GJ州首相が中央との連携を確認(インド)
産業インフラ開発促進に向けて

2023年6月29日

インドのニューデリーにおいて5月30日、国家産業大動脈開発計画(NICDP)最高会議の第2回会合が開催され、ニルマラ・シタラマン財務相とピユシュ・ゴヤル商工相が出席した。グジャラート(GJ)州のブペンドラ・パテル州首相のほか、ハリヤナ州、マハーラーシュトラ州、カルナータカ州、マディヤ・プラデシュ州、ウッタラカンド州の各州首相は、オンラインで会議に参加した(GJ州首相府発表 5月30日付)。

同会議においてパテルGJ州首相は、「ドレラ特別投資地域(SIR)」に関する事業進捗を報告し、中央政府のさらなる協力を求めた。ドレラSIRは、GJ州政府がグリーンフィールドから開発を手掛けるスマートシティで、現在、注目を集めている「インド初の半導体製造プロジェクト」となるベダンタ-フォックスコン合弁企業(VFSL)の進出先でもある(2023年6月12日付地域・分析レポート参照)。GJ州政府はVFSL事業を端緒として、ドレラSIRを「半導体ハブ」として発展させる大きな構想を抱いている。

また、パテルGJ州首相は、ナレンドラ・モディ首相のビジョンを実現すべく中央政府がドレラSIRを支援してきたことに謝意を表明した。その上で、GJ州政府と中央政府が連携し、既に特別目的会社(SPV)であるドレラ産業都市開発公社が設立され、インフラ施設の整備が着々と進んでいるとし、進捗状況について報告した。

開発が加速するドレラSIR

報告によると、今後、電気自動車(EV)用バッテリー製造、太陽電池・モジュール製造、航空宇宙産業、半導体製造ユニットなどの投資がドレラSIRに集積する見通しだという。全体計画のうち、開発が進んでいるエリアのインフラ施設の建設は完成が近く、様々な事業者から学校、病院、ホテル、住宅地の開発など、多様な提案が寄せられており、既にSPVによる事業者に対する土地割り当てプロセスに入っている。中央政府の住宅供給スキーム(PMAY)により、手頃な価格の賃貸住宅モデルも600戸建設される予定だと述べた。また、ドレラSIRは「PMガティ・シャクティ」(PM Gati Shakti、注)でも進捗がモニターされており、GJ州ポータルサイトでインフラ開発状況が確認できるとした。

早急なコネクティビティー向上を重視

同報告の中でも特に、ドレラSIRと周辺地域への道路、鉄路、空路によるコネクティビティーの向上に向けたインフラ整備の重要性につき言及があった。インド高速道路局(NHAI)が建設中の、「アーメダバード―ドレラ間高速道路」については、既に38%以上の工事が完了しており、予定期限内での完成に向け、GJ州政府はあらゆる支援をすると約束した。また、ドレラSIRの発展にはインド西部の基幹鉄道である西部貨物専用回廊(DFC)が重要な役割を果たすとし、ドレラSIRからDFCへの接続線となる「ビムナート駅―ドレラ間の広軌鉄道線プロジェクト」に関しては既に事業承認が下り、土地収用手続きが間もなく完了する段階だと述べた。

マンダル―ベチャラジSIRを重視

パテルGJ州首相は、シタラマン財務相に対して、「ドレラ空港」「アーメダバード―ドレラ間高速道路」の建設を期限内に完成するために、GJ州政府は必要な情報をタイムリーに提供する用意があると約束した。その一方で、別途、懸案となっている「アーメダバード―ドレラ間の準高速鉄道プロジェクト」の早期承認を要望した。また、インド産業回廊開発公社(NICDC)が管轄する「デリー・ムンバイ産業大動脈プロジェクト(DMIC)」の対象地域に「マンダル―ベチャラジSIR」を含めるために必要な措置を講じるよう関係当局に要請した。

