2022年の米国貿易赤字は輸入増加で過去最大に
2023年に懸念されるインフレの影響

2023年5月2日

米国の2022年の貿易額は、輸出入(財・サービス)ともに前年比で2桁台の伸びを示し、過去最大となった。新型コロナウイルス禍からの経済回復により、輸入が一層拡大し、貿易赤字額も過去最大の9,453億ドルとなった。EUやカナダ、メキシコとの間でエネルギー関連製品の輸出入額が増加した。ただし、今後の見通しに関して専門家は、インフレ抑制を目的とした政策金利の引き上げによる消費と企業投資の伸びの鈍化が、輸入の押し下げ要因になる可能性を指摘している。

米国商務省が2023年3月23日に発表した、2022年の貿易統計(国際収支ベース、季節調整済み)によると、輸出(財・サービス)は前年比17.8%増の3兆119億ドル、輸入は16.3%増の3兆9,572億ドルとなった(表1、図参照)。新型コロナウイルス感染拡大の影響で停滞した経済活動が再開したことなどから、輸出入額ともにデータが確認できる1960年以降で最大を記録した。特に輸入額は、工業用原材料を中心に大きく伸びて輸出の増加幅を上回り、その結果、貿易赤字額は前年比で1,003億ドル増加し、1960年以降の最大額の9,453億ドルとなった。

表1:財・サービス貿易収支推移(国際収支ベース、季節調整済み)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年
金額 前年比
(貿易収支は差額)
金額 前年比
(貿易収支は差額)
輸出 2,556,638 18.4 3,011,855 17.8
階層レベル2の項目 1,761,364 23.0 2,085,847 18.4
階層レベル2の項目サービス 795,273 9.5 926,008 16.4
輸入 3,401,685 20.9 3,957,174 16.3
階層レベル2の項目 2,851,660 21.5 3,276,876 14.9
階層レベル2の項目サービス 550,025 17.9 680,298 23.7
貿易収支 △ 845,047 △ 191,058.0 △ 945,319 △ 100,272
階層レベル2の項目 △ 1,090,296 △ 176,411.0 △ 1,191,029 △ 100,733
階層レベル2の項目サービス 245,248 △ 14,648 245,710 462

注:貿易収支の前年比は差額。
出所:米商務省データを基に作成

図: 財・サービス貿易収支推移(国際収支ベース、季節調整済み)
リーマン・ショックや新型コロナウイルスのパンデミックなどの景気後退期を除いて基本的に拡大を続けている。2022年は輸出額、輸入額、貿易赤字額ともに過去最高額を記録した。

出所:商務省データを基に作成

2022年の財貿易をみると、輸出が前年比18.4%増の2兆858億ドル、輸入が同14.9%増の3兆2,769億ドルとなった(表2参照)。個別品目をみると、輸出入ともに原油を含むエネルギー関連製品が最大の押し上げ要因となった。米国の原油生産量はデータの確認できる1980年以降で2番目に多い43億3,772万バレル、輸出量は過去最多の13億1,563万バレルに上った。また平均原油価格(WTIスポット)は、2013年以降最高値の1バレル当たり94.90ドルとなり、輸出入額を押し上げる要因となった。そのほかの品目に関し、輸出では化学品(医薬品を除く)、民間航空機用エンジンおよび部品など、輸入では発電用機械、衣料品などが伸びを牽引した。

表2:2022年の主要財別貿易(国際収支ベース、季節調整済み)

(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)(-は該当なし)
輸出
主要品目 金額 前年比 主要品目に対する寄与度が最大の個別品目
品目 寄与度
食料品・飲料 180,080 9.3 大豆 4.28
工業用原材料 808,802 31.1 エネルギー関連製品 24.76
(うち原油) 116,794 68.6
資本財 571,946 9.8 民間航空機用エンジンおよび部品 1.79
自動車・同部品など 158,358 9.9 その他部品・周辺機器(エンジンを除く、カナダ以外) 2.72
消費財 245,152 10.6 医薬品 2.90
その他 121,509 30.3
合計 2,085,847 18.4
輸入
主要品目 金額 前年比 主要品目に対する寄与度が最大の個別品目
品目 寄与度
食料品・飲料 209,498 14.3 その他の農産物、飼料、飲料 7.01
工業用原材料 809,406 26.2 エネルギー関連製品 16.45
(うち原油) 202,327 47.8
資本財 870,164 13.8 発電機械、電気機器および部品 3.44
自動車・同部品など 400,094 15.0 その他部品・周辺機器(エンジンを除く、カナダ以外) 5.63
消費財 843,466 9.9 衣料品 3.23
その他 144,248 △ 1.8
合計 3,276,876 14.9

