3社の連携・導入事例
再エネ先駆けへ、福島が欧州と連携(後編)

2023年1月20日

再生可能エネルギー(再エネ)分野で経済交流を進める福島県と欧州。連載の後編では、ドイツやスイスの企業との連携や、技術導入を進める県内中小企業3社の事例を取り上げる。

再エネに関して特に欧州が先進的な技術を持つのが、バイオガス発電や地中熱エネルギーだ。福島県の再エネ支援組織「エネルギー・エージェンシーふくしま(EAF)」(2022年12月23日付地域・分析レポート参照)は、この分野で県内企業3社と欧州企業をマッチングした。

東日本大震災以降、再エネ分野で産業振興を図る福島県。先進的な欧州企業と県内企業のさらなる連携拡大が期待されている。

バイオガス発電での国産木質ペレット活用につき、ドイツ企業と共同研究

藤田建設工業外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (注1)は、県内で建設・土木・再エネ関連事業に携わる。ドイツ企業エントレンコ(注2)から小型熱電併給装置を導入した。この装置は、木質ペレットを原料にしたバイオガス発電と、発電時に排出される熱を回収・利用できる機能を併せ持つ。

同社は、地元の未利用木材をペレットに加工。それを装置で燻(いぶ)して生成したガスを燃料に発電した電気を、東北電力に固定価格買取(FIT)制度で売電している。また熱は、自社で所有する県内の温泉施設「スパホテルあぶくま」に供給(スパホテルあぶくまウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。温泉や客室シャワーなどの加温、施設内の温水式床暖房、駐車場の融雪用ロードヒーティングなどに利用している。

スパホテルあぶくま(藤田建設工業提供)


小型熱電併給装置(藤田建設工業提供)

ドイツから技術を導入するに至ったきっかけは、EAFの服部靖弘代表から、エントレンコの前身企業エントラーデを紹介されたことだった。その時期、藤田建設工業は熱電併給装置の導入を検討していた。それを機に2016年2月、エネルギー関連の見本市「イー・ワールド」〔ドイツ西部のノルトライン・ウェストファーレン(NRW)州エッセン市〕を視察。そこで、当該小型熱電併給装置を初めて実見した。非常にコンパクトで性能が良いことがわかり、同社とのビジネスが進展していった。

同年10月にはエントラーデが来日。(1)藤田建設工業によるエントラーデの小型熱電併給装置導入と、(2)国産の木質ペレットを活用したバイオガス発電の共同研究の開始について、調印した。

2017年1月には、福島県とドイツ・NRW州が再エネ分野の連携覚書(MoU)を更新した。その際には、知事をはじめとする福島県の代表団の一員として、藤田光夫取締役会長(当時は社長)がドイツを訪問。滞在中にエントラーデのユリアン・ウーリッヒ最高経営責任者(CEO、当時)が藤田建設工業との連携について代表団にプレゼンテーションする機会もあった。

さらに、翌2018年7月にはウーリッヒCEOが来日。業務提携代理店契約を締結した。その結果、藤田建設工業が現在も、東日本地域でエントレンコの代理店の役割を担っている(注3)。

装置導入に際して特に苦労したのは、日本とドイツで木材の成分濃度が異なることだった。国産の木質燃料をそのまま使うと、カリウムやカルシウムの結合体付着などによってうまく作動せず、改良が必要となった。そのため同社は、英国のエジンバラ郊外にある木質ペレットの加工工場を視察。加えて、3年かけてドイツの化学者や福島大学の特任教授(工学)、電気工学に専門的知見を有する同社の立原龍一顧問(再エネ担当)が三位一体となって共同研究を重ねた。その結果、当該装置に適した国産木質ペレットの開発に至った。

なお、エントレンコ(旧エントラーデ、注3)との連携にあたっては、ジェトロの地域間交流支援(RIT)事業(注4)も活用した。

ドイツの技術者とは、現在も交流が続いている。立原顧問は「EAFの服部代表の紹介がきっかけで、エントレンコと良いビジネス関係を築けた。人や技術がつなぐご縁に感謝している」と述べた。

