在中国ドイツ企業、慎重ながらも競争力の維持へ投資拡大の意向

2024年2月20日

中国に進出したドイツ企業で構成される中国ドイツ商会は1月24日、景況感調査の結果外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。同調査は2007年から毎年実施されている。今回の調査は2023年9月5日~10月6日に実施し、同商会の会員企業566社が回答した。同調査から、在中国ドイツ企業は、中国企業の競争力の向上、中国経済の下振れリスク、外資系企業にとって不平等な市場アクセス、地政学リスクなどを背景に、中国での投資やビジネス拡大に過去に比べて慎重な姿勢を示しつつ、在中国日系企業と比較をすると中国での競争力維持を目的とする投資拡大の意向が強いことがうかがえる。

2024年は42%の企業が「改善」の見通し、コロナ禍前のレベルに回復

調査では、2023年の景況感について尋ねたところ、2022年より「悪化」したと回答した企業(52%)が「改善」したと回答した企業(21%)を大きく上回った。「悪化」とした企業の割合は、2023年5月に同商会が実施したアンケート調査(2023年6月21日付ビジネス短信参照)より17ポイント上昇した。業種別にみると、ビジネスサービス業(76%)、機械・工業設備(65%)、プラスチック・金属製品(59%)で「悪化」の割合が大きかった。

2024年の景況見通しについては、42%の企業が前年より「改善」すると回答した。また、「売り上げ」「営業利益」「投資」の各項目について2023年と比べた2024年の増減を確認する設問では、「売り上げ」が増加すると回答した企業が48%、「営業利益」が改善すると回答した企業が34%、「投資」を拡大すると回答した企業が28%だった。

中国経済については、足元では減速傾向にあると回答した企業が8割以上あるものの、9割以上の企業が5年以内に力強い成長に回復する見込みと回答した。また、自社が所属する業界の成長性については、78%の企業が今後5年間は安定成長が継続すると回答した。

「中国市場での競争力の維持」が投資拡大の最大理由に

今後の事業展開の方向性については、今後2年以内のスパンで、「中国から撤退する計画はない」と回答した企業が91%、「現在具体的な計画はないが撤退を検討している」と回答した企業は7%、「完全もしくは一部撤退」と回答した企業は3%未満にととどまった。

今後1~2年の中国への投資の見通しについては、「拡大」と回答した企業が54%、「縮小」と回答した企業は35%だった。業種別では、自動車(63%)、電子製品(59%)の投資意欲が高かった。

「拡大」の割合は2022年アンケートより3ポイント上昇したが、同回答が70%以上だった2020年、2021年と比較すると、投資には慎重な姿勢が続いていることがうかがえる(図参照)。なお、ジェトロによる2023年度海外進出日系企業実態調査(注)では、今後1~2年の事業展開の方向性について、在中国日系企業(回答企業数710社)で「拡大」と回答した割合は27.7%にとどまっている(図参照)。

図:在中国ドイツ企業の今後1~2年の中国への投資の見通し
2018年には、回答企業数402社、「拡大」と回答した企業が66%、「縮小」と回答した企業が18%。2019年には、回答企業数512社、「拡大」と回答した企業が67%、「縮小」と回答した企業が26%。2020年には、回答数462社、「拡大」と回答した企業が72%、「縮小」と回答した企業が21%。2021年には、回答企業数576社、「拡大」と回答した企業が71%、「縮小」と回答した企業が24%。2022年には、回答企業数574社、「拡大」と回答した企業が51%、「縮小」と回答した企業が38%。2023年には、回答企業数506社、「拡大」と回答した企業が54%、「縮小」と回答した企業が35%。2021年、回答企業数576社、「拡大」と回答した企業が71%、「縮小」と回答した企業が24%。2020年、回答数462社、「拡大」と回答した企業が72%、「縮小」と回答した企業が21%。

注:各年に記載の「n」は回答企業数。
出所:中国ドイツ商会「景況感アンケート調査2023-2024」

「投資を縮小する・投資しない」と回答した企業に、その理由を聞いたところ(3つまで回答可)、「市場拡大への期待の低下・中国経済の成長への期待の低下」(56%)、「中国国内の競争の激化」(40%)、「中国の自国産業支援を目的とした経済政策(「中国製造2025」など)」(30%)が上位となった。

