日本の食器を豪州の日常へ/オサラ
日本のキッチン・テーブルウエアの可能性(後編)

2023年3月29日

オーストラリア(豪州)、ビクトリア州のメルボルンにおいて小売業を営んでいるオサラ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (OSARA)は、陶磁器、漆器、グラスといった日本製の高品質なテーブルウェアにこだわり、実店舗と自社EC(電子商取引)サイトで販売を行っている現地企業だ。ジェトロは、オサラの共同創業者である阿部香織氏に、豪州における日本のテーブルウェアの販売動向、豪州市場の特徴など、輸出ビジネスに取り組む日本のサプライヤーへのヒントとなるような話を、オンラインで聞き取りした(インタビュー実施日:2023年2月8日)。

本稿は「豪州市場における日本のキッチン・テーブルウェアの可能性」の後編。


共同創業者の阿部氏(オサラ提供)

日本のテーブルウェア文化を豪州に伝える

質問:
現在の事業を始めた経緯と事業概要について。
答え:
新型コロナ禍の際に、飲食業でのマネージャーの仕事が無くなり、日本製の高品質なテーブルウェアを扱うECサイトを、もう一人の共同創業者と一緒に2020年にスタートした。新型コロナ禍前に、共同創業者と一緒に日本へ旅行した際の感動体験がベースにある。そして、2021年に南メルボルン市場で店舗も構え、2023年にはメルボルン市内に2店舗目を出店する予定で、事業は順調に拡大中だ。近隣の飲食店への卸売りも行っているが、あくまで事業の中心はBtoCだと考えている。
質問:
店舗とECサイトの売り上げ比率と、それぞれの顧客層は。
答え:
2021年度の売上高比率で考えると、店舗が全体の6割、ECサイトが4割を占める。感覚的には、店舗のうち6割が地元客で、4割は観光客(国内旅行も含む)。ECサイトでは人口が多い主要都市のシドニー、メルボルンを中心に国内の顧客がほとんどだが、中国、シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピンといったアジアを中心とした海外からの注文も、多くはないが一定数来ている状況。また、豪州ではギフト文化が根強いため、ギフト包装希望の顧客が多いのも1つの特徴で、店舗では約半分がギフト包装希望だ。日本文化に興味がある顧客はもちろん多いが、興味は無くても、日本製品の品質の高さ、安心感、デザイン性の高さから購入されていく顧客も実は多い。

自社ECサイトには、豪州のみならずアジアを中心とした
海外からの注文も来ている(オサラ提供)
質問:
取り扱っている商品の種類、産地、価格は。
答え:
陶磁器が全体の7割を占めており、九谷焼、美濃焼を中心に、有田焼、萩焼、波佐見焼、備前焼、臼杵焼、志野焼といった幅広い産地の商品を扱っている。ほかには、クリスタルガラス、江戸切子、高山茶筌(ちゃせん)、まな板、木製のトレイ・コースター、お箸類、タオル、組子アロマ・お香、掛け軸、文房具なども扱っている。販売している商品の価格帯は幅広く、一番安いものは6オーストラリア・ドル(約552円、豪ドル、1豪ドル=約92円)の箸置きと文房具のシール。一番高いものは980豪ドルの掛け軸(注)だ。
質問:
人気商品は。
答え:
手頃な価格帯では、猫とダルマを模した多色展開のマグカップ(販売価格:28豪ドル)と、柄の部分に様々な和柄を模した箸(14豪ドル)などが人気。高価格帯では、クリスタルガラス(138~1,080豪ドル)、江戸切子(128~288豪ドル)、抹茶椀(わん)(20~198豪ドル)といった商品は人気がある。どういった商品が顧客にうけるのかは、常にトライ&エラーで、日本人ではない共同創業者や顧客から教えられることも多い。

人気商品の猫とダルマを模した多色展開のマグカップ(ジェトロ撮影)

ビジネスの成功要因と苦労

質問:
メルボルンでは日本のテーブルウェアなどを扱うお店が多いが、その中での貴社の成功要因は何だと考えているか。
答え:
以下の点を常に意識して行っている。
  • (産地や職人の技法など)商品の背景も含めて説明できるように教育した、英語が話せる日本人が、必ず店頭に一人立つことによって、ただのモノ売りではなく、コト売りができる店舗を目指している。
  • 豪州は、アジアを中心に多くの移民を受け入れている多民族国家のため、各国の食文化や好みを調査し、満遍なく取り入れることで、多様な顧客に対応する。
  • 検品、展示方法、ギフト包装、梱包(こんぽう)、店内清掃などの点において、日本レベルでのサービスを徹底している。
  • マニアな客層をつかむため、豪州市場にまだ流通していないような、陶芸家の作品を積極的に取り入れる。
  • 毎週木曜日に新商品を紹介し、顧客を飽きさせない。
2年以上営業をしてきたが、ECサイトでの購入も含め、品質不良によるクレーム、返品希望は一度も無い。徹底的に検品チェックを行なっていることもあるが、一番の要因は取り扱っている日本製品の品質、および満足度の高さゆえだと思っている。
質問:
ビジネスを行う上で苦労している点は。
答え:
難しいと常に感じている点は、産地、歴史、文化、商品に関して勉強し、それを英語で顧客に伝えること。かつ、それを自分だけではなく、スタッフにも広く共有し、理解してもらうのには時間がかかる。
質問:
世界的なインフレや豪州での人手不足といった経済情勢は、ビジネスにどの様な影響があるか。
答え:
サプライヤーからの値上げもあり、商品の販売価格改定は余儀ない状況になっている。人件費の上昇は大きな問題ではあるが、弊社の場合、販売員自身が作り手の思いを伝える重要な立場であるため、経費ではなく投資だと考え、前向きに捉えている。また、少しでもコストを削減できるようにロジスティクスについては見直しが必要だと考えている。
当地のニュースなどでは色々と言われているが、現状、人々の購買意欲の急激な下降は、それほど危惧するほどではないというのが現場での体感。顧客の予算は、以前より下がったとしても、オーストラリアの人たちが大事な人へ贈り物をする習慣は、残り続けると思う。

