現半導体政策に賛否両論(インド)
フォックスコン合弁解消の反響(前編)

2023年7月27日

ベダンタとフォックスコンは7月10日、半導体製造事業の合弁解消を発表した。当該合弁企業は、インドでの半導体製造の川上部分を担うアイコン的存在だった。ただし両社とも既に、インドで類種事業を継続することを確認。別々のパートナー候補との提携による新事業を再申請する方向を模索し始めた(2023年7月14日付ビジネス短信参照)。

一方で当地では、半導体川下分野の大型案件が次々に発表されている。(1)米マイクロンのグジャラート(GJ)州進出(半導体組み立て・試験工場の立地、2023年7月10日付ビジネス短信参照、注)や、米アプライド・マテリアルズのカルナータカ州進出(半導体製造装置技術開発センター設立)などが一例だ。

今回の合弁解消は、そのような状況下で発表された。インド政府が描く半導体政策のシナリオに何らかの影響が出るのではと、不透明感も漂う。本稿では、各種報道などに見られるさまざまな意見について報告する。

電子・IT担当閣外相「合弁解消の影響なし」と発言

連邦政府は2021年12月、政策パッケージ「インド半導体ミッション(ISM)」の下、7,600億ルピー(約1兆2,920億円、1ルピー=約1.7円)規模の奨励プログラムを発表した。2023年6月1日にはこれに修正を加え、新案件の募集を再開している。

この奨励策では、国内に半導体製造工場を設立する企業に対し、資本支出の50%の補助金を提供する。さらにGJ州政府も、独自に15~25%の補助金スキームを打ち出していた。ISMと併せて適用を受けると、費用総額の75%程度がカバーされる可能性が出てくることになる。ベダンタ・フォックスコンの合弁事業でも、両スキームによる補助金を申請していた。しかし、最終的に事業自体が成立せずに終わったかたちだ。

今回の合弁解消によって、インド半導体政策の川上部分で、カギになるはずの半導体製造に空白が生じるのではないかとの懸念が浮上している。そうした懸念をよそに、ラジーブ・チャンドラセカール電子・IT担当閣外相(副大臣級)は「今回の合弁解消は、半導体製造政策に関するインドの目標に何の影響も与えない。政府は民間の決定に立ち入らない。両社ともに適切な技術パートナーと組み、それぞれ独自の戦略が追求できるようになったと理解している」とツイートした(7月12日「アナリティックス・インディア・マガジン」紙)。

半導体産業の成長にはインド政府の財政支援が不可欠

今回の重要合弁案件解消に至る過程と結果を、当地ではどう受け止めているのか。連邦と州の政府主導による半導体製造エコシステム構築政策の課題に関し、賛否両論の報道が見られる。7月13日付の「ファースト・ポスト」紙は「半導体産業の成長には政府による財政支援が不可欠」とする地理経済アナリストのプランジャル・シャルマ氏の論文を掲載した。この論文の骨子は、以下の通り。

  • インドの経済開放が始まった1991年以来、多様な分野で外国直接投資が誘致された。エレクトロニクス産業や自動車産業などが、その実例。その一方で、これまでの政権は半導体産業をほぼ無視し続けてきた。
  • 政府の半導体政策に反対する勢力は、当該産業に関する理解度が低い。ハイテク産業振興で他国政府が講じた奨励策がいかに重要な役割を果たしてきたのかも理解していなかった。現モディ政権が本格的に着手し始めた試みで成果を出すには、連邦政府だけでなく、州や地域レベルでも半導体産業育成を優先課題として捉える必要がある。
  • インドの自動車産業で大成功を収めたスズキの事例に言及。この合弁事業では、政府が多額を投資したことが進出企業側の安心につながった。
  • そのほか、米シリコンバレーの成功例も紹介。米国政府や政府機関は、ハイテク企業の立ち上げと育成に大きく貢献してきた。例えば、古くは民間企業がハイテク事業に1ドル投資するごとに政府が2ドルの助成していた。また、インターネットやGPS、自動運転車、iPhoneなどの開発で、米国政府や政府機関が技術の推進役や買い手になり企業を育ててきた。
  • その上で、昨今の世界情勢下では、技術力は戦略的な経済安全保障の基盤で、半導体は国家の技術的安全保障と主権に関わる重要な要素になる。インドが自国の技術力を支援し発展させるには「超党派のアプローチ」が必要になる。

