10年で大きな変貌遂げた豪州市場
日本のキッチン・テーブルウエアの可能性(前編)

2023年3月29日

オーストラリア(豪州)市場では近年、日本の日用品への人気が高まっており、特に高品質で高価格な日本製の包丁や陶磁器といったキッチン・テーブルウエアの人気が高い。そうした商品を扱う中小規模の専門店やECサイトも増えている。また、豪州の1人当たり名目GDPは6万3,529米ドルで日本の約1.6倍、最低賃金は時給21.38オーストラリア・ドル(約1,881円、豪ドル、1豪ドル=約88円)と、日本よりも断然に高い。豪州は全般的に日本よりも物価が高いが、賃金水準も高いために消費者には購買力があり、日本のサプライヤーにとって魅力的な市場と言える。今回、豪州市場での日本のキッチン・テーブルウエアの状況を伝えていくとともに、豪州市場の特徴や留意点などについて、現地バイヤーへのインタビューを交えて前後編で伝える。

日本製の高品質で高価格なキッチン・テーブルウエアが人気

豪州では現在、シドニー、メルボルンといった大都市を中心に、日本の日用品を扱う中小規模の専門店やECサイトが増えており、現地のオーストラリア人や移民だけではなく、国内外の観光客向けにも広く販売している。特に高品質で高価格な日本製の包丁や陶磁器といったキッチン・テーブルウエアを扱う店舗が多く、カトラリー・刃物類(HSコード:8211)の輸入額はこの10年間で約3倍に増加している(図1参照)。また、商品販売に限らず、金継ぎ(注)や包丁研ぎなどの体験型ワークショップを行う店舗もあり、物を大事に使うために日本の伝統技法への関心度も高い。

図1:豪州におけるカトラリー、刃物類(HSコード:8211)の
輸入額の推移
この10年間で約3倍に増加している。

出所:グローバル・トレード・アトラス(原典はオーストラリア統計局)からジェトロ作成

現地でよく見かける日本のキッチン・テーブルウエアだけでも、箸、カトラリー、皿、わん、丼、マグカップ、グラス、切子、弁当箱、曲げわっぱ、酒・茶器、和・洋包丁、砥石(といし)、まな板、盆、土鍋、雪平鍋、フライパン、おろし金、すり鉢、調理小物などがあり、他にもさまざまな商品が並んでいる。豪州は週末に家族や友人たちとバーベキューをすることが一般的な習慣であることから、七輪、木炭、トングなども人気だ。ほかにも、コーヒーの1人当たり消費量は日本よりも断然高く、カフェ文化も根強いため、ドリッパーやケトル、サーバーなどの商品もよく見かける。一方で、箸を除く漆器類については、陶磁器などに比べ、限定的な扱いだ。


シドニーにある専門店では、えりすぐりの日本各地の日用品が展示されていた(ジェトロ撮影)

このように、豪州市場にはさまざまな日本のキッチン・テーブルウエアが販売されているが、人気が高い商品には大きく3つの共通点があると考えている。1つ目は、サステナブルで環境に優しい商品であること。現地では、地球温暖化による気候変動対策はもとより、現地の貴重な動植物を守るために環境意識が高い。2つ目は、ストーリーテリングがあること。特に、豪州は建国してからの歴史が浅く、日本の長い歴史や独特な文化に基づいた商品背景に魅力を感じるオーストラリア人も多い。3つ目は、クラフトマンシップに裏付けされた高い品質を持つ日本製の商品であること。現地の人々は、オーストラリアンメイド(Australian Made)と呼ばれる国内で作られた商品への信頼感もあるが、日本製の商品に対する信頼感は特に高い。こういった特徴を持つ商品は往々にして高価格帯だが、前述の3つの特徴を現地消費者にうまく訴求できれば、豪州への輸出ビジネスのチャンスは多いにあると言える。

この10年で豪州市場は大きく変化、魅力的な市場に

2010年にジェトロが作成した「オーストラリアのテーブルウェア市場及び日曜大工市場に関する調査PDFファイル(1.08MB)」によると、当時は「一般消費者が求めているものは、アジア風または『日本風』の製品で、実際の日本製品が持つ品質の高さや本物の色や柄ではないという点だ。流通しているこれらの製品の多くは中国製、またはベトナム製が多く、従って品質は日本製品と比べて劣る」と記載されている。しかし、現在は先述のとおり、状況が大きく変わり、日本製の高品質で高価格な商品が選ばれるようになった。この約10年の間に、豪州市場ではどのような変化があったのだろうか。さまざまな要因が存在するが、大きく3つあり、それらの要因の相乗効果によって、今の状況が作られたと考えられる。

