拡大する中国の産業用ロボット市場

2023年4月21日

中国で製造を行う企業にとって、人件費高騰やワーカーの採用難は避けては通ることができない問題となっており、その解決策の1つとして、昨今、工場の自動化・省人化が進められている。製造業の質の高い発展を掲げる中国政府も、製造業のスマート化を推進している。本稿では、こうした中、中国で急速に進む産業用ロボットの導入状況について概観するとともに、関連する政府の政策や、国産化推進に向けた動きを紹介する。

中国の平均賃金、緩やかな上昇継続

国家統計局の2022年5月20日の発表によると、2021年の都市部非民営企業就業者の平均賃金(年収ベース)は、前年比9.7%増の10万6,837元(約203万円、1元=約19円)だった(図1参照)。

図1:中国における都市部非民営企業就業者の平均賃金の推移(2011~2021年)
2021年の平均賃金は前年比9.7%の10万6,837元。2020年の伸び率(前年比)は7.6%、2019年は9.8%。

出所:国家統計局のデータを基にジェトロ作成

平均賃金は急速な経済成長とともに大幅に上昇したが、経済成長のスピードが緩やかになるにつれて、平均賃金の上昇率も鈍化しており、2019年以降は3年連続で10%を下回った。他方で、2023年3月に開催された第14期全国人民代表大会第1回会議での「政府活動報告」では、内需拡大に向けて住民の所得増加を目指すなどと言及されており(2023年3月6日付ビジネス短信参照)、今後も賃金は着実に引き上げられると予想される。

中国進出日系企業の経営上の問題点、賃金上昇が首位

日系企業にとっても、従業員の賃金上昇や人材確保の難しさは経営上の大きな問題点となっている。ジェトロが2022年8~9月に中国進出日系企業を対象として実施したアンケート調査「2022年度 海外進出日系企業実態調査」の結果(注)では、経営上の問題点として、前年度に引き続き「従業員の賃金上昇」を挙げる企業が67.6%と最も多かった。また、同設問の回答上位10項目には、その他の人材に関連する回答項目として、第8位に「従業員の質」(41.4%)、第9位に「人材(一般スタッフ・事務員・一般ワーカー)の採用難」(40.1%)が挙がっており、いずれも4割を超えた(表1参照)。

表1:経営上の問題点―業種共通の問題点(上位10項目、複数回答、注)
順位 回答項目 回答率
(%)
1 従業員の賃金上昇 67.6
2 為替変動 64.1
3 調達コストの上昇 64.0
4 競合相手の台頭(コスト・価格面で競合) 59.2
5 新規顧客の開拓が進まない 47.0
6 通関等諸手続きが煩雑 45.1
7 取引先からの値下げ要請 44.5
8 従業員の質 41.4
9 人材(一般スタッフ・事務員・一般ワーカー)の採用難 40.1
10 限界に近づきつつあるコスト削減 38.9

注: 経営上の問題点に係る各項目に記載の回答率は、分野ごとに分かれた「販売・営業面」「財務・金融・為替面」「雇用・労務面」「貿易制度面」「生産・調達面」の各設問内における回答割合を指す。
出所:ジェトロ「2022年度 海外進出日系企業実態調査(中国編)」

中国では少子高齢化の進展により、労働力確保は今後さらに難しくなっていくことが予想される。国連が2022年7月に発表した世界人口推計の中位推計によると、中国の人口は2022年(7月1日時点)に減少に転じ、同推計に基づくと、中国の高齢化率は2022年に13.7%に上るとした。また、生産年齢人口(15~64歳)は2013年をピークに減少しており、2022年の9億8,430万人から2050年には7億6,737万人にまで低下すると推計している(2022年9月27日付地域・分析レポート参照)。

一方で、国家統計局が1月17日に発表したデータによると、2022年末時点の65歳以上の人口は2億978万人で、高齢化率は14.9%だった。上述の国連統計に基づく推計よりもさらに速いペースで高齢化が進んでいることとなる(2023年1月18日付ビジネス短信参照)。

こうした中、中国進出日系企業も持続可能な生産活動を行っていくために、産業用ロボットの導入による工場の自動化・省人化を進めている。上述のジェトロ「2022年度 海外進出日系企業実態調査」で、サプライチェーン(SC:生産・販売・調達)を今後見直す予定が「ある」と回答した日系企業304社に対し、生産活動の具体的な見直し内容を聞いたところ、「自動化・省人化の推進(40.5%)」を挙げた企業が最も多かった。ASEAN進出日系企業による同回答割合(25.8%)と比べると、14.7ポイント高い結果だった(図2参照)。このほか、中国では、工場のスマート化やデジタル化にも関連するとみられる「デジタル化(IoTの導入など)の推進(21.4%)」といった回答も3位に挙がった。

