合弁工場建設を急ぐLGエナジー
韓国企業のEV・車載電池戦略(前編)

2023年8月7日

韓国の電気自動車(EV)、車載電池産業が急成長を遂げている。特に、車載電池メーカーに着目すると、EV市場の拡大に伴う需要増大とともに、2022年8月に成立した米国インフレ削減法への対応などのため、電池原料の調達先の多様化や新たな生産拠点構築を急いでおり、1年前に比べて様相がやや異なってきている(2022年8月12日付地域・分析レポート参照)。

先に、車載電池を中心とする二次電池を巡る韓国政府の政策について概観した(2023年8月4日付地域・分析レポート参照)。それに続く本稿では、まず、現代自動車グループのEV戦略をみた後に、LGエナジーソリューション、SKオン、サムスンSDIの韓国車載電池メーカー3社の最近の動向を整理する。LGエナジーソリューションについては、親会社であり、LGエナジーソリューションに電池材料を供給するLG化学の動きも概観する。さらに、電池原料・材料のバリューチェーン全体で事業を展開するポスコ・グループの動向について整理する。このうち、前編では、現代自動車グループ、LGエナジーソリューション、LG化学について取り扱う(SKオン、サムスンSDI、ポスコ・グループについては、後編「米国を軸に急成長するSKオン」参照)。なお、車載電池の主な生産プロセスは図のとおり。

図:車載電池の主な生産プロセス
車載電池の4大材料は、正極板、負極板、セパレータ、電解液(エンケムなど)。これらをセル組み立て、モジュール組み立て、電池パック組み立てを経て、EVに搭載される。正極板の主な原料はニッケル、コバルト、マンガン、リチウムで、前駆体、正極材を経て正極板が作られる。負極板の主な原料は天然黒鉛、人造黒鉛で、負極材を経て負極板が作られる。

注:本稿では便宜上、黄色を「電池原料」、水色を「電池材料」と呼称する。
出所:各種資料を基にジェトロ作成

「2030年EV世界販売トップ3入り」を目指す現代自動車グループ

現代自動車グループ(傘下に現代自動車、起亜、部品メーカーの現代モービスなどを抱える)は、起亜が2014年に、現代自動車が2016年に韓国国内でEV生産を開始して以来、EV生産を伸ばしてきた。海外でも、現代自動車が2022年にインドネシアでEV生産を開始、米国でも2024年下半期の量産開始を目標にEV専用工場の建設を急ぐなど、EV生産を急拡大させつつある。

このような中、現代自動車グループは2023年4月11日、EV事業の中長期戦略を発表した。中長期戦略では、「2030年 EV世界販売トップ3入り」を目標として掲げた。目標実現のために、2030年に「韓国国内EV生産台数151万台(うち、輸出92万台)」「全世界でのEV生産台数364万台」とする生産台数目標を提示した。中長期戦略には明記されていないが、2030年のEVの海外生産台数目標は213万台ということになる。現代自動車グループの海外でのEV生産の主力拠点は米国だ。「毎日経済新聞」(2023年4月11日、電子版)は、「現代自動車グループは米国でのEV生産計画を修正する可能性が強まった。2022年までは2030年の米国生産台数目標は84万台だったが、(今回の発表により)364万台の30%水準の100万台以上に上方修正されるものとみられる」と報じた。

韓国国内でのEV生産については、現代自動車、起亜、現代モービスの3社で2030年までに24兆ウォン(約2兆6,400億円、1ウォン=約0.11円)を投じる計画だ。具体的には、起亜が2025年下半期稼働を目標に京畿道華城市にEV専用工場(生産能力は最大で年15万台)を建設する。EV専用工場は2023年4月に着工したが、同グループとしては実に29年ぶりの国内での新工場建設だった。現代自動車もEV専用工場建設を予定している。

同グループでは、新工場建設とともに、既存工場にEV専用ラインを設置していく。また、次世代EV専用のプラットフォーム開発や商品ラインアップ拡大などを行う。さらに、EVのインフラ整備のために、現代自動車・起亜の系列社が2025年までに超急速充電器充填器3,000カ所を整備するなど、充電器事業を強化する計画だ。

