2021年の自動車生産台数、前年比1.5%の微増(イラン)

2022年9月13日

国際自動車工業連合会(OICA)によると、2021年のイランの自動車生産台数は89万4,298台。前年の88万997台から、1.5%増になった。内訳は乗用車が83万8,251台(2020年は約82万6,210台)、小型商業車が4万4,785台(同4万3,778台)、トラックが1万538台(同1万301台)、バスなどが724台(同708台)。いずれも、前年比1.5~2.3%の微増だった(表1参照)。

なお、OICAでは、イランの自動車販売台数については発表していない。

表1:イランの自動車生産台数 (単位:台数、%)
項目 乗用車 小型商業車 トラック バスなど 合計
2019年 770,000 40,800 9,600 660 821,060
2020年 826,210 43,778 10,301 708 880,997
2021年 838,251 44,785 10,538 724 894,298
増減(台数)
2021/2020年
12,041 1,007 237 16 13,301
増減(%)
2021/2020年
1.5% 2.3% 2.3% 2.3% 1.5%

出所:OICAの統計を基にジェトロ作成

インフレで自動車販売額が増加

イラン自動車製造者協会(IVMA)を含め、現地の業界団体は2021年のイランの自動車生産や販売について統計や調査結果を公表していない。ただし、国内主要自動車製造企業3社((1)イランホドロ、(2)パールスホドロ、(3)サイパ)の生産・販売については、政府機関のCodalが統計を発表している。ちなみにCodalは、証券市場の透明性や公正性を担保するため設けられた機関。市場を監視するとともに、各種統計レポートを発行することがある。

Codalの最新統計では、イラン暦1400年(西暦2021年3月21日~2022年3月20日)の生産台数と販売総額が示されている。生産・販売首位の(1)イランホドロが生産45万1,111台(イラン暦前年は48万338台)、販売約721兆7,737億リアル(約171億8,509万ドル、2021年の公定レート1ドル=4万2,000リアル;イラン暦前年は440兆354億リアル)。また、(2)パールスホドロは、10万9,838台(同10万3,055台)、約76兆6,570億リアル(同38兆2,401億リアル)。(3)サイパが30万4,533台(同31万6,959台)、約331兆4,928億リアル(同162兆1,008億リアル)だった。生産台数では、(2)のパールスホドロだけが増加したかたちだ(表2参照)。なお、販売台数はパールスホドロとサイパが増加。販売金額は、3社とも増加した。

販売台数の増減にかかわらず販売額の増加が顕著なのは、インフレによって自動車価格が大きく上昇した結果だ(後述)。

表2:イラン主要3社の生産・販売台数

イランホドロ (単位:台数、100万リアル)(△はマイナス値)
項目 1398年
(2019/3/21~2020/3/19)
1399年
(2020/3/20~2021/3/20)
1400年
(2021/3/21~2022/3/20)
増減
(1400/1399年)
生産台数 393,812 480,338 451,111 △29,227
販売台数 408,255 464,646 452,057 △ 12,589
販売額 229,117,524 440,035,436 721,773,726 281,738,290
パールスホドロ(単位:台数、100万リアル)
項目 1398年
(2019/3/21~2020/3/19)
1399年
(2020/3/20~2021/3/20)
1400年
(2021/3/21~2022/3/20)
増減
(1400/1399年)
生産台数 106,072 103,055 109,838 6,783
販売台数 101,718 89,539 115,994 26,455
販売額 10,547,610 38,240,147 76,657,048 38,416,901
サイパ(単位:台数、100万リアル)(△はマイナス値)
項目 1398年
(2019/3/21~2020/3/19)
1399年
(2020/3/20~2021/3/20)
1400年
(2021/3/21~2022/3/20)
増減
(1400/1399年)
生産台数 358,699 316,959 304,533 △ 12,426
販売台数 382,564 296,278 310,208 13,930
販売額 133,803,001 162,100,813 331,492,783 169,391,970

出所:Codalの発表を基にジェトロ作成

ブランド別にみると、イラン暦1400年に生産台数が一番多かったのがイランホドロの「プジョー」で29万7,817台(販売台数30万198台、販売総額400兆9,508億リアル)。次に、サイパの「TIBA」で26万258台(同26万3,265台、250兆892億リアル)。3位がパールスホドロの「Quick 200」で5万8,440台(同6万4,032台、69兆788億リアル)だった(表3~5参照)。