保護主義的な輸入代替でなく、開かれた貿易政策を

一方で、政府の半導体政策に疑問を呈する論調も見られる。

例えば、7月14日付の「ビジネス・スタンダード」紙は、保護主義的な半導体内製化政策に警鐘を鳴らした。政府が国内に川上から川下まで一貫したエレクトロニクス製造サプライチェーンを構築しようという計画には、課題が多いと指摘した。具体的な骨子は、以下の通り。

  • ベトナムは2021年度、携帯電話関連商品をインドの9倍も輸出した。タイもインドの4倍だった。政策目標と現実との間には、大きなギャップがある。
  • インドを含め全ての新興国が、補助金を提供して投資を呼び込んでいる。あわせて外国は、貿易を促進し、投資家や国内生産者の経営条件を改善することに注力してきた。しかし、インドだけがこれら施策と同時に高い輸入関税を導入し、国内生産への代替を試みている。この関税政策がエレクトロニクスのサプライチェーンに投入される部品のコストを引き上げる一因となっている。当地の携帯電話メーカーは、仮にインドがベトナムと同程度の関税率を採用していた場合、競争力が4%程度向上していたと試算している。
  • 製造業者や投資家が求めているのは、財政的な優遇措置だけではない。政策の安定と信頼性も重要。投入部品に対する低廉かつ安定した関税政策もその1つになる。今日の製造業では、世界各地にサプライチェーンを拡散するのが通例。それをまるごとインドで内製化しようというのは、どの新興国にとっても不可能。投資と輸入の両面で、開かれた貿易政策に向けて見直さないと、中国やベトナムに追いつくことはできない。

また6月には、インド準備銀行(中央銀行)のラグラム・ラジャン元総裁が共同論文を発表。その中で、「インドは携帯電話の組み立て・輸出国となった。しかし、これによって実際はさまざまな部品の輸入総額が増加したのではないか。生産連動型優遇策(PLI)制度が導入された数年間で、輸入依存度はむしろ高まった可能性がある」と論考。政府の半導体製造支援策について、本来の目的に照らして再検証する必要性を指摘したかたちだ(2023年6月12日付地域・分析レポート参照)。

政策取り組みに国内外の注目高まる

他方、インド政府の野心的な政策とこれまでの取り組みには、国内外の半導体・エレクトロニクス業界から関心が非常に高い。残念ながら合弁解消に至ったベダンタ・フォックスコン合弁事業についても、日系企業30社、韓国企業20社が覚書を結んでいたと報じられている。また、合弁事業の受け入れ先となっていたGJ州政府は5月、台湾で「ロードショー」を開催。半導体関連企業の誘致が狙いで、何十社もの台湾企業が参加して盛況だったという(2023年5月29日付ビジネス短信参照)。

これら官民諸活動の中から、企業間で今後どのようなアライアンスが生れてくるのか。課題は何か。また、それに対して政府の政策はいかに対応していくのか。国内外の関心と期待感が高まっている。


注:
マイクロンのGJ州進出は、6月のナレンドラ・モディ首相による米国公式訪問の成果と理解されている。

フォックスコン合弁解消の反響

  1. 現半導体政策に賛否両論(インド)
  2. 野心的な政府の取り組みに注目(インド)
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所長
古川 毅彦(ふるかわ たけひこ)
1991年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ北九州、大阪本部、ニューデリー事務所、ジャカルタ事務所、ムンバイ事務所長などを経て、2020年12月からジェトロ・アーメダバード事務所長。