地中熱利用システムで先行する欧州企業と、連携や技術導入

ミサワ環境技術外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (本社:広島県三次市、注5)は、地中熱利用システムなどの技術を開発する企業だ。福島県会津若松市に営業所を持つ。

地中熱利用システムでは、地表から深さ10メートルより深い地温を冷暖房などに利用する。地中熱は、その土地の年間平均気温にほぼ等しい。そのため、ヒートポンプで地中熱を室内に取り入れると、年間を通して室温を一定に保つことができる。夏は外気温より涼しく、冬は暖かく過ごすことができるというわけだ。欧州では地中熱を効率的に冷暖房に利用し、省エネにつなげるエネルギーマネジメントの技術が発達。日本では30年ほど前から、欧州の技術を参考に導入が進んできた。

ミサワ環境技術は、福島県の再エネ支援事業を活用。地中熱交換器やパイプなど、欧州の地中熱エネルギーシステムの技術について調査研究を進めた。並行してドイツ企業2社と連携、スイス企業からも技術を導入した。

最初の連携相手は、ドイツのボーデ。住宅や事業所に対するエネルギー供給システムについてコンサルテーションを行う企業だった。EAFの紹介でつながり、2019年2月に本社訪問。ボーデからは、ドイツ流の「省エネ診断」「運用改善提案」「改修計画提案」など、エネルギーマネジメントの進め方について、技術指導を受けた。

その際にボーデが利用する冷暖房設備の設計用のソフトウエア「ETU-シミュレーション」の紹介も受けた。同ソフトウエアで、「空調負荷」(一定の広さの室内空調に必要な熱量)に加え、地中熱回収に必要な「熱交換器や熱源の能力」を、同時に計算することができるという。日本にも空調負荷を計算するシステムならあったが、地中熱設備に関して一緒に計算できるものはない。

そこで、ボーデを介して、ソフトウエアを開発するドイツ企業、ホットゲンロートに接触。2020年4月から連携を開始した。現在、両社は「ETU-シミュレーション 日本語版」を共同開発するパートナーだ。日本国内の空調事業者向けにこのソフトウエアを販売し、ボーデのエネルギーマネジメントを日本で事業化するために取り組みを進めている。

ボーデやホットゲンロートの技術は、建物のエネルギーの出入りを可視化して定量的に把握し、省エネ策を検討するところに特長がある。ミサワ環境技術が探るのは、日本の空調システムに適合した事業化だ。そのために、ドイツ側の技術に自社開発していた地中熱関連の技術を取り入れる。さらに将来的には、日本全体のエネルギーの効率化や省エネに寄与したいと考えている。

その一方で、スイス企業とのビジネスも進む。きっかけは、地熱・地中熱関連の展示会「ジオサーモ」(2019年2月、ドイツ南部・オッフェンブルクで開催)の視察だった。出展していたスイスのパイプメーカー、ヤンセンと取引を開始。目下、同社の地中熱交換機を日本に輸入し、冷暖房に活用して効果を検証しているところだ。もっとも、地中熱交換器に使われるパイプの直径や、地下に埋まるパイプにかかる圧力の耐久性などは、欧州の規格をそのまま適用するわけにはいかなかった。そのため、日本の規格に合わせる工程を経たという。

このように、福島県や県内関係機関の支援を得ながら、欧州企業と連携や技術導入などの交流を進めてきた。田中雅人常務取締役は「福島はほかの都道府県よりも、比較的、地中熱の産業が活発な地域だ。当社の活動を通じて、福島県、ひいては日本全国の地中熱産業の発展に貢献していけるのではないか」と意気込みを語った。

家畜ふん尿利用のバイオガス発電システムに、ドイツ製機械導入

福島県内で建設資材や産業用資材の販売に携わる共栄外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (注6)。2011年の東日本大震災以来、再エネ・省エネ事業に積極的に取り組んでいる。その一環で導入してきたのが、県内の畜産農家から出る家畜ふん尿を利用したメタン発酵によるバイオガス発電システムや、その後に発生する消化液の浄化装置だ(注7)。