表3:イランホドロのブランド別生産・販売数 (単位:台数)(△はマイナス値、-は値なし)
ブランド 1398年
(2019/3/21~2020/3/19)
1399年
(2020/3/20~2021/3/20)
1400年
(2021/3/21~2022/3/20)
生産台数増減
(1400/1399年)
生産台数 販売台数 価格(リアル) 販売総額(100万リアル) 生産台数 販売台数 価格(リアル) 販売総額(100万リアル) 生産台数 販売台数 価格(リアル) 販売総額(100万リアル)
Peugeot 278,084 290,403 515,740,764 149,772,665 346,575 336,233 871,241,951 292,940,295 297,817 300,198 1,335,621,120 400,950,789 △ 48,758
DENA 32,419 34,234 973,763,159 33,335,808 55,320 50,783 1,411,044,090 71,657,052 50,257 55,791 2,563,282,106 143,008,072 △ 5,063
Samand 52,774 52,043 462,776,512 24,084,278 55,220 55,006 840,025,943 46,206,467 50,095 50,367 1,397,155,538 70,370,533 △ 5,125
RUANA 8,757 7,903 511,515,374 4,042,506 13,030 12,367 1,298,489,205 16,058,416 35,630 28,380 1,626,265,504 46,153,415 22,600
Pick up 4,358 4,707 425,110,474 2,000,995 4,794 4,730 880,140,169 4,163,063 21 3 1,080,000,000 3,240 △ 4,773
HAYMA 7,209 7,223 1,020,738,197 7,372,792 4,971 4,793 1,761,554,559 8,443,131 8,647 8,815 4,291,551,900 37,830,030 3,676
Peugeot 2008 5,824 5,824 1,006,551,339 5,862,155 181 175 1,117,594,286 195,579 103 103 7,120,932,039 73,456 △ 78
TARA 0 0 0 153 54 2,414,833,333 130,401 8,541 8,395 2,783,926,266 23,371,061 8,388
Dong -Feng 2,331 3,585 422,821,199 1,515,814 94 172 556,523,256 95,722 0 2 2,356,000,000 4,712 △ 94
Suzuki Vitara 120 122 1,622,442,623 197,938 0 1 5,941,000,000 5,941 0 0 0 0 0
TONDAR L90 1,936 2,211 421,787,879 932,573 0 332 419,786,145 139,369 0 3 2,806,000,000 8,418 0

出所:Codalの発表を基にジェトロ作成

表4:パールスホドロのブランド別生産・販売数 (単位:台数)(△はマイナス値、-は値なし)
ブランド 1398年
(2019/3/21~2020/3/19)
1399年
(2020/3/20~2021/3/20)
1400年
(2021/3/21~2022/3/20)
生産台数増減
(1400/1399年)
生産台数 販売台数 価格(リアル) 販売総額(100万リアル) 生産台数 販売台数 価格(リアル) 販売総額(100万リアル) 生産台数 販売台数 価格(リアル) 販売総額(100万リアル)
Quick 200 9,117 6,996 592,746,141 4,146,852 54,568 42,907 782,063,673 33,556,006 58,440 64,032 1,078,479,532 69,078,771 3,872
PRID X100 91,271 88,024 32,000,000 2,816,768 23,703 23,703 32,000,000 758,496 0 0 0 0 △ 23,703
Quick 9,747 9,032 32,000,000 289,024 32,612 32,612 138,000,000 4,500,456 22,865
SAINA S200 29 8,127 7,306 32,000,000 233,792 18,192 18,192 138,000,000 2,510,496 10,065
Renault 5,109 5,709 483,380,277 2,759,618 2,963 3,056 468,865,183 1,432,852 0 2 471,500,000 943 △ 2,963
Brilliance 546 789 470,709,759 371,390 3,947 3,504 544,915,240 1,909,383 594 1,154 488,935,875 564,232 △ 3,353
Van 197 2,289,274,112 450,987 31 1,954,645,161 60,594 0 2 1,075,000,000 2,150
P 27 3 665,000,000 1,995