(1)訪日オーストラリア人の増加

日本政府観光局が発表した「JNTO訪日旅行データハンドブック2022PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(31.27MB)」によると、2019年の訪日豪州人の日本滞在中の1人当たり平均支出額は24万8,000円と、国・地域別で最も高い。平均滞在日数も9.8日と、訪日外国人全体よりも長く、豪州人の日本への高い関心度がうかがえる。実際に、新型コロナウイルス禍前の2019年の訪日豪州人は約62万人で、過去最高を更新していた(図2参照)。また、訪日旅行に関する期待内容(複数回答)では、「日本食を食べること」(2019年時点84.1%)、「日本の歴史・伝統文化体験」(同年時点50.9%)などへの期待が高くなっており、ショッピングを主としたいわゆる「爆買い」ではなく、体験型観光の傾向が強いと言える。

図2:訪日豪州人の推移
新型コロナ禍前の2019年の訪日豪州人は約62万人と、過去最高を更新していた。

出所:日本政府観光局(JNTO)からジェトロ作成

(2)高価格帯の日本食レストランの増加

もともと、豪州では日本食は人気があり、日系や非日系を含め、さまざまな日本食レストランが存在する。また、日本の食材や調味料についても、日系スーパーに限らず、現地大手スーパーに一部の取り扱いがある。日本の食品輸出に関しても、ジェトロは多くの相談を受けている。そうした状況の中、2019年ごろからシドニーやメルボルンといった大都市を中心に「オマカセ(Omakase)」と呼ばれる200豪ドルを超えるような、高価格帯の本格的な日本料理コースがブームとなっている。高価格帯の日本食レストランでは、キッチンウエアはもちろんのこと、テーブルウエアも高品質で高価格な日本製のものを使い、見た目にも楽しませてくれる日本料理を提供している。ジェトロが2021年度に日本産食材や酒類を使用、販売するレストランや小売店向けに実施した「日本産食材サポーター店インタビュー」に掲載されているメルボルンの日本食レストラン 「米結(KOMEYUI)」では、食器はもちろんのこと、炊飯用の羽釜にもこだわり、日本から輸入をしたという。


シドニーにある日本食レストランでは、本格的な陶磁器と南部鉄器を用いた茶漬が食べられる。
1食24豪ドル(ジェトロ撮影)

(3)安定的な経済成長と高い購買力

豪州の人口は2,575万人程度と少ないが、若い移民の労働力と消費などを背景に、2019年まで28年連続で安定的な経済成長を続けてきた。 また、OECDの発表データによると、最低賃金(2021年)は、主要32カ国(OECD加盟国のうち28カ国と非加盟国4カ国)の中で2番目に高い金額となった(表1)。これは当地の人件費の高さと同時に、高い購買力を示しているとも言える。当地の物価は全般的に日本よりも高く、消費者の目も肥えていることから、中国製品などとの価格のみの勝負になりにくいというのは日本のサプライヤーにとって大きな魅力だ。

表1:主要国の最低賃金時給単価(2021年)(単位:米ドル)
順位 国名 時給単価
1位 ルクセンブルク 13.4
2位 オーストラリア 12.8
3位 フランス 12.6
4位 ドイツ 12.2
5位 ニュージーランド 11.9
6位 オランダ 11.6
7位 ベルギー 11.5
8位 英国 11.3
9位 スペイン 10.7
10位 カナダ 10.6

注:物価変動による影響を除き、購買力平価で米ドルに換算。
出所:OECD

前述3つの要因が好循環となり、豪州市場での日本製の高品質で高価格なキッチン・テーブルウエアの人気を促進したものと考えられる。そのほか、日本の国際交流基金によると、豪州は人口に占める日本語学習者数の割合が世界で最も高く、日本語や日本文化への関心が高い。近年では新型コロナ禍に起因する国境での水際規制のため、日本への渡航が難しく、国内でも不要不急の外出が制限されてきた中で、「おうち時間の充実」を図る需要も要因の1つと考えられる。

現地バイヤーにインタビューして見えた豪州市場の特徴と留意点

豪州は、日本のようには流行をあまり気にしない傾向が強く、アジア系を中心に多くの移民を受け入れている多民族国家でもあるため、トレンドを一口に語るのは難しい。そうした中、ジェトロが日本のキッチン・テーブルウエアを扱う中小規模の専門店やECサイトの現地バイヤー(約10社)にインタビューを実施したところ、次のような特徴が見えてきた。

