2021年の投資は対内・対外ともに前年比減も、EV関連投資は活発(ハンガリー)

2023年1月16日

ハンガリーの2021年の対内直接投資は前年比6.9%減となり、特にサービス業で大きく落ち込んだが、欧州が進めるグリーン政策の流れに乗って、アジアからの電気自動車(EV)用バッテリー関連の投資は引き続き活発だった。対外直接投資は26.5%減で、日本からの投資受入額も26.1%減だった。日本からの投資も自動車関連が目立った。

対内直接投資はEV関連が引き続き好調

ハンガリー国立銀行(中央銀行)によると、2021年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は前年比6.9%減の41億5,820万ユーロだった。

2021年の対内直接投資を業種別にみると(表1参照)、サービス業での落ち込みが激しく、小売り・卸売り・車両修繕で58.0%減、金融・保険分野で75.2%減だった。製造業では、全体では10.6%減だったものの、電気機器では2.7倍の8億8,630万ユーロ、電子・光学機器・コンピュータでは3.4倍の8億1,230万ユーロと大きく伸びた。

表1:ハンガリーの業種別対内・対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
業種 対内直接投資 対外直接投資
2020年 2021年 2020年 2021年
金額 金額 伸び率 金額 金額 伸び率
製造業 2,645.3 2,363.9 △ 10.6 △ 318.2 51.0
階層レベル2の項目電気機器 324.3 886.3 173.3 C 0.9
階層レベル2の項目電子・光学機器、コンピュータ 235.6 812.3 244.7 △ 148.8 92.0
階層レベル2の項目機械 △ 71.3 247.3 C 0.6
階層レベル2の項目化学・化学製品 606.6 242.8 △ 60.0 23.3 32.4 39.3
階層レベル2の項目自動車・輸送用機器 270.2 141.8 △ 47.5 5.9 17.9 201.8
階層レベル2の項目食品・飲料・たばこ 152.6 138.4 △ 9.3 19.0 121.5 540.7
階層レベル2の項目医薬品 235.5 127.1 △ 46.0 △ 168.6 87.9
階層レベル2の項目木材・製紙 △ 0.3 73.7 3.6 △ 16.6
階層レベル2の項目コークス・石油 △ 25.3 △ 17.6 △ 103.5 △ 253.4
階層レベル2の項目繊維・衣料品・皮革製品 11.9 △ 28.2 3.2 3.1 △ 3.9
階層レベル2の項目基礎金属・金属加工製品 64.9 △ 50.2 24.7 0.4 △ 98.3
階層レベル2の項目その他の非金属鉱物製品 68.9 △ 71.7 1.9 △ 9.6
階層レベル2の項目ゴム・プラスチック 401.9 △ 94.2 20.9 △ 10.2
サービス業 1,972.0 1,042.6 △ 47.1 2,127.7 1,595.3 △ 25.0
階層レベル2の項目小売り・卸売り・車両修繕 908.6 381.8 △ 58.0 44.6 △ 50.7
階層レベル2の項目運輸・倉庫 △ 69.5 205.1 2.4 21.1 774.0
階層レベル2の項目金融・保険 687.6 170.4 △ 75.2 1,133.1 1,287.1 13.6
階層レベル2の項目不動産 △ 56.1 130.2 230.6 124.1 △ 46.2
階層レベル2の項目宿泊・飲食 △ 134.0 104.7 7.7 5.9 △ 23.2
階層レベル2の項目情報通信 238.5 △ 396.2 18.9 △ 45.7
階層レベル2の項目専門・科学・技術 500.1 △ 469.0 806.6 172.4 △ 78.6
建設 △ 32.3 253.5 49.4 39.9 △ 19.2
不動産取引 222.5 246.3 10.7 △ 44.8 275.9
電気・ガス・冷暖房供給 △ 348.0 227.2 △ 5.2 15.0
農業、狩猟、林業 25.2 18.8 △ 25.1 △ 2.4 △ 3.8
上水道、下水道、廃棄物管理 2.5 △ 1.0 2.4 2.1 △ 13.4
鉱業、採石 △ 22.0 △ 2.3 810.3 △ 301.4
合計(その他を含む) 4,465.3 4,158.2 △ 6.9 2,154.3 1,583.7 △ 26.5

