これからの消費の牽引役-Z世代の攻略法を探る(中国)

2022年1月19日

中国の消費市場で存在感を増すZ世代

中国では、一般的に1995~2009年生まれの若者をZ世代と言う。テンセントテクノロジー傘下の研究機関が公表したレポート「Z世代消費力白書2019」によると、中国のZ世代の人口は2億6,000万人超で、総人口の約19%を占める。そのうち、95後(1995~1999年生まれ)が38%、00後(2000~2004年生まれ)が32%、05後(2005~2009年生まれ)が30%を占める。

1995年は「Windows95」が登場し、パソコンの普及が始まった年で、これ以降に生まれたZ世代は、日々の生活においてデジタル技術を活用している世代である(表1参照)。スマートフォンを巧みに使って情報を収集し、主なコミュニケーションはSNSで行っている。デジタル技術を活用した情報収集により、幅広い分野に対し興味や関心を有している。

表1:Z世代の生まれ育った年代の主なトレンド・イベント等(1995~2020年)
主なトレンド、イベント等
1995年 「Windows95」(マイクロソフト社が開発したPC操作システム)が登場、
PCの普及が始まる
1998年 新浪(Sina)、テンセント等のポータルサイトが登場
1999年 テンセント傘下のQQ(SNSツール)が登場
2000年 百度(Baidu)設立
2008年 北京オリンピック開催
2009年 Taobaoの「W11」イベント開始、微博(Weibo)が登場
2010年 3Dテレビが登場
2011年 微信(ウィーチャット)が登場
2016年 ライブ配信が登場
2017年 アジア大会でオンラインゲームを競技に採用
2018年 2000年生まれの人が大学に入学
2019年 ライブコマースが普及し始め、キーオピニオンリーダーがブームに
2020年 新型コロナウイルス発生、デジタル化が急速に進む

出所:各社公開情報およびIresearch社 Z世代の化粧品・スキンケア関連の消費動向

Iresearchが2021年7月に実施した調査(注)結果によると、Z世代は毎日平均5時間以上、スマートフォンを使っている。スマートフォンで行う活動は、「ゲーム」「教育」「アニメ関連」「写真撮影と撮影した写真の修正」の順となっている。また、同調査では、2020年のZ世代の月間平均可処分所得は4,193元(約7万5,474円、1元=約18円)とされており、全国住民の月間平均(2,682元)を上回っている。

Z世代がトレンド関連商品を年間どの程度購入しているかについては、流行の玩具、衣服、靴類などを半年で3~5回購入している割合が3割強との結果が出た(表2参照)。Z世代の特徴として、高い購買力に加えて、装飾品や趣味を中心とした、自分らしさを表現できる商品を選びやすく、趣味や自分の好きなことに対してお金を惜しまない傾向が示されている。

表2:2020年Z世代トレンド関連商品の購入頻度
順位 購入している商品 月1回
以上
(12)
半年3~5回
(8)
半年
1回
(2)
年1回
(1)
割引時に購入
(0.5)
購入しない
(0)
年平均購入回数
1 スキンケア商品 24.5% 33.8% 20.7% 4.3% 6.4% 8.3% 6.8
2 潮玩(流行りの玩具) 19.1% 34.6% 21.7% 10.5% 9.5% 4.3% 5.9
3 香水、フレグランス類 18.9% 30.9% 24.9% 11.6% 4.9% 8.9% 5.9
4 潮服(衣服) 13.9% 39.9% 24.3% 9.5% 8.7% 3.9% 5.7
5 アクセサリー 15.8% 28.8% 23.6% 17.6% 8.7% 5.4% 5.2
6 潮靴(流行りの靴類) 10.3% 32.4% 33.2% 11.5% 7.3% 5.3% 4.9
7 カバン等の高級ブランド品 10.1% 12.3% 29.6% 31.2% 10.4% 6.4% 3.4
8 腕時計等 10.8% 8.1% 18.7% 33.4% 13.5% 15.1% 3.2