マンダル―ベチャラジSIRは、GJ州における日系進出企業が集積する新興工業地域だ。スズキ(自動車)、ホンダ(二輪)を中核企業とする日系サプライヤー群が進出しており、マンダル日本企業専用工業団地(ジェトロウェブサイト参照)も立地している。同地域は近年、日系製造業の進出先として存在感を増しつつあり、それに伴い、日本人駐在員の生活基盤も徐々に整備され始めている(2022年8月30日付地域・分析レポート参照)。

「2つのエンジン」でGJ州のインフラ整備促進

これまでGJ州政府は、投資誘致を推進力とする戦略的な産業政策を進めてきたが、この流れは、13年間に及んだ、モディ首相のGJ州首相時代の先見性によるところが大きいと考えられている。州内の産業インフラ整備に注力、内外からの投資誘致をテコに基幹産業の振興を進める政策は、インドの開発モデルとして同州の評価を高めた。一方で、これらの取り組みには中央政府の支援を必要とするテーマも多く、中央政界進出後もモディ首相は、GJ州の発展を加速させるために早急な支援を行ったとされる。

モディ首相は2023年5月26日に首相就任9周年を迎えたが、現地メディアの中には、パテルGJ州首相がモディ時代の遺産を受け継ぎ、中央政府と同州政府が緊密に連携することで、この9年間においても発展をさらに加速させたこと、そしてその推進力となるのが「2つのエンジン、ダブルの成長」だとする報道もある(6月2日付「アーメダバード・ミラー」紙)。

インフラ整備をテコに投資誘致と雇用創出

「モディ―パテルの2つのエンジン」というスローガンは、2022年12月に実施されたGJ州議会選挙期間中にキャンペーンで多用された。モディ首相は、選挙期間中には頻繁にGJ州内各地に足を運び、中央政府と同州政府がインド人民党(BJP)政権として統一されていることのメリットを強調した。

「2つのエンジン」が、産業インフラ開発の推進、州民の社会生活向上、ひいては新規雇用の創出に貢献してきた実績として、「アーメダバード・メトロ」「ムンバイ~アーメダバード高速鉄道」「グジャラート国際金融テックシティー(GIFTシティー)」「バンデ・バラット急行」「ラジコット空港」「バブナガール港開発」「PM MITRA大規模繊維パーク」などが挙げられる。「ドレラSIR」や「マンダル-ベチャラジSIR」もその一例に数えられるだろう。同選挙運動期間中には、モディ首相を主賓に迎えたメトロ開通式や、その他、教育機関、道路網、治水関連の新規インフラ整備計画の発表、定礎式、起工式などが、GJ州内各地において次々に開催されたことは記憶に新しい(2022年11月15日付地域・分析レポート参照)。

既述のようにGJ州政府は、過去においては2010年代にマンダル―ベチャラジSIRにスズキやホンダの100%子会社を相次いで誘致した。以来、同地域は日系企業の集積拠点として着実に発展を遂げている。また、最近では、ドレラSIRでのVFSLを起爆剤とする「半導体ハブ構想」を打ち出しており、ドレラSIR開発の加速に注目が集まっている。さらには、財閥系タタ・グループによる「インド初のリチウムイオン電池のメガ工場」案件の発表(2023年6月6日付ビジネス短信参照)や、米半導体大手マイクロンのアーメダバード近郊のサナンドⅡ工業団地進出(2023年6月26日付ビジネス短信参照)、米グーグルのグジャラート国際金融テックシティー(GIFTシティー)への進出の発表なども相次ぎ、象徴的な投資案件の誘致に成功している。GJ州政府は、これらの案件は、中央政府の産業政策に呼応して策定した州独自の産業政策による成果だと強調する。

GJ州では、良好なインフラ整備により多様な新規投資を誘致することで、産業発展が加速され、州内地域開発と新規雇用が創出された結果、政治基盤の安定につながったという一連のサイクルがうまく確立されているようだ。


注:
2021年10月にモディ首相が発表し、インドの長年の課題である物流インフラの効率改善を目的とした政府各省・各州政府横断型インフラ開発マスタープラン。総予算規模100兆ルピー(約170兆円、1ルピー=約1.7円)で、数多くのインフラ開発プロジェクトが計画されている。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。