図2:今後の生産の見直し内容(複数回答、国・地域別、注)
中国進出日系企業における見直し内容の回答は、「自動化・省人化の推進」が40.5%で最多。「新規投資などの増強」が29.0%、「デジタル化(IoTの導入など)の推進」が21.4%。ASEAN進出日系企業における見直し内容の回答は、「新規投資などの増強」が32.8%で最多。「自動化・省人化の推進」が25.8%、「デジタル化(IoTの導入など)の推進」が16.6%。

注:中国およびASEANの回答企業数は、いずれも「今後サプライチェーン(SC:生産・販売・調達)を見直す予定が『ある』」と回答した企業数。
出所:ジェトロ「2022年度海外進出日系企業実態調査」アジア・オセアニア編と中国編

中国、産業用ロボットの年間設置台数で世界最多

中国全体の産業用ロボットの設置台数をみると、2010年代から大幅増が続いている。国際ロボット連盟(IFR)の2022年10月13日の発表によると、中国の産業用ロボットの年間設置台数は2013年に日本を抑えて世界最多となり、その後9年連続でトップを維持。2021年の年間設置台数は前年比51%増の 26万8,195 台で、世界全体の年間設置台数(51万7,385台)の半数以上を占めた(図3参照)。

図3:2021年の産業用ロボットの国・地域別年間設置台数
中国が前年比51%の約26万8,200 台、日本が約4万7,200台、米国が約3万5,000台、韓国が約3万1,100台、ドイツが約2万3,800台だった。

出所:国際ロボット連盟(IFR)「世界ロボティクスレポート2022」を基にジェトロ作成

産業別にみると、2021年には全ての産業で前年から増加しており、うち台数が最多だったのは、電気・電子産業で、前年比38%増の8万8,153台だった。伸び率が最大となったのは、自動車産業で、97%増の6万1,598台と(図4参照)、2017年(4万2,396台)を上回って過去最高を更新した。電気・電子や自動車産業での年間設置台数が大幅に増加したことについて、IFR会長のマリーナ・ビル氏は、同発表で、中国は世界最大の電気自動車(EV)を含む自動車生産拠点のほか、電子機器やバッテリー、半導体、マイクロチップの主要な生産国であることに言及しており、それら産業の発展が牽引したと指摘した。

図4:中国における産業用ロボットの産業別年間設置台数(2019~2021年)
2021年の電気・電子産業における設置台数は前年比38%の8万8,153 台、自動車が前年比97%の6万1,598台だった。

出所:国際ロボット連盟(IFR)「世界ロボティクスレポート2022」を基にジェトロ作成

さらに、同じくIFRの発表(2022年12月5日)によると、2021年の中国の製造業作業員1万人当たりのロボット密度は322台と、世界5位に位置し、2018年(140台)の20位から大きく順位を上げた。

ここで、中国の産業用ロボット市場の外資企業のプレゼンスについてみる。中国国内の新興産業の市場調査などを行う第三者機関である高工机器人産業研究所(GGII)の統計データによると、2018~2022年の中国の産業用ロボット年間販売台数における国外メーカーのシェアは6割前後で推移しており、国産メーカーのシェアを依然として上回っている(「高工机器人網(注2)」2023年2月20日)。また、同データによると、2022年の中国の産業用ロボット市場における国外メーカーの出荷台数ランキング上位15社の中には、1位のファナックや2位の安川電機をはじめとする日本メーカー10社がランクインしている。中国の産業用ロボット市場で、日本企業は中心的な役割を果たしてきたといえる。

なお、中国の海関(税関)統計を基に、2022年の産業用ロボット(HSコード847950)の輸入額を国・地域別にみると、日本(10億5,746万ドル)が全体の76.8%を占め、2位のドイツ(8,204万ドル、構成比6.0%)を大きく引き離した。日本からの産業用ロボットの輸入額は増加傾向にあり、2013~2022年の10年間で2.7倍の規模に拡大。2021年には初めて10億ドルを突破して過去最高額を更新した(表2参照、注1、注2)。

表2:中国の産業用ロボット(注2)の国・地域別輸入額の推移(上位10カ国・地域)(単位:1,000ドル)
国名・地域 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
日本 720,203 601,276 736,788 1,142,024 1,057,464
ドイツ 119,651 129,578 70,575 107,105 82,040
フランス 38,130 44,857 51,376 80,719 79,190
スウェーデン 35,407 23,729 18,479 21,764 31,963
デンマーク 27,015 32,350 31,659 44,680 29,516
韓国 49,236 49,958 24,500 30,920 18,806
オーストリア 16,629 16,886 17,029 24,009 16,410
台湾 26,829 25,274 21,115 20,909 16,081
中国 18,616 8,292 10,221 17,661 10,685
シンガポール 4,373 7,948 1,567 1,832 7,259