注:購入頻度の括弧内は年間平均購入回数。
出所:Iresearch社 Z世代の化粧品・スキンケア関連の消費動向

英国系コンサルティング会社であるOC&Cコンサルティングによると、2021年の中国Z世代の消費支出は、5兆元を超えると推計される(「深セン商報」2021年7月5日)。高い消費力と旺盛な消費意欲により、Z世代は企業にとって新たなターゲット層となっている。

一人っ子のZ世代、「圏層」をより強く信頼

中国社会は、従来からソーシャルネットワークに重きを置く文化があるが、昨今では「微信(ウィーチャット)」を代表とするSNSアプリで友人と連絡や情報共有を行うことが一般的となっている。SNSでは、「圏層」(チュエン・ツォン)という共通の趣味や趣向をテーマとしたグループが形成されている。

Z世代のほとんどが一人っ子であるため、家庭内よりも外部環境から情報を得ることが多くなっている。そのため、SNSへの依存度が他の世代より比較的高く、自分と同じ趣味や消費志向を持つ「圏層」への信頼度が高い傾向がある。また、同じ「圏層」に属する人と友達になりたい、お互いに情報共有をしたいという気持ちが強い。オンライン上の消費動向を研究する中国Mob研究院が、2021年7月に発表した「2021年Z世代『潮力量』洞察レポート」では、代表的な「圏層」の特徴を次のようにまとめている(表3参照)。

表3:Z世代が属する各「圏層」の特徴
項目 特徴
潮玩圈 流行りの玩具で遊ぶ人達のグループ。例えば:フィギュア、盲盒(注1)、BJD(注2)等がある。
  • 4割がフィギュアに年間1,000元以上を費やす。
  • 5割が盲盒を年7回以上購入。盲盒購入者のうち、64.7%がZ世代の女性。
  • 2割がBJDに年間3,000元以上を費やす。
国潮圈 中国の老舗ブランドや中国の伝統文化を好む人達のグループ。
  • Z世代の間では、中国ブランドのファッション、化粧品、地方料理、ゲームなどの人気が高い。
  • 中国スポーツウェアブランドである李寧が9割近くの人に支持されている。
  • 漢服(漢民族の伝統服装)を着て杭州市、西安市、蘇州市のような古都を遊覧しながら、写真撮影しSNSにアップする。
  • 最も好きな料理のトップに、重慶火鍋がランクインした。
  • 中国オリジナルゲームの陰陽師、国産化粧品の完美日記、花西子が人気のブランド。
飯圈 有名人のファンクラブ関連のグループ。ファンクラブのアプリを利用してアイドルをフォローしたり、有料エンタメサイトに入会したり、アイドルの周辺グッズを購入したりする。
  • ファンクラブアプリの利用者の6割がZ世代。
  • メンバーの64.7%は月間可処分所得3,000元以下ながらも、飯圏の6割がエンタメサイト有料会員であり、5割がアイドル関連グッズに資金を投じている。
潮鞋圈 ファッショナブルな靴類商品を好む人達のグループ。「nice」、「識貨」(注3)のようなファッショングッズを専門的に紹介するアプリを利用し情報を収集する。数量限定の人気商品を抽選で購入することが多く、プレミアム価格での購入もいとわない。
  • ファッション関連グッズを専門的に紹介するアプリを利用する人のうち、4割がZ世代。58.9%が男性、41.1%が女性。女性の割合が拡大中。
  • 5割以上の人が年間3~4回、靴を購入している。
  • ほしい商品なら、通常価格より高くても購入したいと答える人が7割。