注:「-」は負の値に関わる伸び率。「C」は該当企業が3社未満のための非公表。
出所:ハンガリー国立銀行

国・地域別にみると(表2参照)、アイルランドからの増加が顕著で、前年の8,310万ユーロから8億9,990万ユーロへ、10.8倍の大幅増を記録した。

表2:ハンガリーの国・地域別対内・対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
国・地域名 対内直接投資 対外直接投資
2020年 2021年 2020年 2021年
金額 金額 伸び率 金額 金額 伸び率
EU 1,851.3 1,271.7 △ 31.3 2,507.2 △ 261.0
階層レベル2の項目ユーロ圏 2,104.7 1,184.5 △ 43.7 1,567.8 △ 606.0
階層レベル3の項目アイルランド 83.1 899.9 982.4 2.6 179.1 6834.7
階層レベル3の項目オランダ 623.6 588.0 △ 5.7 1,199.4 163.1 △ 86.4
階層レベル3の項目ルクセンブルク 844.6 391.6 △ 53.6 831.9 △ 1,367.2
階層レベル3の項目オーストリア 816.7 279.1 △ 65.8 △ 28.8 △ 12.6
階層レベル3の項目イタリア △ 395.4 231.1 59.0 156.7 165.4
階層レベル3の項目マルタ △ 22.3 54.3 46.6 △ 14.3
階層レベル3の項目ポルトガル △ 3.5 11.0 C 0.9
階層レベル3の項目スペイン △ 69.7 2.4 △ 6.8 81.2
階層レベル2の項目非ユーロ圏 △ 253.4 87.2 939.4 345.0 △ 63.3
階層レベル3の項目ポーランド △ 343.2 101.8 46.3 77.2 66.9
階層レベル3の項目デンマーク 208.6 83.7 △ 59.9 C 0.1
階層レベル3の項目チェコ △ 317.7 71.4 690.3 4.4 △ 99.4
英国 612.9 369.5 △ 39.7 △ 195.3 △ 47.9
スイス 895.3 174.1 △ 80.6 △ 796.8 1,314.3
ロシア △ 55.8 131.2 △ 20.9 83.3
カナダ △ 104.7 27.2 0.8 1.7 104.5
米国 23.8 8.7 △ 63.4 174.1 183.6 5.5
韓国 806.8 856.0 6.1 △ 1.7 0.9
シンガポール 73.0 307.7 321.7 29.6 △ 14.0
香港 269.7 187.7 △ 30.4 △ 4.6 △ 16.2
日本 200.7 148.4 △ 26.1 0.5 3.9 718.6
中国 60.9 81.2 33.3 4.1 3.8 △ 7.9
合計(その他を含む) 4,465.3 4,158.2 △ 6.9 2,154.3 1,583.7 △ 26.5

注:「-」は負の値に関わる伸び率。「C」は該当企業が3社未満のための非公表。
出所:ハンガリー国立銀行

外国からの投資誘致を所管するハンガリー投資促進庁(HIPA)の発表では、2021年に行われた対内直接投資案件は422件で、総額で過去最高の約59億ユーロに上った(2022年1月26日付ビジネス短信参照)。近年はアジアからの、EV関連での投資が外国投資をリードしている。HIPAによると、2021年は案件ベースでのアジア諸国からの投資比率は金額ベースで60%に達し、韓国が最大の投資国だった。SKイノベーション(SKオン)は2021年1月に、3兆3,100億ウォン(約3,310億円、1ウォン=約0.1円)を投資し、ハンガリー国内で同社3番目となるEV用バッテリー工場の建設を同年末に開始することを発表した(表3参照、2021年2月9日付ビジネス短信参照)。エコプロBMも同年12月に、7億2,800万ユーロを投資し、EV用バッテリーの正極材工場を建設することを発表した(2021年12月16日付ビジネス短信参照)。