注1:中国の通関統計による輸入額、貿易データベースGlobal Trade Atlasがドル換算した数値を用いて作成。
注2:HSコード847950に属する産業用ロボット。
資料:Global Trade Atlasからジェトロ作成(データ抽出日:2023年3月24日)

中国政府、産業用ロボット導入や国産化に向けた政策を展開

中国政府も産業用ロボット導入を積極的に推進している。2021年12月には、製造業のスマート化を推進するための取り組みとして、工業情報化部や国家発展改革委員会などが「『第14次5カ年(2021~2025年)』スマート製造発展規画(スマート規画)」を発表した。

スマート規画では、2025年までに一定規模以上の製造企業の70%以上がデジタル化とネットワーク化を実現し、主要産業の中核企業は初歩的なスマート化を進めるとした。また、2035年までに一定規模以上の製造企業がデジタル化とネットワーク化を完全に普及させ、主要産業の中核企業はスマート化を基本的に実現させるといった目標を掲げた。同目標の達成に向けた具体的な措置として、情報インフラの整備やセキュリティー強化のほか、企業のスマート化に向けた金融機関による中長期融資奨励などを盛り込んだ。さらに、多国籍企業や国外の研究機関などが中国にスマート製造の研究開発センターやモデル工場、トレーニングセンターを建設することも奨励した。

直近では2023年1月に、工業情報化部などがロボットの応用を推進するために「『ロボット+』応用行動実施プラン(ロボット+)」を発表した。

ロボット+では、2025 年までに製造業のロボット密度を2020年の倍に拡大。製造業も含む10の重点応用分野に焦点を当て、ロボットの革新的な応用技術を100種類以上、ロボットの典型的な応用シーンを200以上に拡大し、「ロボット+」応用の指標となる企業や体験センターなどを多く創出するとした。同目標に対し、製造業では、スマート製造の実証工場の建設推進や、産業用ロボットをベースとしたスマート製造システムの開発推進など、製造業のデジタル化とスマート化を支援するとしている。

さらに、科学技術の自立自強を掲げる中国政府は、中国産ロボットの生産拡大や国産化の推進も打ち出している。工業情報化部、国家発展改革委員会などは2021年12月、中国のロボット産業の発展とイノベーション能力の向上に向けて「『第14次5カ年(2021~2025年)』ロボット産業発展規画(ロボット規画)」を発表。ロボット規画では、2025 年までに中国でハイエンド製造業の集積化を進めるとし、ロボット本体の総合的な性能などを国際的な先進レベルに引き上げ、基幹部品の性能や信頼性についても、同様の製品の国際レベルに引き上げることなどを掲げた。また、2035年までに中国のロボット産業の総合力が世界のトップレベルに達することを目標とし、同目標に対し、各種産業のファンドによる積極的な投資を促進するなど、金融支援を強化するとした。中でも産業用ロボットについては、溶接ロボット、真空(クリーン)ロボット、民生用火薬製造ロボット、物流ロボット、協働ロボット、移動ロボットなどを集中的に育成するとした。

なお、前出のIFRの発表(2022年10月13日)によると、2021年の中国の産業用ロボット年間設置台数における中国メーカーによる供給割合は、金属・機械で66%と相対的に高かったが、電気・電子産業では27%、自動車産業では24%にとどまった。

前述のとおり、中国で人件費高騰や少子高齢化などに伴う労働力不足の問題が顕在化する中、工場の自動化・省力化に向けて産業用ロボットの需要が大幅に伸びており、進出日系企業も中国での持続可能なビジネスモデルの構築に向けた対応を進めている。他方、中国政府は現在、産業用ロボット導入の推進とともに、国産化に向けた政策も押し進めている。中国の産業用ロボット市場のさらなる拡大が見込まれる中、日本をはじめとする外資のロボットメーカーは引き続き当該市場での優位性、地位を維持することができるのか。市場の動向とともに、注視し続ける必要があるだろう。


注1:
海外進出日系企業実態調査は、ジェトロが毎年実施している。2022年度調査は2022年8月22日から9月21日にかけてアジア・オセアニア地域に進出する日系企業を対象として実施。同調査結果を「アジア・オセアニア編」「中国編」として取りまとめ公表している。
注2:
「高工机器人網」は、GGII傘下のロボティクスなどに焦点をあてた総合的なプラットフォーム。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
富永 笑美子(とみなが えみこ)
2019年、ジェトロ入構。対日投資部外国企業支援課を経て、2022年10月から現職。