2022年の新車販売は前年比9.1%減、生産は11.9%増(カナダ)

2023年7月7日

カナダの2022年の新車販売台数は前年比9.1%減となった。メーカー別では、フォードが首位を維持し、ゼネラルモーターズ(GM)が2位に浮上するなど、米国系の存在感が高まった。一方、日系の販売台数は軒並み減少した。新型コロナウイルス禍の影響はいまだに続いているが、ゼロエミッション車 (ZEV)は拡大基調を見せている。バッテリー式電気自動車(BEV)の新車登録台数が前年比67.9%増となり、ZEVは全体の8.2%を占めた。

生産台数は前年比11.9%増で、GMなどが大きく伸びた。一方、日系メーカーのシェアは生産台数ベースでも減少した。ZEVの生産に目を向けると、稼働開始や工場建設などの発表が相次いでいる。しかし、計画を中止するメーカーも出ており、各社の動向が注目される。

販売台数は前年に続き減少、半導体不足が続く

調査会社デロジエ・オートモーティブ・コンサルタント(DAC)が2023年1月15日に発表した統計によると、カナダの2022年の新車販売台数は前年比9.1%減の148万8,645台だった(表1、注1)。新型コロナ禍によって生じた半導体不足などで在庫が不足し、2009年以来の低水準となった。

メーカー別に見ると、フォードが前年比1.3%減の24万325台で、前年に続いて首位を維持した。GMは前年比4.8%増の22万8,003台で、前年の3位から2位に返り咲いた。トヨタは前年比11.1%減の20万204台で3位に後退し、ステランティスは前年比4.8%増の16万9,179台で4位を維持した。現代は前年比9.8%減で11万8,308台だったが、前年5位のホンダが前年比30.0%減の10万3,294台だったため、5位に浮上した。

表1:メーカー別新車販売台数 (単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位(表注1) メーカー 2021年 2022年 前年比
1(1) フォード 243,447 240,325 △1.3
2(3) GM 217,475 228,003 4.8
3(2) トヨタ 225,215 200,204 △11.1
4(4) ステランティス 161,482 169,179 4.8
5(6) 現代 131,179 118,308 △9.8
6(5) ホンダ 147,658 103,294 △30.0
7(7) 日産 98,405 76,411 △22.4
8(8) 起亜 79,198 68,258 △13.8
9(9) マツダ 62,201 49,874 △19.8
10(10) VW 60,299 46,951 △22.1
11(11) スバル 56,870 44,009 △22.6
12(12) メルセデス・ベンツ 36,240 34,317 △5.3
13(14) アウディ 28,790 29,137 1.2
14(13) BMW 30,651 27,866 △9.1
15(15) 三菱自動車 23,644 22,101 △6.5
その他(表注2) 35,644 30,408 △14.7
米系・日系 米系自動車メーカー 622,404 637,507 2.4
日系自動車メーカー 613,993 495,893 △19.2
その他メーカー 402,001 355,245 △11.6
セグメント 乗用車 308,169 240,290 △22.0
小型トラック 1,330,229 1,248,355 △6.2
合計 1,638,398 1,488,645 △9.1

表注1:かっこ内は2021年の順位。
表注2:その他はジャガー、ランドローバー、マセラティ、ミニ、ポルシェ、ボルボ。
出所:デロジエ・オートモーティブ・コンサルタントのデータを基にジェトロ作成

米系メーカーの新車販売台数は、合わせて前年比2.4%増の63万7,507台だった。一方、日系メーカー6社(トヨタ、ホンダ、日産、マツダ、スバル、三菱自動車)の合計は19.2%減の49万5,893台で、シェアは前年の37.5%から33.3%に低下した。

セグメント別では、乗用車(セダン、クーペ、ハッチバック)が前年比22.0%減の24万290台と大きく落ち込んだ。一方、小型トラック[ピックアップトラック、スポーツ用多目的車(SUV)、クロスオーバーSUV]は124万8,355台で、前年比6.2%減にとどまった。この結果、全車種の販売台数に占める乗用車のシェアは16.1%に低下したのに対し、小型トラックのシェアは83.9%に増加した。

DACとは別に、オートモーティブニュース・カナダが1月4日、テスラの新車販売台数を発表した。テスラは前年比17.3%増の2万4,400台で、DACが発表した各メーカーの前年比と比較しても、最も高い伸び率を記録した。

