GJ州選挙を目前に相次いだモディ首相の地元入り(インド)

2022年11月15日

州議会選挙の2022年12月第1週実施が決まったグジャラート(GJ)州。選挙を目前に、ナレンドラ・モディ首相がGJ州入りし、様々な動きが相次いでいる。

中央政府のモディ首相が所属する政党がインド人民党(BJP)。同首相の地元がGJ州。同州議会でも、BJP勢が多数を占める。また州政府のトップが、プペンドラ・パテルGJ州首相という構図のもと、州議会選挙が行われようとしている。

GJ州では、現政権下で社会インフラ整備が進んできた。それら事業の落成式・定礎式には、しばしばモディ首相も参列する。そうした際、「ナレンドラ-プペンドラの2エンジン体制」という表現も多用された。すなわち、BJPによる中央政府と、州政府の強い連携体制がもたらす州民への利益を印象付けるメッセージ発信が続いたかたちだ(2022年10月24日付地域・分析レポート参照)。

直近、モディ首相がGJ州内でどう動いたのかを追ってみる。

スーラット:25基の公共EV充電ステーションを開設

首相は9月29日、南部スーラット市で開催された電気自動車(EV)充電ステーションの落成式に参加した。同市はEV導入や充電インフラの設置に向け、「スーラット市EV政策2021」を策定。目指すのは、国内初の「EVスマートシティ」だ。そのために、自動車税の免税、環境改善税の還付、市営有料駐車場の無料化など、インセンティブを提供している。

落成式で首相は、「中央政府は現在、全国でEVの普及に向けて地方政府を支援している。スーラット市は国内の他都市と比較して、一歩先を行く。近い将来、スーラットで500カ所の充電ステーションを設置するための大きな一歩だ」と述べた。

バブナガール港:世界初のCNGターミナル定礎式

首相は同じく9月29日、南部バブナガール市で、様々なプロジェクトの落成式や定礎式に参加した。参加プロジェクトの総額は520億ルピー(約936億円、1ルピーは約1.8円)に上るという。例えばバブナガール港では、世界初の圧縮天然ガス(CNG)ターミナルの定礎式に臨んだ。このプロジェクトは、既存港湾施設の北側部分を整備するものだ。年間取扱量は465万トン。うちCNGの取扱量は年間30万トンになる見通しだ。2026年の稼働を目指している。なおこのプロジェクトは、インドと英国のコンソーシアムによる官民パートナーシップ(PPP)方式で進められ、グジャラート海事局(GMB)が支援している。当該港湾で注目されるのは、CNGターミナルだけではない。自動車廃棄、海上コンテナ製造、ドレラ特別投資地域(DSIR)など、バブナガール港周辺の州南部で今後予定されるプロジェクトの将来的なニーズや需要に対応することも期待されている。そのため、このターミナルは既存道路と鉄道網に直結するよう設計される予定だ。

GJ州には現在、ドレラ、ハジラ、ムンドラの3ヵ所に液化天然ガス(LNG)ターミナルがある。このプロジェクトで世界初のCNGターミナルが完成すると、GJ州はインド全体のCNG受け入れ窓口施設にもなる。

首相はそのほかにも、バブナガール周辺において、(1) 10億ルピーを投じて設立された科学センターの開所式を行い、(2)パリタナ太陽光発電プロジェクト(発電容量25メガワット)、(3)バブナガール地域内の治水・給水事業、(4)海上コンテナ製造プロジェクトなどを発足させた。

公共交通機関の出発式・開通式

9月30日には、バンデ・バーラト・エクスプレスの新型車両の出発式に参列。その後、カルプール駅までの区間を試乗した。同エクスプレスは準高速鉄道で、既にインド北部で2路線が開業済み。今回開通したのは、インド西部の主要ビジネス都市間の接続を強化する路線だ。具体的には、GJ州の州都ガンディナガールとムンバイとの間を片道約5時間半で結ぶ。航空便より割安な上に、設備的にも航空機同様というのがアピールされている。

