目に当たる新工場を設置する。鈴木俊宏社長がVGGSで、インド子会社マルチ・スズキが総額3,500億ルピーを投資すると発表した(2024年1月16日付ビジネス短信参照)。スズキは現在、インド国内で、ハリヤナ(HR)州に2カ所、GJ州に1カ所、計3カ所の工場を運営している。またGJ州の既存工場では、電気自動車(EV)向けの生産ラインを増設。2024年11月を目標に量産を開始する予定だ。加えてHR州カルゴダに第4工場を建設中で、2025年に稼働予定。2030/2031年度(2030年4月~2031年3月)までに、インドでの生産能力を400万台(現状の2倍相当)に増強する計画だ。

またスズキは、インド政府のカーボンニュートラル推進に貢献していくことも明らかにしている。具体的には、圧縮バイオメタンガス(CBG)製造事業に取り組む。あわせて鈴木社長は、VGGSで、化石燃料だけでなく圧縮天然ガス(CNG)、バイオガス、バイオエタノール、グリーン水素など環境に配慮した選択肢を準備すると言及。グリーン分野への取り組みを改めて強調した。

環境対策に資する取り組みは、アダニ・グループからも聞かれた。同グループのゴータム・アダニ会長は、今後5年間で約2億ルピーをグリーンエネルギー、再生可能エネルギー分野に投資。10万人を超える雇用を創出すると述べた。現在、GJ州カッチで、25km2の土地に30ギガワット(GW)規模のグリーンエネルギー・パークを建設中だ。 VGGSでは、最終日の1月12日、マハトマ・マンディールのセミナーホールで「グジャラート:インドのグリーン水素の目的地」と題されたセッションが開催された。同セッションでブペンドラ・パテルGJ州首相は、(1)グリーン水素を含むグリーンエネルギー分野に対し、今後5年間で2兆ルピーの予算を割り当てる、(2) GJ州はインドの将来のグリーンエネルギー需要に貢献していく、と述べた(2024年1月16日付ビジネス短信参照)。半導体と並びグリーンエネルギー分野でも、今後、インドがどう動くのか注目される。

国際見本市でEVやスマート・インフラなども紹介

併催された国際見本市「VGGTS2024」では、合計13の展示ホールが設けられた。その中には、各国ごとの「インターナショナル」ホールのほか、「eモビリティー」「スマート・インフラ」「サステイナビリティ」「メーク・イン・グジャラート」などのテーマが設定された。それらに、1,000社を超える出展者が参加した。 VGGSとは別に1月9日、VGGTS2024の開会式典が開催された。当該式典には、モザンビークのフィリペ・ニュシ大統領と東ティモールのジョゼ・ラモス・ホルタ大統領が参列。モディ首相、パテル州首相とともに展示会場を巡覧した。

ここでは、この国際見本市で注目された展示について紹介したい。

  • インターナショナル

    「インターナショナル」ホールでは、各国が展示。日本のほか、オランダ、アラブ首長国連邦(UAE)、エストニア、モザンビーク、韓国など20カ国がパビリオンを設置した。 ジェトロが設置した「ジャパンパビリオン」には、28社の日本企業が出展。半導体関連技術やグリーンエネルギーなどを紹介した。あわせて、マンダル日本企業専用工業団地の進出企業や、GJ州と交流関係にある兵庫県の紹介を行った。


    モディ首相がジャパンパビリオンを巡覧(ジェトロ撮影)
  • eモビリティー

    「eモビリティー」の展示ホールには、マルチ・スズキがパビリオンを設置。EVの紹介に加えて、スカイドライブ(注1)のドローンや、やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC、注2)のグリーン水素技術について共同で展示した。

    また、ホール内で最大の展示スペースを確保したのが、ウォードウィザード・イノベーションズ・アンド・モビリティー(インドのEVメーカー)。電動二輪車や電動オートリキシャを紹介した。


    マルチ・スズキのパビリオン(ジェトロ撮影)
  • スマート・インフラ

    「スマート・インフラ」の展示ホールでは、ムンバイ~アーメダバード間の高速鉄道事業に関連する展示が目立った。車両や駅舎のデザインなどが展示され、同プロジェクトに注目する多くの来場者でにぎわった。アシュウィニ・バイシュナウ鉄道相は、2026年中にGJ州スーラト駅とビリモラ駅の50キロ区間で部分運行を開始する可能性があると表明している(2024年1月19日付ビジネス短信参照)。

    また、(1) GIFTシティーや(2)ドレラ特別投資地域(SIR)に関するブースも設けられた。ちなみに、(1)はインド初のスマートシティー・プロジェクト。(2)は、GJ州の半導体ハブ構想の着地点として注目されている。こうした展示では、企業の入居するエリアだけでなく、商業エリアや居住地区を含む開発構想が紹介された。

引き続きGJ州に注目

VGGTS2024では、1月12日と13日の2日間が一般公開日になった。この両日には、ビジネス客だけでなく、多くの学生や一般客が来場。モディ首相はVGGSの開会式で、「若い世代が多くの先端技術に触れてほしい」と述べ、インドの未来を担う若年世代への期待を示した。同時に、各国の先端技術をGJ州に誘致しようという意気込みが読み取れる。

VGGS は、2024年で第10回を迎えた。新型コロナ禍の中断こそあったものの、イベント規模は年々拡大してきた。2024年春に予定されているインドの総選挙(下院選)に向け、モディ首相率いるインド人民党(BJP)政権は3期目を目指し活動を活発化させている。このままモディ政権が継続すると、世界の投資家はGJ州に一層注目していくことになりそうだ。


注1:
スカイドライブは、「空飛ぶクルマ」や物流ドローンなど、電動垂直離着陸機(eVTOL)を開発する日本のスタートアップ。スズキとは、「空飛ぶクルマ」の事業・技術連携に関する協定を締結している。
注2:
YHCは、2022年2月に設立された。山梨県が50%、東京電力ホールディングスと東レが25%ずつ出資。
同社は、水素の製造・供給・販売の本格化や関連システムの普及を進めている。スズキとは、2021/2022年度に協業の議論を開始。2022年2月に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の募集に共同で応募した。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所
飯田 覚(いいだ さとる)
2015年、ジェトロ入構。農林水産食品部、ジェトロ三重を経て、2021年10月から現職。