ZEVのシェアは8.2%まで拡大

ZEVが2022年の新車登録台数に占める割合は8.2%だった。カナダ政府は2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにするという目標を掲げており、ZEVの普及に向けた支援策や規制を打ち出している。カナダ運輸省はBEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)をZEVと定義しており、2019年5月から購入補助金制度「iZEVプログラム」を開始した。また、2021年6月には、2035年までに販売される全ての新車(乗用車・ピックアップトラック)のZEV化を義務づけると発表した。こうした政策も後押しし、2022年の新車登録統計では、BEVが前年比67.9%増の9万8,589台となった(表2)。PHEVは同8.5%減の2万4,973台にとどまり、ZEV(BEVとPHEV)の合計は12万3,562台だった。2022F年の全登録台数(151万2,399台)に占めるZEVの割合は8.2%で、4年をかけて6.0ポイント上昇と、着実に拡大し続けている。

表2:タイプ別新車登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
タイプ 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
台数 台数 台数 台数 台数 対前年比
ガソリン車 1,834,883 1,776,571 1,384,928 1,415,361 1,232,425 △12.9
ディーゼル車 70,600 59,089 64,769 65,881 75,244 14.2
バッテリー式電気自動車(BEV) 22,570 35,523 39,036 58,726 98,589 67.9
ハイブリッド車(HEV) 25,837 38,390 41,453 79,330 81,150 2.3
プラグインハイブリッド車(PHEV) 21,713 20,642 15,317 27,306 24,973 △8.5
その他燃料車(表注1) 257 230 58 5 18 260.0
全車種合計 1,975,860 1,930,445 1,545,561 1,646,609 1,512,399 △8.2
ZEV(BEV+PHEV)(表注2) 44,283 56,165 54,353 86,032 123,562 43.6
ZEV(BEV+PHEV)シェア 2.2 2.9 3.5 5.2 8.2 34.3

表注1:液体プロパン、天然ガス、水素などを含む。
表注2:FCVは登録台数が少ないことから「その他燃料車」の中にまとめられており、統計上のZEVはBEV、PHEVと定義されている。
出所:カナダ統計局、カナダ運輸省データを基にジェトロ作成

現代、テスラ、GMの3社で補助金受けた車両の約半数

前述のZEV購入補助金制度「iZEVプログラム」では、対象車種(注2)に最大5,000カナダ・ドル(約54万5,000円、Cドル、1Cドル=約109円)が支給される。カナダ運輸省によると、2022年に補助金を受けた車両は、前年比5.8%増の5万7,672台に上った。前述のカナダ統計局による新車登録統計で示されたZEV台数(12万3,562台)の半数近く(46.7%)が補助金を受けた計算になる。メーカー別では、現代が1万2,756台(シェア22.1%)、テスラが1万922台(同18.9%)、GMが5,674台(同9.8%)で、3社が補助金を受けた車両の約半数(50.9%)を占めた(表3)。

表3:iZEVプログラム補助金支給台数(2022年)(単位:台、%)(-は値なし)
メーカー BEV PHEV FCEV 合計 シェア
現代 10,193 2,563 12,756 22.1
テスラ 10,922 10,922 18.9
GM 5,674 5,674 9.8
フォード 1,888 3,191 5,079 8.8
トヨタ 397 4,441 10 4,848 8.4
ステンランティス 4,584 4,584 7.9
起亜 2,437 851 3,288 5.7
VW 1,826 1,826 3.2
ポールスター 1,316 1,316 2.3
三菱自動車 1,573 1,573 2.7
日産 1,469 1,469 2.5
BMW 279 1,063 1,342 2.3
ミニ 833 182 1,015 1.8
マツダ 782 782 1.4
アウディ 448 448 0.8
ボルボ 380 10 390 0.7
スバル 76 265 341 0.6
ホンダ 19 19 0.0
合計 38,920 16,179 10 57,672 100.0
シェア 67.5 28.1 0.0 100.0

出所:カナダ運輸省データを基にジェトロ作成

生産台数は増加も、各社でバラつき

生産に目を向けると、DACの1月31日発表統計では、2022年の生産台数は前年比11.9%増の124万3,022台(表4)だった。ただし、全メーカーの生産が一様に増加したわけではない。トヨタは「レクサスRX」や「RAV4」を減産する一方、「レクサスNX」の生産開始で相殺し、前年比1.4%増の43万2,984台となった。続くステランティスは「クライスラー300」を除くほぼ全ての車種を増産し、前年比35.9%増の32万536台だった。ホンダは「シビック」「CR-V」ともに減産し、前年比17.7%減の24万536台で3位に後退した。他方、フォードとGMはそれぞれ、前年比25.0%増、2.3倍を記録する大幅な生産拡大となった。