また同首相は、同日にアーメダバード・メトロ(注1)第1期区間の開通式にも参加。「時代の変化とともに変化するニーズに合わせ、都市を継続的に近代化することが必要」と述べた。同メトロ事業には、日本政府が円借款を供与している。第1期区間は南北線18.9キロ、東西線21.2キロから成る。完成したのは、このうち3キロだ。このインフラプロジェクトは、地下トンネル、高架橋、地下駅、バラストレス線路、無人運転車両など、規模が大きい。先端性もあり、使用されている車両にはエネルギー効率の高い推進システムを搭載。エネルギー消費を約30~35%削減することができるとしている。

貨物専用鉄道延長

同じく9月30日、首相は西部貨物専用鉄道(DFC西回廊)延長区間(注2)の開通式にも出席した。今回の延長により、ピパパブ、カンドラ、ムンドラの各港、その他グジャラート州内の他港への接続が強化される。この開通により734キロが稼働。GJ州のメーサナ=パランプールに加え、スワロープガンジ(ラジャスタン州南部)や、マネサール(ハリヤナ州南部)などをつなぐことになる。すなわち、貨物専用路線の整備によって他州の産業圏にも恩恵をもたらすことになる。

州北部メーサナ地域:総額390億ルピーの事業発足

首相は10月9日に再びGJ州入り。州北部のメーサナ地域で、病院建設、超高温処理ミルク工場、北部カディ水処理事業、パタン~ゴザリア間の4車線高速道路(国道8号線)、ベチャラジ~モデラ~チャナスマ間の4車線高速道路、ジャグウダン鉄道のゲージ変換プロジェクト、太陽光発電村プロジェクトなど、総額390億ルピーの事業を発足させた。

公式行事に同行したパテル州首相は、GJ州が電力余剰州であることにも言及。「GJ州は過去20年間で、発電容量が3万1,000メガワット増加した。特に太陽光発電分野では、首相のリーダーシップにより発電量が7,180メガワット増えた」と強調した(「デシ・グジャラート」紙10月9日)。

州南部バルーチ・ジャムナガール:合計で945億ルピー規模のプロジェクト

10月10日には、南部バルーチ周辺での日程として、(1)ジャムブサールのバルク・ドラッグ・パーク、(2)ダヘジの深海パイプライン事業、(3)アンクレシュワール地区に開設されるバルーチ空港(フェーズ1)、などの定礎式に出席した。バルーチ空港が完成すると、バルーチはバローダやスーラットに依存せずに済む。この点について、首相は「そもそもバルーチは他の小州以上に産業が盛んな地域だけに、発展の王道を歩むことになる」と指摘。あわせて「これは、迅速に課題を完了させる努力をしてきたナレンドラ-ブーペンドラ両政権の結果」と強調した。また「バルーチとアンクレシュワールの開発は、アーメダバードとガンディナガールのような双子の都市開発モデルに沿って進められている」とも付言した。さらにGJ州が誇る化学産業関連の諸プロジェクト(注3)の始動式典や複数の工業団地開発事業(注4)の起工式にも出席した。これらのプロジェクト総額は、800億ルピーに及ぶ。

また、ジャムナガールでは、都市インフラに関連する複数のプロジェクト(注5)の定礎式に出席した。プロジェクト総額は145億ルピーに相当する。首相は「中央政府と州政府のダブル・エンジン体制は、州の産業とインフラの発展のために継続的に取り組んできた」と発言。計画的に道路、高架橋、地下道などを整備し、接続性を高めるための事業が行われてきたことを強調した。特に石油精製所が集積するジャムナガールに関して「この土地で原油が精製されているという事実を、すべての国民が誇りに思うだろう」と述べた。あわせて、現在は「2,600億ルピーを投じて、アムリトサル=バティンダ=ジャムナガール回廊を建設中」「ジャムナガールは、製造業と海岸沿いの開発拠点として台頭してゆく」と付言した。

DefExpo22開幕式

10月19日には、GJ州の州都ガンディナガールで「防衛装備品見本市(DefExpo)22」(注6)の開幕式に参列した。開会式で、首相は「DefExpoはインドに対する世界からの信頼を象徴している」とした上で、「8年前まで、インドは世界最大の防衛装備品輸入国だった。しかし、今や世界75カ国に同関連品を輸出している。過去5年間で、防衛関連品の輸出額は8倍になった。2021年度の防衛装備品輸出額は1,300億ルピーに達している。われわれは今後、4,000億ルピー相当の防衛装備品輸出達成を目標に設定する」と述べた。さらに、「メーク・イン・インディア(Make in India、2021年4月21日付地域・分析レポート参照)は、防衛分野でサクセスストーリーになりつつある」と強調した(注7)。

