中国、就業形態の多様化と若年層の就職観
Z世代の意識を探る

2023年5月12日

中国では、1995~2009年生まれの「Z世代」と呼ばれる若者の人口が2億6,000万人を超える(2022年1月19日付地域・分析レポート参照)。現在、00後(2000~2004年生まれ)の多くは学校を卒業し、社会人になっている。95後(1995~1999年生まれ)は盛年期に入っている。就労環境の変化とともに、Z世代の就職観はそれぞれの世代の特徴を反映している。

高学歴かつ自由度の高い消費行動が、若年層で拡大

南方報業メディアグループ傘下のリサーチ機関である、南方都市報大数据研究院・南都民調中心が、2022年に「Z世代の生活様式と消費スタイル」について実施した調査(注1)によると、対象の85.2%が大学専科卒(注2)以上の学歴を保有している(図1参照)。また、約7割が就職しており、内訳は、会社員が49.3%、フリーターが12.5%、自営業が4.8%を占める。月間の可処分所得または月収は、5,000~1万元(約9万5,000~19万円、1元=約19円)と回答した割合が45.2%で最も多く、5,000元以下は36.8%、1万元以上は16.5%であった。Z世代の95%は年末にボーナスをもらっており、そのうち55%の人が貯金、40%の人が両親に渡すと回答した。また、調査対象の47%は独身(恋人なし)で、31.8%は独身(恋人あり)であり、既婚者は21.1%にとどまっている。住宅ローンや育児などの負担を抱えていない人が約半数を占め、月収は自身のための出費に充てることができると認識している若年層が多く、自由度が高い生活を送っている様子がうかがえる。

図1:Z世代の学歴
大学院以上7.8%、四年制大学55.4%、三年制大学または専門学校22.0%、高校または専門学校12.8%、中学校2.0%。

出所:南方都市報大数据研究院・南都民調中心 「Z世代の生活様式と消費スタイルの年度報告2022」

就労環境の変化から生まれる「内巻(過剰競争)」と「躺平(寝そべり)」

近年、高学歴の人材が望む就労ポストの不足により、労働市場の需給に齟齬(そご)が生じている。2022年に大学卒業者の人数(見込み)が1,076万人と前年比18.4%増となり、人数および増加幅ともに過去最高を記録した(図2参照)。しかし、新型コロナウイルス禍以前の水準まで経済が回復していない業種では、求人数の減少により「就職難」が続いている。このような状況下、限りある就労ポストをめぐる「内巻(過剰競争)」が激しくなりつつある。また、「内巻」に疲れ、意欲や欲望が減退し、ゆとりのあるライフスタイルを送ろうとするZ世代の「躺平(寝そべり)」が社会現象として注目されている。一人っ子で育った割合が多いZ世代は、成人後も金銭的なプレッシャーは少ない人も多い。

復旦大学管理学院職業発展センターの曹能主任は、2022年5月に開催したシンポジウムにおいて「若者は時に嘆きながらも、冷静に競争意識を持ち続けている」と述べている。必要以上の競争に巻き込まれたくないが、「躺平」では将来への不安を感じるため、スキル習得などを意識しつつ、「内巻」と「躺平」の間にあるいわゆる「45度の人生」という選択肢を選ぶZ世代も出てきている。

図2:大学卒業者数の推移
2022年と2023年は見込み。2019年834万人、2020年874万人、2021年909万人、2022年1,076万人、2023年1,158万人。大学卒業者数の前年比、2019年1.7%増、2020年4.8%増、2021年4.0%増、2022年18.4%増、2023年7.6%増。GDPの成長率、2019年6.0%、2020年2.3%、2021年8.1%、2022年3.0%。

出所:中国教育部、中国国家統計局

趣味を副業に、新たなワークスタイルの確立

「Z世代の生活様式と消費スタイル」調査によると、Z世代の就職目的について約6割は「基本的な生活水準を満たすこと」と回答し、「自身の価値を実現するため」と4割弱が回答した。希望する就業環境については、5割強が「職務と責任が明確で、人間関係が良好であること」と回答。また、キャリアパスや自己アピールなどの支援と指導を望んでいるとの声もあった。職場で目指す立場としては、コア人材が43.8%、チームリーダーが36.2%と、組織の中核を担う人材になりたいといった回答が4割前後を占めた(表1参照)。このほか、5割強は副業と掛け持ちしていると回答した。副業の種類としては、動画投稿、ブロガー、フードデリバリーなどが挙げられ、デジタルツールを活用し、時間や場所に縛られず柔軟に働きつつ、趣味を楽しめるという利点がある。2022年には新型コロナ禍の影響を受け、求人数の減少や在宅勤務など新しい就業形態が浸透する中で、副業・兼業の割合が高くなる傾向にある。