注1:盲盒は、アニメ関連商品や模型、デザイン性の高い玩具を内包商品が分からない箱に入れて販売する形態を指す。「ブラックボックス」や「ブラインドボックス」とも呼ばれており、開ける前には誰も分からない、くじ引き的要素がある。
注2:BJDは、Ball Jointed Doll(球体関節人形)の略で、関節部が球体により形成されており、手足などの組み替えやポージングが可能な人形。髪型や衣服、装飾物を自由に組み合わせることのできる玩具。
注3:「nice」は、はやりの靴やコレクションの靴類をオンラインで転売するプラットフォーム。「識貨」は、運動関連グッズについて、トレンド情報の提供、価格の比較、割引状況の提供などをする情報サイト。
出所:中国Mob研究院2021年Z世代「潮力量」洞察レポート

続いて、「潮玩圈」と「国潮圈」(表3参照)のそれぞれの消費心理について分析してみたい。

「潮玩」の裏に、「悦己消費」(ごほうび消費)

コンサルティング会社であるフロストアンドサリバンのレポートによると、盲盒を代表とする中国の「潮玩」商品の市場規模は2019年の207億元から2024年には763億元に達すると予測されている。盲盒は、「二次元」(アニメやゲームなどの創作物)の愛好者に多く支持され、日本のアニメ、漫画などのキャラクターを商品化した玩具の人気が高い。「国潮」ブームの後押しも受け、古代の神話や物語、民俗風、故宮博物館など中国文化の要素をデザインに入れた盲盒製品の人気が徐々に高まってきた。デザイナーズトイを展開するPOP MARTをはじめとした中国地場企業が、2020年から全国各地でチェーン展開を加速化し、瞬く間に「潮玩」産業が中国でブームとなってきた。

盲盒がZ世代の消費を引きつけた要因として、洗練されたデザイン、取り扱う商品の知名度や人気のほかに、盲盒は開封するまで中身が分からず、購入から開封までの「わくわく感」や「ご褒美感」があるとされる。Z世代の中でも特に女性の購入率が高い。その背景には、女性を中心とした「悦己消費」という、価値観の流行がある。「悦己」は自らを喜ばせるという意味であり、自分のためのご褒美として、芸術性やデザイン性の高い商品をコレクションすることが満足につながっているとされている。

また、コレクションするだけでなく、盲盒の購入者はSNSにおいてグループを構築し、購入歴や最新情報などを共有することにより、さまざまな潮玩圏層を形成している。潮玩圏層内では、重複したコレクションの交換・展示、盲盒の開封ライブ配信や意見交換が行われ、盲盒ブームを一層加速させている。

自国文化に対する強い支持から生まれた「国潮」と「国創」

「国潮」の「国」は「国貨」(自国のブランド商品)という言葉から始まったもので、「国潮」は中国の伝統的文化要素と現在のトレンドを組み合わせた「国貨」のことを意味する。国潮ブームは、「国貨」の品質や国際的知名度の高まりにより、これまでの海外ブランドに対する憧れが、Z世代の自国文化に対する強い共感と再認識に移行してきたために起こったといえる。

中国最大の検索エンジンである百度が2021年5月に発表した、過去10年間における中国ブランドと中国製品の検索状況を調査した「百度2021国潮検索ビッグデータ」によれば、「国貨」の数や検索の頻度は10年間で約5倍に増加した。「国潮」商品の分野においては、デジタル製品、ファッション、化粧品が上位となり、ドラマ・映画、マンガ・ゲーム、音楽、文学、グルメ、文化遺産、テクノロジーが続く。

新型コロナウイルス感染拡大による海外への渡航制限により、海外旅行の機会が減少する中、「国潮」を活用した観光誘致も行われている。2021年の5月1日から5日にかけて、人気の観光都市では、若い観光客を引き付けるため、競って「国潮」をテーマにしたイベントを実施した。Z世代の間では、「漢服」(漢民族の伝統服装)を着て杭州市、西安市、蘇州市のような古都を遊覧しながら写真撮影をし、撮った「漢服」写真をSNSにアップすることが流行しているためだ。