この取り組みに当たり、同社は2019年11月、ドイツのプランETからメタン発酵用の試験用バイオガスプラントを購入。福島県川俣町の酪農家に設置し、家畜ふん尿で問題なく発酵できることが確認できた。

プランETと初めて接触したのは、2019年10月。福島県が主催する再エネ産業フェア「REIF(リーフ)ふくしま」で、EAFの仲介を受けた。新型コロナ禍で困難な時期もあったが、日本とドイツを相互に訪問して交流を続けている。今後はプランET製プラントを正式に購入し、バイオガス発電事業を国内展開する予定だ。

また、メタン発酵後に使う発電装置も、ドイツの2Gから小型基を導入する予定。なお、2GもEAFがマッチングした企業だ。


プランET製の試験用バイオガスプラント(共栄提供)

福島県には、畜産農家が多い。本来なら、そのふん尿をバイオガス発電に利用できると、大きなメリットを受けるはずだ。しかし、その圧倒的多数が中小規模であるために、プラント建設コストや消化液を散布する農地面積の問題から、なかなか踏み込めないという課題があった。プランETの小型バイオガスプラントや、2Gの発電装置により、県内でも普及が見込めるようになる。

共栄の鈴木久伸常務執行役員(営業管掌)によると、300頭の家畜がいると、1日当たり合計18トンのふん尿が排出される。これを有効利用して発電した際に見込まれる発電量は50~70キロワット時(kWh)。ふん尿を単純に堆肥にするより、採算性が高い計算になるという。一方で、県内の畜産農家では、標準的に1軒当たり30~40頭規模の飼育というのが現実だ。そのため、県内だけではなく、国内他地域にも視野を広げる必要がある。一方で、県内の畜産農家は、単一地域に何軒か集まっているケースも多い。そのため、家畜ふん尿を数軒分まとめて回収してメタン発酵に利用するというのも一法だ。また、メタンに分解しやすい有機物は、家畜ふん尿に限られるわけでもない。例えば、食品残渣(ざんさ)なども有望だ。いずれにせよ原料の収集方法が確立できると、県内の自治体や小売店でもバイオガスプラントを導入できる可能性が見えてくるという。


注1:
この記事を制作するに当たり、藤田建設工業からは2022年10月14日に聴取した。
注2:
エントレンコ(Entrenco)は、ドイツのバイエルン州に本社を置く熱電併給システム(CHP)メーカー。2018年、支社として東京に法人を設立。
注3:
エントラーデはその後、2019年1月の買収により、後継会社のエントレンコに改組された。
なお、西日本地域での販売は、エントレンコの日本支社が直接受け持っている。災害対策用に、九州の医療施設で小型熱電併給装置が導入された事例もあったという。
注4:
地域間交流支援事業(Regional Industry Tie-Up Program、RIT事業)を通じ、ジェトロは、日本各地の産業集積地と海外特定地域との産業交流活動、両地域・企業間の新規市場開拓、共同開発イノベーションなどの推進を図っている。
福島県とドイツ・NRW州との間では、2016~2018年度の3年間実施した。
注5:
この記事を制作するに当たり、ミサワ環境技術からは2022年10月21日に聴取した。
注6:
この記事を制作するに当たり、共栄からは2022年10月14日に聴取した。
注7:
嫌気環境(酸素のない状態)で微生物は、家畜のふん尿をメタンと二酸化炭素などに分解することができる。こうしてバイオガスを発生させることを、メタン発酵という。また、発生したバイオガスからメタンを取り出し、発電に利用するのが、バイオガス発電だ。
メタン発酵後には、残留物として消化液が発生する。この消化液を浄化しないと、再利用(液肥などにする)が困難になる場合がある。

再エネ先駆けへ、福島が欧州と連携

  1. (前編)ビジネスつなぐ支援機関
  2. (後編)3社の連携・導入事例
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
森 友梨(もり ゆり)
在エストニア日本国大使館(専門調査員)などを経て、2020年1月にジェトロ入構。イノベーション・知的財産部イノベーション促進課を経て、2022年6月から現職。