出所:Codalの発表を基にジェトロ作成

表5:サイパのブランド別生産・販売数 (単位:台数)(△はマイナス値、-は値なし)
ブランド 1398年
(2019/3/21~2020/3/19)
1399年
(2020/3/20~2021/3/20)
1400年
(2021/3/21~2022/3/20)
生産台数増減
(1400/1399年)
生産台数 販売台数 価格(リアル) 販売総額(100万リアル) 生産台数 販売台数 価格(リアル) 販売総額(100万リアル) 生産台数 販売台数 価格(リアル) 販売総額(100万リアル)
TIBA 160,994 163,664 353,934,683 57,926,366 236,939 212,203 593,102,374 125,858,103 260,258 263,265 949,952,421 250,089,224 23,319
PRIDE 170,955 190,932 280,995,768 53,651,084 50,413 59,335 301,888,818 17,912,573 0 142 325,197,183 46,178 △ 50,413
SAIPA 17,370 17,641 329,456,040 5,811,934 27,455 23,901 541,580,185 12,944,308 0 0 0 0 △ 27,455
SAIPA151 Pic-up 23,279 24,474 976,759,990 23,905,224
SHAHIN 0 0 0 1,728 462 2,365,000,000 1,092,630 20,866 21,957 2,455,204,718 53,908,930 19,138
ARIO 648 1,157 600,053,587 694,262 124 187 821,133,690 153,552 130 6 839,500,000 5,037 6
Changan CS 35 5,062 5,242 1,171,625,143 6,141,659 290 110 1,492,072,727 164,128 0 362 4,171,958,564 1,510,249 △ 290
CERATO (KIA) 3,670 3,928 2,116,916,242 8,315,247 10 80 2,180,900,000 174,472 0 2 2,616,500,000 5,233 △ 10
Others 0 0 1,262,449 0 0 3,801,047 0 0 2,022,708 0

出所:Codalの発表を基にジェトロ作成

ブランドごとに高低あるものの、1台当たりの販売額はほぼ軒並み、前年から伸びた。これには、インフレによって自動車価格が大きく上昇したことが反映されている。その結果、販売台数が減りながら、売上高が増えたブランドも多い。例えばイランホドロの「プジョー」をみると、イラン暦1400年の販売台数は30万198台と前年の33万6,233台よりも減少。その一方で、1台の価格が8億7,124万1,951リアルから13億3,562万1,120リアルに50%以上も上昇した。結果として、1400年の総販売額は400兆9,507億8,900万リアルに。前年の292兆9,402億9,500万リアルよりも増加している。

経済制裁再開後の生産大幅減から若干回復

ここで、OICAの統計から2016~2021年の生産台数の推移を見てみる。

2018年は前年比28%減の109万5,526台。さらに翌2019年も前年比25%減の82万1,060台と大きく減少した。2018年は、米国がイラン核合意の「包括的共同行動計画(JCPOA)」を離脱。イランに対する経済制裁(注)を再開した年に当たる。経済制裁の効果が表れた結果と見て良い。

しかし2020年は、世界的な新型コロナウイルス感染拡大や米国による経済制裁下にもかかわらず、前年を7.3%上回った(88万997台)。経済制裁によって大幅に減少していた生産が揺り戻され、わずかにせよ増加に転じたと言えそうだ。

2021年2月21日付イスラーム共和国通信(IRNA)(ペルシア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます では、その理由を「産業・鉱山・貿易省の支援などにより国内部品産業が成長し、部品の供給が増えているため」としていた(2021年8月24日付地域・分析レポート参照)。しかし、2021年に入って生産台数の増加の勢いが鈍化している点をみると、その効果は限定的だったと考えられる(図参照)。

図:イランの自動車生産台数推移(2016~2021年、単位:台)
国際自動車工業連合会の統計によると、2018年の生産台数は前年比28%減の109万5,526台、2019年は前年比25%減の82万1,060台と大きく減少したが、2020年は88万997台と前年を7.3%上回った。2021年は 89万4,298台で前年比1.5%増だった。

出所:OICAの統計を基にジェトロ作成

いずれにせよ、イランの自動車生産台数は経済制裁前の水準には回復していない。また、品質面の問題も多い。この点、イランのアリー・ハーメネイー最高指導者は「国内生産のための(国による)サポートは、製品の品質向上や技術の促進につながるはずだ。しかし、残念ながら、自動車業界ではその問題に注意が払われていない」と発言。自動車業界や自動車メーカーに、品質の向上を促した(2022年3月29日付IRNA(ペルシア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます


注:
イランでは、経済制裁の影響で、外国から原材料・部品を受けることが基本的に望めない。加えて、イラン政府側も、国内で生産できる製品や部品の輸入を禁止するなどの措置を取っている。ちなみにその狙いは、(1)制裁による影響を抑えること、(2)国内産業を保護・強化すること、にある。

原稿執筆時点では、「鉄道用および軌道用以外の車両ならびにその部分品および付属品」も輸入禁止品目となっている〔参考:ジェトロ「貿易管理制度」輸入品目規制(禁止品目、HS類別輸入規制)PDFファイル(314KB)〕。

執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所長
鈴木 隆之(すずき たかゆき)
1997年、ジェトロ入構。展示事業部、産業技術部、アジア経済研究所、ジェトロ高知、ジェトロ愛媛などを経て2020年から現職。海外はラゴス(ナイジェリア)、ロンドンに駐在。