「国創」(自国で制作・創造)したアニメやドラマなども人気が出始めている。2019年に上映された「ナタ~魔童降臨」は、中国のアニメーション映画としては興行収入50億元で史上最高記録となった。アニメやゲームなどの作品が多いプラットフォームとして有名な動画サイトのbilibiliによると、2021年1月には中国アニメのMAU(Monthly Active Users、月間視聴者数)は海外アニメを上回り、bilibili最大の動画コンテンツになったという。

Z世代攻略に不可欠、人気動画サイト「bilibili」

bilibiliは、中国版YouTubeともいわれる動画配信プラットフォームである。bilibiliの公表によると、ユーザーのうちZ世代の割合は81%に達し、平均年齢は21歳となっている。bilibiliの最大の強みはコンテンツであり、設立当初はアニメコンテンツが中心であったが、現在は多様化されたニーズに合わせて豊富な動画コンテンツがそろっている(表4参照)。ジャンル別に「圏層」が形成され、フォロワー数やクリック数の高い人気動画から、Z世代の間でヒットしている話題や最新のトレンド潮流を把握することができる。

表4:bilibiliの動画コンテンツのジャンル別比率
順位 コンテンツのジャンル 比率
1 生活 24%
2 ゲーム 21%
3 グルメ 11%
4 知識 9%
5 音系MAD・音声MAD 9%
6 アニメーション 9%
7 音楽 4%
8 映像 4%
9 トレンド 2%
10 国創 2%
11 エンタメ 1%
12 情報 1%
13 ダンス 1%
14 その他(注1) 2%

注1:IT、動物、スポーツ、自動車など。
注2:「火焼雲」はBilibiliサイトのトラフィックや動画をサイトにアップロードした人の動画のクリック数等のデータを専門的に提供するビッグデータプロバイダー。
出所:火焼雲(注2) 2021年第2四半期データ

Bilibiliのコミュニティの大きな特徴は、「弾幕」というコメント機能である。動画上に、ユーザーからのコメントがリアルタイムで弾幕のように流れ出る。また、「賛(いいね)」や評論などのコミュニケーション機能を駆使して、リアルタイムでの交流が可能となる。こうして、交流や共有、自己表現などさまざまなニーズを抱えるZ世代ユーザーから高い支持を得ている。コミュニティの利用時間は長く、滞在性も高いため、Z世代のトレンドをつかむ指標ともなる。

次代の消費牽引役であるZ世代を攻めるには

本稿では、「圏層」「潮玩」「盲盒」「国潮」「国創」「bilibili」など、Z世代を理解する上で重要なキーワードを紹介した。総じて言えば、Z世代はデジタルになじみがあり、価値を認めた商品やサービスへの消費を惜しまないが、自分の好みや個性、独創性へのこだわりが強いことから、戦略的にマーケティングを実施していくことがより重要となる。

これまで述べてきたように、Z世代はSNSや「圏層」で共通の趣味・嗜好(しこう)を持つ人々と接し、意見を交換する傾向がある。どのような分野やデザインが流行しているかは、オピニオンリーダーやインフルエンサーのように発信力のある人物や、そのファンやフォロワーから探ることができる。Z世代に対するマーケティングは、本稿で例示したSNSなどで情報を得たうえで、ターゲットを見定め、ビッグデータなどのツールを駆使して行うことが一層重要となるであろう。


注:
消費者向けのオンライン調査会社であるIresearchが、2021年1~7月に「Z世代の化粧品・スキンケア関連の消費動向」についての調査を実施した。調査対象は1995~2009年に生まれた人、総サンプル数は1,036。うち、過去1年間に化粧品・スキンケア関連商品の購入経験があるサンプル数は974。
執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所
王 艶(おう えん)
日系コンサルティング会社で16年にわたり勤務し、日系企業中国法人向けに様々な支援サービスを提供。2019年から現職(海外投資アドバイザー)。