表1:Z世代の職場での目指す姿
順位 職場での目指す姿 比率
1 コア人材 43.8%
2 チームリーダー 36.2%
3 特定分野での専門人材 32.5%
4 多彩な人 32.2%
5 世渡り上手な人 14.0%
6 社交性の高い人 8.7%
7 起業家 6.8%
8 特になし 3.5%

出所:南方都市報大数据研究院・南都民調中心 「Z世代の生活態度と消費スタイルに関する調査年度報告2022」

転職に前向きな姿勢、異業種への挑戦を恐れない

Just so Soul研究院の「Z世代の仕事・生活様式の報告書」(注3)では、「裸辞(転職先を決めずに退職すること)」に対して、全く不安を感じていないと36.1%が回答した。他方で、「裸辞」の可能性を踏まえて、事前準備が必須であると36.0%が回答した(表2参照)。

表2:Z世代の「裸辞(転職先を決めずに退職すること)」に対する
考え方
順位 「裸辞」に対する考え方 割合
1 「裸辞」に対して不安は全くない。新しいキャリアを築く自信がある。 36.1%
2 「裸辞」に備えて、事前準備が必須である(貯金や履歴書の更新等)。 36.0%
3 リスクの高さから、「裸辞」はあまり考えていない。 17.6%
4 「裸辞」は絶対ない。転職先が決まってから退職する。 10.3%

出所: Just so Soul研究院 「Z世代の仕事・生活様式についての報告書」

同調査では、Z世代の現職は大学で専門的に学んだ内容と関連性が高くはないと言及しており、さらに、年齢が高まるにつれてこの傾向が強くなっているとしている(図3参照)。また、「異なる職種に転職した経験がある」と38.4%が回答し、「まだ経験はないが、異なる職種に転職したい」と考えている割合は40.4%を占める。異職種に転職する理由として、「若いうちに、様々な可能性を試したいから」と44%が回答し、最も高い割合となった。Z世代は転職への否定的な姿勢はないことがうかがえる。一方で、就業形態の変化に伴い、現状からの変化を望んで転職するケースも今後増えていくことが予測される。

図3:年齢層別の「現職と大学の専攻との関連性」
「関連性がある」の回答率は、18~22歳が27.5%、23~27歳が28.9%、28~32歳が25.5%、32歳以上が19.9%。「何らかの関連性がある」の回答率は、18~22歳が45.2%、23~27歳が39.6%、28~32歳が41.9%、32歳以上が45.1%。「全く関連性はない」の回答率は、18~22歳が27.3%、23~27歳が31.5%、28~32歳が32.6%、32歳以上が35.0%。

出所:Just so Soul研究院 「Z世代の仕事・生活様式の報告書」

Z世代の多様化する就職観、企業側にも変化が求められる

高度経済成長期を過ごしたZ世代には、自身の個性や趣味を大切にし、価値を見いだすことに重きを置く傾向が見られる。価値観の多様化や、転職が一般化する中で、Z世代の若者に関する人材管理は決して容易なことではない。企業側は時代の変化を受け入れる姿勢を持ち、トップダウンではなくボトムアップを意識した職場環境づくりを試みる必要があるだろう。


注1:
本調査における調査対象は1995~2004年生まれ、総サンプル数が1万4,265、調査カテゴリは21項目。内訳は「95後(1995~1999年生まれ)」が57.1%、「00後(2000~2009年生まれ)」が42.9%。男女比は、男性57.2%、女性42.8%となった。調査期間は2022年(通年)で、数回に分けて実施。
注2:
中国における大学専科とは「高等職業学校(高職)」と「4年制大学に設置されている専科(高専)専攻」の卒業生を指す。就学期間は主に3年間。高職または高専の学校を卒業して、大学専科の卒業証書を得ると大専卒の学歴となる。
注3:
Just So Soul研究所は、Z世代をターゲットとしたSNSアプリ「Soul」を運営する上海任意門科技が設立した研究所。SNSのビッグデータを基に若者の行動特性や意向について分析・研究を行う。当研究院が、2023年にSoulのユーザー5,700人に調査を実施し、「Z世代の仕事・生活様式の報告書」を公表した。
執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所
王 艶(おう えん)
日系コンサルティング会社で16年にわたり勤務し、日系企業中国法人向けに様々な支援サービスを提供。2019年から現職(海外投資アドバイザー)。