  • デザイン面では、皿やマグカップにしても、日本より一回り大きいサイズを求められることが多い。カラーなどはバイヤーの好みによって異なる。
  • 日本の日用品については、中国系移民の支持も根強い。オーナーやバイヤーが中国系移民の会社は、中国系コミュニティー向けの商売に特化している場合もある。
  • 豪州では、日本人のように食器を持ち上げて食べる行為をしないため、食器の軽さや口当たりはそこまで重要な要素ではない(グラスやマグカップ類を除く)。
  • 小売業界にとっては、クリスマスがある年末が1年で最も売り上げが上がる時期。当地のギフト習慣・需要は根強く、ギフトボックス付きだとバイヤーの反応が良い。
  • 南半球に位置する豪州は、季節が日本と真逆となる。また、国土が広く、エリアによって気候も大きく異なる。日本ほど四季がはっきりしない場合が多く、季節感をそこまで意識しない。
  • 各家庭には電子レンジや食器乾燥機が必ず置いており、そうした器具を利用できない商品については、販売する際に説明が必要。バイヤーによって対応可否が異なる。

当地ではみそ汁にレンゲが付いてくるのが一般的(ジェトロ撮影)

豪州への輸出に際して幾つか確認すべき留意点がある。豪州政府機関の公開情報や現地バイヤーへのインタビューなどから得た情報を表2にまとめた。ただし、商品やバイヤーによって対応が異なるため、注意が必要だ。

表2:豪州への輸出ビジネスを行う際に確認すべき留意点(キッチン・テーブルウエア版)
項目 留意点
商流 日本のサプライヤーから指定がなければ、商社などを介さず直接取引する現地バイヤーが多い。
現地バイヤーの関連会社が日本にある場合は、そこを通しての取引とする場合もある。
支払い 円建て発送前払いに応諾するバイヤーも多い。
PayPal、WISE、OFXといったサービスを利用して国際送金することが多い。手数料が高く、時間もかかることから、銀行振り込みは現地バイヤーの人気はない。
物流 数量や重量によっても異なるが、FedEx、DHL、ヤマト運輸など、運送・通関業務も行うクーリエを利用することも多い。
検疫 多様で貴重な動植物を守るために特にバイオセキュリティーが厳しい。
木や竹などの植物を使ったものについては、高額な費用がかかる燻蒸(くんじょう)処理が必要な場合もあり、商品を入れる木箱などは避けるべき。
関税・FTA/EPA 日豪間では日豪EPA、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の3つの自由貿易協定(FTA)/経済連携協定(EPA)が発効済み。
今回インタビューした中では、FTA/EPAを適用して輸入を行っている現地バイヤーは見当たらなかった。
販売価格 サプライヤーが再販事業者に対して、商品やサービスの適切な価格を推奨することは可能。
ただし、最低価格を課す場合は、オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)に免除申請を行い、公益性などを認められた場合に限る。
今回インタビューした中では、こういった免除申請を行っている事例は確認できなかった。

出所:豪州政府機関の公開情報や現地バイヤーへのインタビューなどからジェトロ作成

最後に、現地バイヤーへのインタビューでは、展示会での名刺交換で得た日本のサプライヤーの連絡先やウェブサイトの問い合わせ窓口に連絡を取っても、返事が返ってこなかったという悩みをよく聞いた。もちろん、問い合わせを受けた日本のサプライヤーが輸出ビジネスに関心がない場合や、既存の代理店があって新規取引ができない場合もあると考えられる。しかし、現場の声を聞くと、日本のサプライヤーの海外輸出経験のなさや、言語の問題がネックとなっている場合も多いようだ。

豪州市場はこの約10年で変貌を遂げ、日用品の輸出を目指す日本のサプライヤーにとって魅力が高まっている。一度、豪州・海外バイヤーの話を聞くと同時に、不安があれば最寄りのジェトロ事務所に相談してみてほしい。ほかにも、ジェトロはオンラインカタログサイト「Japan Street」などを通じて、日本企業の海外ビジネス支援を行っているので、併せて活用してほしい。


注:
陶磁器の割れや欠けを漆と金粉などを使って修復する日本の伝統的な技法のこと。

日本のキッチン・テーブルウエアの可能性

  1. 10年で大きな変貌遂げた豪州市場
  2. 日本の食器を豪州の日常へ/オサラ
執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
児島 亨(こじま とおる)
2014年、TOKAIコミュニケーションズ入社。
2021年からジェトロに出向し、海外調査部アジア大洋州課を経て、2022年4月から現職。