さらに、グループ中核企業の現代自動車は2023年6月20日、2030年に世界市場でEV販売台数200万台(「ジェネシス」ブランドを含む)を目標とする将来計画を発表した(表1参照)。EV化を急速に進め、2030年時点で欧州市場では総販売台数の7割以上を、米国市場では5割以上をEVとする計画だ。そのために、既存工場の生産ラインの転換や、EV専用工場の建設を進める。さらに、米国、インドネシアで車載電池合弁工場を建設し、車載電池の安定的確保を図る計画だ。

表1:現代自動車のEV生産・販売計画

EV販売台数目標(万台) (-は値なし)
国・地域名 2023年 2026年 2030年
米国 66
欧州 51
韓国 24
世界計(その他を含む) 33 94 200
総販売台数に占めるEVの割合の目標値(%)(-は値なし)
国・地域名 2023年 2026年 2030年
米国 53
欧州 71
韓国 37
世界計(その他を含む) 8 18 34
EV専用工場の量産開始目標年
国名
米国 2024年下半期
韓国 2025年
総生産台数に占めるEVの割合の目標値(%)
国・地域名 2023年 2026年 2030年
米国 0.7 37 75
欧州 7 30 54
韓国 14 24 36
世界計(その他を含む) 8 18 34
車載電池合弁企業の稼働予定年
国名
インドネシア 2024年下半期
米国(2社) 2025年
同社の合弁企業からの車載電池調達比率の目標値(%)
比率
2025年 20~
2028年 70~

出所:現代自動車プレスリリース(2023年6月20日)を基にジェトロ作成

工場新設、電池材料調達先の多角化を急ぐ韓国メーカー

LGエナジーソリューション、SKオン、サムスンSDIの韓国の車載電池メーカー3社は、いずれも世界的にみても大手企業だ。韓国の調査機関の発表を引用した「聯合ニュース」(2023年2月14日)によると、2022年の中国を除く世界の車載電池市場におけるシェアはLGエナジーソリューションが1位、SKオンが3位、サムスンSDIが4位だ。以下では、これら3社の事業展開と、各社プレスリリースに基づく2022年1月以降の主要動向について整理する。さらに、LGエナジーソリューションの親会社のLG化学と、車載電池材料事業を川上から川下にかけて事業を行っているポスコ・グループについて概観する。

まず、2022年1月以降の車載電池メーカー3社の動向を総括すると、程度の違いはあるものの、次のとおり、目指す方向はほぼ同じといえそうだ。

  1. 急速に拡大するEV市場の動きに合わせ、生産能力を拡大する動きが活発だ。特に、完成車メーカーと合弁工場を建設するケースが多い。車載電池メーカーの立場からみると、莫大(ばくだい)な金額の車載電池工場建設費用の削減と、生産品の販売先確保の面でメリットが大きい。
  2. 電池材料の正極材や、その川上工程に当たるリチウム、ニッケルなどの電池原料の調達先を多角化し、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化を目指す動きが活発だ。ここには、車載電池リサイクル(再活用)による鉱物抽出も含まれる(2023年5月23日付地域・分析レポート参照)。
  3. 以上で述べた生産能力拡大や調達先多角化の取り組みの多くは、米国インフレ削減法に対応したものだ。海外での新工場建設は北米が中心だ。調達先多角化の動きはカナダ、オーストラリア、南米諸国が多く、いずれも中国依存度を減らす狙いだ。
  4. 各社とも新しい技術開発に向けた取り組みに注力している。

完成車メーカーとの連携を強めるLGエナジーソリューション

韓国車載電池最大手のLGエナジーソリューションは、2020年12月にLG化学から分社したLG化学の子会社だ(2023年3月末時点で同社の出資比率は81.84%)。現在、LGエナジーソリューションが車載電池事業を担う一方で、LG化学は正極材や前駆体などの車載電池生産の前工程を担い、車載電池事業を支える構造となっている。