表3:ハンガリーの主な対内直接投資案件(2021年1月~2022年8月)

M&A以外
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
自動車 SKイノベーション(SKオン) 韓国 2021年1月
2022年8月
3兆3,100億ウォン 2021年1月、首都ブダペスト南方のイバンチャにハンガリーでは同社3番目となるEV用バッテリー工場の建設を2021年末に開始し、年間でEV43万台分に相当する30ギガワット時のバッテリーを生産予定だと発表。2022年8月には、投資総額および2024年から生産開始予定である旨を発表。
金属 エコプロBM 韓国 2021年12月 7億2,800万ユーロ 東部デブレツェンに同社として国外初となるEV用バッテリーの正極材工場を建設すると発表。年間でEV用バッテリー135万個分に相当する10万8,000トンを生産し、631人を雇用する予定。
ガラス シセカム トルコ 2021年6月 2億2,000万ユーロ 西部カポシュバールに同社として欧州初となるガラス容器・瓶工場を建設すると発表。2023年に稼働開始し、2025年にフル稼働、年間33万トンのガラス容器・瓶の生産を予定。
玩具 レゴ デンマーク 2021年6月 約1億4,800万ユーロ 北東部ニーレジュハーザ工場を7万平方メートル強拡張すると発表。拡張部分は2023年中に稼働開始予定。生産設備や倉庫も増強する。250人を新規雇用予定。
自動車部品 ボッシュ ドイツ 2021年7月 1億4,800万ユーロ超 北西部マクラール工場を拡張すると発表。工期は2023年末まで。注力する電動パワーステアリングシステム(EPS)の生産開始やその他の生産設備の増強と刷新、また同社の全世界のステアリング部門の業務をサポートするシェアードサービスセンター(SSC)開設を予定。180人を新規雇用予定。
M&A
被買収企業
(事業)
買収企業 時期 投資額 概要
業種 企業名 企業名 国籍
金融 エイゴン・ハンガリー ウイーン・インシュアランス・
グループ(VIG)
オーストリア 2020年11月
2022年3月
8億3,000万ユーロ(ハンガリー事業を含む全事業についての買収額) VIGとオランダの保険会社エイゴンは2020年11月、VIGがエイゴンの中・東欧(ハンガリー、ポーランド、ルーマニア)とトルコの事業を買収することに合意したと発表。ハンガリー事業の買収は2022年3月に完了した。VIGは当該買収により、VIG傘下のUNIONと合わせて、ハンガリーの保険市場で19%以上のシェアを持つトップ企業となった。
IT i データ ノルビット ノルウェー 2021年7月 1,450万ユーロ 高度道路交通システム(ITS)サービスや研究開発・生産支援サービスなどを提供するノルビットは2021年7月、GPS車両トラッキングや車両管理を行うi データの買収を完了。ノルビットは11月、同社ITS部門をコネクティビティ部門と名称変更するとともに、事業内容を車両以外のコネクティビティにも拡大した。

出所:各社発表および報道などから作成

対外直接投資は前年比26.5%減

2021年の対外直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比26.5%減の15億8,370万ユーロだった(表1、表2参照)。

主な投資案件としては、エネルギー大手MOLが2021年6月、オーストリアの同業OMVのスロベニア子会社の株式92.25%の取得に合意したことを発表、MOLはすでにスロべニア国内でガソリンスタンド53店舗を経営しているが、子会社化を通じて計173店舗に拡大し同国内での卸売業も取得する(表4参照)。

表4:ハンガリーの主な対外直接投資案件(2021年4 月~2022年7月)

