2022年の新車販売は初の50万台超え、2023年は鈍い出足に(ベトナム)

2023年9月26日

2022年のベトナム新車販売市場は、初めて50万台に到達した。新型コロナウイルス流行の影響で販売が停滞していた2020年と2021年の反動もあり、伸び率が高まった。また、政府による国内生産車を対象にした優遇措置も、販売促進の後押しになったとみられる。

本レポートでは、2022年の新車販売実績を車種別や形態別などに振り返る。あわせて、2023年の動向についても探る。

乗用車販売が大幅増

ベトナム自動車工業会(VAMA)発表によると、2022年の新車販売台数は、前年比33.0%増の40万4,635台。このVAMA発表値に計上されていない2社(ヒュンダイ・タインコン、ビンファスト)の販売台数を加えると、ベトナムの自動車販売台数は約51万台と推計される。実際、計画投資省の自動車産業担当者が把握している自動車販売台数も50万9,141台で、市場規模は前年から24%ほど増加したとみられる。

VAMA発表の新車販売台数のうち、国内生産車(国産車、海外ブランドを含む)は前年比30.1%増の22万6,487台で、輸入車は37.0%増の17万8,148台だった(図1参照)。国産車と輸入車はともに3割以上伸び、過去最多の販売台数を記録した。

図1:2017年から2022年のベトナム新車販売台数の推移
VAMA非加盟を含むと2017年は約30万台、2018年は約35万台、2019年は約42万台、2020年は約41万台、2020年は約41万台。2022年は約51万台で、そのうち国産車(CKD)は22万6,487台、輸入車(CBU)は17万8,148台。

注:ヒュンダイ・タインコンとビンファストの販売台数は、VAMAの発表値に含まれない。
ただし、2017年と2018年は、ヒュンダイ・タインコン発表の台数をVAMA公表外(点線)として追加。2019年以降は、さらにビンファストの台数もあわせて、VAMA公表外(点線)として追加。
出所:VAMA公表資料、関連企業の発表および報道に基づきジェトロ作成

特に国産車の販売では、ベトナム政府の支援策の影響がみられた。政府は新型コロナウイルス流行下で影響を受けた自動車産業を支援するため、2021年12月1日から2022年5月31日までの6カ月間、国産車の自動車登録料を半減する措置を適用した(2021年12月3日付ビジネス短信参照)。自動車登録料は、仮に本体価格が300万円の国産乗用車を新たに購入する場合、通常30~36万円ほどかかる。この場合、優遇措置によって購入価格は実質15~18万円ほど値引きされることになり、国産車の価格競争力が高まった。実際、2022年はこの優遇措置が適用された1月から5月の間、国産車の販売が輸入車を大幅に上回った(図2参照)。一方、同措置終了後の6月以降は国産車の価格面での魅力が相対的に低下し、販売が伸び悩んだ。結果として、通年の伸び率は輸入車が国産車を上回ったかたちだ。

図2:2022年の国産車と輸入車の月別販売台数
2022年1月から5月の間、国産車の販売が輸入車を大幅に上回った。一方、6月以降は国産車の販売は伸び悩み、輸入車と同水準になった。

注:VAMA公表外(ヒュンダイ・タインコン、ビンファスト)の販売台数は含まれない。
出所:VAMA公表資料に基づきジェトロ作成

VAMA発表による新車販売台数を車種別にみると、2022年は乗用車が31万6,941台(前年比47.8%増)、商用車8万2,714台(1.5%減)、特別目的車(ダンプトラックなど)4,980台(13.8%減)になった(図3参照)。

乗用車は2022年、急激な伸びを示した。これは、新型コロナウイルス流行下の2020年と2021年に販売が低迷していた反動も受けた結果と見られる。一方、商用車と特別目的車は2016年がピークで、それ以降は同年実績を下回る水準で推移し続けている。

図3:2017年から2022年の車種別新車販売台数
2022年は乗用車が31万6,941台(前年比47.8%増)、商用車は8万2,714台(1.5%減)、特別目的車(ダンプトラックなど)は4,980台(13.8%減)となった。乗用車は新型コロナウイルス流行下の2020年と2021年に販売が低迷していた反動もあり、2022年は急激な伸びを示した。商用車と特別目的車は2016年のピーク以降、それを下回る水準での推移が続いている。