投資拡大の理由については、「中国市場での競争力の維持」と回答した企業が79%と最も多く、2位の「中国のユーザーまたは現地パートナーからのさらなる現地化のニーズに応えるため」(48%)に比べ31ポイント高くなっている。

中国での競争力の維持に向けた具体的な取り組み(3つまで回答可)については、「現地パートナー・ユーザーとの連携」(46%)、「研究開発への投資拡大」(42%)、「製造能力への投資強化」(36%)などが上位に挙がった。

4割弱の企業がイノベーション市場としての中国の魅力が上昇と回答

地政学リスクの高まりや中国企業の競争力の向上などを受け、54%の企業が投資先としての中国の魅力が低下していると回答した。一方で、37%の企業が中国のイノベーション市場としての魅力が上昇していると回答した。また、5割を超える企業が今後5年以内に競合する中国企業が自社の属する業界のイノベーションリーダーとなると見ており、同回答は業種別では、自動車が69%で最も高かった。

さらに、中国企業がどういった分野の技術をリードしているかとの質問(3つまで回答可)については、「電気自動車(EV)」(40%)、「人工知能(AI)」(34%)、「電子商取引(EC)」(31%)との回答が上位に挙がった。

2020年以降、中国の新エネルギー車市場が急速に拡大するなか、ドイツ自動車業界は中国企業との連携を強めている。自動車大手のフォルクスワーゲン(VW)と安徽江淮汽車集団(JAC)との合弁会社の大衆安徽は2023年6月、安徽省合肥市に合計231億元(約4,620億円、1元=約20円)を追加投資し、新エネルギー車の生産を開始すると発表した(2023年6月5日付ビジネス短信参照)。また、VWは2023年7月、中国の新興EVメーカーの小鵬汽車(Xpeng)と技術協力の枠組み協定を結び、小鵬汽車のG9モデル用のプラットフォームや、スマート機能、自動運転システムなどを活用し、EV2車種を共同で開発すると発表した(2023年8月3日付ビジネス短信参照)。

サプライチェーンの独立化や投資先の多元化などで中国ビジネスリスクを軽減へ

ドイツ政府が2023年7月に発表した「中国戦略」(2023年9月4日付地域・分析レポート参照)でデリスキングの重要性が強調されていることを受け、今回の調査では「中国ビジネスに関連したリスクの軽減に向けた取り組みを本社では実施しているか」との設問が新たに設定された。「実施している」と回答した企業(44%)と「実施していない」と回答した企業(45%)はほぼ同水準だった。

リスク管理の具体的な取り組み(複数回答可)については、「それぞれの市場に対応する独立したサプライチェーンの構築」(45%)、「中国以外での拠点の設立(チャイナプラスワン戦略)」(40%)、「中国での研究開発の強化」(34%)、「一部の業務の中国外への移転」(25%)などが上位に挙がった。

なお、アジア域内で投資を増加させる、中国以外の候補地としては、インド(58%)、ベトナム(38%)、タイ(30%)の人気が高かった。

このほか、同調査では、中国のビジネス環境の改善に向けた建議として、(1)外資誘致の強化に向けた24項目の措置(2023年8月15日付ビジネス短信参照)の着実な実施、(2)外資系企業に対する不平等な取り扱いへの取り締まり(2023年11月13日付ビジネス短信参照)、(3)公共調達手続きの透明性の確保、(4)法律の確実性・透明性の向上、(5)データ越境移転にかかるコンプライアンスプロセスの簡素化、(6)知的財産権保護の強化、を訴えた。


注:
2023年8月から9月にかけて、北東アジア5カ国・地域、ASEAN9カ国、南西アジア4カ国、オセアニア2カ国の計20カ国・地域に進出する日系企業に対し、現地での活動実態に関するアンケート調査を実施。詳細は調査レポート「2023年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」参照
執筆者紹介
ジェトロ・北京事務所
張 敏(ちょう びん)
1999年、ジェトロ・北京事務所入構。2004年10月より調査業務に従事。