M&A以外
業種 企業名 投資先国 時期 投資額 概要
IT KÖRグループ ドイツ 2021年10月 非公表 技術コンサルティングを提供するKÖRグループはデュッセルドルフに子会社を設立したと発表。2021年秋からドイツ、オーストリア、スイス向けにサービスを提供し、石油・石油化学・製薬などの業界を開拓するとした。
IT ドースム ポーランド 2021年7月 非公表 投資分野のソフトウエアやソリューションを提供するドースムはワルシャワに子会社を設立したと発表。中・東欧の経済を牽引し、多くのブライベートバンキングを有するポーランドでの事業拡大を目指す。
IT セオン 米国 2021年4月 非公表 不正対策サービスを提供するセオンはテキサス州に拠点を開設したと発表。拠点開設以前より同社利益の約10%が米国企業からのものであり、拠点開設により、北米市場でのサービス改善や事業拡大を目指す。
建築資材 マスタープラスト イタリア 2022年4月 450万ユーロ イタリア市場の拡大を見込み、ボローニャ近郊にポリスチレン断熱材の工場を建設予定と発表。2023年前半に稼働開始予定。
電気電子 ビデオトン ブルガリア 2022年1月 240万ユーロ 電子機器の受託生産サービス(EMS)を提供するビデオトンは、スタラ・ザゴラ工場を拡張すると発表。工場面積を倍増させ、生産設備も刷新する。投資金額のうち半分はハンガリー政府が支援する。
M&A
買収企業名 被買収企業(事業) 時期 投資額 概要
業種 企業名 国籍
MOL エネルギー OMVスロベニア スロベニア 2021年6月 3億100万ユーロ MOLはOMVスロベニアの株式 92.25%の取得に合意したことを発表。OMVスロベニアはオーストリアの同業であるOMVの子会社でガソリンスタンドを経営。MOLは買収によりスロベニアでの販売強化を目指す。
OTP銀行 金融 アルファ銀行 アルバニア 2022年7月 5,500万ユーロ OTP銀行はアルファ銀行の株式100%の取得を完了した。アルファ銀行はアルバニアで8番目の規模の銀行で、ギリシャのアルファ銀行の完全子会社だった。
4iG テレコム テレノール・モンテネグロ(当時、現ONE) モンテネグロ 2021年12月 非公表 4iGはテレノール・モンテネグロの株式100%の取得を完了した。テレノール・モンテネグロはオランダのPPFテレコム・グループの完全子会社だった。2022年3月末にテレノール・モンテネグロは社名をONEに変更し、ブランドイメージを一新した。

出所:各社発表および報道などから作成

日本からの投資も自動車関連が目立つ

2021年の日本からの投資受入額は、前年比26.1%減の1億4,840万ユーロだった(表2参照)。

主な投資案件としては、セーレンが2021年4月に新会社を設立し、自動車用合成皮革シート材の生産工場の建設に約55億円を投じ、2022年12月の量産開始予定を発表した(2021年4月20日付ビジネス短信参照)。また、東レが2021年10月に、リチウムイオン二次電池用のセパレーターフィルムを製造するハンガリー子会社において、韓国のLG Chem(LG化学)から430億円の出資を受け入れて合弁会社化することを発表(2021年11月12日付ビジネス短信参照)、2022年6月に合弁会社設立の手続きが完了した。今後の需要拡大に対応するため、フィルム基材生産設備の増設とコーティング設備の新設を進めていくとしている。

執筆者紹介
ジェトロ・ブダペスト事務所長
末廣 徹(すえひろ とおる)
1990年、ジェトロ入構。本部勤務のほか、大阪本部、ジェトロ・ブカレスト事務所、ジェトロ福井、ジェトロ・タシケント事務所、ジェトロ金沢などを経て2020年12月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ブダペスト事務所
バラジ・ラウラ
2000年よりジェトロ・ブダペスト事務所に勤務、ハンガリー国内の市場調査を担当。英語、数学の修士号のほか、日本語検定1級、経済貿易大学の学士を有する。