注:VAMA公表外(ヒュンダイ・タインコン、ビンファスト)の販売台数は含まれない。
出所:VAMA公表資料に基づきジェトロ作成

ここで、VAMA加盟企業に限ったデータ(合計35万8,063台)を地域別にみると、ベトナム北部は15万1,897台(前年比24.7%増)、南部は14万9,424台(36.9%増)、中部は5万6,742台(22.6%増)だった。南部はホーチミン市近郊で、2021年に新型コロナウイルス流行に伴う外出制限の影響が大きかった。当該地域で2022年の伸び率が高まったのは、その反動を受けた結果と推察される。

日系ブランドが販売伸ばし、シェア5割に

主要ブランド・メーカー別にみると、トヨタが前年比34.9%増の9万1,115台で首位になった(表1参照)。次いで、ヒュンダイ・タインコンが15.7%増の8万1,582台、タコ・起亜が33.4%増の6万729台と、韓国系2社が連なった。さらに、三菱、タコ・マツダ、ホンダの日系勢が続いた。総じて、日系ブランドの市場シェアは5割、韓国系ブランドが3割を占めている。

ビンファスト(地場複合企業ビングループ傘下)は、2022年半ばにガソリン車の生産を終了し、電気自動車(EV)生産に一本化した。これに併せて、毎月の販売台数公表が途切れたが、各種報道を踏まえると、前年よりも販売台数が落ち込んだとみられる。

表1:主要ブランド・メーカー別の販売台数(2022年)(単位:台、%)(△はマイナス値)
ブランド・メーカー 販売台数 シェア 前年比
トヨタ 91,115 19.7 34.9
ヒュンダイ・タインコン(注1) 81,582 17.6 15.7
タコ・起亜 60,729 13.1 33.4
三菱 39,861 8.6 46.3
タコ・マツダ 36,052 7.8 32.1
ホンダ 30,645 6.6 41.2
フォード 28,847 6.2 21.7
ビンファスト(注2) 22,924 5.0 △ 35.8
タコ・トラック 21,107 4.6 △ 7.6
スズキ(ビスコ) 16,209 3.5 18.0
いすゞ(注3) 11,108 2.4 25.4
プジョー 10,175 2.2 50.7
日野(注3) 5,613 1.2 16.6
ドータイン 1,581 0.3 △ 32.6
レクサス 1,510 0.3 2.8
タコ・プレミアム(BMW、MINI) 1,298 0.3 2.9
タコ・バス 939 0.2 61.3
ビエム 491 0.1 △ 8.9
ビナモーター(注3) 384 0.1 △ 42.9
サムコ 289 0.1 29.0
大宇バス 110 0.0 7.8
合計(注4) 462,569 100.0 20.6

注1:ヒュンダイ・タインコンの販売台数は自社基準に基づく。
注2:ビンファストの販売台数は報道を基にした参考値。
注3:いすゞ、日野、ビナモーターは、バスシャーシを含まない。
注4:VAMAに加盟していない輸入ブランドの台数が反映されていないため、合計の台数は図1と一致しない。
出所:VAMA公表資料、ヒュンダイ・タインコンの発表、各種報道を基にジェトロ作成

モデル別にみると、(1)トヨタのヴィオス(Vios)と(2)カローラクロス(Corolla Cross)、(3)ヒュンダイ・タインコンのアクセント(Accent)、(4)三菱のエクスパンダー(Xpander)の4モデルが、2万台超になった(表2参照)。

形態別では、2022年は多目的乗用車(MPV)の伸びが顕著だった。具体的には、三菱のエクスパンダーが前年から61.4%伸びたほか、2022年からベトナムでの生産・販売が始まったトヨタのヴェロズ(Veloz)がMPVを牽引した。

