ドイツ最大の経済州トップが訪日
地域間交流や大学間連携の強化に高い関心

2023年7月31日

ドイツ最大の経済州であるノルトライン・ウェストファーレン(NRW)州のヘンドリック・ブスト州首相が6月上旬に訪日した。NRW州首相の訪日は2007年以来。同州との連携を進める福島県、大阪府、東京都の知事らとの面談を通じて、地域間の一層の交流拡大を図った。本稿では、ブスト州首相の訪日、大学間連携の動きや、それらを踏まえた関係機関の産学連携を通じたイノベーション創出の取り組みについてみていく。

ドイツ最大の経済州首相、新型コロナ後初の訪日

ドイツ・NRW州のブスト州首相(2022年7月5日付ビジネス短信参照)が6月4~9日に訪日した。NRW州首相の訪日は2007年以来となる。NRW州はドイツのGDPの約20%を占め、16州の中で最大の経済規模を誇る。ドイツでは、最近の地政学的な変化を背景に、東アジア地域で自由、民主主義、人権などの価値を共有する重要なパートナーとして、日本との連携を強めようという機運が急激に高まり、3月のオラフ・ショルツ首相訪日と、日本とドイツの政府間協議の開催(2023年3月22日付ビジネス短信参照)、さらに、5月のG7広島サミットの際の両首脳会談などの機会を通じて、外交面において両国間の関係はますます緊密になっている。

こうした中、今回のブスト州首相による訪日は、州都デュッセルドルフを中心に600社を超える日系企業が集積するNRW州としても、日本との強い絆を生かして、水素活用などを含めたエネルギー転換や、高齢化など共通の課題解決に向けて、日本との連携をさらに深めようという狙いがあった。

日本との地域間経済交流に力入れるNRW州

同州はこれまでも日本との地域間経済交流に力を入れており、特に福島県とは再生可能エネルギー(以下、再エネ)分野、医療関連技術の分野について交流の覚書を2014年に締結。以来、双方で開催される関連見本市への出展など活発な交流を継続していた(2022年12月23日付2023年1月20日付地域・分析レポート参照)。2023年4月下旬には福島県の内堀雅雄知事がNRW州を訪問。交流対象分野に水素、アンモニア関連技術を加えるなど、さらなる連携に向けて覚書を更新した。また、大阪府とは水素・燃料電池、蓄電池などの分野で、東京都とは中小企業やスタートアップのビジネス展開について、それぞれ2018年、2021年に覚書を締結し、相互支援を開始している。

ブスト州首相の今回の訪日も、これら3地域を巡り、福島県の内堀知事、大阪府の吉村洋文知事、東京都の小池百合子知事と面談。各地域との経済交流や共通の社会問題などについて幅広い意見交換を行った。また、都内で愛知県の大村秀章知事とも会談した。7月上旬には大村知事がNRW州を訪れ、スタートアップや水素・再エネなどの分野で具体的な連携を続けることで合意した。その他、西村康稔経済産業相、林芳正外相などの政府関係者とも会談、両国の連携強化の重要性を確認した。

ロシアによるウクライナ侵攻の影響によってエネルギー価格が急上昇したことに加え、4月15日に全ての原子力発電所を停止して脱原発を達成したドイツで、再エネ社会の早期実現は至上命題だ。

福島県では、ブスト州首相は随行する約10人のドイツ企業などの関係者とともに、同県相馬市にある「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」を視察した。同センターでは再エネの活用と水素の製造から利用までの技術の実証研究を進めている。ブスト州首相は同センターの技術に強い関心を示し、同行するドイツ側メディアの取材に対して「福島県とは同じ課題を共有しており、4月に新たに水素を含めて連携覚書を更新できたことは賢明な判断だった」とコメント、同センターの技術に強い関心を示した。

大学間連携も重要テーマに

今回の訪日では、大学を含めた日独連携の強化が重要なテーマの1つとなった。ドイツでは従来、産学連携が進んでおり、各地の大学や企業、フラウンホーファー研究機構などの研究機関がともに進める研究開発がイノベーションの源泉となっている。今回のミッションには、州内にあるボン大学の学長とボーフム大学学長も同行。ブスト州首相立ち会いの下、ボン大学が東京大学と協力覚書を締結したほか、大阪大学の蛋白質研究所、工学研究科を見学した。

イノベーション創出に向けた日独連携の動き

また、ジェトロと、同州の貿易投資振興機関であるNRW.グローバルビジネス(ドイツ NRW州貿易投資振興公社)は、ブスト州首相の訪日を機に協力覚書を更新。新たに、両国間のイノベーション創出に向けた共創の促進に向けて、グリーンテック、デジタルテック、メドテックなどの分野で大学や研究機関と企業との連携を促進することになった。


ブスト州首相(左)立ち会いの下に覚書を更新(ジェトロ撮影)

これを踏まえ、ジェトロでは早速、6月26日に、これまで相互交流を進めてきたアーヘン工科大学、東京工業大学と連携し、ロボティックスと人工知能(AI)をテーマとするイノベーションセミナーを開催。参加した日独関連企業などに対し、両大学の教授やスタートアップが最新の研究プロジェクトなどについてプレゼンテーションを行うとともに、セミナー後にはネットワーキングも開催し、参加企業との間で、今後の連携に向けた活発な意見交換が行われた。その後、希望者を対象にアーヘン工科大学の関連施設を訪問するツアーも実施し、日系企業にとっては同大学との協業を具体的に検討する機会となった。


東京工業大学の林宣宏・副学長による基調講演(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター
作山 直樹(さくやま なおき)
2011年、ジェトロ入構。国内事務所運営課、ジェトロ金沢、ジェトロ・ワルシャワ事務所、企画課、新産業開発課を経て現職。