南メルボルン市場内にある実店舗は、各商品が丁寧に展示されており、
店頭ではタブレットを用いて商品の背景を説明する動画を流していた(オサラ提供)

豪州市場に受け入れられる日本の商品・サプライヤーとは

質問:
新しい商品・サプライヤーを探す方法について。
答え:
インスタグラムやピンタレストなどのSNS、日本の雑誌、日本で行われている展示会(オンライン参加もしくは、日本にいる家族に代理で参加してもらう)での情報収集だ。
弊社は2021年度より、ジェトロが運営しているオンラインカタログサイト、「TAKUMI NEXT」「Japan Street」といった事業での商談会を積極的に活用している。
質問:
どのような基準で、新しい商品・サプライヤーを選んでいるか。
答え:
顧客からの需要や事業の利益も大事だが、最も重要な基準は「私たちが顧客に対して、しっかりと説明できる商品であるかどうか」だ。そのため、勉強不足であるもの、特殊な取り扱いが必要なものなど、私たちの許容範囲を超えるものには、むやみに手を出さないようにしている。過去、ジェトロの紹介で日本の包丁サプライヤーと商談し、商品自体はとても素晴らしかったが、商品の使い方やメンテナンス方法についてしっかりと顧客に伝える自信が無く、取引までには至らなかったことがある。
また、豪州ではギフト需要が根強く、そういった需要に応えるための商品・サプライヤー選びはもちろん重要だが、弊社では日本のテーブルウェアを、特別なものではなく普段使いしてもらうことを最も重要だと考えている。
質問:
豪州で売れる商品・サプライヤーにはどういった特徴があるか。
答え:
以下の特徴があると感じている。
  • 商品自体や箱に日本製だと分かるようなロゴや印字があると、消費者の安心感につながる。
  • サプライヤーが作成したポップ、写真や動画といった展示のための素材があると、商品の魅力を顧客へ伝えやすい。(販売を行う)私たちとしてもありがたい。
  • お土産にちょうどよい30豪ドル前後で、顧客に販売できる仕入れ価格と大きさ。小さくても、日本らしさやこだわりがあったりするもの。
  • 商品箱がしっかりとしており、ギフトとして購入しやすいもの。
質問:
豪州と日本では季節が逆になるが、その特性をビジネスに活用している事例はあるか。
答え:
現状、思い当たらない。逆に日本の季節感に縛られないことを意識している。
例えば、日本の夏の風物詩である風鈴は、豪州ではクリスマスツリーの飾りとして複数購入していく顧客がおり、12月ごろが一番売れる。そもそも、メルボルンでは日・週替わりで温度や天気が大きく変化するからか、日本ほどはっきりとした季節感を意識することが少ない。
質問:
豪州や海外の顧客ならではと感じる日本の商品の使い方は。
答え:
そのもの本来の使い道ではないが、以下の様な事例があり、ユニークだと考えている。
  • 大きめの茶碗蒸しの蓋(ふた)を逆さにして、蓋の方も器として利用する。
  • おちょこを指輪入れとして利用する。

今の市場の盛り上がりをただの流行で終わらせてはいけない

質問:
今後の事業展開は。
答え:
オリジナル(OEM)商品の企画・作成と、さらなる商品ラインナップの拡大を考えており、日本のサプライヤーの新規発掘のためにも、ジェトロからの支援は引き続き期待している。他には、ニューサウスウェールズ州のシドニーといった他州の大都市への店舗展開なども検討している。
質問:
事業のゴールをどこに見据えているか。
答え:
自分や共同創業者がいなくなったとしても、高品質な日本製品を文化的な背景を顧客に伝えた上で販売するという今のスタイルを続け、オサラという店舗やブランドが顧客に長く愛されることが1つのゴール。日本のサプライヤーと話していて常に思うのが、今の豪州での日本のテーブルウェアの盛り上がりを、ただの一時的な流行にしてはいけないということだ。オサラは、日本のテーブルウェアが豪州での日常生活の一部となるようにこれからも頑張っていきたい。

注:
本稿に記載している全ての販売価格は、2023年2月時点、ECサイト上での値段であり、今後変更される可能性があります。

日本のキッチン・テーブルウエアの可能性

  1. 10年で大きな変貌遂げた豪州市場
  2. 日本の食器を豪州の日常へ/オサラ
執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
児島 亨(こじま とおる)
2014年、TOKAIコミュニケーションズ入社。
2021年からジェトロに出向し、海外調査部アジア大洋州課を経て、2022年4月から現職。