表2:乗用車の販売台数上位10モデル(2022年)(単位:台、%)(△はマイナス値、-は値なし)
順位 モデル メーカー 形態 台数 北部 中部 南部 前年比
1 ヴィオス
(Vios)
トヨタ セダン 23,529 10,716 4,475 8,338 18.1
2 アクセント
(Accent)
ヒュンダイ・タインコン(注) セダン 22,645 13.5
3 エクスパンダ―
(Xpander)
三菱 MPV 21,983 6,675 4,273 11,035 61.4
4 カローラクロス
(Corolla Cross)
トヨタ SUV 21,473 9,650 4,774 7,049 16.6
5 レンジャー
(Ranger)
フォード ピックアップ 16,447 5,845 4,085 6,517 5.1
6 シティ
(City)
ホンダ セダン 14,696 6,222 3,821 4,653 50.8
7 ヴェロズ
(Veloz)
トヨタ MPV 14,104 4,456 2,457 7,191 全増
8 CX-5 タコ・マツダ クロスオーバー 12,700 6,996 1,533 4,171 24.1
9 セルトス
(Seltos)
タコ・起亜 クロスオーバー 12,398 7,004 1,744 3,650 △ 23.1
10 クレタ
(Creta)
ヒュンダイ・タインコン(注) SUV 12,096 全増

注:ヒュンダイ・タインコンはVAMAに加盟しておらず、同社の販売台数は独自の基準に基づく。
出所:VAMA公表資料、ヒュンダイ・タインコンの発表に基づきジェトロ作成

生産台数が30万台超え

ベトナム統計総局によると、国内の2022年の自動車生産台数は33万4,400台だった(図4参照)。前年比14.8%増で、初めて30万台を超えた。国内の新車販売市場の拡大に合わせて、自動車生産台数も伸びた。

図4:2017年から2022年のベトナム自動車生産台数の推移
ベトナム国内における2022年の自動車生産台数は33万4,400台だった。前年比14.8%増で、初めて30万台を超えた。

注:2022年は速報値。
出所:ベトナム統計総局

ベトナム国内では、さらに自動車生産を拡大していく動きが見られる。韓国系の合弁会社ヒュンダイ・タインコンは、2022年11月に北部ニンビン省で第2工場を稼働。年間生産台数を最大18万台まで引き上げた。2023年7月には同工場でEVも製造する計画を発表した(2023年8月9日付ビジネス短信参照)。また、チェコのシュコダ・オートは2022年10月、地場のタインコングループと提携。北部クアンニン省で東南アジア初の自社自動車工場を建設する計画を明らかにした。2024年からスポーツ用多目的車(SUV)などの生産を開始する予定だ。生産能力は年間12万台を計画し、周辺国への輸出も視野に入れているという。

そのほか、ビンファストは輸出向けの生産を開始した。2022年11月、北部ハイフォンの工場で生産した自社ブランドのEV999台を初めて米国向けに輸出した(2022年12月6日付ビジネス短信参照)。加えて2023年4月には、米国とカナダ向けに1,879台を輸出したと発表している。

ベトナムの自動車政策は、EVシフトや裾野産業育成に向けた具体的な方針が見えづらいのが実情だ。それでも、経済成長に合わせたさらなる自動車市場の拡大が見込まれるため、外資自動車メーカーからの注目度は高まっていると言えるだろう(2023年4月25日付地域・分析レポート参照)。

2023年の新車販売は出足不調

ここまでみたとおり、2022年は過去最高の新車販売台数を記録した。しかし、後半にかけて販売実績が鈍化した。2022年6月に前述の国産車への優遇措置が終了したのに加え、景況感の悪化や金利の上昇などが影響したものとみられる。

この傾向は、2023年に入ってからも続いている。VAMA発表の新車販売台数は、2023年1~7月が前年同期比30.2%減の16万2,014台だった。月別の販売台数は2022年11月以降、テト(旧正月)休暇時期の影響で微増となった2月を除き、2023年7月まで前年割れが続いている。車種別にみると、1~7月は乗用車が前年同期比34.0%減の11万9,498台、商用車が13.2%減の4万1,169台、特別目的車が62.9%減の1,347台。車種を問わず、全体的に低迷していることも確認できる。また、国産車は前年同期比29.8%減の9万1,159台で、輸入車は30.7%減の7万855台と、ともに前年より3割程落ち込んでいる状況だ。

この状況を受け、ベトナム政府も動く。景気刺激策の一環として、2023年7月1日から12月31日まで国産車の自動車登録料を半減する優遇措置を再び実施すると決めた。7月の販売台数を見る限りでは、国産車の大幅な伸びには至っていないが、今後の景気回復に合わせ、下半期の巻き返しが期待される。

執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
庄 浩充(しょう ひろみつ)
2010年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ横浜、ジェトロ・ビエンチャン事務所(ラオス)、広報課、ジェトロ・ハノイ事務所(ベトナム)を経て現職。