出所:商務省データを基にジェトロ作成

2022年の対中赤字は増加

財貿易を主要国・地域別にみると、輸出入ともにほぼ全てで増加した(表3参照)。輸出では、EU向けが前年比29.2%増の3,522億ドルと大幅に増加した。ロシアのウクライナ侵攻に伴う、EUのロシア産原油などの輸入禁止措置(2022年6月1日付ビジネス短信参照)などもあって、代替調達先として米国からのエネルギー関連製品の輸入が増加したことが背景にあるとみられる。品目別では、石油・ガスおよびその他のガス状炭化水素〔関税分類番号(HTSコード):2711〕、原油(2709)、石炭(2701)などが増加した。カナダ向けは前年比15.8%増の3,570億ドルとなった。石油および歴青油(原油を除く、2710)、原油、乗用自動車(8703)などが増加した。メキシコ向けは前年比17.4%増3,249億ドルとなった。石油および歴青油(原油を除く)、集積回路(8542)、石油・ガスおよびその他のガス状炭化水素などが増加した。

輸入では、カナダが前年比22.5%増の4,472億ドルとなった。原油、石油・ガスおよびその他のガス状炭化水素、石油および歴青油(原油を除く)などが増加した。メキシコは18.6%増の4,634億ドルとなった。コンピュータ(8471)、原油、乗用自動車が増加した。EUは13.2%増の5,577億ドルとなった。乗用自動車、血液・ワクチンなど(3002)、薬品(ワクチンなどを除く、3004)などが伸びた。

対中国貿易に関しては、輸入の伸び(前年比6.4%増)が輸出の伸び(2.1%増)を上回ったことから、赤字額は290億ドル増加して3,818億ドルとなった。赤字額は、データの確認ができる1999年以降では、2018年の4,173億ドルに次いで2番目に大きい金額となった。品目別には、蓄電池(8507)や携帯電話(8517)、診断用試薬(3822)などの輸入が伸びた。

対日貿易に関しても、輸入の伸び(10.1%増)が輸出の伸び(8.6%増)を上回ったことから、赤字額は2年連続で増加し679億ドルとなった。ブルドーザ(8429)、半導体製造機器(8486)、自動車用部品(8708)などの輸入が伸びた。

表3:2022年の国・地域別財貿易(国際収支ベース、季節調整済み)(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域名 輸出 輸入 貿易収支
金額 前年比 金額 前年比 金額 前年との差
世界計 2,085,847 18.4 3,276,876 14.9 △ 1,191,029 △ 100,733
中国 155,674 2.1 537,497 6.4 △ 381,823 △ 29,025
EU 352,198 29.2 557,665 13.2 △ 205,467 14,389
北米 681,913 16.6 910,577 20.4 △ 228,665 △ 57,646
階層レベル2の項目メキシコ 324,879 17.4 463,373 18.6 △ 138,495 △ 24,287
階層レベル2の項目カナダ 357,034 15.8 447,204 22.5 △ 90,170 △ 33,359
日本 81,676 8.6 149,624 10.1 △ 67,948 △ 7,259
アジアNIES 189,930 12.1 244,924 18.4 △ 54,994 △ 17,561
インド 47,359 18.8 85,751 17.0 △ 38,392 △ 4,983
サウジアラビア 11,939 7.5 23,381 70.1 △ 11,443 △ 8,801
ブラジル 53,331 14.0 39,358 25.9 13,973 △ 1,540
その他 511,827 25.2 728,099 14.3 △ 216,270 11,693

出所:商務省データを基にジェトロ作成

2023年はインフレが輸入押し下げ要因に

2022年の輸入(財・サービス)額の推移を四半期ごとにみると、第1四半期(1~3月)、第2四半期(4~6月)がそれぞれ前期比8.0%増、3.6%増と伸びる一方で、第3四半期(7~9月)、第4四半期(10~12月)は、3.0%減、2.7%減と減少した。インフレ抑制を目的とする政策金利の引き上げによる内需の鈍化などが影響したとみられる。今後の見通しに関して、英国・ロンドンに本拠を置く、国際的コンサルティング会社のアーンスト・アンド・ヤングのグレゴリー・ダコ主席エコノミストは「個人消費と企業投資の伸びが鈍化する環境下で、輸入に対する圧力が強まる可能性が高い」と述べた(「ウォールストリート・ジャーナル」紙電子版・2月7日)。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 リサーチャー
大原 典子(おおはら のりこ)
民間企業勤務を経て2013年よりジェトロ・ニューヨーク勤務。自動車産業を柱に米国の産業調査を担当。