LG化学の事業領域は、もともとエチレン、プロピレンなどの石油化学事業が中心だった。しかし、石油化学事業の伸び悩みが鮮明になるにつれ、新しい成長事業が必要となった。そこで同社が目を付けたのが車載電池事業だった。車載電池事業は成長を遂げ、同社の「四半期報告書(2023年1~3月)」で連結決算ベースの部門別売上高をみると、「LGエナジーソリューション」が全体の60.2%で、「石油化学事業」(30.5%)の2倍近くに達し、すっかり主力事業に変貌している。さらに、正極材を含む「先端素材事業」は5.4%と、比率は低いものの、今後の事業の成長が期待されている。

LGグループの車載電池事業は一定の歴史を有している。LGエナジーソリューションのウェブサイトによると、リチウムイオン電池の研究・開発を開始したのは1992年にさかのぼる。1999年にリチウムイオン電池の量産を開始、2009年に車載電池の供給を開始した。現在、韓国、米国、中国、ポーランドの4カ国で車載電池を生産している。同社は、車載電池以外にも、小型電池(IT機器、電動工具などで使用される)、ESS(電力貯蔵システム)電池事業を行っており、2022年の売上高は25兆5,986億ウォン、営業利益は1兆2,137億ウォンを記録している。

同社は、2023年1月27日に同年の事業計画を発表している。それによると、同年の売上高目標を前年比25~30%増とし、北米をはじめ、欧州、中国・韓国などアジアで生産能力を拡大すべく、投資額を50%以上増額するとしている。特に、北米については、後述する完成車メーカーとの戦略的パートナーシップを事業拡大の軸にする姿勢を明確にしている。さらに、生産規模の拡大とともに、製品差別化、「スマートファクトリー」の実現、サプライチェーン・マネージメント体制の強化、全固体電池などの次世代電池開発を進めていく考えを明らかにした。

ついで、同社の2022年1月以降の主な事業展開は、表2のとおり。まず、目を引くのが、北米を中心に、完成車メーカーと合弁で車載電池新工場を作る動きだ。合弁相手は、ゼネラルモーターズ(GM)(2022年1月26日)、ステランティス(同年3月24日)、ホンダ(同年8月29日)、現代自動車グループ(2023年5月26日)と、幅広い。米国EV市場の急拡大や米国インフレ削減法に対応する目的だ。ついで、正極材の原料のリチウム・コバルトや、負極材の原料の黒鉛の安定供給先確保を活発に行っている。調達先多角化によるサプライチェーン強靭(きょうじん)化や米国インフレ削減法への対応を狙った動きだ。同社の主要原料の確保状況は表3のとおり。

