厨房機器輸出には、要市場分析
地場企業、エジプト市場を語る(2)

2023年3月1日

この連載では、エジプト地場企業へのヒアリングを基に、日本企業にとってのビジネス機会を分野別に探る。第1回では、生産性向上を期す農業に向けた製品を取り上げた。第2回では、厨房(ちゅうぼう)用機器を扱う。

海外からの観光客が戻ったエジプトでは、ホテルがにぎわいを取り戻した。この状況下、ショッピングエリアや飲食店の開業が続く。実際、カイロ市内で若者が集まる街・ザマレクを歩くと、コーヒーショップが増えたと感じる。その多くで導入されているのが、イタリア製コーヒーマシンだ。

当地では、厨房用機器のニーズが高い。これら製品を販売する企業2社に、現状と課題について聞いた。

イタリア製機器が高いシェア

コメットグループ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (Comet Group)は、レストラン・厨房用機器の大手販売店だ。創業は1990年。主な取引先は、ホテル、レストラン、カフェだ。販売商品としては、ホテル用のビュッフェテーブル、レストラン用の調理機器、洗浄機、冷凍機、カフェ用のコーヒーマシン、その他業務用スライサーや食器などを扱っている。

特に 取り扱いが多いのはイタリア製品だ(表参照)。ゼネラルマネージャーのシェリーフ・ベーカリー氏は「エジプトでは、ホテル内にイタリアンレストランがあることが多い。コーヒーメーカーやピザ窯は、イタリア製が高いシェアを持っている」と、その理由を説明した。

表:2022年エジプトのレストラン、厨房用機器輸入額

ホットドリンク製造用または食品調理用加熱用機器(HSコード841981)(-は値なし)
順位 輸入元 輸入額
(1,000ドル)
構成比
(%)
1 イタリア 2,588 26.6
2 中国 1,589 16.3
3 米国 1,466 15.1
4 ドイツ 788 8.1
5 トルコ 693 7.1
合計 9,726 100
鉄鋼製のストーブ、レンジ、炉、調理用加熱器、肉焼き器、火鉢、ガスコンロ、皿温め器(HSコード7321)(-は値なし)
順位 輸入元 輸入額
(1,000ドル)
構成比
(%)
1 イタリア 19,488 42.0
2 中国 16,720 36.0
3 トルコ 6,405 13.8
4 ブルガリア 1,399 3.0
5 スペイン 770 1.7
合計 46,420 100

出所:エジプト中央動員統計局(CAPMAS)

エジプトというと、日本人には古代遺跡のイメージが強いかもしれない。まず思い起こすのは、3大ピラミッドのあるカイロや、ナイル川沿いに点在するルクソール、アスワン周辺などだろう。一方、来訪数が多いが多いのは、欧州やロシアなどからだ。こうした観光客は、シャルムエルシェイクやハルガダなど紅海沿岸リゾートの高級ホテルに長期滞在することが多い。エジプトで輸入業者間の競争が激しくなる中、コメットグループは、紅海沿岸リゾートの両都市にも支店を構えた。同支店を通じて、ホテルからの引き合い、および販売後のメンテナンスに対応しているという。

インフィニティー・フォー・フードイクイップメント(Infinity for Food Equipment、以下インフィニティー)は、1992年創業の厨房機器販売業だ。同社もホテルなどを顧客とする。扱うのは、主に欧州・米国製品だ。マネージングパートナーのモハメド・ザグルール氏によると、5つ星ホテルや高級レストランは、製品の品質と耐久性、そして製品の交換部品をリーズナブルな価格で提供できるかを重視する。これに当てはまるのが欧州製機器という。EUとは、自由貿易協定(FTA)締結済みだ。これにより、EU製の厨房機器は原則として関税免除にできることになった。価格面での優位性も生じたかたちだ。

地理的に距離が比較的近いのも、欧州メーカーの強みだ。このことで、輸送費用を抑えられるだけでなく、短い納期に対応できる。背景にあるのは、エジプト飲食産業にみられる商慣行だ。ザグルール氏は「顧客(ホテルやレストラン)は、機器を選定するのに長い時間をかける。商談期間が1~3カ月を要することも多い。一方で、実際に注文する段階になると、常に納品と設置を急ぐよう要求される」と語った。同社では、短納期の注文に応じられるよう、ある程度の在庫を確保するとともに、代替品を提案する力も磨いているという。

中国企業の台頭と輸入規制に悩む

当該商品に関して、コメットグループのベーカリー氏、インフィニティーのザグルール氏ともに言及した課題がある。(1)中国製品との競合、(2)輸入規制の影響だ。エジプト市場は拡大し、多くの厨房機器メーカーが有望視する。その中で、欧州と中国、双方のメーカー間で競争が激化しているのだ。ヒルトンやマリオットなど国際的ホテルチェーンは、調達製品に一定の基準を設けている。ザグルール氏は、ブランドが認知されていることが前提とした上で、「かつて、中国メーカーは品質面で競争力を有していなかった。しかし、徐々に国際基準を満たした製品を投入するようになってきたことで、これまで欧州製を指名した企業も関心を示すようになってきた」と危機感を示した。

コメットグループでは、この状況に対し、2020年にエジプト国内に自社工場を設立。ステンレス製品(調理台、冷蔵庫、冷凍庫、テーブル、食器棚など)を自社生産することで、他の輸入業者との差別化を図った。ここに冷や水を浴びせたのが、政府が導入した輸入抑制策〔輸入決済に当たり、信用状(L/C)の利用を義務付ける〕だ。この政策は、外貨不足解消のため、2022年3月から12月末まで実施された。ステンレス製品の原材料、ステンレス鋼は輸入品だ。もっとも生産財・原材料はL/C利用義務の対象外で、だとすると問題にはならないように思える。しかし、ことはそう単純ではない。ベーカリー氏は、取引銀行自体が外貨不足に陥る中、国外送金する外貨を自社調達することを求められたという。輸出事業があるなど外貨アクセスを有する企業を別として、2022年は現地生産も望むようにできなかった。インフィニティーにとっても、この政策の余波として製品輸入が難しくなった。ザグルール氏は「2022年に入ってから、20件以上のL/C開設を申請した。しかし、実際にできたのは5件だけだった」と明かした。

高機能品・特殊用途品などで、日本製品にも可能性

当該市場では、欧州・中国製品が市場を席巻しているのが現実だ。そうした中、日本製品がエジプト市場に食い込む余地はあるだろうか。

この点、コメットグループのベーカリー氏は「日本製品は品質の高さで知られている。もっとも、エジプトでの露出は限定的だろう」と話す。しかし、「(1)機能がよく知られている機器、(2)低価格帯品でなく、特殊な用途に向けた製品、(3)新機能を搭載した機器などには、機会があるのではないか」と付け加えた。

また、インフィニティーのザグルール氏は、日本企業がエジプト市場に参入しようとする場合、「自社ブランドのポジショニングが大事」との認識を示した。ということは、市場をよく理解しておかなければならない。そのためには、現地開催の展示会に参加することが不可欠だ。具体例として、Food Africa(カイロで開催、2022年12月19日付ビジネス短信参照)を紹介した。「Food Africaはアフリカ最大の食品産業見本市で、出発点として最適」とも言及。エジプトまで足を運ぶことを推奨した。

執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所長
福山 豊和(ふくやま とよかず)
2004年、ジェトロ入構。本部では途上国産品の対日輸出、機械分野の輸出支援などを担当。ジェトロ・リヤド事務所、ジェトロ香川、大阪本部などの勤務を経て、2021年7月から現職。