2022年のイランの自動車生産台数は前年比19%増

2023年7月27日

国際自動車工業連合会(OICA)によると、2022年のイランの自動車生産台数は106万4,216台と、2021年の89万4,298台から19.0%増となった。内訳は、乗用車が99万7,519台(2021年は83万8,251台)、小型商業車が5万3,295台(同4万4,785台)、トラックが1万2,540台(同1万538台)、バスなど が862台(同724台)で、いずれも前年比で2割近い増加となった(表1参照)。なお、OICAはイランの自動車販売台数については発表していない。

表1:イランの自動車生産台数 (単位:台数、%)
項目 乗用車 小型商業車 トラック バスなど 合計
2019年 770,000 40,800 9,600 660 821,060
2020年 826,210 43,778 10,301 708 880,997
2021年 838,251 44,785 10,538 724 894,298
2022年 997,519 53,295 12,540 862 1,064,216
増減(台数)
2022/2021年
159,268 8,510 2,002 138 169,918
増減(%)
2022/2021年
19.0% 19.0% 19.0% 19.1% 19.0%

出所:OICAの統計を基にジェトロ作成

イラン自動車製造者協会(IVMA)などの現地の業界団体は、2022年のイランの自動車生産および販売について統計を公表していないが、証券市場の透明性や公正性のための監視や各種統計レポートを発行する政府機関Codalが、国内の主要3社(イランホドロ、パールスホドロ、サイパ)の生産・販売統計を発表している。

Codalによると、主要3社のイラン暦1401年(西暦2022年3月21日~2023年3月20日)の生産台数、販売総額はそれぞれ、イランホドロが58万3,230台(1400年は45万770台)、1,351兆8,957億リアル(約28億2,800万ドル、1ドル=約47万8,000リアル(注))(同721兆8,332億リアル)、パールスホドロが13万1,895台(同8万5,158台)、217兆390億リアル(同73兆5,087億リアル)、サイパが34万9,447台(同30万4,533台)、594兆9,103億リアル(同329兆4,469億リアル)となっており、各社ともに生産台数、販売総額ともに大幅に増加している(表2参照)。

表2:イラン主要3社の生産・販売台数(単位:台数、100万リアル)

イランホドロ
項目 1399年
(2020/3/20~2021/3/20)
1400年
(2021/3/21~2022/3/20)
1401年
(2022/3/21~2023/3/20)
増減(1401/1400年)
生産台数 480,338 450,770 583,230 132,460
販売台数 464,646 451,560 607,004 155,444
販売総額 440,035,436 721,833,220 1,351,895,726 630,062,506
パールスホドロ
項目 1399年
(2020/3/20~2021/3/20)
1400年
(2021/3/21~2022/3/20)
1401年
(2022/3/21~2023/3/20)
増減(1401/1400年)
生産台数 103,055 85,158 131,895 46,737
販売台数 89,539 91,360 137,721 46,361
販売総額 38,240,147 73,508,742 217,039,032 143,530,290
サイパ
項目 1399年
(2020/3/20~2021/3/20)
1400年
(2021/3/21~2022/3/20)
1401年
(2022/3/21~2023/3/20)
増減(1401/1400年)
生産台数 316,959 304,533 349,447 44,914
販売台数 296,278 310,198 386,855 76,657
販売総額 162,100,813 329,446,911 594,910,303 265,463,392

出所:Codalの発表を基にジェトロ作成

ブランド別にみると、イラン暦1401年に生産台数が最も多かったのがイランホドロの「プジョー」で35万3,171台(販売台数36万4,015台、販売総額639兆375億リアル)、次にサイパの「X200グループ(TIBA)」で27万1,278台(同30万5,906台、同424兆3,099億リアル)、3位がイランホドロの「Dena」で8万1,910台(同8万4,915台、同281兆6,803億リアル)となっている。販売価格については、インフレの影響を受け、30~50%程度上昇しているブランドが多かった(表3~5参照)。

OICAの統計で2016~2022年の生産台数の推移をみると、米国が核合意「包括的共同行動計画(JCPOA)」を離脱して、イランに対する経済制裁が再開された2018年以降、生産台数は減少していたが、2020年以降増加に転じている。特に2022年は前述の通り前年比19.0%と大きく増加した(図参照)。

図:イランの自動車生産台数推移(2016~2022年)
国際自動車工業連合会の統計によると、2018年の生産台数は前年比28%減の109万5,526台、2019年は前年比25%減の82万1,060台と大きく減少したが、2020年は88万997台と前年を7.3%上回った。2021年は前年比1.5%増の 89万4,298台、2022年は前年比19.0%増の106万4,216台だった。

出所:OICAの統計を基にジェトロ作成

2020年以降に生産台数が増加した背景について、2021年2月21日付イスラーム共和国通信(IRNA)(ペルシア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、産業・鉱山・貿易省の支援などにより国内部品産業が成長し、イラン暦1399年(2020年3月20日~2021年3月20日)に部品の供給が増えたためとしていた(2022年9月13日付地域・分析レポート参照)。しかし、イラン税関が発表した、イラン暦1399年とイラン暦1401年(西暦2022年3月21日~2023年3月20日)の自動車の車体(HSコード8707)および部品(HSコード8708)の輸入額を比較すると、4億2,308万ドルから9億9,902万ドルと約2.4倍になっており、生産台数の伸び以上に車体・部品の輸入が増えている現状も見て取れる。なお、グローバル・トレード・アトラスで輸入元国をみると、HSコード8707、8708ともに中国からの輸入が圧倒的となっている。

一方で、品質については引き続き問題視されており、2022年3月に続き、同年5月にもアリー・ハーメネイー最高指導者は、国内自動車メーカーに対して製品の品質を高めるよう指示を出している(2022年5月9日付IRNA(ペルシア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

また、生産台数は増加傾向にあるものの、経済制裁前の水準には回復しておらず、供給不足も問題となっていることから、産業・鉱山・貿易省は、自動車産業発展プログラムに取り組んでいる(2022年12月15日付IRNA(ペルシア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同プログラムは、以下の3段階のロードマップを軸に、古い製品の排除、競争力のある品質の達成、輸出市場の拡大、設計・技術への共同投資に基づく海外技術協力などに取り組むとしている。

  1. イラン暦1400年後半~1401年末(西暦2021年9月23日~2023年3月20日)
    • 既存の生産能力の回復
    • 自動車産業の構造改革
  2. 1402年(2023年3月21日~2024年3月19日)
    • 製品の標準化と輸出の拡大
    • 古い製品の削除
    • 競争力のある品質の達成
  3. 1403~1404年末(2024年3月20日~2026年3月20日)
    • 海外機会の活用と輸出市場の拡大
    • 地域および国際的な技術協力

2022年12月19日付IRNA(ペルシア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、同プログラムの第1段階の効果として、イラン暦1401年の自動車生産台数が大幅に増加したことをあげている。また、新車販売を待つ待機者を一元的に管理するシステムを作ることにより需要管理の透明性が実現し、需給バランスが回復、販売価格の安定にもつながっているとした。輸出についても、各社がアルメニア、アゼルバイジャン、ロシア(2023年5月10日付ビジネス短信参照)市場などに取り組み始めているとしている。


注:
イラン暦1401年末(西暦2023年3月19日)の市中レートで計算(出所:Bonbast)。
執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所長
鈴木 隆之(すずき たかゆき)
1997年、ジェトロ入構。展示事業部、産業技術部、アジア経済研究所、ジェトロ高知、ジェトロ愛媛などを経て2020年から現職。海外はラゴス(ナイジェリア)、ロンドンに駐在。