表2:LGエナジーソリューションの車載電池関連事業の主要動向(2022年1月~2023年7月)
発表年月日 概要
2022年
1月26日
GMとの合弁会社のアルティウムセルズが米国ミシガン州に第3工場を建設する計画を発表。総投資額は26億ドル、2024年下半期に竣工、2025年初めに第1段階の量産を開始し、将来的に年産50GWhに拡張する予定。
1月31日 ドイツのバルカン・エナジーと水酸化リチウム供給契約を締結。2025~29年の5年間に水酸化リチウム4万5,000トンの供給を受ける予定。原材料調達先の多角化、ESG競争力強化を目指す。
3月24日 独資で米国アリゾナ州クイーンクリークで1兆7,000億ウォンを投じ、11GWh規模の円筒形電池工場を建設する計画を発表。2024年下半期の量産開始を目標とする。製品は主要EVスタートアップ、電動工具メーカーに供給予定。
3月24日 カナダ・オンタリオ州でステランティスと合弁で車載電池工場を建設する計画を発表。総投資額4兆8,000億ウォン、2022年下半期に着工し、2024年上半期に量産開始の計画。生産能力は45GWh(2026年)で、セル組み立てとともに、モジュール生産ラインも建設予定。製品はクライスラーなど、ステランティス傘下のブランド車に供給する。
6月30日 米国コンパス・ミネラルズと炭酸・水酸化リチウムの供給に関するMOU(了解覚書)を締結。2025年から7年間、炭酸・水酸化リチウムの供給を受ける予定。供給量は今後、本契約で確定する。
7月22日 フォードのEV(乗用車・商用車)の販売拡大に伴い、フォードへの車載電池供給量を拡大し、同社との協力を強化する。そのために、ポーランド工場のフォード向け車載電池生産ライン規模を2倍に増設し、その後も段階的に増設する計画。
7月26日 中国・浙江華友鈷業と中国で電池リサイクル合弁会社を設立する内容のMOU(業務覚書)を締結。リサイクル合弁工場で抽出されるニッケル・コバルト・リチウムは正極材生産過程を経て、最終的にLGエナジーソリューションの南京工場に供給予定。
8月29日 本田技研工業と合弁会社設立契約を締結。米国に総額44億ドルを投じ車載電池工場(40GWh)を建設、2025年末にセル、モジュールを量産予定。製品は「ホンダ」「アキュラ」ブランドのEVに供給する。本合弁事業は、韓国の車載電池企業と日本の完成車企業の初の戦略的協力事例。
9月23日 エレクトラ、アヴァロン、スノウレイクのカナダ電池原料企業3社と、硫酸コバルト・水酸化リチウム供給に関する業務協約を締結。北米での車載電池核心原料のサプライチェーンを強化する狙い。
10月20日 オーストラリアのシラーと天然黒鉛供給に関するMOU(了解覚書)を締結。2025年から量産される天然黒鉛2,000トンの供給を受け、その後、規模を順次、拡大する予定。米国のインフレ削減法施行を前に、中国依存度を引き下げ、調達先を多角化する狙い。
2023年
1月27日
2022年第4四半期の業績発表の場で、2023年の計画を発表。北米・欧州・アジアなど世界で生産能力を積極的に拡大する考え。特に、急成長する北米は生産能力を55GWhに、ポーランドは90GWhに、韓国・中国などアジアは155GWhに拡大する計画。
2月22日 フォード、コチと、トルコで車載電池合弁法人設立に向けたMOU(了解覚書)を締結。2026年量産開始を目標に25GWhの車載電池工場を建設し、その後、45GWhに拡大する計画。製品は主にフォードの欧州・北米市場で販売する商用車に搭載する予定。
3月24日 米国アリゾナ州に、円筒形電池(27GWh、総投資額4兆2,000億ウォン)、ESS(電力貯蔵システム)用LFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池( 16.3GWh、同3兆ウォン)の建設を決定。2022年3月24日発表の計画の規模を拡張。米国インフレ削減法により顧客の要請が増加したことに対応。
5月19日 カナダでリチウム鉱山を運営しているオーストラリアのグリーン・テクノロジー・メタルズと、リチウム精鉱供給・同社への出資(持分7.89%)契約を締結。
5月26日 現代自動車グループと米国ジョージア州に車載電池合弁会社を設立する契約を締結。総投資額は43億ドル以上。2025年末の稼働開始目標で、生産規模は年産約30GWh。生産する電池セルは、現代モービスが電池パックに組み立て、現代自動車の米国EV専用工場(建設中)、同アラバマ工場、起亜のジョージア工場に全量供給予定。
6月7日 オーストラリアの車載電池素材・製造装置企業のノボニクスと人造黒鉛共同開発契約・戦略的投資契約を締結。ノボニクスの転換社債約3,000万ドル分を取得。ノボニクスは米国テネシー州に人造黒鉛工場を保有しており、今回の契約を通じ、北米での核心素材供給網強化、米国インフレ削減法対応を図る。
7月6日 カナダ・オンタリオ州のステランティスとの車載電池合弁法人に対する生産補助金に関して、カナダ政府と合意。カナダ政府は、米国インフレ削減法と同等の補助金の支給を約束。中断していたモジュール工場建設は再開へ。
7月7日 チリのリチウム大手SQMと2023年から2029年までの7年間に10万トン規模の水酸化リチウム・炭酸リチウムを購入する契約を締結。米国のFTA締結国のチリ産とオーストラリア産のリチウムを確保することで、米国インフレ削減法に対応する。