首相は、今回の見本市について「インド企業だけが出展し、メード・イン・インディアの装備品だけが展示される初めての大規模防衛見本市」と発言。「鉄人サルダール・パテル(注8)の地から、インドの能力を世界に発信する」と宣言した。見本市には、インド国防産業、インド国防産業との合弁企業、中小企業、100社以上のスタートアップ企業を含む1,300社以上が出展。防衛産業をサポートする中小企業やスタートアップ企業の存在感も示された。5日間の会期中には400以上の覚書(MoU)が締結されたとされる。

ちなみに首相は、GJ州のディーサ空軍飛行場の定礎式にも出席している。

選挙は現状、与党BJP有利に展開

今回のモディ首相の数次に及ぶ一連の公式行事に含まれていたのは、記事で言及したような大規模産業インフラプロジェクトだけでない。低所得層向け住宅などの社会事業、教育機関設立、科学館などの公共施設といったものも多かった。こうしてみると、広く有権者を意識して日程が組まれていたことがうかがえる。

インド政府選挙管理委員会は11月3日、GJ州議会選挙の日程を公式に発表した。投票は12月1日と5日の2回に分けて実施され、12月8日に開票・結果が発表される予定だ。与党BJPに対し、同州での政権復帰を目指す国民会議派に加え、今回は新たに、新興政党「庶民党」(Aam Aadmi Party:AAP)が参戦。三つどもえの選挙になる。なお、多くの現地メディアの報道によると、現状の予測では与党BJPが有利な展開だ。


注1:
アーメダバード・メトロは、アーメダバード市内各地、および将来的には州都ガンディナガールを結ぶ都市交通網。
注2:
西部貨物専用鉄道が延長されたのは、(1)新パランプール~新メーサナの62キロ、および(2)新パランプール~新チャトダルだ13キロだ。(2)の区間は、パランプール・バイパスラインとも称されている。
注3:
バルーチ周辺での化学産業関連プロジェクトとしては、(1)グジャラート・アルカリーズ・アンド・ケミカルズ(GACL)プラントの増強、(2)バルーチの地下排水事業、(3)インディアン・オイル(IOCL)が運営するダヘジ-コヤリ・ガスパイプラインなどがある。
注4:
バルーチ周辺に開設される工業団地は、アグロ・フードパーク、シーフード・パーク、中小零細企業(MSME)パークなど。
注5:
ジャムナガールの都市インフラプロジェクトとは、灌漑(かんがい)、電力、水供給など。
注6:
今回のDefExpoは、マハトマ・マンディール・コンベンション&エキシビション・センターで開催された。会期は、2022年10月18日~22日。
アフリカからは53ヵ国が参加したのも、今回の特徴だ。10月18日には、「第2回インド・アフリカ防衛対話」も開催された。
注7:
モディ首相は、インドの防衛部門を自立させるために、インド国内だけで調達可能な陸軍の装備品リスト2つを最終的に決定させたと言われる。その対象として、今般、101品目が発表された。さらに今後、411の装備品目が公表される予定とされる。これに適合する調達に際しては、「メーク・イン・インディア」の製品だけが認められるとされる。
当該見本市のインドパビリオンの目玉として、ヒンドゥスターン・エアロノーティクス(本社:カルナータカ州ベンガルール)が設計し、最新のシステムを搭載した国産練習機HTT-40が公開された。また、産業界やスタートアップ企業を巻き込んで革新的な軍用宇宙ソリューションを開発する「ミッション・デフスペース」も、立ち上げられている。これらは、首相が主導してきたことだ。
注8:
サルダール・パテル氏はインドの政治家で、GJ州出身。インド国民会議所属。法廷弁護士。中央政府のネルー初代首相の下で、副首相・内務相を務めた。インド・パキスタン分離独立に際しては巧みな手腕で藩王国をインドに帰属させ、「インドの鉄の男」と呼ばれた。
2018年10月、BJPを率いるモディ首相の地元GJ州では、同氏を模した「統一の像」が完成。完成当時は世界一の高さを誇った。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所
サンチット・オザ
2013年9月からジェトロ・アーメダバード事務所勤務。州政府などとの渉外を主に担当、事業・調査の業務補佐。