表4:メーカー別自動車生産台数 (単位:台、%)(△はマイナス値)
順位(表注) メーカー 2021年 2022年 前年比
1(1) トヨタ 427,058 432,984 1.4
2(3) ステランティス 235,875 320,536 35.9
3(2) ホンダ 292,189 240,536 △17.7
4(4) フォード 104,196 130,197 25.0
5(5) GM 51,763 118,769 129.4
セグメント 乗用車 301,062 296,319 △1.6
小型トラック 810,019 946,703 16.9
合計 1,111,081 1,243,022 11.9

表注:かっこ内は2021年の順位。
出所:デロジエ・オートモーティブ・コンサルタント

非日系のステランティス、フォード、GMは、日系メーカー2社に比べて前年からの伸び率が高かった。これにより、日系メーカーの生産シェアは前年比10.5ポイント減の54.2%に低下した。セグメント別では、乗用車の生産台数が前年比1.6%減だったのに対し、小型トラックは16.9%増で、全生産台数に占める小型トラックの割合は前年の72.9%から76.2%にまで拡大している。

なお、カナダの自動車生産台数は、新型コロナ禍前の2017~2019年には200万台程度で推移していた。2022年の生産台数はその6割程度にとどまり、北米全体での生産台数に占めるカナダの割合は低下している。2019年の北米各国の割合は、カナダが12.3%、米国が63.9%、メキシコが23.7%だったのに対し、2022年にはカナダが8.4%、米国が69.2%、メキシコが22.3%となった。

EV関連投資計画の進展はさまざま

こうした中でも、各社は電気自動車(EV)やEV用バッテリーの生産計画を相次いで発表している。ホンダは2022年3月、ハイブリッド車(HEV)の生産に向けた工場再編を発表し、GMは同年12月にカナダ初の本格的EV生産工場の稼働を開始した(2022年12月7日付ビジネス短信参照)。フォードは2023年4月、次世代EVの2025年生産開始に向け、2024年に工場を改修すると表明した(2023年4月18日付ビジネス短信参照)。フォルクスワーゲン(VW)も同月、EV用バッテリーの生産工場建設に関する詳細を発表し、2027年の稼働を目指すことを明らかにした(2023年4月24日付ビジネス短信参照)。

他方で、予定どおりに進んでいない計画もある。ステランティスは2022年5月、EV生産に向けてオンタリオ州の2工場の再編を発表していた(2022年5月10日付ビジネス短信参照)。しかし、2023年5月に入り、連邦政府と州政府がVWに支払った多額の補助金と同額の支援をステランティスが受けられなければ、同社が工場建設の契約を白紙撤回する恐れがあると報道された(注3)。2023年6月時点でカナダ政府は同社と再交渉に入っているという(注4)。また、テスラは2022年8月、バッテリーの製造、組み立て、リサイクルを一貫して行うギガファクトリーの設立許可に向けて、オンタリオ州でロビー活動を開始した(2022年8月16日付ビジネス短信参照)。2023年5月に入ると、同社上海工場で製造された2車種がカナダに輸出されると報じられた(注5)。カナダは米国と異なり、ZEVの補助対象として北米での最終組み立て要件を課していないため、中国製の両車種も補助金の対象となる。このため、同社は上海工場で製造した車両をカナダに輸出し、当初はカナダ輸出を想定して米国の工場で製造していた車両を米国内販売に切り替えることで、カナダ政府の補助金を受けつつ、米国の補助金の対象車両の生産も増やそうという算段とみられる。こうした状況がカナダでのギガファクトリー設立へ影響するのか、今後の動向が注目される。


注1:
DACの調査結果にテスラの販売・生産台数は含まれていない。同社の販売台数は、後述のオートモーティブニュース・カナダの発表を参照。
注2:
乗用車の場合、ベースモデルのメーカー希望小売価格が5万5,000Cドル未満の車種。高価格モデルがある場合も、最大6万5,000Cドルまで対象。小型トラックの場合、ベースモデルのメーカー希望小売価格が6万Cドル未満の車種。高価格モデルがある場合も、最大7万Cドルまで対象。
注3:
2023年5月12日付「トロント・スター」紙の報道に基づく。
注4:
2023年6月6日付「グローブ・アンド・メール」紙の報道に基づく。
注5:
2023年5月23日付ロイターの報道に基づく。
執筆者紹介
ジェトロ・トロント事務所
飯田 洋子(いいだ ようこ)
民間企業勤務を経て2007年からジェトロ・トロント事務所勤務。