注:概要はプレスリリース発表時の内容による。計画が発表どおりに進展していない可能性がある点には留意が必要(後述同様)。
出所:LGエナジーソリューション プレスリリース資料を基にジェトロ作成

表3:LGエナジーソリューションの電池原料確保状況
企業国籍 企業名 年月 内容
中国 鵬輝能源 2021年1月 2023年から6年間、ニッケル2万トン供給確保
オーストラリア QPM 2021年6月 2025年から10年間、毎年、ニッケル7,000トン、コバルト700トン確保
オーストラリア ライオンタウン 2022年1月 2024年から5年間、水酸化リチウムの原材のリシア輝石70万トン確保
ドイツ バルカン・エナジー 2022年1月 2026年から5年間、水酸化リチウム4万5,000トン確保
米国 コンパス・ミネラルズ 2022年6月 2025年から7年間、コンパス・ミネラルが生産する炭酸・水酸化リチウムの40%を確保
オーストラリア シラー 2022年10月 2025年から天然黒鉛2,000トン供給をはじめとした量産協力。規模を徐々に拡大
オーストラリア グリーン・テクノロジー・メタルズ 2023年5月 2026年から5年間、毎年生産するリチウム精鉱の25%を供給
チリ SQM 2023年7月 2023年から7年間、炭酸・水酸化リチウム10万トン確保

出所:LGエナジーソリューション・プレスリリース(2023年7月7日付)

さらに、LGエナジーソリューションの親会社で、電池材料(正極材、セパレータなど)ビジネスも営むLG化学について、2022年1月以降の動向をみると、表4のとおり。正極材の供給に関しては、新工場を韓国(2022年1月11日)、米国(同年11月22日)に建設する計画や、GMと長期供給で合意(同年7月27日)が発表された。また、正極材の原料については、ニッケル、コバルト、リチウムの安定的確保に向けた取り組みが発表され、また、正極材の前工程の前駆体の生産拠点を韓国国内に建設する計画が発表されている。

表4:LG化学の車載電池関連事業の主要動向(2022年1月~2023年7月)
発表年月日 概要
2022年
1月11日
慶尚北道亀尾市に次世代車載電池用NCMA(ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム)正極材工場の着工式を開催。生産能力は単一工場として世界最大規模の年産6万トン。2025年までに約5,000億ウォンを投資する予定。LG化学は正極材生産能力を現在の8万トンから2026年に26万トンに拡大する計画。また、価格変動の大きいコバルトを使用しない次世代全固体車載電池用正極材を開発中。
5月31日 中国の浙江華友鈷業の子会社のB&Mと、合弁会社設立の契約を締結。LG化学の正極材子会社(慶尚北道亀尾市)にB&Mが出資する方式で、出資比率はLG化学51%、B&M49%。LG化学は、正極材生産に必要なニッケル・コバルトなどの鉱物の安定的確保、B&Mは出資による収益確保と海外事業拡大、浙江華友鈷業は鉱物の安定的供給先確保をそれぞれ狙う。合弁会社の生産能力は年産6万トン。
6月2日 高麗亜鉛の系列企業のケムコとリサイクル・前駆体の合弁会社設立契約を締結。出資比率はケムコ51%、LG化学49%。蔚山市で2024年までに2,000億ウォン以上を投資して工場を建設し、リサイクルメタルなどで年間2万トン以上の前駆体生産能力を確保する計画。製品は、忠清北道清州市所在のLG化学の正極材工場に供給する予定。
6月16日 ハンガリーの東レとの合弁会社(折半出資、セパレータ生産)設立の許認可手続きが完了。本合弁会社を含め、LG化学は2027年に国内外合わせ、年産15億平方メートルのセパレータ供給能力を確保する計画。
7月27日 GMと正極材の長期供給について包括的に合意。2022年下半期から2030年に95万トン以上をアルティウムセルズ(GMとLGエナジーソリューションの車載電池合弁会社)に供給する計画。LG化学は、2025年までに正極材の北米現地生産拡大を進め、安定的な生産能力をベースにGMとの長期的協力関係の構築を目指す。
11月22日 米国テネシー州と、年産12万トンの正極材工場を建設するMOU(了解覚書)を締結。独資で30億ドル以上を投資し、米国内で最大規模の年産12万トン規模の正極材工場を建設する計画。工場は、2023年第1半期に着工し、2025年末に量産を開始する予定。以降、生産ラインを拡張し、2027年までに生産能力12万トンを達成する計画。工場建設により米国インフレ削減法に対応。
11月23日 米国インフレ削減法対応のために、高麗亜鉛と原材料確保など包括的事業協力を行うMOU(了解覚書)を締結。具体的には、鉱物の共同発掘など北米での正極材原料の供給安定化を推進予定。
2023年
2月17日
米国鉱山企業ピードモント・リチウムと20万トン規模のリチウム精鉱購入契約を締結し、韓国の電池素材企業として初めて北米産リチウム精鉱を確保。ピードモント・リチウムはカナダ産リチウム精鉱を2023年第3四半期から4年間、毎年5万トンをLG化学に供給する計画。目的は、米国インフレ削減法への対応、核心鉱物調達先の多様化。さらに、LG化学はピードモント・リチウムに7,500万ドルを出資し、持分6%を取得。
4月17日 中国の浙江華友鈷業とセマングムに前駆体工場を建設するMOU(了解覚書)を締結。2028年までに1兆2,000億ウォンを投じ、第1段階として2026年までに年産5万トン、その後、第2段階としてさらに5万トン(合計10万トン)の前駆体工場を建設。さらに、両社は、セマングム工場に金属精錬設備を設置し、前駆体の素材の硫酸コバルトなどを生産する予定。
5月16日 「2030年3大新成長動力売り上げ計画」を発表。電池素材の売上高については、2022年4兆7,000億ウォンから2030年に30兆ウォンに拡大する計画。
6月26日 ハイニッケル単結晶正極材の量産を韓国で初めて開始。2027年までに年産5万トン規模まで拡大する。従来の多結晶正極材に比べ、車載電池の容量増大、寿命延長が可能に。

出所:LG化学 プレスリリース資料を基にジェトロ作成

ところで、LG化学は2023年5月16日、将来戦略をまとめた「2030年3大新成長動力売り上げ計画」を発表している。「3大新成長動力」とは「電池素材」「環境に優しい素材」「革新新薬」の3事業を指すが、そのうち特に注力するのが電池素材だ。同社では電池素材の売上高を2022年の4兆7,000億ウォンから2030年には30兆ウォンと、6倍以上に増加させ、「グローバル・トップ総合電池素材企業」に躍進する目標を掲げた。そのために、ニッケルの割合が80%の「ハイニッケル正極材」で同社が強みを持つ正極材では、韓国・中国・米国・欧州の世界4極の生産拠点の規模を2023年12万トンから2028年には47万トンに拡大する計画だ。また、顧客の開拓を進め、子会社LGエナジーソリューション以外向けの売上高比率を40%に引き上げるとしている。次いで、セパレータは、東レとの協業を通じ、韓国、欧州、米国市場でのポジションを固めていく考えだ。特に、米国のインフレ削減法でセパレータが「車載電池部品」に含まれたため、米国市場での事業拡大の機会が大きくなったとみている。さらに、負極用バインダー、正極材分散剤についても、顧客との協業を拡大し、事業拡大を図る方針だ。

韓国企業のEV・車載電池戦略

  1. 合弁工場建設を急ぐLGエナジー
  2. 米国を軸に急成長するSKオン
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
百本 和弘(もももと かずひろ)
ジェトロ・ソウル事務所次長、海外調査部主査などを経て、2023年3月末に定年退職、4月から非常勤嘱託員として、韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。